ハッシュパピー バスタブ島の少女 [Blu-ray]
◆プチレビュー◆
6歳の少女の心の成長を描く「ハッシュパピー バスタブ島の少女」。生命力みなぎる荒々しいファンタジーは、唯一無二の魅力。 【90点】

 6歳の少女ハッシュパピーは、バスタブ島で父ウィンクや住民たちと共に穏やかに暮らしている。だが大嵐が島を襲い、すべてを奪っていった。さらに父が重い病気であることが判明。厳しすぎる現実に途方にくれながらも、ハッシュパピーは、父を、そして世界を守るため、ある決心をする…。

 タンポポのような髪型をした最高にキュートな野生児。それがこの物語のヒロインのハッシュパピーだ。住むのは、堤防によって世界から切り離された閉塞的なコミュニティー。暮らしは極貧。大好きな母はずいぶん昔に家を出たきりだし、父は飲んだくれの荒くれ男。常識的に見れば、トンデモなく不幸な環境なのだが、ハッシュパピーは、いつだって明るくタフで、思慮深い。この少女の力強さが物語を引っ張っていく。

 ハッシュパピーの考えはこうだ。この世界では命あるものはすべてバランスよく収まっていて、それは大切な自然界の秩序であり、絶対に守らねばならない。だがバスタブ島が温暖化によって存続の危機にあり、同時に氷河の中から目覚める有史以前の獰猛な野獣の出現を恐れてもいる。6歳の少女の目を通して、自然への愛情と畏怖、さらに生きる勇気を描くが、語り口が神話的でファンタジックなのには驚かされる。幻想と現実は、地続きであるがゆえに少女の決心は揺るぎがない。「この世界は、あたしが守る」。

 監督のベン・ザイトリンは、作曲家、アニメーターなど、さまざまな才能を発揮するマルチ・クリエイターで、本作が長編映画初監督となる。低予算、無名俳優で作り上げた本作は、ファンタジーながら、自然の猛威、政府の干渉、格差や貧困といったリアルな視点も忘れていない。さらにそこに、海上にある異世界という強力な磁場を用意するひねり技も。深い哀しみに負けず、奇跡を呼び起こす少女の成長と自己形成というビルドゥングスロマンに仕上げた手腕は、見事だ。

 ヒロインを演じたクヮヴェンジャネ・ウォレスちゃんは、撮影時6歳。カンヌ映画祭やアカデミー賞をはじめ、数々の映画祭で絶賛されたが、なるほど彼女の感受性豊かでいながら自然体の名演には唸らされる。荒々しいカメラワークと繊細な音楽の対比も絶妙。絶望的な世界に屹立する小さなヒロインの雄雄しいシルエットと、心優しい野獣がおこした奇跡の神話は、生命力そのもの。心揺さぶる傑作だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)幻想的度:★★★★☆

□2012年 アメリカ映画 □原題「BEASTS OF THE SOUTHERN WILD」
□監督:ベン・ザイトリン
□出演:クヮヴェンジャネ・ウォレス、ドワイト・ヘンリー、リービ・イースタリー、他
チケットぴあ

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