チェンジリング (アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ 出演) [DVD]チェンジリング (アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ 出演) [DVD]
◆プチレビュー◆
古典の風格を持つ秀作。子供を捜し続ける母の強い愛が感動を呼ぶトゥルーストーリーだ。 【80点】

 1928年のロサンゼルス。クリスティン・コリンズの9歳の息子ウォルターが突然行方不明に。その5ヶ月後、警察が発見し連れてきた少年は見知らぬ子供
だった。彼女は再捜査を懇願するが拒否されてしまう…。

 滑り出しは、行方不明の息子が発見されると別人だったという、どこかスーパーナチュラルな設定だ。だが表面に警察権力の非道が浮かび上がると、観客は、これは想像を絶する困難と闘う母親の物語なのだと分かる。図らずも警察と対決し社会変革の一端を担う彼女の苦悩をよそに、ストーリーは予想外の猟奇殺人事件へ。ヒロインの乗った舟がたどり着く岸辺は、はたしてどこなのか。

 汚職や暴力で悪評高いLA警察は、事件の早期解決で名誉回復を狙った上に、自らの失態を隠すため、一人の人間の人生を平気で踏みにじる。市民が正義の拠り所とする警察組織の腐敗ほど、絶望感を煽るものはない。女性の地位が低かった時代、シングルマザーのクリスティンは、警察にたてついた代償として強制的に精神病院に入れられてしまう。だが彼女の息子への愛は、どんな試練より強かった。不屈の母親を熱演するアンジーの重厚な演技が素晴らしい。

 二転三転する事件で、主人公の過酷な運命は嵐の中の小船のように揺れ動くが、映画そのものは決してブレない。物語は脇役の心理描写に至るまで丁寧で、時代考証も見事だ。わずかに不満があるとしたら、ニセの子供の背景が曖昧なこと。ここには史実を越えた解釈があっても良かったのではないか。だが、国家権力の腐敗という極めて社会派な側面を持ちながら、決して告発調にしていない点をより高く評価したい。物語を牽引するのは母親の愛情で、彼女の強い信念を描ききったところに、イーストウッドのクレバーな演出力がある。

 そこでふと感じるのは、イーストウッド作品の多くは、女性への敬意と畏怖が入り混じるという奇妙な事実だ。クリスティンの心の強さは、平静で凛としたものだが、終盤、殺人鬼に激しく詰め寄る姿は、強烈な印象を残す。初期の「恐怖のメロディ」やキャリアでは異色の「マディソン郡の橋」、秀作「ミリオンダラー・ベイビー」で描かれた、一途な思い込みが愛と渾然一体になり、ゆっくりと運命に絡め取られる女の姿とダブッてしまうのだ。息子の生存を信じるクリスティンの横顔に、母の愛と共に静かな狂気を感じるのは、過去の作品の狭間からイーストウッドの屈折した女性観が垣間見えるせいだろう。

 チェンジリングとは、取りかえられた子供の意味。その言葉の背景には“妖精が置いていく醜い子”の伝説が宿る。ヒロインの願いは、権力に打ち勝つことではなく、我が子との再会のみ。彼女の思いは届くのか。近年のイーストウッドの語り口には、登場人物と一定の距離を置くクールな空気がある。だからこそ、ラストでヒロインに穏やかな表情を与えた彼の優しさが染み渡った。映画は、最後に事件の顛末を伝えるが、それでも主人公の人生に希望の光が当たることを願わずにはいられない。深い慈愛が漂うラストは、長く心に残るものだ。この余韻こそ、イーストウッドが巨匠と呼ばれる理由だろう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)母性愛度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「Changeling」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、エイミー・ライアン、他

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