デュプリシティ [DVD]デュプリシティ [DVD]
◆プチレビュー◆
軍拡並みに熾烈なのが情報戦争。嘘をつかずにはいられない産業スパイの恋がスリリングだ。 【70点】

 元MI6の諜報員レイと元CIAの諜報員クレアは、因縁の仲。退職し現在は共に産業スパイとなった二人は、互いに探りあいながら惹かれていく。雇い主企業が開発する新商品をめぐって、彼らはある計画を思いつくが…。

 「フィクサー」のトニー・ギルロイ、「エリン・ブロコビッチ」のジュリア・ロバーツ、「ザ・バンク」のクライヴ・オーウェン。共通項は企業汚職だ。本作も一応その範疇なのだが、熾烈な情報戦と共に恋の火花が散るこの物語のテイストは、グッと軽くユーモラス。凄腕スパイ同士のカップルの駆け引きは、もはや職業病である。おちおち恋もできないというところが気の毒で可笑しい。

 スパイとは、華麗でも危険でもなく、実は地味な世界で堅実に働く仕事人だ。スパイたちが気にする動向は、新しいピザソースの味や、ハゲ用毛生え薬の開発情報。ずいぶんと緊張感に欠ける日用品である。レイとクレアの雇い主はトイレタリー用品のライバル企業だ。とってもリアルな世界がそこにある。だがこの平凡な品物が巨額の利益を生むとなると話は別だ。商品開発はトップシークレット、企業はペンタゴン並みのセキュリティ・システムで臨んでいる。

 そんな企業の新製品開発には社運とプライドがかかっているが、根っこの部分は、CEO同士の意地の張り合いだ。演じるのは、トム・ウィルキンソンとポール・ジアマッティで、このクセ者役者二人が実に効いている。犬猿の仲の老舗と新興という以上に、気に食わないヤツを“やり込めたい”モードの彼らは、誰にも止められない。二重スパイに盗聴・盗撮、ハッキングと、完全に無法地帯だ。スキあらば敵のシマを乗っ取ろうと鉄砲玉を送り込む。これぞ“仁義なき戦い”である。大企業がヤケに…、いや、本気になったら何だってやる。それを笑い飛ばすのは、映画お得意の社会批判スタイルだ。スパイ合戦の裏技やテクニックは、暮らしに役立ちそうなので、頭の隅にメモっておこう。

 私がひっかかるのは“美男美女”のスパイのキャスティングである。口八丁のプレイボーイ・レイ役はクライヴ・オーウェンで良かったのか? との疑問がぬぐえないのだ。この英国人俳優は、無骨なところが売りで、演技は上手いがどうにも野暮ったい。例えばレイが女性を口説いて情報を仕入れたことを知り、クレアがキレる場面があるが、これなど、クレアの色仕掛けにレイが嫉妬する逆の構図の方がずっとリアルだ。オーウェンが口にするキザなセリフも、なんだかいかにも“演技”っぽい。もっともそのぎこちなさをストーリーにちゃんと生かしているのが、ギルロイの抜け目ないところだが。

 デュプリシティとは“二枚舌”の意味。レイとクレアは企業の裏をかいて新製品を横取りし大金を手にする計画を企てるが、騙し合いを極める企業戦争に勝機はあるのか。相手ばかりか自分自身さえ疑ってしまう、究極の嘘つき合戦のおとしまえとは? 最後まで誰が味方かわからないコン・ゲームの顛末は、映画を見て確かめてほしい。意外な結果に驚かされるが、プロ中のプロが繰り広げた頭脳戦のあとに飲むシャンパンの味は、ほんのりと愛の味がする。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)小粋度:★★★☆☆

□2009年 アメリカ映画 原題「Duplicity」
□監督:トニー・ギルロイ
□出演:ジュリア・ロバーツ、クライヴ・オーウェン、トム・ウィルキンソン、他

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