その夜の侍(初回限定生産版) [Blu-ray]その夜の侍(初回限定生産版) [Blu-ray] [Blu-ray]
狂気と日常の狭間で葛藤する男を描く異色の人間ドラマ「その夜の侍」。堺雅人が今までにないしょぼくれた役を怪演している。

小さな鉄工所を営む中村は、5年前に最愛の妻をひき逃げで亡くして以来、抜け殻のように生きている。周囲はそんな中村に対し、ハレモノに触るように接するしかない。一方、ひき逃げ犯の木島は、2年間の服役後、友人の家に転がり込み、無為な日々を送っていた。そんな木島のもとに「お前を殺して俺も死ぬ。決行まで後○日」という無記名の脅迫状が届くようになる。送り主は中村に違いないと、周りの者はその復讐を思いとどまらせようとするが、ついに決行の日が来てしまう…。

タイトルからは、時代劇の仇討ちのような気配がするが、この物語は、そんな格好良い復讐劇とはかなり違う。まず堺雅人が演じる主人公・中村はとことん冴えない男だ。分厚いめがね、ぼさぼさの髪、汚れた作業服といういでたち。薄暗く散らかった部屋ではいつも好物の甘いプリンを黙々と食べている。清廉な侍のたたずまいとはかけ離れた生活臭の中、殺気だけがみなぎっているのだ。一方、犯人の木島はといえば、これほど自己中心的な男はそういない。命を狙われておびえながらも、どこまでも粗暴な生き方を変えようとしない。こんなアブノーマルな状況なのに、彼らの周りには下世話な日常が淡々と流れている。中村は、見合いをしたり、キャッチボールをしたり、ホテトル嬢と過ごしてみたり。木島にとっての日常はもとから他人を傷つける暴力行為で成り立っている。復讐と日常の対比が異様すぎて、今まで感じたことがない手触りの不安を覚えた。その不安感がマックスに達したそのとき、クライマックスの土砂降りの雨の中での対峙となる演出が見事。中村の意外な言葉から、二人の男の、これ以上ないほど無様なアクションシーンへとなだれこんでいくのだ。監督の赤堀雅秋は、もともとは自分が作・演出した舞台劇を映画化した。その目的は、映画の特権であるクローズアップで、中村や木島の顔にじっとりとにじむ汗を撮ることだったのではないか。何かをしようとしても何の結果も出せない人間の焦燥感。その愚かさ、可笑しさ、情けなさ。“たわいのない”日常とは、こんなにも汗だくになるほど大変なことなのだ。
【65点】
(原題「その夜の侍」)
(日本/赤堀雅秋監督/堺雅人、山田孝之、新井浩文、他)
(無様度:★★★★☆)
チケットぴあ

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