映画の中の「衣」
2008年02月22日

ヘンダーソン夫人の贈り物5

ヘンダーソン夫人の贈り物 デラックス版
実話に基づいたこのイギリス映画は、軽やかながら、静かな反戦の思いが込められた、上質のバックステージものだ。

第二次世界大戦前夜、富豪の未亡人ヘンダーソン夫人が、ロンドンの劇場を買い取り、女性のヌードを見せる奇抜な興行を打ち出して、大当たりするお話である。劇場オーナーのヘンダーソン夫人を名女優ジュディ・デンチが可愛らしさとユーモアたっぷりに演じ、彼女と常に対立しながらも名コンビを組む支配人ヴァンダムをボブ・ホスキンスがこれまたハマリ役で名演する。

自由な空気がまかり通る仏のパリならいざ知らず、劇場で女性のヌードを見せるなどもってのほか!というのが20世紀初頭のお堅い英国ロンドンの空気だ。その中で、ヌードレビューがお上(かみ)の検閲をくぐりぬけたのは、美術館の絵画のように、ステージのヌードも背景や舞台のセットと同様に「静止」すればよいという、ちょっと笑えるような理屈。お役人の顔もたち、新しい興行としてもOK、観客も大喜びという、本音と建前が同居したイギリスらしいエピソードである。

様々な小道具でステージの上のヌードの女性をうまく演出するが、特に印象的なのは美しく装飾された「扇子」だ。扇子はもともと日本生まれ。平安時代に京都で誕生した檜扇(ひおうぎ)が最初とされる。涼をとるための夏扇が代表だが、婚礼の場で使われたり(式服扇子)、舞踊の小道具として使用されたり(舞扇)する。美しい絵柄は時に芸術品になる、洒落た魅力の小道具だ。日本生まれの扇子は海外へ渡り、18世紀にはヨーロッパの貴族の間で大流行。上流階級の婦人は競って美しい扇子を身につけた。

この映画ではステージ上でヌードの女性たちの体の一部を隠したり、大きな羽で飾られたカラフルな扇子を女性の周囲で揺らしながら華やかな登場を演出したりする。だが本当に劇中で上手く使われるのは、ヘンダーソン夫人が劇場の暗い控え室で、一人でステージ用の大きな扇子を広げてみせる場面。胸の前でそっと広げて鏡に自分を映すその姿は、年老いてもいつまでも美しくありたいと願う女心と、彼女が人知れずしまい込むつらい思いを隠すしぐさでもある。能や歌舞伎では扇子の所作でさまざまな意味を表現することができるように、映画の中でも、扇子は、言葉を使わずに感情表現を伝える小道具なのだ。

扇子で隠すヘンダーソン夫人の胸のうちとは? 映画は終盤、自由かっ達な性格で、裕福なヘンダーソン夫人が、なぜヌードレビューの上演を考え実行したかが明かされる。それは亡くした息子への、母として女としての精一杯の愛情だったのだ。

(2005年/スティーヴン・フリアーズ監督/原題「MRS HENDERSON PRESENTS」)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/



cinemassimo at 00:13|この記事のURLComments(0)TrackBack(3)clip!
2007年10月26日

キンキーブーツ5

キンキーブーツ

近年のイギリス映画が得意とするハートフルなサクセス・ストーリーで、笑って泣けるイギリス映画らしい佳作。

伝統的な紳士靴の工場を受け継いだ気弱で優柔不断な主人公チャーリーは、女性従業員からハッパをかけられ、ニッチ市場へ切り込むことを決意。なんとそれは、ドラッグクイーンご用達のセクシーなロングブーツ“キンキーブーツ”を作ることだった。

イングランドの中央部で、ロンドンの北西部に位置するノーサンプトンは、紳士靴の“聖地”だ。ここを拠点に作られるジェントルマンご用達のが、そのままブリテッシュ・シューズのイメージと重なると言っても過言じゃない。19世紀からの産業革命がこの街の発達に拍車をかけ、人口のほとんどが靴産業に携わっていた。今では往時の勢いは薄れブランドの数も減ったが、それでも職人気質が形になったようなノーサンプトンの高級紳士靴は、英国をはじめ世界の憧れだ。

