映画通信シネマッシモ


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

映画の中の「食」

バベットの晩餐会

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デンマークの国民的作家カレン・ブリクセン原作の小説を映画化したヒューマン・ドラマ。19世紀のデンマークの寒村を舞台に、初老の姉妹と彼女たちに使えるメイドで元料理人の女性との絆を描く。

19世紀後半のデンマーク。小さな漁村で、質素、品行方正を守って暮らす老姉妹がいた。若い頃には、美しい2人には、それぞれ求婚者もいたのだが、厳格なプロテスタントの牧師だった父の遺志を継いで、独身を守って仕事を続けていた。そんな2人の元へ、パリ・コミューンの動乱で家族も仕事も失ったフランス人女性バベットが、命からがらやってくる。メイドとして働くようになった彼女は、献身的できめ細かな仕事ぶりで姉妹に仕え、村に溶け込んでいった。14年の月日が流れたある日、バベットはパリに住む友人からいつも買ってもらっていた宝くじが大当たりする。一方、姉妹は、村人やゲストを招き、父の生誕百周年を祝う晩餐会を催すことに。バベットは「晩餐会の料理をすべて私に作らせてください」と頼む。やがてバベットが作る豪華な料理による晩餐会が始まった…。

大量の高級食材、ワイン、食器、調理器具、給仕する少年までをパリから調達し、バベットは腕によりをかけてフランス料理のフルコースを作り始める。実は彼女は、パリの高級レストラン「カフェ・アングレ」の天才的な女性シェフだったのだ。

バベットが作ったフルコースのフランス料理と飲み物を、以下に紹介してみよう。
公式サイトより

1. 海亀のスープ
アペリティフ:アモンティリャード(シェリー酒)
2. ロシア産キャビアのドミドフ風(キャビアとサワークリームの載ったパンケーキ)
シャンパン:ヴーヴ・グリコの1860年物
3. ウズラのフォアグラ詰め 石棺風パイケース入り ソースペリグルディ―ヌ(黒トリュフのソース)
赤ワイン:クロ・ヴージョの1845年物
4. 季節の野菜サラダ
5. チーズの盛り合わせ(カンタル、フルダンベール、フルーオーベルジュ)
6. ババのラム酒風味(焼き菓子、クグロフ型のサヴァラン)
7. フルーツの盛り合わせ(マスカットなど)
8. コーヒー
9. コニャック( ディジェスティフ:フィーヌ・シャンパーニュ)

近頃、集会でも口争いやいさかいが絶えず、人間関係がギスギスしていた村人たちが、バベットの極上の料理を食べて、みるみる幸福感に満ち溢れる様が素晴らしい。まさに「おいしい食事は人を幸せにする」を絵に書いたようなシーンだ。ゲストの一人で、パリで暮らしたことがある食通の将軍が、ただ一人、バベットが作る料理の価値が分かり、彼がひとつひとつ解説しながら感激にひたるという演出によって、観客に分かりやすく説明するという構成が非常にうまい。

晩餐会が終わり帰宅する頃には、村人は再び神の恵みを感じながら優しい気持ちになる。一方、姉妹は、宝くじに当たって大金を手にしたバベットはてっきりパリに戻ると思っていたが、バベットから「すべて料理に使ったので、お金は残っていない」と聞いて驚く。質素ながら工夫しておいしい食事を提供してきたバベットだが、一流のシェフとして、思う存分、自分の料理の腕を振るう場がほしかったのだ。だからこそ姉妹から「一生、貧しいままでいいの?」と聞かれて、きっぱりと言うのである「貧しい芸術家はいません」と。この潔さ!この自信!

