少年メリケンサック スタンダード・エディション[DVD]少年メリケンサック スタンダード・エディション[DVD]
◆プチレビュー◆
ダメOLとおやじたちのパンク魂が吠える。炸裂系ハイ・テンション・ムービーの快作。 【65点】

 レコード会社のOLかんなは、動画サイトで美形のパンク・バンド“少年メリケンサック”を発見する。さっそく契約を取ろうと出かけてみると、そこには酒びたりの中年男が。ライブ映像は25年前のものだったのだ…。

 クドカンこと宮藤官九郎は、きっと心底パンク・ロックを愛しているのだろう。このテの音楽に特に思い入れのない私でも、この映画の“パンクぶり”が面白くて引き込まれる。汚物系ネタの連続にはうんざりしたが、それでも、その過激さやデタラメさまでもが可愛く思えてくるから不思議だ。これが情報過多で迫るクドカン・ワールドの威力なのか。

 かんなはお気楽なOLだが、彼氏のマサルの音楽的才能欠如に気付かない一方で、少年メリケンサックを発見する嗅覚もある不思議ちゃんだ。メンバーは実はボロボロ、ヨレヨレのわがまま中年男だったことを上司に言い出せないまま、なりゆきで全国ツアーに出てしまう度胸も併せ持つ。凶暴でキタなくてやる気がないくせに、プライドだけは高いオッサンたちと、彼らに振り回されてキレっぱなしのかんなの旅は、行く先々で騒動を巻き起こし、彼らにビミョーな変化をもたらしながら、とんでもない方向へと向かっていく。

 そんな旅路の果てに、おやじバンドは再び輝くことができるのか。かつて80年代の音楽シーンには、メジャーよりマイナーを良しとする風潮があった。田辺誠一演じる看板歌手を軽薄野郎に描くのは、そのためである。しかし、ネットで勝手に人気沸騰する少年メリケンサックを求めるファンには、もはやメジャーもマイナーも関係ない。そこにある音楽の力が周囲をグイグイ飲み込んでいく。その証拠に、パンクなんか大嫌いだったかんなも、最後には立派にパンク魂を身につけた。ついでに、レコード会社の上司も、彼氏のマサル君までも。

 普通、ロード・ムービーというのは、登場人物の人間的な成長が感動を呼ぶものだが、この映画は、そんなことはおかまいなし。ミもフタもないダメっぷりが、かえって潔い。特に過去のしがらみで反目する佐藤浩市と木村祐一の兄弟の関係性など、無茶苦茶にアナーキーだ。おそらく、イマドキの癒し系ムーブメントに、監督自身が「ノー!」と宣言しているに違いない。カッコ悪くて何が悪い?!ウェルメイドなんかクソくらえだ。それを体現するのが“篤姫”の品位をかなぐり捨てて熱演する宮崎あおいだから、最高にイケている。

 さて、パンクのスピリットとは? 監督曰く、分かってほしいのに、分かってたまるか!と吠えることだそう。言えている。何がしたいか分からなくても何かせずにはいられない。目的ではなく心の衝動だ。傍目にはバカらしいことに夢中になり激突しあうことで、新しいパワーが生まれてくる。この映画は、シャウトする情熱を正面きって描くのが気恥ずかしいのか、確信犯的にハズしながら攻めてくる。オッサンたちの1曲しかない持ち歌「ニューヨーク・マラソン」の本当の歌詞を聞けば、作り手が秘める“照れ”が伝わる…はずだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ハチャメチャ度:★★★★☆

□2008年 日本映画
□監督:宮藤官九郎
□出演:宮崎あおい、佐藤浩市、木村祐一、他

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