映画レビュー「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」
アウェイ・フロム・ハー 君を想う <デラックス版> [DVD]
◆プチレビュー◆
老夫婦の愛情と罪悪感を静かにみつめる目がシビアだ。女優サラ・ポーリーの初長編監督作。 【65点】
結婚して44年になるフィオーナとグラントは、互いに深い愛情で結ばれ、静かな生活を送っていた。だがある日、フィオーナにアルツハイマー型認知症の症状が現れる。彼女は自ら介護施設への入所を決めるのだが…。
これは“赦(ゆる)す”物語だ。老いを受け入れて、忘れていくことを赦す。過去の過ちを赦し、現在に生まれた愛情を赦す。そして夫婦は新しい愛を得る。
認知症といっても、フライパンを冷蔵庫にしまったり、ワインという単語を忘れたりは“うっかり”程度だ。だが、外出して家に帰れなくなった時、フィオーナは病を受け入れ、施設に入ると決める。一方、グラントは妻が自分から離れることそのものに耐えられずにゴネる。老人介護の苦渋の決断を見る思いがする。施設の描写や介護師の対応もリアルなものだ。同情や綺麗事だけでは、この病には対応できない。しかし、グラントを襲うその後の衝撃に比べたら、寂しさなど序の口だ。施設に入って1ヶ月後、妻は夫を忘れた上、同じ施設の男に恋をしているのだ。記憶の病の悲劇がこんな形をとろうとは。
認知症では、古い記憶は鮮明なことが多く、正気に戻る瞬間もある。夫である自分が分からず、優しいが他人行儀な態度をとるフィオーナを見て、もしや自分を罰するための芝居では…と、グラントが疑心暗鬼になるところはサスペンスのようだ。愛情の傷は心の深い場所で疼いているのである。
なぜグラントは罰せられるのか。かつて浮気で妻を苦しめたグラントの過去の不実を見抜き、女性介護師が言うセリフが印象的だ。「振り返って悪い人生じゃなかったと言うのはいつも男性の方よ。奥様は違う」。進退窮まったグラントが、妻の“恋人”オーブリーの妻マリアンと接するうちに、それぞれの関係は意外な方向へと進みはじめる。
熟年夫婦の老いをテーマに人間を見つめたのは、カナダの若手実力派女優のサラ・ポーリーだ。1979年生まれの彼女は、長編劇映画の監督は今回がはじめて。だが、脚本も自ら手がけ、女優業を2年も休業してまで打ち込んだ本作の出来栄えは見事なもので驚かされる。久々の女優復帰となる名優ジュリー・クリスティを主演に据えたことも、作品の品格を大きく上げた。乱れた白い髪で認知症のヒロインを演じるクリスティは例えようもなくエレガントで、彼女の笑顔は陽だまりのように明るい。その笑顔が夫の苦悩と対になってやるせない。
妻の幸せを願うなら、彼女の恋を応援すべきなのか。この老いた男女は、ある種の極限状態だ。記憶がなくなるということは夫婦の積み重ねがゼロになってしまうこと。そんな時の選択とは、自分も含め、ただ赦すことしかない。それが悲しみを浄化する唯一の手助けになろう。相手のことを思えばこそ相手から離れようと決める。原題の“アウェイ・フロム・ハー”とは、そんな切ない愛の形を表した言葉なのだ。
(シネマッシモ評価:★5つが満点)シビア度:★★★★☆
□2006年 カナダ映画 原題「AWAY FROM HER」
□監督:サラ・ポーリー
□出演:ジュリー・クリスティ、ゴードン・ビンセント、オリンピア・デュカキス、他![]()
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サスペンス。まさしく!実は演技なのでは…との疑いにはハラハラさせられました。
サラ・ポーリーはまだ20代なのですが、老人を新しい視点から眺めていて、老いの解釈の新鮮さを感じさせます。
日本にも元気な老人を描く作品はありますが、欧米人は歳をとってもホントに枯れませんねぇ(苦笑)。

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