崖の上のポニョ [DVD]崖の上のポニョ [DVD]
◆プチレビュー◆
宮崎アニメが原点回帰。現代社会を5歳の子供の心でリロードし、次世代への希望を託す物語だ。 【65点】

 崖の上の一軒家に住む宗介は5歳の男の子。ある日、海辺で頭をジャムの瓶に突っ込んで困っていたさかなの女の子を助け、ポニョと名付ける。宗介が大好きになったポニョは「人間になりたい!」と願うのだが…。

 もはや5歳児に戻らなければ、世界を肯定することは難しいのか。宮崎駿の新作は、可愛らしい絵柄とは裏腹に、そんな悲壮な叫びが聞こえてきそうだ。陸と海を混濁し、大人の常識の外側に主人公を置くには、ここまで年齢を下げねばならない。今回は、得意の飛行を封印して、母なる海にこだわった。

 何より目を引くのはすべて手描きで作られた絵の魅力である。パステル調の色彩の中に不安定さと懐かしさが同居した画風は、独特の息づかいだ。中でも出色なのは波の描写で、一つ一つに人格を与えるかのように顔があるという非凡なひらめきには驚嘆してしまう。擬人化した大波に乗って、海の上を楽しそうに全力で走るポニョの、何と躍動的なことか。

 特別なパワーを持つポニョは好奇心旺盛な女の子だ。さかなの子だが、両親は海の母グランマンマーレと、海中でウバザメ号を操る父フジモト。父親はかつては人間だった過去があり、今は海の中で“命の水”を作っている。いっさい説明がないこの謎の水は、世界を古代の海に戻す力を秘めているらしい。まるで、ファンタジー界の大量破壊兵器だ。この魔法の水は、ポニョの暴走であふれ出し、宗介の住む町を大きな嵐となって襲うことに。暴力的に人間と海をぶつける展開に、ある種の終末観が示される。

 ポニョは何が何でも人間になりたくて、その思いは町をひとつ水没させるほど強いものだ。海の世界で、人は何を望むのか。宗介の母も、デイケアセンターの老人たちも真剣に考える。大洪水の果てにある選択は、希望を肯定する勇気を要求するものだ。もっとも、映画の外に住む私たち大人には難儀なことではある。人は5歳のままではいられないし、5歳に戻ることもできない。さらには5歳に戻されても困るのだ。自然との共生を謳ってきた宮崎作品で、なぜ、さかなと少年のままで幸福になれないのかという根源的な疑問もぬぐえない。ポニョのモチベーションは愛だとしても、ここがストーリーの弱点に思える。
 
 海辺の町をまるごと巻き込んだ大騒動は、半ば強引な幸福感と共に幕を閉じる。一見単純な筋書きは、希望を失った現状への、深読みしがいのあるアンチテーゼだ。物語が終われば、厳しい現実が待っている。気持ちが萎えそうになった時、“ポーニョ、ポーニョ、ポニョ、さかなの子”と、親しみやすいテーマソングが聞こえてきた。その時、突如この映画のメッセージが心に響いた。そうだ、このメロディのように素直な希望を持つことが、ポニョが人間になる意味なのだ。草や雲や海、劇中の自然は、いつもユラユラと動きがあり、しなやかな生命力に溢れていた。世界は常に変化している。希望も絶望も同じ場所に留まることはない。何が起こるか知りたくて、だからひとまず生きてみる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ポジティブ度:★★★★★

□2008年 日本映画
□監督:宮崎駿
□出演:(声)山口智子、長嶋一茂、天海祐希、他

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