映画通信シネマッシモ


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

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ゴジラ映画に思うこと

ひとりごと7月29日(金)の「シン・ゴジラ」の公開を前にして、世の中はゴジラ一色!ケーブルテレビでは過去のゴジラ映画を特集し、美術館でのゴジラ展や、各種イベントなどもにぎやかに開催されている。改めてその人気ぶりに驚くばかりだ。

そもそもゴジラって何?という映画ファンも多いと思うので、さわりだけ解説しておくと、ゴジラは、架空の怪獣。海底に潜んでいた怪獣ゴジラは、度重なる水爆実験によって目を覚まし、日本に現れて破壊の限りを尽くすというのが物語の大筋だ。1954年の第1作「ゴジラ」は、日本映画屈指の名作とされている。古いモノクロ映画で、現代の高度なCGを見慣れた目にはミニチュアによる撮影は稚拙に思えても、特撮という特異なジャンルの傑作であることは間違いない。

ビキニ環礁での核実験、第五福竜丸の被爆事件など、世界での核の脅威を怪獣という形で視覚化したことが、まずは特筆だ。劇中に登場する、死を覚悟した母親が子どもに「お父さんのところに行くのよ」というせりふは、戦争で命を落とした人々の記憶がまだしっかりと焼き付いている世相を表している。空襲、原爆を経験した日本人は、圧倒的な脅威の前では都市など簡単に破壊されてしまうことを知っているのだ。現実世界で味わった戦争の恐怖が、一見荒唐無稽に思えるゴジラ映画には色濃く反映されている。

そうした本多猪四郎監督の演出と共に、特撮監督・円谷英二や作曲家・伊福部昭など、才能ある人々の仕事ぶりも評価が高い。その後、日本映画界では、多くのゴジラシリーズや怪獣ものが作られたが、やはりこの第1作に勝るものはないだろう。ハリウッドでもゴジラは映画化されたが、首をかしげたくなるような珍作もあれば、2014年のギャレス・エドワーズ監督による力作も。いずれにしても、ゴジラの世界規模での人気を裏付けている。

クジラのように巨大で、ゴリラのように恐ろしいもの。それがゴジラだ。時代によって恐怖の対象は変わってくる。今、私たちが最も恐れるべきものは何だろう。改めて考えてみるためにも、圧倒的な人気を誇るゴジラ映画の原点を知るためにも、本多猪四郎版1954年の「ゴジラ」にぜひ出会ってほしい。



(出演:宝田明、志村喬、河内桃子、他)
(1954年/日本/本多猪四郎監督/原題「ゴジラ」)


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MOOG

MOOG デラックスDVD-BOX (初回限定版)
電子楽器の父と呼ばれるロバート・モーグ博士の半生と、彼が発明したモーグシンセサイザーについて描く音楽ドキュメンタリー。

ロバート・A・モーグ博士は、モーグシンセサイザーを発明したアメリカの電子工学者。彼が1964年に世に送り出したモーグシンセサイザーは、現在の電子音楽機器に多大な影響を与えた。博士本人のインタビューはもちろん、シンセ界の巨人、キース・エマーソンやリック・ウェイクマンらも登場する。また、日本に来日した際のエピソードなど、貴重な映像も含まれる。

近代音楽に不可欠のシンセサイザーは、ビートルズやスティービー・ワンダー、マイケル・ジャクソン、アース・ウィンド&ファイアー、EL&P、イエス、クラフトワーク、YMOといった国内外の大御所バンドが使用している。映画では、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の「アギーレ 神の怒り」でサウンドトラックとして使用されていたと記憶する。

モーグ博士自身のキャラクターも興味深い。根っからの探究者である彼は、シンセサイザーのことになると夢中で話すが、その一方で、つい最近まで「MOOG」の登録商標権も他社に占有され、自身の名前の使用権すら他人に奪われたままだったそうだ。商売にはうとい博士だが、シンセサイザーとその音楽に対しては、とても謙虚で真摯な姿勢が好ましい。電子楽器と電子音楽の創造性は、オーガニック菜園で植物を育てる手法に似ているというのが面白い。自然との調和こそ本物の音楽の姿ということだろうか。

