愛、アムール [DVD]愛、アムール [DVD] [DVD]
◆プチレビュー◆
老いと病を通して究極の夫婦愛を描いた「愛、アムール」。名優二人の存在感とハネケ監督らしからぬ物語に驚く。 【75点】

 パリの高級アパルトマンに暮らす、ジョルジュとアンヌは、共に元ピアノ教師で、仲がいい老夫婦。ある日、アンヌに異変が起こり緊急入院するものの、半身麻痺の後遺症が残ってしまう。ジョルジュは認知症の兆候も見られる妻を献身的に介護するが、次第にアンヌの心と身体は蝕まれていく…。

 穏やかで満ち足りた夜から一転、突然襲ってくる認知症という過酷な現実。日本でもこのテーマの映画は少なくないが、福祉や介護といった社会問題に傾きがちだ。ミヒャエル・ハネケ監督は、本作で、深く愛し合い、支え合って生きてきた老夫婦の終盤の人生が崩壊し、追い詰められていく様をシビアに描きつつ、夫婦愛とその先の選択を、真正面からみつめている。

 病院嫌いのアンヌを自宅介護するようになってからは、車椅子生活、トイレ、入浴、介護師やヘルパーなど、極めて現実的な描写が続く。物語は、ハネケ監督の家族の実体験に基づいて作られたそうで、ディテールがとてもリアルだ。

 老夫婦は経済的に恵まれた教養人で、端正に誇り高く生きてきた。だからこそ、老いと病によって人格を奪われるプロセスは残酷で悲しい。アンヌは、思い通りにならない身体に苦悩し、自らも老いているジョルジュも疲弊していく。自分自身に尊厳を保てないからこそ「もう終わりにしたい」。アンヌが言うこの言葉は、彼女を深く愛しているジョルジュの深層心理でもあるのだ。

 主人公の夫婦を静かに熱演するのは「男と女」「暗殺の森」のジャン=ルイ・トランティニャンと、「二十四時間の情事」のエマニュエル・リヴァ。じっくりと長回しで夫婦の姿を追い、皺だらけの顔や手足を繰り返しクローズアップでとらえるが、名優二人はそのカメラの力に少しも負けていない。互いを思いやりながら尊厳を持った生き方を望む夫婦を、自らも長い人生を生きた俳優が、毅然と演じる姿には、感動さえ覚えた。

 迫りくる終末の気配の中で、懐かしくも遠い日々を思い出すジョルジュ。そしてその“決断”は唐突にやってくる。何しろ、神経を逆なでする悪意を描き続けて映画ファンをうならせてきた鬼才ハネケだ。そのこと自体には驚かないが、びっくりしたのは、その後の展開である。映画冒頭とつなげてみると、これはハネケ流のファンタジーとも思えるが、深い余韻と共にスクリーンからあふれ出るのは、美しく感動的な慈愛なのだ。鋭い洞察力や冷徹な作風は変わらない。だが、本作は、ミヒャエル・ハネケという監督のイメージを大きく変える映画であることは間違いない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)慈愛度:★★★★☆

□2012年 仏・独・オーストリア合作映画 □原題「AMOUR」
□監督:ミヒャエル・ハネケ
□出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ、イザベル・ユペール、他
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