地味な北欧の映画とあなどることなかれ。素晴らしい料理と、人間が生きる意味を教えてくれる秀作だ。

(出演:ステファーヌ・オードラン、ビアギッテ・フェザースピール、ボディル・キェア、他)
(1987年/デンマーク/ガブリエル・アクセル監督/原題「 YEBISU GARDEN CINEMA」)


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クロワッサンで朝食を

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パリを舞台に、年齢も境遇も性格もまったく異なる2人の女性が心を通わせていくヒューマン・ドラマ。

エストニアで母を亡くし抜け殻のように暮らしていた中年女性アンヌのもとに、ある日、パリで家政婦として働く仕事が舞い込む。憧れの地パリにやってきたアンヌを待っていたのは、高級アパルトマンで一人で暮らす、毒舌で気難しい、エストニア出身の老婦人フリーダだった。諦めずに働くアンヌにフリーダも少しずつ心を開くが、やがてアンヌはフリーダの孤独の理由を知ることになる…。

何やらハートフルでおしゃれな邦題がついているが、原題は「パリのエストニア人」。約1時間半の小品で詳細な説明がほとんどないため、全体的に淡泊なストーリーである。おそらくフリーダは、旧ソ連時代にパリに亡命し、多くの恋愛を経てきた奔放な女性だ。裕福だが皮肉屋で気難しいため家政婦を何人もクビにしてきたが、同郷のエストニア人のアンヌに、過去の自分を少し重ねたのか、徐々に心を開いていく。

フリーダがこだわるのは、朝食に“本物の”クロワッサンを食べることだ。スーパーマーケットで買う袋入りの固くなったものではなく、パン屋で買う焼きたてのクロワッサンは、劇中でも実に美味しそうに見える。クロワッサン(croissant)は三日月形のパンで、オーストリアやトルコに由来するなど諸説あるが、最初に登場する文献から、発祥はフランスとされているようだ。バターをふんだんに用いて作られるクロワッサンは、サクサクした食感が特徴。ほんのり甘いものが好まれるが、サンドイッチにするなど食事用としても用いられる。エストニアからパリにやって来たフリーダには、このパンを食べることで本物のパリジェンヌになるとの決意があるに違いない。

フリーダがパリに住む同郷のエストニア人たちとのつきあいを拒むのは、どうやら過去の恋愛沙汰が関係しているようだ。仏流の奔放な恋愛はフリーダの人生にとって生きることそのもの。それでも故郷への思いが消えることはない。物語はイルマル・ラーグ監督の母親の実話をもとにしているそう。高齢化社会や異邦人ならではの孤独など、描かれる内容はなかなかシビアである。それにしても大女優ジャンヌ・モローはいつ見ても凄味がある。余談だが、劇中で着用しているシャネルの服は、すべてモローの私物なのだそうだ。それはさておき、80歳を越えてもなお、現役の女としての色気や業を説得力をもって演じられるのだから、あっぱれというほかない。

(出演:ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ピノー、他)
(2012年/仏・エストニア・ベルギー/イルマル・ラーグ監督/原題「UNE ESTONIENNE A PARIS」)


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キリマンジャロの雪

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港町マルセイユを舞台に人間の善意を描く「キリマンジャロの雪」。社会派のテーマを優しい視点で語るヒューマン・ドラマの佳作。

マルセイユに住むミシェルとマリ=クレールは、結婚30周年を迎えた、仲のよい熟年夫婦。夫ミシェルは労働組合委員長として長年闘ってきたが、職場のリストラを公正なクジで決めることを自ら提案し、自分自身も辞めるハメに。そんな夫をマリ=クレールは、戸惑いながらも誇りに思っていた。2人は子供たちから、長年の夢だった、アフリカ・キリマンジャロへの旅行をプレゼントされ喜ぶが、ある晩、強盗に押し入られ、旅行費用とチケットを奪われてしまう。犯人はミシェルと一緒にリストラされた元同僚の青年クリストフだった。だが、彼が借金と失業で生活が困窮し犯行に至ったこと、さらに幼い弟2人を一人で養っていたことが判明する…。

ロベール・ゲディギャン監督は、出身地マルセイユに住む市井の人々を描き続きている。本作では、リストラ、失業、犯罪といった深刻な問題を扱うが、語り口はあくまでも穏やかだ。クジで決めるリストラが公正で正しいことだと信じてきたミシェルは、それが弱者への配慮に欠けた間違った行為だったと知った後、大きな決断を下すのだが、妻のマリ=クレールもまた、ある決意を固めている。最初は犯罪に対して怒りや失望を抱いていた二人だったが、彼らは困っている人を見れば助けずにはいられないのだ。善良な熟年夫婦は、傷つきながらも、人を思いやる心と誠意を忘れずに、自分たちが出来る最善の道を選んでいく。