ピアノやバイオリンなどの楽器が樹木を削り、弦を張って作るのと同じように、モーグシンセサイザーはモジュールやケーブルやプラグを繋いで音楽を奏でる。音楽とは作り手と聞き手の間の繋がりであり、精神の波動によって電子部品と心が繋がる。電子楽器の大先輩であるテルミンはモーグ博士が初めて自作した楽器だそうだが、ラスト、自然の中で、博士自身がテルミンを奏で、名曲「Ol' Man River(オール・マン・リバー)」を演奏する。電子楽器のエジソンと呼ばれ、今も多くのミュージシャンから尊敬されるモーグ博士。「音楽はミュージシャンとリスナーとが“ライヴ”で作り上げる共有関係。私の楽器がそれを手助けできるならば、本望だ」との言葉に感動を覚えた。

参考までに、モーグは時にムーグとも表記され、ムーグシンセサイザー(特にミニムーグ)は、現在でもネットから購入可能だ。少々高価だが、興味があればぜひ。

(出演:ロバート・モーグ、キース・エマーソン、リック・ウェイクマン、他)
(2005年/アメリカ/ハンス・フェルスタッド 監督/原題「MOOG」)


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MOOG〈モーグ〉@ぴあ映画生活

ヒステリア

ヒステリア [DVD]ヒステリア [DVD] [DVD]
現代で最も広く浸透しているセックス・ツールの電動バイブレーターの誕生秘話を描く物語。こう説明すると思わず引いてしまうかもしれないが、内容は決してキワものでもエロイティシズムでもなく、むしろフェミニズムを意外な面から取り扱った個性的な歴史秘話である。タイトルのヒステリアとは、ラテン語でヒステリー、子宮の病の意味だそうだ。

ヴィクトリア王朝が繁栄を極めていた1890年のロンドン。当時の女性たちが感情過敏になったり、不感症やうつ病、寡婦や高齢女性が性欲に悩んだりする症状は、ひとくくりにヒステリーと呼ばれていた。ハンサムで真面目な青年医師、モーティマー・グランヴィル医師は、婦人科の権威・ダリンプル医師のもとで働くことになる。女性の欲求不満をマッサージ療法で治療するのだが、あまりの激務に腕が動かなくなったモーティマーは、患者の不評を買ってしまう。彼は、ダリンプル医師の長女で貧しい人々を支援するシャーロットの新しい生き方に刺激を受けつつ、友人が発明した機械をヒントに、電動マッサージ機器の開発に取り組むのだが…。

女性の性的欲求を、まとめてヒステリー(現在は医学用語からは削除されている)と呼んでいた乱暴な実態にも驚くが、電動バイブレーターが19世紀のロンドンの上流階級向けに開発されたことや、最初は医療兼健康器具だったこと、さらに医療電気製品として世界で初めて特許を獲得したという事実に、驚いてしまった。映画というのは本当に色々なことを教えてくれるが、本作は決して性的なことを描くのが目的ではない。

19世紀のロンドンは繁栄とは裏腹に、格差が広がり、女性の権利も社会進出もままならない。本作は、そんな不自由な時代を背景に、バイブレーター誕生秘話というなかなか知りえない事実を介して、女性の権利をコメディ・タッチで主張する異色ドラマだ。フェミニズム運動の描写は表層的だが、女性監督ターニャ・ウェクスラーの手腕で、明るくすがすがしい出来の小品に仕上がっている。目からウロコとはこのこと。一見の価値はある。

(出演:ヒュー・ダンシー、マギー・ギレンホール、ジョナサン・プライス、他)
(2011年/英・仏・独/ターニャ・ウェクスラー監督/原題「HYSTERIA」)

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ヒステリア@ぴあ映画生活

フィンランド式残酷ショッピング・ツアー

フィンランド式残酷ショッピングツアー [DVD]
「未体験ゾーンの映画たち 2014」で上映されたスプラッタ・ホラーは、ロシア・フィンランド合作映画。ロシアから隣国フィンランドにショッピング・ツアーにやってきた観光客が、食人族(仮にそう呼ぶことにする)に襲われまくるという、シュールなストーリーだ。

フィンランド郊外の大型ショッピング・モールに閉じ込められたロシア人団体客が次々に餌食になるが、あるロシア人の母と息子は襲われながらも懸命にそこを脱出。ガブリと噛みつかれた後、ゾンビ化するかと思ったらそうはならないところが最大の意外性といえるのだが、その理由がふるっている。

