僕と妻の1778の物語 スタンダード・エディションDVD僕と妻の1778の物語 スタンダード・エディションDVD
またしても余命ものか…と見る前は引いていたのだが、妻のために毎日短編小説を書き続けた作家・眉村卓の物語はまぎれもない真実。唯一の愛情表現“書くこと”が、生きることそのものになっている。SF作家の朔太郎と銀行に勤める妻の節子は、いつも一緒の仲のいい夫婦だ。だが、ある日、節子は大腸ガンであることが判明し、医師から余命1年と診断される。“笑い”に抗がん作用があると聞いた朔太郎は、何とか節子を笑わせようと、妻のためだけの短編小説を、1日1篇と決めて書き始める…。

物語の前半は、学生時代の初々しさを今も忘れない、恋人同士のような仲睦まじい夫婦の、愛情たっぷりの日々が描かれる。朔太郎はSF作家という職業柄か、どこか夢見がちで子供ような純真さを持つ人物。彼を支えるしっかり者の妻・節子とは、とても似合いの夫婦で、見ていてほほえましい。このピュアな朔太郎を演じるのは、いい人を絵に描いたような草なぎ剛だから、説得力がある。そんな夫婦の間に突如侵入する「死の影」。映画は、壮絶な闘病記であるにもかかわらず非常に穏やかなムードで進む。演出には、きれい事のような部分や、無理な設定も。しかし、夢のような物語ばかり書いている朔太郎の周囲にあるのは、やがて来る妻の死という圧倒的なリアリティーだ。加えて、高額な医療費の支払いや、意に沿わない仕事、看病による肉体疲労の日々が横たわっている。SFという夢の世界と厳しい現実の対比が悲しいほどに鮮烈だ。そんな過酷な日々の中、約5年もの間、毎日、短編を書き続けるのだが、そこには愛情と執念が混在している。小説を書くことは、妻のためでもあるが、やがて必ず訪れる“妻の死”に対峙する自分自身を支えるためなのだ。ただ、この毎日執筆している小説が図らずも世間に知られてしまったことに対する困惑が弱い。妻のためだけに書くとはいえ、ここにはプロの小説家・朔太郎と夫・朔太郎のジレンマがあったはず。映画はその部分は表層的にしか描かない。ともあれ、余命1年と宣告された節子は、医師の診断を覆し、奇跡的に命を永らえた。妻の死の、その後の演出や草なぎの演技が、意外なほど淡々としているのが好感が持てる。不器用で純粋な男の“最終節”には、静かな演技こそがふさわしいように思う。主人公が最後につづる1778番目の物語がどんなものなのかは映画を見て確かめてほしい。それは、妻のためだけに書く究極のラブレターだ。モデルとなった眉村卓氏は1934年生まれ。原稿用紙に万年筆で書くという、労を惜しまない行為が、時間を遅らせる奇跡を呼び寄せる手助けをしてくれたのかもしれない。
【60点】
(原題「僕と妻の1778の物語」)
(日本/星護監督/草なぎ剛、竹内結子、谷原章介、他)
(愛の奇跡度:★★★★☆)

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