予想外の犯罪に巻き込まれてショックを受けたマリ=クレールは、とあるバーにふらりと立ち寄る。そこで客の好みを不思議といい当てる若いウェイターから、勧められるのが、ギリシャの有名なブランデーのメタクサ。メタクサは、白ブドウをベースに、何種類ものハーブを組み合わせた独特のブランデーだ。落ち込んだマリ=クレールが「悩みは恋ではなく、もっと複雑。人生なの」と言うと、ウェイターは迷わずメタクサを勧め、2杯飲んでくれと頼む。ウェイターは「人生は二人で歩むもの。2杯目は僕のために飲んで」とちゃめっけたっぷりに優しく笑った。この甘くまろやかな味のブランデーのおかげで元気を取り戻したマリ=クレールは、やがて犯人の青年が育ていてた幼い弟たちが住むアパートに向かい、ごく自然に世話をするようになる。彼女の心の中の善意が勝利する手助けをするのが、メタクサなのだ。

タイトルの「キリマンジャロの雪」とはヘミングウェイの有名な小説ではなく、1966年にフランスで大ヒットしたパスカル・ダネルのシャンソンのタイトルだそう。人生を共に歩んで生きた熟年夫婦は、人と人とのつながりを信じることで、笑顔を取り戻した。ラストは実にすがすがしく、思わず胸が熱くなる。むろん「甘い!」と言う声もあろう。だが、かの文豪ヴィクトル・ユゴーは「哀れな人々」で、貧しい漁師夫妻が孤児を引き取る物語を描いた。世知辛く厳しい現代。人間の持つ善意を信じたいのなら、こんな映画が一番だ。

(出演:アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラード・メイラン、他)
(2011年/フランス/ロベール・ゲディギャン監督/原題「LES NEIGES DU KILIMANDJARO」)


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悲しみのミルク

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世代を超えて伝えられる悲劇の記憶と、そこから浄化される生命力を、繊細なカメラワークと色彩美で描くペルー映画「悲しみのミルク」。ラテンアメリカ特有の詩的幻想世界に魅了される。

南米・ペルー。リマ郊外の貧しい村で、一人の老婆が息をひきとる。間際に娘に託した歌には、1980年から20年続いたペルー内戦期、極左武装組織が猛威をふるった負の時代に、目の前で夫を惨殺され、自分も身重の身で凌辱を受けるという壮絶な仕打ちが語られていた。残された娘のファウスタは、母が受けた苦しみを母乳を通じて受け継いだと信じていて、大人になった今も一人で外を歩くことができない。それでも、母の遺体を故郷の村に埋葬する費用を稼ぐため、裕福な女性ピアニストの屋敷で働き始める。やがてそのピアニストは、ファウスタが口ずさむ即興の歌にひき付けられるのだが…。

ペルーには、母親の苦悩が母乳を通じて子供に伝染する「恐乳病」という言い伝えがあるという。ファウスタは、男たちからの暴力から身を守るために、身体の奥にジャガイモを埋め込んでいる。寒冷地や痩せた土地でも育つジャガイモは、南米アンデス山脈の高地が原産とされ、豊富なビタミンCやでんぷんが含まれる栄養価の高い食物。一方で、芽や緑化した塊茎にはソラニンという毒性のある成分が含まれていることが知られている。女性として辱めを受けないためジャガイモを膣に挿入するファウスタの、原初的な防衛本能が、あまりにも悲しい。

亡くなった母と、今を生きる娘両方の、言葉では言い尽くせない苦悩が立ち現れるのが、即興の歌だ。先住民族の集団的記憶とも言える悲しみは、超自然的要素も手伝って、不思議な叙情性を漂わせている。ファウスタが口ずさむ美しい歌を愛でるピアニストもまた、権力者特有の傲慢さで、彼女を傷付けるが、屋敷に勤める庭師のノエの優しさによって徐々にファウスタの心は解放に向かう。ついに、自分自身の力で生きようと決心するとき、彼女は病院で身体の中からジャガイモを取り出す。それは、他者を拒んでいたファウスタの“新たな胎動”を意味していた。

