グラン・トリノ [DVD]グラン・トリノ [DVD]
◆プチレビュー◆
久しぶりにイーストウッド自身が監督・主演。老人と少年の静かな友情が感動を呼ぶ秀作。 【90点】

 ウォルトは、隠居生活を送る頑固で孤独な老人だ。ある日、内気な少年タオが不良から強要されて彼の自慢の愛車グラン・トリノを盗もうとし、失敗。ウォルトがタオの謝罪をしぶしぶ受け入れたことから風変わりな交流が始まる…。

 俳優兼監督の才人は多いが、目下のところ現役最高峰と言えるのがイーストウッドだ。近年の作品は傑作の連打。映像はより深みを増し、音楽は最高の脇役となり、物語は高い精神性を内包する。本作は彼の映画で頻繁に登場するテーマ“老い”を描きながら、強い贖罪意識を感じさせる人間ドラマだ。

 物語の前半はシンプルかつコミカルに進む。偏屈な白人の老人とシャイなアジア系少数民族の少年との世代と人種を越えた友情が軽やかに描かれ、笑いが絶えない。ウォルトは、毒舌家で偏見に満ちてはいるが悪い人間ではなく、昔気質の価値観を持つ典型的なアメリカ人だ。そんな彼がマイノリティの少年の人生の師となるプロットは、もはや否定できない時代の流れと米国の現実を物語る。自分の進むべき道が分からないタオに“男の生き方”を教えることは、人生の最終章を迎えたウォルトにとっても喜びとなるが、何より、勤勉で実直というアメリカ人の美徳を伝えることになる。タオや彼の姉スーとのやりとりは快活でほほえましく、イーストウッドの演出はさすがに手練だ。だが、姉弟が愚かな争いに巻き込まれたことから、ユーモラスなトーンは急変する。

 愛するものを傷つけられた主人公が、決意を秘めて立ち上がる。この流れで思い浮かべるのは名作「許されざる者」だろう。だが、イーストウッドは、老いたガンマン・マニーとは違う解決手段を主人公に用意した。自らの作品で彼が演技者となるときは、自分自身を危機に追いやりながらも、巧妙に避けてきたものが二つある。それは涙と死だ。イーストウッドは自分の映画の中で決して死なない。はたしてこのルールは本作でも守られるのか。憎しみを胸に悪徳保安官と対決したマニーや以前のウォルトなら迷わずに銃を握るが、今、彼の手にあるのは、大切なグラン・トリノと同じ滅びゆくものの誇りである。

 グラン・トリノとは、フォード社製のヴィンテージ・カーの名称だ。よく手入れされた機能と外観は、堂々と自信に満ちて気品がある。ウォルトが自らステアリング・コラムを取り付けたと自慢するその車は、失われつつあるアメリカン・スピリットを体現し、心の奥に隠した朝鮮戦争での悔恨の念をも受け止めてくれる古き良き友だ。老人の過去と少年の未来を載せた美しい車は、劇中ほとんど走らないが、静かにたたずんで主人公の運命を見守っている。

 もし天の配剤というものが本当にあるのなら、この物語をそう呼ぼう。天は薬の調合のように、善人には良い報いを、悪人には罰を配すという。悲しいのに充足感がある。寂しいのに優しさが湧き上がる。見終わった後に、胸に染み渡る形容矛盾の感動がイーストウッド映画の真骨頂だ。アメリカを愛し憂う弔砲にも似た響きに、耳を傾けたい。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)男気度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「GRAN TORINO」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:クリント・イーストウッド、コリー・ハードリクト、ブライアン・ヘイリー、他

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