2008年08月14日

タクシデルミア ある剥製師の遺言

タクシデルミア~ある剥製師の遺言~(通常版) [DVD]タクシデルミア~ある剥製師の遺言~(通常版) [DVD]
ハリウッドや日本とはまったく違う手触りの作品を作る映画作家に出会うことがある。東欧ハンガリーのパールフィ・ジョルジ監督はそんな鬼才の一人だ。チェコの映像作家シュバンクマイエルを想起させると言えば、想像しやすいだろうか。グロテスクできわどい映像でつづられるアヴァンギャルドなこの物語は、あまりにクセがある映画なので、万人にはお勧めできない。だが、気骨ある映画ファンなら、間違いなく刺激を得られる1本とも言える。

物語はオムニバス形式で、三代に渡る親子の数奇な生き様を描くもの。彼らの人生を通してハンガリーの歴史をも見据える、壮大で奇抜なクロニクルだ。第二次大戦下の人里離れた前哨地点で、上官から奴隷のようにこき使われる祖父は“性欲”を、大食いチャンピオンの父は食べては吐く妄執的な行為を繰り返して“食欲”を満たそうとする。そして、ひ弱な孫は剥製師となり、トンデモナイ芸術作品を作ろうとするのだが…。

この作品をカテゴライズするならば、ダーク・ファンタジーということになろう。徹底した悪趣味にはどこか突き抜けた陽気な気配が漂っていて、嫌悪感を感じながらも目が離せなくなる。嘔吐や生物の解体など、俗悪の極みの映像の中で、火を吹くまで性器が勃起する祖父の笑い声や、巨漢で動くことさえ不可能な父が猫を大食漢にしようと奮闘するなど、バカバカしくもユーモラスな描写があって、退屈しない。だが、剥製師の息子ラヨシュのエピソードになるとトーンが変わる。彼は、剥製、すなわち、生物の肉体の保存を追求することで、永遠を目指しているのだ。と同時にこの人物は死にとりつかれている。最終的に彼がたどりつくその行為や思想はあまりに奇抜だが、すべてのタブーを踏み越えて挑む“究極の芸術”には崇高なものさえ感じる。

タクシデルミアとは剥製術のこと。決して気持ちの良い映画ではないし、一般的な感動や美しさとも無縁。だが、社会風刺や権力批判を、悪夢のような映像美学で魅せるこんな作品も、確かに「映画」なのだ。人間の欲望を思いがけない形で覗き見したような問題作。無視するにはあまりに惜しい。

(2006年/ハンガリー・オーストリア・仏/パールフィ・ジョルジ監督/原題「TAXIDERMIA」)

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cinemassimo at 19:15│Comments(2)TrackBack(5)この記事をクリップ!カルト・ムービー 
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5. タクシデルミア ある剥製師の遺言  [ 今宵、サムソン・マスマスラーオの映画座で ]   2009年02月22日 18:01
    = 『タクシデルミア ある剥製師の遺言』  (2006) = ヴェンデル(チャバ・ツェネ)は寂れた前哨地で、中尉とその家族にこき使われていた。 性的欲求に駆られた彼は、中尉の妻と関係し、それがバレて中尉に頭を撃ち抜かれる。 その息子カルマン(トロ...
4. 「タクシデルミア ある剥製師の遺言」  [ 心の栄養♪映画と英語のジョーク ]   2008年11月27日 00:43
第二次大戦中のハンガリー。一兵卒として人里離れた寒村に配置された祖父モロジュゴバーニ (ツェネ・チャバ)は、中尉にこき使われながら、その妻でブタのように肥った女と美しい 二人の娘と生活を共。その祖父の唯一の楽しみは、倒錯した性の妄想に耽ることで・・。 やがて共...
3. タクシデルミア〜ある剥製師の遺言〜  [ いやいやえん ]   2008年11月13日 23:09
どう形容していいか正直わからない。これを観て気持ち悪くなる人もいると思います。独特な作品です 親子3代にわたる物語、まずは戦時中に地方の寒村に配備された祖父。そして大食いスポーツ競技の父と母、そしてその剥製師の息子。 祖父は性欲、父母は食欲、そしてその...
2. タクシデルミア/TAXIDERMIA  [ 我想一個人映画美的女人blog ]   2008年08月15日 23:24
こんな可愛いチラシとは裏腹に、この映画 とってもキタナく、エグく、オゾマシく、グロテスク、そしてシュール{/ee_3/} 予告篇観たときから気になってたハンガリー映画{/star/} はりきって初日鑑賞! この作品、カンヌ映画祭やサンダンス映画祭で上映後、賛否両論を巻き...
1. タクシデルミア??ある剥製師の遺言??  [ 愛情いっぱい!家族ブロ! ]   2008年08月15日 22:19
これ、劇場で観られてよかった! グロイけど、美しく、おぞましいけど、陽気…… ハンガリーに生きたある三世代の物語。 祖父、父、孫の三部で構成されているが、この3人には血のつながりはないのだ。 連作と言うか、オムニバスのような雰囲気でそれぞ...
この記事へのコメント
1. Posted by 朝顔   2008年08月14日 22:58
こんばんは。好きな作品なのでレビュー感謝申し上げます。観た直後は「追悼のざわめき」を思いましたが、こちらは三代記とは言え血筋はアレですから更に底意地悪いですね。回転するバスタブには大受けでした。
2. Posted by まちこ   2008年08月14日 23:52
朝顔さん、コメントをありがとうございます。

現在、お盆休みモードで、1日2記事UPで私なりに頑張っております(汗)。
UPできずにストックされている作品の中から、キワモノ的感覚でこの映画を選んでみました。

「追悼のざわめき」とは、これまたカルトな…(苦笑)。
床がグルッと回ったり、絵本に見立てた夢の世界など、独特の映像感覚が面白かったですね。

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