豊富な栄養で人間の生を支えながら毒性も内包する、ジャガイモ。この平凡な食物が、こんな予想もしない方法で登場する映画を、他には知らない。ラテン・アメリカ特有の民間伝承をも盛り込んだ物語は、どこか神秘的な寓意を秘めていて、忘れがたい作品になった。監督のクラウディア・リョサは、2010年にノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス・リョサの姪。第59回ベルリン国際映画祭金熊賞作品。

(出演:マガリ・ソリエル、スシ・サンチェス、エフライン・ソリス、他)
(2008年/ペルー/クラウディア・リョサ監督/原題「LA TETA ASUSTADA」)


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ミラル

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イスラエル生まれの女性ジャーナリストのルーラ・ジブリールの自伝を、「潜水服は蝶の夢を見る」のジュリアン・シュナーベルが映画化。女性の生き方を軸に据えたことで、教育、難民、歴史などの題材を、身近な問題として提起している。

イスラエル建国直前の1948年。イスラエルがパレスチナに侵攻を果たし、路上には多くの孤児たちがあふれていた。子供たちの惨状をみかねた裕福な女性ヒンドゥ・ホセイニは、自らの資産をつぎ込み、パレスチナ人の孤児のための学校を設立。その「ダール・エッティフル(孤児の家)」には、母親を失ったパレスチナ人の少女ミラルもいた。やがて、美しく聡明な17歳に成長したミラルは、難民キャンプでのイスラエル軍の暴虐を目にし、イスラエルを敵視し、急激に政治活動に傾いていく…。

「スラムドッグ$ミリオネア」のフリーダ・ピントが好演するヒロインのミラルを含め、描かれるのは4人の女性たちだ。学校を設立したヒンドゥ。ミラルの自殺した母ナディア、ナディアの友人ファーティマ。それぞれ異なった世代の女性を描くことで、時代と共に変遷する価値観を表現している。中心になるのは、最も若いミラルだ。急速に反イスラエル活動に傾倒していくミラルの行動は、子供に未来と教育をと考えるヒンドゥの望むものではない。だが、軍事力に対抗するのは、テロや暴力ではなく、教育と愛だというヒンドゥの教えは、最終的にはミラルの希望となっていく。

ヒロインのミラルが、まだ存命の母と父と一緒のテーブルで食べるのが、パレスチナ名物のお菓子クナーフェだ。中東やバルカン半島を代表するスイーツで、クナーファ、クナフェと発音することもある。材料は小麦粉、チーズ、乳脂肪クリームなど。表面はこんがりと焼けて、下には熱いチーズが挟まっている形を見ると、中東のベイクド・チーズケーキという感じだろうか。パレスチナのナーブルスのものはとりわけ有名だ。ミラルがまだ両親と共に暮らす幸せな少女時代を象徴する食べ物として劇中に登場する。

映画には、複雑な政治と歴史が描かれるが、物語の構成は、やや煩雑な印象だ。ナディアの友人で爆弾テロの罪で収監されたファーティマのエピソードなどはかなり駆け足になってしまっている。イスラエルとパレスチナの関係性という点を見ても、説明不足は否めない。だが、ユダヤ系アメリカ人であるジュリアン・シュナーベル監督は、あえて政治色を薄めて、強い意志を持つアラブ系女性の生き方を描くことで、命のつながりと和平への希望を描こうとしたに違いない。

(出演:フリーダ・ピント、ヒアム・アッバス、ウィレム・デフォー、他)
(2010年/仏・イスラエル・伊・インド/ジュリアン・シュナーベル監督/原題「MIRAL」)


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ミラル@ぴあ映画生活

冬の小鳥

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9歳の少女が悲しみを乗り越え、大人になる過程を描く「冬の小鳥」。主人公を演じる子役キム・セロンが素晴らしい存在感を見せる韓国映画の秀作だ。

1975年の韓国ソウル郊外。よそ行きの服を着せられた9歳の少女ジニが、大好きな父に連れられてやってきたのは、孤児が集まる児童養護施設だった。自分が父に捨てられたことを信じようとせず、ひたすら迎えを待つジニは、周囲に馴染もうとせずに、頑なに反抗を繰り返す…。

