冷たい熱帯魚 [DVD]冷たい熱帯魚 [DVD]
◆プチレビュー◆
人間のグロテスクな狂気を冷徹なまなざしで描く問題作。名脇役でんでんが演じる猟奇的キャラが見もの。 【70点】

 小さな熱帯魚店を経営する社本と若い後妻の妙子は、ある日、万引きをした娘・美津子を助けてもらった縁で、同業者の村田と知り合う。最初は親切だったこの男こそ、実は人の命を平気で奪う異常者だった。社本は豹変した村田にひきずられ、殺人の共犯者にされてしまう…。

 1993年に埼玉で起きた愛犬家猟奇殺人事件は、ペットショップ経営者が、自分に不都合な人物を、妻や従業員と共謀して殺害、風呂場で死体を解体し焼却処分にするという極めて残酷な凶行で、世間を大いに騒がせたものだ。本作はその事件をベースに、いくつかの類似の事件と、園子温監督が体験した詐欺事件とをブレンドして作られている。園作品では、崩壊する人間関係が多く描かれるが、ここまで救われない家族の物語がかつてあっただろうか。

 大手熱帯魚店を経営し、人当たりが良く面倒見のいい村田という中年男が、本性を表すのに時間はかからない。夫婦生活は冷え切り、すべてに無気力な主人公の社本が、何の抵抗も出来ないまま、村田の一味の共犯者になっていくのも、あっという間だ。村田が繰り返し口にする「ボディを透明にしちまえばいいんだ!」の言葉が、血のラプソディーの序曲。これは、リアルな完全犯罪ではなく、狂気のファンタジーなのである。

 想像を絶するほど残酷なのに、もはや悲劇なのか喜劇なのかもわからない危うい世界は、日常のすぐそばにあった。村田夫妻にシゴかれて、アリバイ作りの口裏を合わせるレッスンには、黒い笑いがこみあげるし、村田と妻が行なう死体解体作業は、濁った血と肉片にまみれて壮絶なのに、カリカチュアライズされた夫婦は、すべてがテキパキと楽しげである。2人は完全に“彼岸”に行ってしまっているのだが、よくみるとこの物語はそんなヤツらであふれているのだ。世界は間違いなく“死”と“暴力”に満ちていて、人はそれらに恐れと同時に憧れも抱いている。終盤は、まさにエクストリームそのものと化し、村田の犯罪のパーツになり果てたかに見えた社本が、極限まで辱められたことによって、思いもよらぬ行動に出る。抑圧された人間の反撃にはある種のカタルシスが漂うが、そこに待っていたのはもうひとつの狂気のスパイラルだった。

 園監督が得意とするモチーフに宗教があるが、死体解体ハウスの屋根に十字架があり、室内にはマリア像が置かれている様子が、いかにも園ワールド。すべての蛮行をロウソクの火が冷徹に照らし出す異様な光景に、神の不在を見る思いがする。社本を演じる吹越満が難しい役を熱演するが、それ以上に強烈なのは、モンスターのような殺人鬼・村田を演じるでんでんその人。お人よしのおじさん的ルックスの彼が、過去の演技をすべて吹き飛ばすような怪演を見せて度肝を抜く。園作品では、意外性のあるキャスティングがいつも魅力のひとつなのだ。底知れない“悪”を描くのに、セオリーは必要ない。

 熱帯魚は英語でコールド・フイッシュ。冷淡な人という意味があるという。衝撃的な内容は、見る人を選ぶだろう。ただ、人間の中に確かにある、ダークな側面を、エロスとタナトス全開でたたきつけるこの映画、抗し難いどす黒い魅力がある。勇気があれば、悪意の極北とそのなれの果てを覗いてほしい。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)グロテスク度:★★★★★

□2010年 日本映画 原題「冷たい熱帯魚/COLDFISH」
□監督:園子温
□出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか、他


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