ワルキューレ プレミアム・エディション [DVD]ワルキューレ プレミアム・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
ヒトラー暗殺計画の顛末を描く実録サスペンス。話は面白いが致命的にマズいセリフがある。 【60点】

 第二次世界大戦末期の1944年。祖国の誇りと世界の平和のために、ドイツ人将校シュタウフェンベルク大佐は、ヒトラー暗殺計画“ワルキューレ作戦”を立案。賛同者と共に、猶予僅か10分という極限状態の計画を進めていく…。

 歴史上でも指折りの極悪人アドルフ・ヒトラーの暗殺計画は、計40回以上あったという。それをすべてかいくぐった独裁者の悪運に今更ながら驚くが、この映画で描くのは、数ある暗殺計画の中で最も大掛かりだった“ワルキューレ作戦”の全貌だ。その計画は、ヒトラーと側近の暗殺だけでなく、ナチス政権を転覆させ、その先の国家再建まで視野に入れた大胆なプロジェクトだった。

 ただし、私たちはヒトラーの最期を知っている。つまりこの暗殺計画の失敗を知りつつ物語を追う。にもかかわらず映画は、かなりの緊張感を保っている。有事の際に発動するワルキューレ作戦を利用・改ざんしたクーデター計画は見事なものだし、ヒトラーのサインを入手するくだりや、爆弾を仕掛ける会議室での息詰まる10分間は究極のミッションで目が離せない。だが同時に、時間や場所の変更などの予想外のズレが、計画を確実に失敗へと導くプロセスをじっくりと見ることになる。このテイストは、最初に犯罪と犯人を見せておいて、そのほころびを徐々に炙り出す倒叙ミステリーの面白さに通じるものだ。

 計画の実行者シュタウフェンベルク大佐は、戦場で左目、右腕、左手の指二本を失っているという凄味のあるルックスである。名門貴族で身体が不自由な大佐には警備も甘かったのだろう。ヒトラーの狂気を嫌悪する愛国者の彼は、正義の象徴だ。そんな人物を大スターのトム・クルーズが演じる豪華さはこたえられない。制服が似合うと評判のトムが、弱腰の上層部に対し軍人らしい硬質な決断力で行動する姿には、少なからぬ魅力を感じるはずだ。

 それなのにこの映画は、決定的に観客をシラけさせる言葉をクルーズに与えてしまう。「ヒトラーは死んだ!」とヒステリックに叫ぶセリフがそれだ。ここで見るものの体温は確実に5度は下がる。実録歴史映画に、いくら何でもこのセリフはない。全員が知っている失敗にトム一人が吠える図は、物悲しさを通り越してこっけいだ。この言葉さえなかったら、その後の大佐の行動と信念がいかに崇高なものだったかが伝わっただろうに。ちなみに、タイトルのワルキューレとは、戦死者の魂を求めて空を駆ける北欧神話の死の女神の名だ。不吉な伝説に倣うように、正義のために闘った男たちには極刑が待っている。

 映画は、良くも悪くも、ハリウッドスターが演じる英雄のヒロイズムが際立つ娯楽サスペンスに仕上がった。だが、計画失敗の原因を思う時、ふと物語の深みが見えてくる。首謀者側の思惑である権力志向や保身、大事の前にひるむ小心が、糸のようにからみあい、水没寸前だったヒトラーの命綱になった皮肉には言葉もない。その一方で、ナチス・ドイツ内にも正義はあったという真実も重い。共に一枚岩になりきれなかった性質を内包していたことに、歴史の不思議が立ち上る。女神ワルキューレが死と美の両方を体現するように、単純に色分けできない善悪が混在する21世紀にこそ知るべき歴史秘話と言えようか。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スリリング度:★★★★☆

□2008年 アメリカ・ドイツ合作映画 原題「VALKYRIE」
□監督:ブライアン・シンガー
□出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、他

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