父はきっと自分を迎えに来る。そう信じながらも、捨てられたという現実もどこかで理解している。ずっと一緒にいようと誓い合った友達スッキが、自分を置いてアメリカの養父母のもとへ旅立ったときや、傷ついた小鳥が懸命の介抱のかいもなく死んでしまったとき、少女は、捨てられて、それから養父母にもらわれるという、自分の運命を理解したに違いない。予想さえしなかった孤独な日々の中、たった一人で絶望と向き合うジニの青白い表情が痛々しい。

物語では、孤児たちは、養父母にもらわれていくことと同じくらい、外国に行くことをステイタスとしている。アメリカ兵が施設を慰問し、米国人の夫婦が孤児たちに会いにくるとき、幼い子供たちは、ひときわ顔を輝かせている。物質的な豊かさが当たり前の彼らが、おみやげとして孤児たちに持ってきたのは、バタークリームのケーキ。ジニと、ジニより少し年上のスッキの2人は台所に忍び込んで、このケーキをこっそり食べる。素朴で懐かしい雰囲気を持つ、バタークリームのケーキは、幸せの象徴だ。養子として外国へいくことを熱望するスッキがケーキを食べ続けるのに対し、「ここで父の迎えを待つ。どこにも行かない」とつぶやくジニは一口しか食べない。二人の心情の対比を、ケーキを使って上手く表現している。

映画は、カトリック系の養護施設や、孤児、70年代の韓国という設定を超えて、普遍的な感動を与えてくれる。監督のウニー・ルコント自身が、韓国の施設からフランスの養父母へと渡った経験があるという。物語はフィクションだが、この作品の力は本物だ。土に埋めた小鳥と同じように、自らを“埋葬”し、その後、土から顔を出して息を吹き返すシーンが印象的だ。理不尽な世界の掟を理解し、諦念を知り、喪失感を乗り越えて新しい人生を歩むと決めた小さなヒロインの、決然とした表情が忘れられない。

(出演:キム・セロン、コ・アソン、パク・ミョンシン、他)
(2009年/韓国・仏/ウニー・ルコント監督/原題「旅人/A BRAND NEW LIFE」)


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冬の小鳥@ぴあ映画生活

ジョー・ブラックをよろしく

ジョー・ブラックをよろしく 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]ジョー・ブラックをよろしく 【プレミアム・ベスト・コレクション\1800】 [DVD]
死神と人間の女性が紡ぎ出すファンタスティックなラヴストーリー。ブラッド・ピットが人間の女性に恋してしまう死神を演じている。

大富豪パリッシュのもとにやってきたジョー・ブラックと名乗る謎めいた青年。実は彼はパリッシュを“お迎え”にきた死神だった。ジョーはパリッシュに少しの猶予を与え、人間の世界を見たいと告げる。パリッシュの愛娘のスーザンと出会ったジョーは恋に落ちるが、人間の恋愛を知った彼はスーザンをあの世に連れていきたいと悩むようになる…。

死神ジョー・ブラックが、パリッシュの家のキッチンで、ピーナッツ・バターを初めて食べて大いに気に入る場面が面白い。死神さえも夢中にさせるピーナッツ・バターは、アメリカではどんな家庭にも必ず常備してある人気食品。ただ映画に登場したのは、日本でもおなじみの「スキッピー」ではなく、「ローラ・スカダーズ」という食品メーカーのピーナッツ・バター。劇中のセリフでも「スキッピーと並ぶおいしさ」とあるところをみると、米国ではかなりの人気なのだろう。無邪気な笑顔でピーナッツ・バターをなめるブラッド・ピットの表情が忘れ難い。

1934年の「明日なき抱擁」のリメイクだが、死神と令嬢の切ない恋を、人気スターのブラッド・ピットと、名優のアンソニー・ホプキンスという組合せで情感豊かに蘇らせた。死神の恋には上手いオチがつくのだが、劇中にある「逃れられないもの。それは死と税金」というセリフが効いていた。

(出演:ブラッド・ピット、アンソニー・ホプキンス、クレア・フォラーニ、他)
(1998年/アメリカ/マーティン・ブレスト監督/原題「Meet Joe Black」)

