愛を読むひと (完全無修正版) 〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD]愛を読むひと (完全無修正版) 〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD]
◆プチレビュー◆
献身的な朗読が愛の証となる崇高な物語だ。ウィンスレットが渾身の名演でオスカーを受賞。 【90点】

 1958年ドイツ。15歳のマイケルは21歳年上のハンナに恋をする。逢瀬を重ねる二人だったが、ある日突然、彼女は姿を消してしまう。法科の学生になったマイケルはナチスの戦犯を裁く法廷の被告席にハンナを発見し衝撃を受ける…。

 この物語には3つの扉がある。まず「愛」。15歳の少年が母親ほどの年齢の女性との情事に溺れる展開は、スキャンダラスで情熱的なものだ。だが彼女にせがまれて本を朗読するという風変わりな儀式を伴う甘い日々は、突然終わりを告げる。遠い日の初恋を思い出すように始まった物語は、大学生になった主人公とハンナとの再会を通して、次の入り口へと進む。

 二番目の扉は「罪」。ハンナは戦時中、ナチスの収容所の看守として働き、今、戦犯として裁かれようとしていた。戦後生まれのマイケルの世代には、ナチズムをどう捉えるかは、いやでも背負わされる宿命的な命題だ。その上、被告は彼が初めて愛した女性である。その事実は歴史や法律の授業とはまったく違う迫力で彼に襲いかかる。だがそれ以上に重大な真実が待っていた。ハンナは、ある秘密を隠したため、無期懲役という重罪を受けることに。彼女の秘密を理解した瞬間のマイケルの衝撃は、頬を濡らす涙では語り尽くせない。

 この秘密こそが最後の扉「尊厳」だ。ハンナが朗読を熱望したことや職場での昇進を断ったことなど、物語には多くの伏線がはってある。その秘密はあるハンデキャップなのだが、もしそれがなければ、彼女は不当に重い罪を受けることも、看守になることもなかったのではないか。苦悩の末にたどり着いたマイケルの決断が朗読だった。秘密を公にすればハンナの罪は軽くなるかもしれない。だが、彼は頑なに秘密を守るハンナのプライドを何よりも汲んだ。愛する人の尊厳を何としても守ろう。生涯をかけてハンナの朗読者になろう。その覚悟は「愛している」の言葉の数倍も重く、無償の愛と呼ぶにふさわしい。

 ハンナという存在に説得力を与えたのが、若き演技派ケイト・ウィンスレットだ。どっしりとした容貌の彼女は、なるほどハンナそのもの。地味で無愛想な雰囲気を持ったハンナは、おそらく貧困が理由で満足な教育を受けていない。と同時に、下着にまでアイロンをかけるほど几帳面で、囚人に朗読させるほど知識に飢えていた。ウィンスレットは、ハンナの複雑な内面を繊細な解釈で表現し、30代から60代までを一人で見事に演じきった。

 愛と罪と尊厳。時間軸の異なる三つの扉から来た水脈は、やがてひとつに交わり、感動という名の川になる。マイケルのどこか冷めた人格、罪と裁き、ハンナが下した最後の決断。物語にはいくつもの問いがあるが、答は観客に委ねられ、それが深い余韻を醸し出す。原作の「朗読者」は、常にマイケルの立場で語られるが、映画はしばしばハンナの目線になる。これは、身を焦がす恋で始まり、胸をかきむしるほど傷つきながらも、自らの信念を貫く男女の物語だ。悲しい結末がやるせないが、映画オリジナルのラストには小さな希望の光が。優れた原作と素晴らしい映画。ここには、二つの芸術の幸福な出会いがある。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)痛ましさ度:★★★★★

□2008年 アメリカ・ドイツ合作映画 原題「THE READER」
□監督:スティーヴン・ダルドリー
□出演:ケイト・ウィンスレット、レイフ・ファインズ、ブルーノ・ガンツ、他

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