ベンジャミン・バトン 数奇な人生 [DVD]ベンジャミン・バトン 数奇な人生 [DVD]
◆プチレビュー◆
時を縦糸に愛を横糸にして人生の哀切を紡ぐ秀作。特殊メイクで七変化するブラピは必見だ。 【85点】

 ベンジャミン・バトンは、80歳で生まれ徐々に若返っていく不思議な運命の持ち主。恋人デイジーと何度もすれ違いながら、やがて愛し合うようになる。だが、他人と違う時を刻む彼はデイジーとの関係で悩むことに…。

 この映画が生まれた背景には、二人の作家の存在がある。大作家のマーク・トウェインは「もし80歳で生まれてゆっくりと18歳に近づいていけたら、どんなに幸せだろう」とつぶやいたらしい。F・スコット・フィッツジェラルドはその言葉にインスピレーションを得て、小さな物語を生み出した。映画の原作となったそれは、まるで一筆書きのような掌編。ひとときの夢のようなお話を、20世紀現代史と併走する物語に作り変えた点がデビッド・フィンチャー監督の非凡なところだ。若返っていくことが本当に幸せなのか。本作は、その答え以上のものを私たちに教えてくれる。2時間47分の長丁場だが、退屈とは無縁だ。観客は夢中になってベンジャミンの不思議な人生を見守るだろう。

 このリリカルな奇談の主人公は、幸いに、多くの人の愛に守られ人生を歩んでいく。老人の外見を厭わずに育ててくれた優しい義母。船乗りになって出会う豪放な船長。ミステリアスな人妻との恋。ベンジャミンは、特殊な運命ゆえに命に限りがあることを痛切に知っている。彼にとってすべての出会いはかけがえのない宝物だ。中でも幼馴染の美女デイジーは格別の存在である。人生の中間地点で2人の時はクロスし、激しく愛し合うことに。だが彼には、最愛のデイジーと共に老いていく幸せはなかった。誰とも違うベンジャミンの旅路の終着駅は、皆と同じ“死”なのだが、孤独なその道のりが、私たちの胸を打つ。

 80歳の老人から徐々に若返る主人公を特殊メイクで演じきるブラッド・ピットの存在感が素晴らしい。顔は彼の老けメイク、身体は子役が演じる老人の容姿は、映像の継ぎ目をまったく感じさせず、きわめて自然だ。そして長い年月を経て青年になった主人公が登場すれば、デビュー当時の麗しいブラピと再会できる喜びもある。今、映画の持っている技術を存分に活かして作られる、美しい映像は、ピットの渾身の演技で厚みを増した。そんな彼と渡り合うのは、繊細で高貴なたたずまいのケイト・ブランシェットだ。二人が演じるかつてない恋の行方を見届ければ、そこには深い感動が待っている。

 風変わりな運命の主人公が、波乱万丈の人生をおくり、やがて深い愛へと至る。どこか「フォレスト・ガンプ」を思わせるストーリーだが、時間を逆行させることで、よりファンタジックな空気を醸し出した。人間は時に抗うことはできない。冒頭に登場する時計職人のエピソードが象徴するように、人の喜びも悲しみも、時間と共にある。もし時に勝利したいのなら、その武器は愛しかないのだ。この“数奇な”物語は、後戻りできない人生の哀切を教えてくれる。だからこそ私たちは、一緒に歩む人がいることの至福を感じることができる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)切なさ度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「The Curious Case of Benjamin Button」
□監督:デビッド・フィンチャー
□出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントン、他

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