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チェチェンへ アレクサンドラの旅

アレクサンドル・ソクーロフ DVD-BOX 3アレクサンドル・ソクーロフ DVD-BOX 3
ロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフ監督の意欲作。実際に戦時下のロシア軍駐屯地で撮影されているという。と言っても、戦闘の場面はいっさいない。軍人である孫に会いに駐屯地を訪れた祖母を通して、戦争と人間の本質に迫ろうと試みた作品だ。

80歳のアレクサンドラは、チェチェンのロシア軍基地に将校として駐屯する孫のデニスに会いにくる。7年ぶりに会った愛しい孫との再会は嬉しいものだったが、彼女は「自分の孫は人殺ししか出来ない人間になってしまった」と嘆く。さらに、駐屯地の近くの市場へ行くと、いつ終わるとも知れない戦争に疲れ果てた人々に遭遇し、彼女はますます戦争への疑念を深めていく。

駐屯地に滞在する80歳のアレクサンドラに、兵士たちは皆、礼儀正しく接している。母親の年代よりさらに上の彼女の中に、母や女性というより、より大きな家族そのものを見ているのだろう。そんな彼女が夜中に一人で駐屯地を徘徊し、基地の出入り口を守る若い兵士と語り合う場面で、若い兵士に「食べるかい?」と差し出すのが、ロシアを代表するパン・ピロシキだ。

ピロシキとは、ロシアの惣菜パンのこと。小麦粉を練った生地に色々な具材を包み、揚げるかオーブンで焼いて作る。日本では揚げたものが人気だが、ロシアでは焼いたものが主流らしい。伝統的な家庭料理で、歴史は古く、ピョートル1世の時代から街中で売られている一般的な食べ物だ。具も多種多様で、肉、魚肉、ゆで卵、チーズ、米、ジャガイモ、茸、キャベツなどが入る。菓子パンとして、ジャムや果物を入れることも。劇中でも、兵士が「具は?」と尋ねると、アレクサンドラが「肉もあるよ」と答えるところをみると、何種類ものピロシキを用意していたようだ。日本でいうおにぎりみたいな感覚で持ち歩いていたのだろう。おにぎりの具がいろいろあるように、ピロシキの具もさまざまというわけだ。ピロシキという平和な家庭を象徴する食べ物と、命懸けの戦争がすぐそばにある現実との不調和が、やるせない。

この映画ではあからさまな戦争批判の言葉は何もない。主人公は、ただ孫に会いに駐屯地までやってきて、再会を喜び、基地と周辺を見て周り、孫と口論し、静かに去っていくだけだ。ロシアでは実際に家族、とりわけ母親が、兵士のいる戦場や駐屯地を訪れることが多いという。ヒロインのアレクサンドラを演じるのは、世界的ソプラノ歌手として知られるガリーナ・ビシネフスカヤ。演技初挑戦の彼女の堂々とした存在感が、この“無口な”映画のすべてだ。アレクサンドラは監督の分身ともいえる存在。何も出来ずに諦念を抱いて去っていく彼女に自分を重ねているのだろうか。

(出演:ガリーナ・ビシネフスカヤ、ワリシー・シェフツォフ、ライーサ・ギチャエワ、他)
(2007年/ロシア・フランス/アレクサンドル・ソクーロフ監督/原題「ALEKSANDRA/ALEXANDRA」)

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英国王 給仕人に乾杯!

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チェコを代表する映像作家イジー・メンツェルが描く20世紀のチェコ現代史は、語り口こそ軽やかだが、現代にも通じる皮肉な運命劇。主人公は給仕人として生きた“小さな男”ヤンである。

1930年代、ヤンはチェコの田舎町のホテルでビール注ぎの見習いをしていたが、不思議な運命に導かれるように、高級娼館・チホタ荘で働き、さらにプラハで最高のホテル・パリで給仕の修行をすることになる。そこには英国王に給仕したこともあるという給仕長もいた。修行の日々の中で、ヤンはズデーデン地方のドイツ人女性リーザと恋に落ちるが、時代はナチスによるチェコ占領の時を向かえることに。そんな歴史のうねりの中、ヤンはチェコ人にあるまじき行動を取るようになる…。

