英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]
◆プチレビュー◆
英国王と型破りなスピーチ矯正専門家との友情を描く傑作「英国王のスピーチ」。威厳と繊細さを同時に表現したコリン・ファースが見事。 【90点】

 第二次世界大戦前夜の英国。王家の次男ヨーク公ジョージは、幼い頃から吃音に悩んでいた。夫を心配した妻のエリザベスは、オーストラリア人のスピーチ矯正専門家ライオネルを訪問。ユニークで破天荒なレッスンが始まるが…。

 王室に生まれるプレッシャーなど、我々庶民には実感しようもないが、常に国民の目にさらされ、規範となるべき人間であれと命じられる苦労は想像できる。それだけでも大変なのに、この映画の主人公ジョージ6世の歩んだ人生は、あまりにドラマチックだ。左ききやX脚を無理やり矯正され、兄を贔屓する乳母から虐待されていた幼年期。成長してからも、厳格な父王や奔放な兄の間でどう振舞っていいのか分からない。そんな内気な彼が、兄が王冠を捨てて恋を選んだために、望んでもいない王位につくことになる。吃音で悩む王にとって、スピーチで始まりスピーチで終わる公務は苦痛でしかない。どんな治療でも改善しない夫を心配した妻エリザベスは、あるスピーチ矯正専門家の家を自ら訪れ、助けを求める。すると彼は静かにこう言った。「私なら治せます」。

 その男ライオネルは、大胆にも王をバーティと愛称で呼び、王の固定観念をどんどん打ち砕いていく。コミカルな治療シーンが物語をリズミカルなものにしているが、吃音の原因は心の問題によるものと診断したのが、何より達観だった。伝統や体裁を気にする上流社会にはない、ライオネルの実直さに触れて、王が自己の内面と向き合っていくプロセスは、この映画の大きな見所だ。王もまた、外国人で民間人、正式な言語聴覚士の資格さえないライオネルに全幅の信頼を置く勇気を示し、立場を越えて歩み寄った。自己解放と真の友情こそが、主人公を変えたのである。

 コンプレックスだらけのシャイな国王は、やがて国民に愛される、強く優しいリーダーへと変わることに。その記念すべき第一歩をしるすのが、クライマックスの感動的なラジオ演説だ。ナチスドイツとの開戦を告げるスピーチは、ひとつひとつの言葉の重みが心の奥にまで響いてくる名場面である。ライオネルが指揮者、王が類まれなる演奏者にも見えるそのスピーチは、まるで名匠が初めて世に出すシンフォニーのよう。不器用に、でも力強く、愛と威厳を持って国民に語りかける真摯な言葉は、ベートーベンの交響曲第7番第2楽章の荘厳なメロディーにのって、私たちを感動の頂点へと導いていく。

 俳優たちのアンサンブルが絶妙なのは言うまでもない。生真面目なコリン・ファースと、飄々としたジェフリー・ラッシュの演技合戦は、品格とユーモアが同居する秀逸なものだ。妻エリザベスを演じるヘレナ・ボナム=カーターも、いつものトンガッた雰囲気とは異なり、ぐっとエレガントで魅力的である。

 ジョージ6世は現英国女王エリザベス2世の父に当たる。有名なのは兄王の“王冠を賭けた恋”でも、国民に本当に愛されたのは、英国史上最も内気なジョージ6世その人だ。国王夫妻は、戦中・戦後を通し、疲弊した国民を励ます言葉を発信し続けたという。華麗な恋愛や派手なアクションなど何一つないこの映画こそ、人と人との信頼関係が、最高の形でスクリーンに結実した傑作だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)感動度:★★★★★

□2010年 イギリス・オーストラリア合作映画 原題「The King's Speech」
□監督:トム・フーパー
□出演:コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、他

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