あしたのジョー スタンダード・エディション [DVD]あしたのジョー スタンダード・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
傑作スポーツ漫画の実写化は、ノスタルジーの中に最新CG技術が絶妙に溶け込む。香川照之の存在感が抜群。 【65点】

 昭和40年代の東京。ドヤ街でケンカに明け暮れる孤独な青年・矢吹丈は、元ボクサーの丹下段平からボクシングの才能を見出される。だが、ジョーは問題を起こして少年院へ。そこで彼は、プロボクサー・力石徹と遭遇する。初めてブチのめされたジョーは、力石を必ず倒すと誓って段平の教えを受ける…。

 「立て!立つんだ、ジョー!!」の名セリフに、思わず目頭が熱くなる往年の漫画・アニメファンは多いだろう。映画は、長尺の原作の中から、最も熱いエッセンスを取り出し、ジョー、力石、段平という三人に、名門ジムのオーナーで、財閥令嬢の葉子を軽くからませるという絞り込んだ人物設定で、ストーリーの“脂肪”を上手くそぎ落としている。

 映画のメインイベントは、もちろんジョーと力石の命懸けの対決だ。プロになったジョーは連戦連勝だが、彼の目的は力石に勝つことのみ。それは、初めて戦うに価する好敵手を得た力石も同じだ。天涯孤独なジョーだが、演じる山下智久の醸し出す雰囲気のせいか、クールなのにどこか明るい。対して力石は徹底してストイックなキャラだ。ジョーと同じ階級に下げるために減量した力石の壮絶な姿は、伊勢谷友介が飲まず食わずの方法で作った身体。試合前の計量シーンの彼は骸骨さながらで、アバラの下のへこみ具合には絶句した。ここまで肉体改造する役者たちに頭が下がるが、何しろ原作は、昭和の時代を象徴する伝説的傑作だ。ハンパな役作りではファンが許さない。

 だが、本当にスゴいのは、実力派俳優の香川照之が特殊メイクで演じる段平なのだ。このただでさえ濃いキャラに、なりきり型の演技派で、筋金入りのボクシングファンを自認する香川が挑むのだから“リアル段平”になるのは必至。主役二人を完全に食っている。思えば前述の「立つんだ、ジョー!」は、脇キャラである段平の言葉である。この物語の通奏低音は、ドヤ街でジョーと一心同体で戦う片目の男の魂の叫びだ。「死に物狂いで今日を生きてこそ、明日がある」と語る元ボクサー段平は、高度成長に沸く日本の片隅でボロ雑巾のようになりながらも決して生きることを止めない。

 リングという“密室”で、1対1の至近距離でタイトに戦うボクシングは、正攻法で描いても傑作になる濃密で魅力的な競技だ。そんな中、本作の個性は、昭和の郷愁の中に、劇画そのものを溶け込ませたようなCGで、ボクシングを描いてみせたことにある。ハイスピードカメラで撮られた激しいパンチは、超がつくほどスローモーションで、拳が顔面に当たった瞬間に激しくシェイク。繰り出す必殺技・クロスカウンターが顔を歪ませる描写は、漫画のコマ割を思わせる。映画はモーションピクチャー(動く絵)なのだが、ここにはいい意味での静止画的な、デフォルメされた面白さがあって、CGの使い手の曽利文彦監督ならではのこだわりが見える。欲を言えば、糸を引く汗も見たかったが。

 宿命のライバルが雌雄を決するリングは、まさにサンクチュアリ(聖域)。作詞家としても知られる才人・寺山修司が「あしたはきっとなにかある。あしたはどっちだ」と綴った主題歌が冒頭に流れるが、「あした」とは、私たちが生きる不安な時代である現代のことだろうか。だとすれば「あしたのために」で始まる段平の教えを思い起こすのは“今”しかない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)肉体改造度:★★★★★

□2010年 日本映画 原題「あしたのジョー」
□監督:曽利文彦
□出演:山下智久、香川照之、伊勢谷友介、香里奈、他

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