映画は、ヤンが自分の人生を回想するスタイルで進む。年老いたヤンはズデーデン地方の山中の廃屋へ向かうが、そこで発見するのがビールのジョッキ。ビールといえば、ドイツやベルギーが有名だが、実はチェコはビール大国だ。この飲み物の歴史は非常に古く、メソポタミア文明に起源があるとも言われる。原料は、麦芽、ホップ、トウモロコシ、米等で、種類は、上面発酵のエールと下面発酵のラガーに大別される。中央ヨーロッパでは、チェコは、ピルスナービールの発祥の地であり、ビール製造の本場として尊敬されているそうだ。劇中でも、どこの国のどんな種類のビールが一番美味しいかと酒場で盛り上がるシーンがある。給仕人として生きたヤンの数奇な運命の第一歩は、チェコが誇る飲み物・ビールから始まった。

共産主義も資本主義も、さらに言えばナチス占領下でも、名もない市民は運命に弄ばれるだけ。どんな状況下でもまずは生き抜くことを考えねばならない。だが、同時に人間は威厳を保つことをも問われる。ふり返ってみたとき、はたして自分の人生とは何だったのかと肩を落とす老いたヤンの姿が印象的だ。まさに「禍福は糾える縄の如し(かふくはあざなえるなわのごとし)」。幸せと不幸せは、より合わせた縄のように表裏一体なのだと、この物語は教えてくれる。美しい映像と深い人間ドラマ、そして平和への願いを織り込んだチェコ映画の佳作だ。

(出演:イヴァンン・バルネフ、オルドジフ・カイゼル、ユリア・イェンチ、他)
(2007年/チェコ・スロバキア/イジー・メンツェル監督/原題「I served the King of England/OBSLUHOVAL JSEM ANGLICKEHO KRALE」)

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いとこのビニー

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アメリカ南部を旅行中のおきらくな大学生ビルとスタンの二人は、身に覚えのない強盗殺人事件の犯人として逮捕されてしまう。容疑者になったいとこを助けようと新米ダメ弁護士のビニーが、NYから到着。南部のカルチャーショックにとまどいながら奮闘する異色法廷コメディだ。

弁護士になるのに6年かかり、しかもようやくなれたのは6週間前。法廷での経験が何ひとつないビニーは、フィアンセのリサといっしょに派手な格好でアラバマ州までやってくるが、失敗ばかり。あげくに法廷侮辱罪で留置所おくりになる。親族の情にあついイタリア系であるのにもかかわらずいとこを救えない自分にカツを入れ、アラバマ州法を猛勉強。事件当日の様子や目撃者の証言の矛盾を拾い上げて、裁判を有利に導いていく。

NYからきたビニーとリサが、小さなダイナーで朝食をとるが、そこで出されるのが、南部の地方食で代表的な朝食であるグリッツだ。挽き割りトウモロコシを煮てバターを入れて食べるこのおかゆのような食べ物は、アメリカでは南部以外ではほとんど食されていない。リサも「うわさでは聞いたことがある。あなたが先に食べて」と、激しく警戒するのが笑えるが、白くてドロドロしたその見た目は、確かにちょっと不気味で、あまりおいしそうには見えない。ちなみに映画では、グリッツの横には、目玉焼きと焼いたベーコンが添えてあった。南部の代表食というだけあって、真の南部人はインスタントなどもってのほか。本物しか食べない自慢する。煮込むのに15〜20分はかかる本物のグリッツが、裁判の証言に重要な役割を果たすことになる。

グリッツと共に決定的にものを言うのは、リサの鮮やかな証言だ。彼女は、実家が自動車工場で筋金入りの車通。リサは、ビルとスタンが乗った車と犯人の車の、マニアックかつ決定的な違いを鋭く指摘して裁判を根底から覆していく。この美人のリサを魅力的に演じたのが、マリサ・トメイで、この役でアカデミー助演女優賞を受賞した。いいかげんな中年男が一人前になっていく成長物語でもあるコミカルな法廷劇は、機転がきき、さらに相手を気遣う優しい心根をも持つ、最高のフィアンセによってささえられている。

(出演:ジョー・ペシ、ラルフ・マッチオ、マリサ・トメイ、他)
(1992年/アメリカ/ジョナサン・リン監督/原題「My Cousin Vinny」)

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