約束の葡萄畑 -あるワイン醸造家の物語 [DVD]約束の葡萄畑 -あるワイン醸造家の物語 [DVD]
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◆プチレビュー◆
ワイン作りに人生を賭ける男を導くのは謎めいた天使。ブルゴーニュの風景が圧倒的に美しい。 【60点】

 19世紀のフランス・ブルゴーニュ地方。若く才能あふれる葡萄農夫のソブランは、最高のワインを造ることを夢見ていた。そんな彼の前にある夜、天使のザスが現われ葡萄の苗木を授けた。彼らは年に一度、同じ場所で会うことを約束する。ソブランはやがて醸造家になり、結婚して子供にも恵まれるが…。

 キリストの血とも呼ばれるワイン。とりわけブルゴーニュのそれは宝石に例えられるほど愛好家垂涎の逸品だ。ワイン好きなら、葡萄とワインに魅せられた主人公が、葡萄の苗木をひとつひとつ布で守り、生活費を削ってでもワイン作りの高みを目指す生き方を理解するだろう。そして自然が相手の葡萄の育成には人間の力とは別の、天の恵みが必要ということも。それを象徴するのが、不意に大空から現れる天使ザスだ。ナポレオンが君臨しやがて敗れ去るその時代、ブルゴーニュの田舎にまで戦争が影を落とすが、そこにはまだ天使のようなスーパーナチュラルな存在を許す豊かさがある。

 この映画の個性は、非常にアンバランスな印象を持つことだ。物語はシャルドネやピノ・ノワールといった葡萄の品種や、ワイン作りそのものについて深くは言及しない。主人公ソブランは才能ある醸造家だが、彼ならではの醸造の独創性もごく表層的な描き方だ。激動の時代に変化する階級問題にもほとんど目を向けない。さらにどこか同性愛の香りがする天使ザスとの関係や、やがてザスが下す驚きの決断や運命も納得しがたいものだ。一方で、物語の背景となるブルゴーニュの風景は抒情的な美しさで、すべての時間、すべての季節がまるで絵画のよう。見ていていつまでも飽きることがない魅力がある。物語の核心の曖昧さと、あまりにも美しいビジュアルはまったく異質で戸惑ってしまう。

 しかもストーリーは相当に波乱万丈だ。戦争、子供の死、精神を病む妻、壊滅的な葡萄病害。長い年月、ソブランはワインと関わりながら、人生の夢や挫折を経験する。だが同時にいつもそこには愛情があった。子供を産み情熱的な愛をソブランに注ぐ妻セレスト。高貴な美しさと知性を兼ね備えソブランを魅了する男爵夫人オーロラ。天国も地獄も知る中性的な天使ザス。肉体と精神、魂の3つが出会って初めて奇跡の土壌が誕生することを、ワインを作るソブランに教えるのが、この3人の存在なのかもしれない。ニュージーランド出身のニキ・カーロ監督は、マオリ族の少女のチャレンジの物語「クジラの島の少女」では、伝統と革新のバランスをテーマにしたが、本作ではさらにスピリチュアルなレベルも含めて人生の不可思議と豊饒との調和を描いている。

 天使のザスは、ワインの奥深さを“凶作があるから豊作がある”との言葉で表した。喜びと悲しみが、寄せては返す波のように繰り返す人生を、ワイン作りに重ねた物語の原題は「ワイン醸造業者の幸運」。主人公の幸運とは何だったのか。思うに、天使と出会ったことよりも、ブルゴーニュという土地に生まれたことではないか。多様性と気品とを併せ持つ“神に愛された土地”。ワイン作りに大切な環境をテロワールと呼ぶが、その言葉は、単に土壌や地質だけではなく、気候や地形、風土、そこに暮らす人々までも含めた生育環境を指す。まさにそれは人生そのもの。偉大なテロワールだけに許される幸運は、壊滅的な状況の中にも小さな緑の芽を残すミラクルだ。主人公が3つの違った愛と関わりながら、ブルゴーニュを愛し続けた理由がよく分かる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ファンタジー度:★★★★☆

□2009年 ニュージーランド・フランス映画 原題「THE VINTNER'S LUCK」
□監督:ニキ・カーロ
□出演:ジェレミー・レニエ、ギャスパー・ウリエル、ヴェラ・ファミーガ、ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、他

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