マイレージ、マイライフ [DVD]マイレージ、マイライフ [DVD]
◆プチレビュー◆
人との大切なつながりはマイルには換算できない。クルーニーの演技が味わい深い秀作。 【85点】

 敏腕リストラ宣告人のライアンは、面倒な人間関係を避け、効率良く人生を生きてきた。年間322日も出張しマイレージを貯めることが唯一の生きがいの彼だったが、ある日、ネット世代の新人ナタリーの教育係に任命される…。

 主人公ライアンは“バックパックに入らない荷物は背負わない”がモットー。リストラ宣告で相手と向き合い、巧みな話術で解雇を納得させ希望を与えはするものの、罪悪感はほとんどない。淡々と上手く仕事をこなして次に行く。こんなライアンと、地上に足がついていない分だけ貯まる数字マイレージの組み合わせとは、何とも上手いメタファーではないか。「JUNO/ジュノ」で非凡な才能を見せ付けたジェイソン・ライトマン監督は1977年生まれとまだ若いが、意表を突く素材とユーモラスな語り口で問題提起する才能に長けている。

 ライアンという人物の面白さは、人を切る非情な仕事をしながら、あくまでも“軽く”生きる男だということ。彼は決して悪人ではなく、他者と深く係わらないのは、予め自分を防御するバリアを張っているからに他ならない。空港やホテルで無駄なく動き、スマートにキメているつもりのライアンの、滑稽なまでのこだわりを見ていると、彼もまた社会の犠牲者に思えてくる。

 そんな彼をピンチに陥らせるのは、ネットでリストラを宣告することで経費が節減できると提案するドライな新人ナタリーの出現だ。解雇宣告人の自分が切られるかもしれない危機感よりも「それでは出張がなくなりマイルが貯まらない!」との憤りの方が先に立つから可笑しい。切実な思いを抱いてナタリーと行動を共にしながら、ライアンは次第に自分の人生を見つめ直すことになる。さらに同じ出張族の女性アレックスとの出会いから、家族の存在を意識することに。気楽な生活を理想としてきた彼が、空っぽのバックパックに何かを入れたいと思い始めたそのとき、地に足を付けたものだけが感じる痛みが訪れる。

 映画は、リストラそのものを批判せず、インターネットを含むデジタルの世界を否定もしない。フォ−カスしているのは人間の危機的思考だ。マイレージのように、私たちは人生の多くの要素をデジタル化された数字に置き換えてしまってはいないか。リストラを見極めるのは成績という数字だし、ポイント生活による消費の連鎖は依存症をも生むだろう。現代社会は便利なはずのツールにいつしか縛られている。私たちの内部にも“小さなライアン”がいる。そのことに気付けば、荷物を背負う力はまだ健在と思っていい。

 それにしてもジョージ・クルーニーは素晴らしい俳優だ。ハリウッドでもとびきりのイイ男であることは言うまでもないが、2枚目なのに3枚目の味もあり、自信に満ちてゴージャスでありながら、どこか空虚な影を感じさせる。こんな風情を感じさせる役者は、マルチェロ・マストロヤンニ以来ではなかろうか。ラスト、空港で行き先を告げるボードを見上げるクルーニーの複雑な表情は絶妙だ。これから先の人生の行き先はライアンにも観客にもまだ分からないが、立ち止まったことで確実に見えた何かがある。あくまでも軽やかなタッチで、それでいて鋭い同時代性を湛え、深い余韻に満ちた映画に出会うことは、劇中に登場する超特権カード“コンシェルジェ・キー”級に貴重なことだ。見事な脚本の人間ドラマは、米映画の伝家の宝刀なのである。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ペーソス度:★★★★☆

□2009年 アメリカ映画 原題「UP IN THE AIR」
□監督:ジェイソン・ライトマン
□出演:ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック、他

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