フロスト×ニクソン (フランク・ランジェラ 主演) [DVD]フロスト×ニクソン (フランク・ランジェラ 主演) [DVD]
◆プチレビュー◆
決闘に例えられた伝説のTVインタビューは知的心理戦。F・ランジェラのニクソンに思わず唸る。 【75点】

 ウォーターゲート事件で辞任したニクソン元大統領に、英国人のTV司会者フロストが単独インタビューを申し込む。4日間にわたるインタビューは、全米にTV中継され、双方のブレーンを従えた熾烈なトークバトルとなったが…。

 映画を見る前に、1970年代に起きたウォーターゲート事件の概略を知っておいてほしい。ごく簡単に言うと、共和党の大統領リチャード・ニクソンが、野党の民主党本部のウォーターゲート・ビルに盗聴器を取り付けたことが露見、世論の大反発を呼び、任期中に辞任に追い込まれたという政治スキャンダルだ。この事件のことは、秀作映画「大統領の陰謀」を参考にするといいだろう。

 インタビューは、デビッド・フロストが私財を投げうって企画したものだ。それは、米国メディア進出を狙うフロストと、政界復帰を目論むニクソンの公開ガチンコ勝負の場となる。当然その舞台裏には、さまざまなドラマがあった。ここで、この映画のキーワードがくっきりと浮かび上がる。それは“魂胆”という言葉。今も全米一の視聴率を誇るインタビューはすでに舞台化されているが、あえて今、映画化したロン・ハワード監督の魂胆とは、さて、何だろう。

 まず、注目したいのが、映画が、インタビューから数年たった時点から、関係者がその時のことをふりかえるというメタ・フィクションだということだ。インタビューそのものもウォーターゲート事件をふりかえるものなので、二重構造の回想になっている。また、カメラとの関係性も重要だ。ニクソンとフロストの両方を複数のTVカメラがとらえ、それをさらに映画のスクリーンを通して見るという、これまた二重構造。監督のハワードは、単純に見たままではなく、事実を取り巻く重層の中で変化する人間性をテーマに据えた。

 思うに作り手の視線は、スクリーンの外側の暗闇に注がれている。そこに潜むのは、観客が頭の中に描く、幾通りにも姿を変えるニクソン像だ。何しろ元大統領を演じるフランク・ランジェラの神がかり的な名演で、劇中の悪党ニクソンが圧倒的に魅力的なのだから困ってしまう。そのエッセンスは、インタビュー最終日の前夜に、ニクソンがフロストに電話をかけてくるシークエンスに結実する。実はこの部分はフィクションなのだが、映画の核はここなのだ。私たちは、一般人には想像すらできない、大国のリーダーの底知れぬ孤独を見る。

 インタビューでは、最初の3日で、狡猾な老政治家がフロストをコーナーに追い詰める。そして最終日で、判定負け寸前のフロストが、一発逆転のパンチを繰り出し、ニクソンから“墓穴を掘る一言”を引き出すことで決着を見る。だが、ボクシングさながらのこの勝負の本当の判定は、視聴者のフィーリングという極めて曖昧なものだったことを見逃してはならない。ロン・ハワードの魂胆とは、今更ニクソンを糾弾することではない。時代の節目でメディアや民衆が担ってきた心理的な判定を問いただしているのだ。しかもエンタテインメントの形で。これは近年まれに見るクレバーな歴史反省映画かもしれない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)知的サスペンス度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「FROST/NIXON」
□監督:ロン・ハワード
□出演:フランク・ランジェラ、マイケル・シーン、ケヴィン・ベーコン、他

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