おくりびと [DVD]おくりびと [DVD]
◆プチレビュー◆
納棺師になった青年の成長を通して生と死の意味を問う秀作。納棺の所作と山形の自然が美しい。 【75点】

 失業したチェロ奏者の大悟は、ひょんなことから故郷の山形で納棺師という職につく。特異な職業にとまどいながらも、次第に仕事になじんでいくが、妻の美香だけには、仕事の実情を告げられずにいた…。

 人間は必ず死ぬ。死は誰もが避けては通れないことなのに、それにまつわる職業に“けがれ”のイメージが伴うのは理不尽な話だ。忌み嫌い恐れる死を、遠ざけたいとの感情が働くのだろう。だがこの映画を見れば、必ずその思いは覆される。納棺師(のうかんし)とは、遺体を棺に収める仕事。亡くなった人の身体を清め、装束を調える。時には、遺族の思いをそっと棺に添えてみる。美しい化粧、ルーズソックス、沢山のキスマーク。別れのプレゼントは残された人の悲しみを和らげ、永遠の旅立ちを納得させるものなのだ。

 死を題材にしているのに、軽妙でユーモラスなのがいい。冒頭の納棺の儀式には緊張感が漂うが、すぐに笑えるオチが付く。納棺師の仕事をレクチャーする前半はコミカルかつリアルだ。意外なほど報酬が高額なのは、腐敗が始まった遺体に触れる作業や、納棺ハウツービデオに恥ずかしい姿で出演するなど、フツーじゃない仕事が含まれるためだろう。納棺の仕事は、いわばすきま産業。ないならないで済むその仕事に携わる主人公たちに「人の死で飯を食ってるくせに」と罵った男が、全てが終ったあとは心から「ありがとう」と涙を流す。誤解されやすい職業なのだと俄然興味がわいて、物語に引き込まれる。

 主人公の大悟を、ひょうひょうと牽引するのが、ベテラン納棺師の佐々木だ。納棺の仕事が大悟の天職と見抜く彼は、大悟の繊細な指先にその才能を見出したに違いない。佐々木の過去は詳しくは描かれないが、演じる山崎努の絶妙な芝居によって、登場人物の生き様を想像させる間(マ)が生まれた。それは脇役も同じ。ワケありの事務員の余貴美子や、銭湯の常連の笹野高史が、死に向き合う姿で、物語に深みが増す。彼らの慈愛がやがて大悟にも伝わって、幼少期に自分を捨てた父親へのわだかまりが氷解する終盤は、感動を呼ぶ。温もりを持って父をおくりだした主人公の顔は、夫婦や親子、周囲の人々の絆を感じて充足していた。

 コンセプトは、生へのシビアな覚悟である。印象的なのは、佐々木が大悟と高級食材の白子を食べる場面だ。同じ食べるなら美味いものをと言う佐々木は、食べるという儀式を納棺の儀式に重ねている。感謝しながら食し、栄養とすることで生き物の死を有益なものにする。荘厳な納棺の儀式の中で、故人を敬い悲しみを納めるからこそ、死を乗り越えることができるのではなかろうか。

 本木雅弘が静かに熱演する、厳かな納棺の所作は、最初は夫の仕事を軽蔑していた妻が納棺技術の全てを見て考えを変えるのもうなずける、美の極致だ。エンドロールと共に映し出される、納棺の“ステージ”は、ワンカットの長回しという力技。黒い背景に浮かび上がる姿は、まるで伝統舞踊のように美しく、思わず見惚れてしまう。いつかは迎える死とそれまでの懸命な生の対比に、確かな感動がある。死を描くことでしっかりと生を照射した作品だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)巧の技度:★★★★★

□2008年 日本映画
□監督:滝田洋二郎
□出演:本木雅弘、広末涼子、山崎努、他

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/