『スカイ・クロラ』 [DVD]『スカイ・クロラ』 [DVD]
◆プチレビュー◆
伝えたいのは希望。難解さを排除したストーリーは、押井アニメ初心者にもおすすめだ。 【85点】

 思春期のままで永遠に生き続ける子供“キルドレ”により、ショーとしての戦争が行われる時代。戦闘機のパイロットで、新しく前線基地に赴任してきたユーイチは、元エース・パイロットの女性指揮官スイトと出会う…。

 押井作品で、これほど切ないラブ・ストーリーがあっただろうか。共にキルドレの、ユーイチとスイトの間には初対面から懐かしい感情が漂っている。それだけではない。マッチを折って捨てる癖、初めてなのに体になじむ戦闘機、何度出会っても愛してしまう人。基地のすべてにうっすらと甘い記憶がにじんでいた。リピートは、押井監督が好んで使うモチーフだが、本作のループ・エネルギーの本質には、明日への希望が感じとれる。

 戦争以外で死ぬことはないキルドレの中では、生と死が同居していて、そのどちらもイメージは希薄だ。平和を実感するために、ゲーム、すなわち戦争を行うという大人の歪んだ発想が、彼らの感覚を奪っていく。企業が商売として取り仕切る戦争を終わらせないため、絶対に倒せない敵“ティーチャー”を配するが、彼はキルドレではなく本物の大人の男だ。つまり、永遠の子供キルドレにとってティーチャーは、決して越えられないバーチャルな父として存在し続ける。絶望的な閉塞感に、息が詰まりそうだ。

 その息苦しさは、濃密な映像とも無縁ではない。偽りにも似た平和と激しい空中戦は、地上は2次元、空中は3次元と描き分けられている。平面的な人物の顔には、生きる目的が分からず行き場のない不安が垣間見える。対して、背景となる空や戦闘機は、実写かと見紛うほど緻密な奥行きがあり、思わず見惚れてしまうほどリアルなのだ。近年の押井作品の映像の作りこみは狂おしいほどだが、本作は心象風景とのコントラストがとりわけ見事だ。

 膨大な量のセリフと哲学的な世界観が知的探究心をくすぐり、ファンを熱狂させる押井ワールド。だが今回は趣が違う。情報量は少ないが、メッセージはストレートで分かりやすい。伝えたいのは未来への希望だ。そもそも押井監督が語るストーリーは、SFながら強烈に現代社会を照射するから惹き付けられる。それはキルドレが生まれた経緯や、日系と欧州の企業が競う戦争という設定にも色濃く表れていた。物語の根源は、あくまで身近なところにある。成長しないキルドレは、現代社会を手探りで生きる若者と、大切なものを見失ったことに気付かない大人の姿だ。この複眼が物語に深みを与える。

 「君は生きろ。何かを変えられるまで」。愛しているなら殺してほしいとせがむスイトにユーイチはこう言って飛び立った。切なすぎる想いが爆音と共鳴し、胸が痛む。キルドレが飛ぶ大空に正義はない。だが瞳のその先には愛があった。たとえ一筋でも希望の光があれば、新しい価値観で時を生きてみせよう。このやるせない愛の物語の、エンドロールの後のワン・シークエンスは、絶対に見逃さないでほしい。そこで、私たちはユーイチとスイトの存在を肯定する言葉を聞くだろう。そのひと言こそが彼らの記憶の福音となる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)切なさ度:★★★★★

□2008年 日本映画 英題「The Sky Crawlers」
□監督:押井守
□出演:(声)菊地凛子、加瀬亮、栗山千明、他


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スカイ・クロラ The Sky Crawlers@ぴあ映画生活