ダークナイト 特別版 [DVD]ダークナイト 特別版 [DVD]
◆プチレビュー◆
闇のヒーローの苦悩を描く人間ドラマが秀逸。故ヒース・レジャーの鬼気迫る演技は必見だ。 【85点】

 ゴッサム・シティは、正義漢の新任検事ベントらのおかげで平和な街に。だが、そこに悪のカリスマ・ジョーカーが現われる。暴挙を繰り返すジョーカーに、バットマンこと大富豪のブルース・ウェインは追いつめられる…。

 題名から“バットマン”の文字が消えた。前作「バットマン・ビギンズ」も含め、過去を刷新する決意表明で、この作品の本気度は極めて高い。バットマンはアメコミ・ヒーローの中でも一際ダークで異彩を放つが、今回は対峙する悪の猛威も桁外れ。もはや単純なヒーローものの枠には収まらないのだ。不気味な死の影が覆うこの傑作は、映画冒頭から重低音で脳髄の芯まで響いてくる。

 バットマンの武器は、自らの意思で鍛えた運動能力と知性だけだ。圧倒的な財力のおかげでバットモービルやバットスーツなど、スペシャルな装備を持ってはいるが、もともと彼には超人的な能力はない。命がけの戦いは彼の身体に無数の傷痕を残している。傷は肉体だけではない。平和を求めるバットマンの原動力は、両親を殺した悪への憎悪なのだ。これでは心の傷跡も増える一方だ。しかも、彼が行う、法律とは別の正義は、結果的に悪を呼び寄せてしまう。正真正銘のアナーキーにして極悪非道なジョーカーがそれだ。「おまえは俺だ」というジョーカーの言葉に苦悩するバットマン。二律背反に限界ギリギリまで引き裂かれる主人公の魂が、人間ドラマとして深い感動を誘う。

 本作では、ジョーカー、トゥー・フェイスという過去に登場したキャラを呼び戻した。二人にバットマンを加えた三つの力の衝突が物語を転がしていく。重要キャストの命さえ平気で奪う異様なストーリーはいったいどこへ向かうのか。観客の混乱をよそに、狡猾なジョーカーはバットマンの周りの生命を天秤にかけて弄ぶ。だが、もがくヒーローが、炎から抜け出す時こそ覚醒のとき。二輪車バットポッドが轟音とともに駆け抜けた瞬間、最高にエモーショナルな興奮に包まれる。

 この一級のクライム・アクションは、演技面でも隙はない。主役から脇役まで実力派揃いだが、中でもジョーカー役のヒース・レジャーの怪演は圧巻というしかない。ジョーカーと言えば、かつて名優ジャック・ニコルソンが演じた役。だがヒースは、プレッシャーを不敵な笑みに内包し、役柄をモノにした。陰気な猫背に黄色い歯、時には女装さえしてみせる。狂気の極みで吼える若き演技派は、自らの命と引き代えるかのごとく、死でニコルソンを越えていった。

 正義に燃えるデント判事を光の騎士と呼び、あえて汚名を被るバットマンこそは闇の騎士(ダークナイト)。2人の間には、愛する女性レイチェルへの思いも横たわる。最強にして最狂の敵ジョーカーが仕掛けたゲームに対し、バットマンは彼のみにしか出来ない行為で応える。それは“正しい選択”だ。

 夜明け前は最も暗い。闇に消えるストイックなヒーローの後姿がまぶたに焼き付いて離れない。彼はきっと戻ってくると信じよう。なぜなら、バットマンの正義を知るのは、忠実な執事アルフレッドと、私たち観客だけなのだから。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スタイリッシュ度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「THE DARK KNIGHT」
□監督:クリストファー・ノーラン
□出演:クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、アーロン・エッカート、他

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