伝統的な紳士靴の製造から、超セクシー刺激的、しかも男性用ブーツ製造へ激しく方向転換。はじめは反発していた職人たちも次第にノッてくる様子が楽しい。チャーリーと共に頑張るのは、靴作りに偶然係わることになったドラッグクイーンのローラ(男)だ。美しくて自信満々に振舞いながらも、人知れず悩みを抱えていたローラと、優柔不断な性格を変えようと発起するチャーリーが奮闘した末に、ミラノの見本市で大成功を納めるラストに思わず感動する。イギリスでは、伝統と革新が仲良く同居するが、それは、靴も映画も同じなのだ。

ちなみにこの映画のモデルは、ノーサンプトンの創業110年以上のブルックス社長スティーブ・ペイトマン氏で、映画は実話に基づいているというから痛快だ。

(2005年/アメリカ・イギリス/ジュリアン・ジャロルド監督/原題「KINKY BOOTS」)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/



cinemassimo at 00:18|この記事のURLComments(0)TrackBack(2)clip!
2007年07月12日

4



本国より欧米で高い評価を受ける、韓国の鬼才キム・ギドクの異色恋愛映画。釣り船の上で暮らす老人と少女の固い絆と、風変わりな純愛を描く物語である。船の上から一歩も出たことのない少女は17歳になったら老人と結婚することになっている。その日を心待ちにして生きる老人は、少しずつ、婚礼衣装を調えていく。

韓国(朝鮮)の伝統的な民族衣装といえばチマチョゴリ。現代では洋服の普及によって、特別な日にしか着ない状態であることは、日本の和服と同じ感覚だろう。チマチョゴリは、チマおよびチョゴリからなる女性の装いだ。上半身の衣服がチョゴリ。下半身の衣服は、女性用はチマ(裳)、男性用はバジという名称。韓国では、男性用のパジチョゴリや、子供用のセクトンチョゴリなども含めて、民族衣装全体は広く「韓服」と呼ばれている。美しい色彩と柔らかい布の質感などが魅力。とりわけ、韓国の伝統的な婚礼で着用される韓服は、男女共にとても華麗だ。

映画は老人と少女の愛を描くが、キム・ギドクらしく幻想的な描写をまじえた展開で、観客を惑わせる。どこに飛んでいくか分からない弓が重要な小道具として登場するが、よく当たると評判の弓占いという設定が絶妙で、老人、少女、陸からやってきた青年の運命を象徴しているようでもある。一歩間違えると、キワモノ映画になってしまうところを、ギリギリのところでアートに昇華させる手腕がさすが。ちなみに老人と少女は、劇中、一言も言葉を発しない。セリフに頼らず、色彩の美しさと画面構成など、こだわりの映像美で勝負するスタイルがキム・ギドク流だ。

(2005年/韓国/キム・ギドク監督/原題「The Bow」)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/



cinemassimo at 00:10|この記事のURLComments(0)TrackBack(3)clip!
2007年06月27日

夏至5

夏至 特別版

ベトナムのハノイに住む3姉妹の日常を、淡々とした語り口で描く物語は、詩的で美しい映像にうっとりさせられる映画だ。
母親の命日に集まった、スオン、カイン、リエンの3姉妹はとても仲の良い姉妹。不倫、妊娠、淡い恋など、3姉妹はそれぞれ秘密を抱えているが、普通ならメロドラマになりそうな素材も、ゆったりとした時間の流れの中で溶けるように秘密をにじませ、緩やかな解放と調和へと導く。

