黒く濁る村 [DVD]黒く濁る村 [DVD]
◆プチレビュー◆
山奥の村という“密室”を舞台にした骨太なミステリー。現在と過去を行き来する展開がスリリングだ。 【70点】

 ヘグクは、長い間音信不通だった父の死の知らせを受け、秘密めいた山奥の村を訪れる。村長のヨンドクが絶対的な権力を握るその村で、父の死因に違和感を覚えた彼は、調べるうちに、父所有の土地の名義が書き換えられ、財産も全額が引き出されていた事を知る。やがて、次々に殺人事件が起こるが…。

 原作は韓国で大人気のウェブ・コミック。映画は、2時間41分という長尺にもかかわらず、見るものをグイグイと引っ張り飽きさせない。韓国映画らしい過剰なまでの暴力シーンや流血描写が盛り込まれているが、それがすべて必然に思える濃密なストーリーだ。そこには、人間の欲望やエゴイズム、信仰の限界など、さまざまな要素が横たわっている。

 秘密めいた村の住人に共通するのは、澱(おり)のようによどむ鬱屈した情念だ。主人公ヘグクの父モッキョンは不思議なカリスマ性のある宗教指導者だが、元刑事のヨンドクに誘われて理想の村を作ろうとした。暴力的で汚職にも手を染めていたヨンドクは、改心しモッキョンを崇めるかに見えたが、彼には別の思惑が。小さなその村は、ヨンドクにとって王国だ。村を一望できる高台に建つ、まるで城のような住まいは、住民を監視する彼の支配欲の象徴である。

 そんな村長の周囲にいる人物は、皆、怪しい。秘密を嗅ぎ回るヘグクの命を狙うソンマンやソンギュには、どうやら汚れた過去があり、村長のカバン持ちのドクチョンはいつも何かに怯えている。この愚鈍なドクチョンが、堰を切ったようにすべての秘密を吐露する場面は、すさまじい迫力だ。ドクチョンもまた、抑圧された日々の中で情念をたぎらせていた。村の秘密を知るもう一人の人物で、雑貨屋を営む美しい女性ヨンジの告白もまたしかり。30年前の祈祷院集団殺人事件の謎が語られ、過去と現在がつながっていく展開に息を呑む。

 ヘグクを演じるパク・ヘイルは、ソフトなルックスだが何か得体の知れない強靭さを感じる俳優だ。原作者も太鼓判を押したというだけあり、本作ではひたひたと迫る恐怖に怯えながらも、懸命に真実を探る青年を好演している。また、村の支配者の村長を演じるチョン・ジェヨンは、70代の老人を特殊メイクで演じきり、すばらしい役者魂をみせた。

 30年前の事件と現在の事件は、多くの命を奪った後に一応の解決を見る。事の発端を1978年に設定したこの物語には、賄賂や不正が横行した軍事政権時代の悪しき影響は明らかだが、映画はそのことを声高には叫ばない。すべてが終わった後、村長の家のテラスから下界の村を見つめるヨンジのまなざしが、この物語の最後にして最大の情念だ。幼い頃に受けた凌辱から彼女を救ってくれたのはヘグクの父モッキョンだが、その後の運命は彼女にとってはより惨い地獄だったはず。モッキョンが教祖のように存在しながら、実権はヨンドクが握るこの村に、神は不在なのだ。男たちが欲望の果てに破滅するのを、冷徹な心で見ていたであろうヨンジ。おぞましい村にヘグクを呼び寄せたのは、ヨンジの秘めた情念だったのだろうか。この物語は、男たちに運命を弄ばれた女性の
長い長い復讐譚のような気がしてならない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)濃密度:★★★★★

□2010年 韓国映画 原題「苔/MOSS」
□監督:カン・ウソク
□出演:パク・ヘイル、チョン・ジェヨン、ユ・ジュンサン、他

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