第9地区 Blu-ray&DVDセット(初回限定生産)第9地区 Blu-ray&DVDセット(初回限定生産)
◆プチレビュー◆
社会性と娯楽性をブレンドした斬新なSF。ジャンルの垣根を越えた展開は先読みできない面白さだ。 【80点】

 南アフリカ共和国のヨハネスブルグ上空に、突如巨大な宇宙船が現われる。船内には難民と化した無数のエイリアンがいた。困った南ア政府は、第9地区に彼らを強制移住させるが、そこはやがてスラム化する。ヴィカスは、エイリアンに立ち退きを迫る現場責任者として、政府から地区に派遣されるが…。

 監督もキャストもスタッフもほぼ無名。有名人といえば製作のピーター・ジャクソンだけ。そんな映画が全米で話題になったときから気になって仕方がなかったのだが、実際に見てみると、語り口が実に新しい。ワケがわからないままにグイグイ惹きこまれる感覚は、虚実の境界線を意図的に曖昧にした序盤のインタビューの場面からパワー全開で迫ってくる。

 そもそも、映画に出てくるエイリアンといえば、凶暴で地球を侵略するか、友好的でお友だちになるかのどちらかと決まっていた。ところがこの映画のエイリアンはなんと難民だ。よりにもよって南ア上空に留まった宇宙船、何の進展もなく28年が過ぎるという意外性、地上で暮らすうちにエイリアンと人間とが対立するという説得力。驚くほどクレバーなプロットだが、そこに人のいい主人公の心情をからませるのが上手い。これが長編デビュー作となる監督ニール・ブロムカンプのエッジの効いた手腕は要注目だ。

 物語の軸は格差社会と不寛容。これはエイリアンを差別の対象とした、もうひとつのアパルトヘイトなのだ。人間とはどこまでも平等を嫌う生き物らしい。そんな人間が作った第9地区の象徴のモニュメントが、エイリアンと人間が仲良く手を繋ぐオブジェだったりするから、皮肉が効いている。加えて本作はユーモアも忘れない。エイリアン管理のお役所仕事の描写など現実そのもので、書類に難民エイリアンのサインをもらおうとやっきになったり、醜悪なエイリアンたちを「臭いものに蓋」的な発想で追い払おうとしたり。異星人が住みつくという非常事態も、毎日続くと日常になってしまうおかし味がある。それにしてもエイリアン相手にこのユルさ。人間より知能レベルが上の相手であっても自らの優位性に固執する滑稽さ。苦笑せずにはいられない。

 監督の友人で本職はプロデューサーだというシャルト・コプリーが演じる主人公ヴィカスが、あらゆる意味で小市民的なのがいい。何の取り柄もないけれど、家庭を愛し、真面目に仕事をし、社会の枠の中で充足したいと願う平和的な人間だ。そんな彼があることをきっかけに、差別する側からされる側へと激変することから物語は加速する。心身ともに変化するヴィカスは、あるエイリアン親子と知り合い、想像を絶する運命に巻き込まれていく。

 擬似ドキュメンタリー、アクション、そして人間ドラマへ。本作をあえて名付けるならば、SFラプソディー(狂詩曲)と呼びたい。型破りな作品の登場は、遊園地のアトラクションのような映画ばかりが氾濫する現在の映画界に風穴をあけてくれるだろうか。それは、観客の反応次第だが、オリジナリティにあふれた作品に飢えている映画ファンには、本作の個性は無視できない。ラストの小さな花に込められたロマンティシズムに、思わず泣けてくる。純愛の余韻を残すカルトムービーであるこの映画、ノーネームと侮ってスルーしては大損をするクオリティなのだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)斬新度:★★★★★

□2009年 アメリカ映画 原題「DISTRICT 9」
□監督:ニール・ブロムカンプ
□出演:シャルト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コーブ、他

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