スラムドッグ$ミリオネア [DVD]スラムドッグ$ミリオネア [DVD]
◆プチレビュー◆
インドを駆け抜ける夢物語は、残酷さとユーモアと愛のカオスだ。オスカー8冠の話題作。 【95点】

 スラム出身の青年ジャマールは「クイズ・ミリオネア」に出演。全問正解を目前に、不正を疑われ逮捕されてしまう。無学の彼がなぜ答えを知り得たのか。彼は警察で、望まなくとも正解を知ることになった過酷な人生を語り始める…。

 クイズ番組の答えと主人公の人生をクロスさせる洒落たアイデアは原作の素材の味。そこに「トレインスポッティング」の疾走感と「普通じゃない」のロマンティシズムを加えて調理し、見事に盛り付けたのはダニー・ボイル監督の才能のなせる技だ。答えをすべて“経験”しているなんて、ありえない? でもそれを、ありえるかもと思わせるのが、急激に近代化し一瞬も同じ姿を留めないインドという混沌。そこは映画よりも映画的なカオスの極地だ。物語は、異様な空気のクイズ番組、警察の尋問、主人公の回想を循環して進行する。

 「その答えは知らない方が幸せだった」。ジャマールはある問題の正解を知るいきさつを語るとき、ふとこうつぶやくが、それはほとんどすべてのケースに当てはまるセリフではあるまいか。貧困、格差、宗教対立、児童虐待や闇犯罪までもが、庶民の暮らしのすぐ傍らにある。ジャマールはまだ18歳だというのに、修羅場と共に生きてきた。なんと残酷で、なんと豊かな人生か。

 だが、生まれた時からこの環境にいる彼は、びっくりするほどたくましい。列車の乗客の食べ物をチョイと失敬したり、時には偽のガイドになってチップを稼いだりしながら、痛快に、そしてタフに生き抜いていく。そんな中で出会った少女ラティカへの愛こそが、彼のファイナル・アンサーだ。ラティカに会いたい。一途なその思いは、ジャマールと観客を興奮の頂点へと導いていく。

 痛快なのは、映画製作の経緯とて同じだ。低予算の小さな英国映画は、一度は大手配給会社から公開の道を閉ざされながら、口コミで面白さが広まり、とうとうハリウッドを征服してしまう。スター不在、映画の3分の1はヒンドゥー語、ムンバイでのゲリラ的ロケ撮影。これらの負の要素が、比類なき力となってフィルムに映り込み、爆発的なエネルギーへと昇華した。まるで、スラムドッグ(スラムの負け犬)のサクセス・ストーリーと重なるようではないか。

 何より、映画全体を覆う底知れない生命力はどうだ。街中を駆け抜ける躍動感、走る列車の屋根で感じる風、ラティカがみせた輝く笑顔。どれもこれも忘れられない。純粋なジャマールとは対照的に悪に染まる兄サリームですら、最後には男気を見せて弟の奇跡を後押しする。破壊と創造を繰り返すインド神話のような無限の活力が、この作品の最大の魅力なのだ。

 物語のプロットは、困難に負けずに成功をつかむという、手垢のついたものにすぎない。クイズ・ミリオネア発祥の地の英国や、可能性の国アメリカ、経済成長著しい中国でも成り立つだろう。だがこの万華鏡のような夢物語だけは、インドでなければならない。大団円のエンドロールでハジける、ボリウッド調ダンスシーンの高揚感がその理由だ。あぁ、なんという幸福感! この映画には、間違いなく人の心を幸せで満たすパワーがある。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)躍動感度:★★★★★

□2008年 イギリス映画 原題「Slumdog Millionaire」
□監督:ダニー・ボイル
□出演:デブ・パテル、フリーダ・ピント、イルファン・カーン、他

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