長女スオンはカフェの女主人。夫の愛人の存在に気付きつつも自分も若い青年と逢引を重ねている。3姉妹でこの長女のスオンだけが、ベトナムの民族衣装アオザイを身に着けている。アオザイとは、正装に用いられる民族衣装で、ベトナム語で「長い着物」の意味。チャイナカラーで長い着丈だが、深いスリットがあって歩きやすいデザインだ。このアオザイには、クワンと呼ばれる白い長ズボンを合わせる。どちらも涼しげな薄い生地で細身に仕立てられるので、ベトナム女性には体型を維持した美しい人が多い。このアオザイは実は男性用もあるそうだが、結婚式などの特別の時にのみ着用するらしい。長女のスオンだけがアオザイを着る設定は、彼女がまだ古風な部分を持つ人物であるという表れだ。

映画で印象的なのは、濃い緑の陰影と、少ないセリフを補う表情の豊かさだ。スタイリッシュでみずみずしい映像にしばし酔いしれる。在仏の監督トラン・アン・ユンは、はるかなあこがれを込めて母国ベトナムを美しく描こうとするようだ。リアリズムよりも癒しの時間を味わえる。

(2000年/フランス・ベトナム/トラン・アン・ユン監督/仏語原題「A la Vertical de L'ete」)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/



cinemassimo at 00:13|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)clip!
2006年08月08日

カンダハール3

Kandahar (Sub) カンダハール

アフガニスタンからカナダに亡命した女性が、故郷に住む妹から自殺をほのめかした手紙を受け取る。彼女はなんとか妹を救うべく、身分を隠して戦渦の土地を旅するが…。

アフガニスタンの女性がかぶる独特のベールはブルカと呼ばれるもの。女性は顔をさらしてはいけないのだ。形容し難い閉塞感と偽りの安堵が漂う。ブルカは実に色鮮やかで、女性たちはその下でもきちんと化粧をしている。

物語は、主人公が妹に会えるのかどうかということから次第に離れていく。義足を奪い合うシーンは鮮烈。偽りのないアフガンの実像がここにある。

(2001年/イラン・フランス/モフセン・マフマルバフ監督/原題「Safar E Gandehar」)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/



cinemassimo at 09:29|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)clip!

天国の口、終りの楽園。3

天国の口、終りの楽園。

17歳の二人の少年が、年上の女性ルイサを誘って、美しいビーチを目指す。“ヤリたい”さかりの2人をルイサは軽くあしらうが、彼女には大きな秘密が…。

劇中でルイサがまとう腰を隠す布はパレオ。水着の上から羽織ったりする布で様々な用途に使える便利モノ。もともとは熱帯、亜熱帯地方で用いられたもので、衣服の原型ともいえる。

少年たちにひと夏のほろ苦い思い出を残したルイサは、腰に巻いたパレオをほどいて、海に入る。太陽が降り注ぐ美しい海は、ルイサを優しく抱きしめて受け止める。少年たちはもう二度と彼女に会うことはないのだ。

(2001年/メキシコ/アルフォンソ・キュアロン監督/スペイン語原題「Y Tu Mama Tambien」)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/



cinemassimo at 09:28|この記事のURLComments(0)TrackBack(1)clip!

イノセント5

イノセント 無修正版 デジタル・ニューマスター

19世紀末のローマの社交界、貴族のトウリオは、ジュリアーナという美しい妻がいながら伯爵夫人テレーザと浮名を流していた。だが、ジュリアーナが他の男の子供を身ごもっていると知った時、妻への情熱が蘇る…。

作家ダルボリオとの逢引に向かうジュリアーナがかぶるベールが美しい。妻が夫に隠し事をする秘密めいた雰囲気を醸し出すのは繊細なレースのベール。19世紀イタリア貴族の優雅な衣装も見所。

絢爛豪華で官能的な世界が展開。物語は、幼児殺しという罪から、それぞれの運命の悲劇へと収束していく。人間の業を最後まで描き続けた、ヴィスコンティ、渾身の遺作。

(1975年/イタリア/ルキノ・ヴィスコンティ監督/伊語原題「L'Innocente」)

人気ブログランキング用バナー

←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/



cinemassimo at 09:26|この記事のURLComments(0)TrackBack(0)clip!

Copyright(C) Cinemassimo All Rights Reserved.