ザ・バンク 堕ちた巨像 コレクターズ・エディション [DVD]ザ・バンク 堕ちた巨像 コレクターズ・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
金融界のモラルの逸脱をリアルに描く社会派サスペンス。美術館での銃撃戦は手に汗を握る。 【70点】

 インターポール捜査官のサリンジャーは、国際メガバンクIBBC銀行の違法行為を暴こうとするが、新たな情報を得るたびに証言者や仲間が殺される。自身も危険にさらされながら、NY検事局のエレノアと共に捜査を続けるが…。

 悪役は時代を写す鏡だ。かつて、共産主義を敵とし、南米の麻薬組織を追い、中東のテロリストと戦ってきた映画の主役たち。歴史上には、暴君ネロや独裁者ヒトラーのように分かりやすい悪人もいた。だが、今や悪の正体は巨大多国籍企業。内戦や紛争につけ込んで巨額の利益を得る彼らには、法の手は容易に及ばない。得体のしれないこの悪は、かつてないほど手強いのだ。

 そもそも世界中の有力者や政治指導者、富裕層と結託する国際銀行を、誰が成敗するというのか。そこで、さっそうと登場するのが、インターポール(国際刑事警察機構)だ。世界的スケールで活躍する捜査官は、正義の象徴のように見える。だが、ルパン三世を永遠に捕まえられない銭形警部も所属するこの組織には、なんと逮捕権がない。これだけでも勝負は見えている。

 しかし、サリンジャーはどんな妨害にも屈せず、腐敗した銀行の摘発に燃える熱血漢だ。ターゲットが絞りにくい敵に対し、彼はこの企業を憎む相手と手を組むことで活路を見出す。また長い間の悪事で疲れ果てた男の心を動かすことにも成功。なかなかの知恵者だ。銀行の闇ビジネスという地味な素材を料理するのは俊英トム・ティクヴァだが、過去に、時間や芳香という形のないものを映像化してきた彼は、巨悪を描くためにすさまじいアクションを用意する。

 それが、最大の見せ場であるNY・グッゲンハイム美術館での銃撃戦だ。近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが設計した壮麗な美術館がメチャメチャになる様は、作り物だと分かっていても胸が痛む。しかも破壊の限りを尽くすその場面が困ったことに美しい。場所が美術館だけに、動くアートとでも呼ぼうか。螺旋状という非常にユニークな建築フォルムは、終わりのない負のスパイラルのメタファーのようだ。白亜のモダンな空間で、主人公は立場の違う殺人者たちと遭遇する。殺し屋と相対しながら、やがて協力して逃げる奇妙な展開も、前衛的な美術館にふさわしい。だが彼らが追い追われもする悪は、芸術的なまでに非情だ。

 物語はあくまでもフィクション。だが、1991年に破綻した国際銀行BCCIというリアルな見本があるように、金融界の暴走は作り話ではない。利益のためには手段を選ばないという企業腐敗の本質は、実話と言ってもさしつかえないだろう。本作は、幸か不幸かアクション・シーンの出来がいいために、社会派映画の印象は薄くなった。だがヘタに深刻になるよりも、その方がいいのかもしれない。映画は、極めて古典的な方法で悪人が倒され終焉となるが、結局のところ、資金洗浄や武器取引などの闇の物語は、現実を舞台に今も“続編”が製作されている。正義の居場所が少ない時代、この映画の余韻は苦い。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)社会派エンタメ度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「THE INTERNATIONAL」
□監督:トム・ティクヴァ
□出演:クライヴ・オーウェン、ナオミ・ワッツ、アーミン・ミューラー=スタール、他

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