闇の列車、光の旅 [DVD]闇の列車、光の旅 [DVD]
◆プチレビュー◆
中南米から米国を目指す若い男女の逃避行を描くロード・ムービー。厳しい現実の中の希望に感動する。 【75点】

 ホンジュラス移民の少女サイラは、より良い暮らしを求めて父と共に米国を目指す。メキシコ人ギャングの少年ガスペルは、強盗目的で乗り込んだ列車で、サイラを襲おうとした仲間を殺めてしまう。ガスペルは追われる身となるが…。

 主人公ガスペルの背中にはMSの文字が、黒々としたタトゥーで彫られている。MSとはマラ・サルバトゥルチャの略で、実在する国際的なギャング団の名称だ。凶悪犯罪組織であるマラのメキシコでの実態は、まだ幼い子供にまで銃を持たせ、敵対組織と抗争を繰り返し、武器や麻薬の密輸の他、不法入国の手助けなどを行うというもの。貧困と暴力が支配するスラムの悲惨な現実の縮図のようだ。組織のルールは絶対で、ガスペルの首筋には“許せ、母さん”の文字のタトゥーが。これから犯す罪をあらかじめ懺悔するその言葉は、彼らに未来などないことを意味している。
 
 そんな犯罪組織に身を置くことになる幼いスマイリーが、この物語の負の語り部となる。貧しいが平凡な子供だった彼は、ガスペルによってマラの一員となるが、組織への忠誠心を示さぬ限り仲間と認めてもらえないのだ。やがてスマイリーの銃は、リーダーのリマルゴから恋人を殺され、とっさにリマルゴを殺めたガスペルへと向けられることになる。正義や善悪など関係ない。組織の構造そのものがスマイリーを変え、暴力の連鎖を生んでいる。

 映画の中で、犯罪と共に大きなウェイトを占めるのが移民問題だ。サイラたちが列車の屋根に身を寄せ合い、危険を覚悟で国境を越えるのは、自分の国では何の未来も見い出せないから。もちろん旅の困難と、向かう先の米国での苦難も承知だ。それでも北を目指す人々の切実さ、そしてたくましさは、ぬるま湯のような日本に住む者には想像さえできない。サイラとガスペルの出会いは、ギリギリの中、ここではないどこかへ向かう者たちの魂の触れ合いなのだ。

 ガスペルは、最後には裏切り者として組織の手により殺される自分の運命をよく知っている。そんな自分を頼りにする世間知らずのサイラのことが、最初はお荷物なのだが、やがてガスペルにとって彼女はかけがえのない存在になっていく。サイラの父はアメリカに家族を残して亡くなった。父の死を知り嘆く彼女にガスペルは言う。「お父さんの家族をみつけろ。そして君が支えになってやれ」。涙型のタトゥーを顔に刻んだガスペルと、自分を助けてくれた彼を慕うサイラの淡い恋。絶望的な状況の中で支え合う2人の姿が痛ましい。

 本作は、2009年のサンダンス映画祭で監督賞と撮影監督賞を受賞している。列車の屋根での移動、転落事故、ギャングの襲撃、川での国境越え。すべての描写は、監督のキャリー・ジョージ・フクナガ自身の身体をはった取材に基づいているそうだ。劇中には、中南米の移民問題と犯罪組織の実態がリアルに描かれ社会性を感じさせるが、同時に、青春映画のみずみずしさをも放っている。容赦ない結末の中に、かすかな光が見えるのは、真っ直ぐに前を向くサイラの瞳のおかげかもしれない。原題の“SIN NOMBRE”とは、名無しという意味だ。今も、名もない人々が列車の屋根に乗って旅をしているのだろうか。国境の北の先、闇の向こうの光を夢見て。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)青春映画度:★★★★☆

□2009年 アメリカ・メキシコ合作映画 原題「SIN NOMBRE」
□監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
□出演:パウリーナ・ガイタン、エドガー・フロレス、他

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