セントアンナの奇跡 プレミアム・エディション [DVD]セントアンナの奇跡 プレミアム・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
黒人兵士と少年との絆が奇跡を生む。社会性と娯楽性を同居させたストーリーが見事。 【75点】

 NY。定年間近の郵便局員が、窓口に来た男性客の顔を見るなり古いドイツ製の銃で射殺する。真面目な彼は、なぜその男を撃ったのか。やがて彼の家から発見された貴重な彫像から、事件は1944年のイタリアに遡っていく…。

 スパイク・リー監督は、ブラック・カルチャーにこだわってきた映画人だ。ユーモアを交えた社会批判精神に冴えを見せるが、本作では黒人が受けた知られざる差別の実態と彼らの意識、さらにそれらをすべて奪い去る戦争という大罪の中で生まれた、ある奇跡を描く。人種問題とともに、人間の善悪を俯瞰したストーリーは、作品を別次元の高みへと引き上げた。社会派監督の戦争映画というより、ヒューマニズムを謳い上げる感動のドラマと呼びたい。

 第二次世界大戦中、米軍には黒人兵だけで組織された“バッファロー・ソルジャー”という部隊が存在した。まだ黒人差別が激しい時代、軍は黒人兵を最前線に送り込み、使い捨ての兵力としていたのだ。黒人たちはそのことを知りつつも、自分たちの地位向上のため、武勲をたてるしかない。複雑な思いで戦う黒人兵4人は、イタリア・トスカーナ地方の戦場で、味方にはぐれ孤立する。そこで傷を負った一人の少年を助けたことから、小さな村にたどり着くことに。
パルチザンの一行も加わり緊張が高まる中、捕虜のドイツ兵が少年を見るなり、喜びの涙を流すという不可思議な態度を示した。自分にだけ見える“不思議な友達”がいる少年は、何か神秘的な力があるのか。

 この物語の大きな特徴は、善悪の境界線がにじんでいることだ。黒人兵たちは見知らぬ国イタリアで偏見のない人々に安らぎを感じる一方、母国アメリカの上官からは紙クズ同然の扱いを受けていた。矛盾した状況に、戦争というより大きな理不尽が襲いかかる。イタリアの抵抗活動グループのパルチザン内部に密告者が存在するように、敵であるナチスの中に戦争や殺戮に嫌気がさしている軍人がいる。曖昧なラインに縁取られた戦況の中で、明確なのは、小さな命を守りたいという思いだけ。その願いは、彼らを善悪の彼岸へと連れて行く。

 時を超えてリンクしていく、郵便局で男を殺した現代の事件の謎と、戦争中の裏切り行為の謎。道案内役は、ナチスが爆破した橋を飾っていた女神の彫像だ。黒人兵士4人はそれぞれにキャラクターが異なるが、とりわけ、彫像をお守りのように持ち歩く、巨体だが純粋な心を持つ兵士トレインが魅力的だ。言葉では言い尽くせない恐怖を体験した少年を、懸命に守るその姿に胸を打たれる。映画は、役柄に応じて、英語、伊語、独語と使い分ける行き届いた作りになっていて、これが物語に信憑性を与えていることは言うまでもない。

 1944年8月12日、ナチスが罪もないトスカーナ地方の市民を殺害した“セントアンナの大虐殺”は、実際に起こった出来事だ。少年はそこで見たことを一生忘れない。同時に“チョコレートの巨人”と呼んだ心優しい黒人兵のことも。残酷な戦場にも、女神は微笑みかけた。そこに、小さくて、哀しくて、あたたかい人間の営みがあることを知っていたからだろうか。ラストシーンの舞台は、天国のように美しい海辺だ。人種や時代を超えて現代に蘇った少年の奇跡は、神ではなく人間が起こしたからこそ、美しい寓話となる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)感動度:★★★★☆

□2008年 アメリカ・イタリア合作映画 原題「Miracle at St. Anna」
□監督:スパイク・リー
□出演:デレク・ルーク、マイケル・イーリー、ジョン・タトゥーロ、他

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