警察に助けを求めて逆に捕まってしまった母子が隣の独房にいるパキスタン人の男からこの惨事のワケを聞く。そのワケとは「夏至祭」だからというから思わずのけぞった。

ヨーロッパには夏至を祝う風習があるが、フィンランドでは夏至祭をユハンヌス(juhannus)と呼んで、大いにハメをはずして騒ぐ。その祝祭は、あまりに楽しくて、事故や泥酔などによって毎年数十人が亡くなるほどの“満喫ぶり”だそうだ。それはいいとしても、本作ではその夏至祭の前夜祭として、フィンランド人は外国人を喰らうのが風習になっているという「!」な設定なのだ。祭りが終わればあっさりと“普通の人”に戻るという説明も付け加えられている。食べるのがフィンランド人、食べられるのがロシア人という関係性は、ロシアに苦しめられてきた歴史があるフィンランドの逆襲とみるのは深読みしすぎだろうか。

上映時間はわずが69分。乱暴なストーリー構成なので、これ以上の長さはムリ!である。森と湖とサウナの国、平和で生活水準の高い国と称される北欧フィンランドのイメージを、根底から覆すトンデモない珍作だった。

(出演:タチアナ・コルガノーヴァ、ティモフィー・イェレツキー、サツウ・パーヴォラ、他)
(2012年/ロシア・フィンランド/ミハイル・ブラシンスキー監督/原題「SHOPPING TOUR」)


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フィンランド式残酷ショッピング・ツアー@ぴあ映画生活

劇場版アニメ どーにゃつ

劇場アニメ どーにゃつ 特別版 [DVD]
人間たちが消えてしまった東京・新宿に暮らす、猫に良く似たチョコがけドーナツ型生物、どーにゃつと、その仲間たちのユルい日々を描くショート・ストーリー「劇場版アニメ どーにゃつ」。

この作品は、もともとは雑誌「ヤングガンガン」に連載されていたショート・アニメ。劇場版としての立ち位置は、新宿バルト9他、ティ・ジョイ系列の全国劇場で、予告編などと共に上映されている、ユル系脱力ショート・ムービーだ。同様のタイプのものに「鷹の爪」や「紙兎ロペ」などがある。

本作は可愛いドーナツ型猫たちによる癒し系アニメだが、実は世界観としては終末SF。20XX年の新宿は、荒廃し、人間の姿はなく、人間のどくろが転がっている廃都なのだから、なかなかハードな設定である。そんな新宿で暮らすどーにゃつは記憶喪失だったのだが、ベーガルからどーにゃつという名前を付けられ、バーム、クマカロン、ローニャらと共同生活を送る。それぞれバームクーヘン、マカロン、ロールケーキなどの食品と合体した猫型の生物は、オタク系だったり、おっとりしていたり、気が強かったりとキャラも見事に立っている。もっとも話にはオチらしいオチもなく、クスリと笑いが出る程度。だがそれが映画本編が始まる前にはちょうどいいウォーミングアップなのだ。

このDVDではそんなどーにゃつの物語を「はじめまして」を含めて全13輪(話ではなく輪になっているのがミソ)を一挙に収録する。一挙といっても合計30分にも満たないが、一気見するのは、なかなか壮観(?)だ。「キャッチボール」「スーパー松崎ブラザーズ」「腹痛」「かゆい」「古今東西ゲーム」「ロボ崎さんとあそぼう」「プラネタリウス」「天敵」「名ゼリフ」「ビッグス&ウェッジ」「べた褒め屋」「ヒーローごっこ」が収録。この中でおすすめなのは「名ゼリフ」だ。

「名ゼリフ」には、アニメ版オリジナルのキャラである、まっちゃんが登場する。まっちゃんとは、抹茶ドーナツの身体を持ち、関西弁を話すネコ。自称「浪速の映画ソムリエ」で、ここではシュワちゃんの「ターミネーター」の決めゼリフを思い出せないベーガルに指南するという設定。映画好きなら思わずニヤリだ。

原作はコザキユースケ。アニメーション制作はギャザリングが担当。特典映像として、静止画で構成された「ボクの1日」も収録されている。人間が滅びた終末SFというハードな枠組みの中で描かれる、ユル系キャラのどーにゃつと仲間たちとの不思議で楽しい日々。このギャップを楽しみたい。

(出演:(声)田村ゆかり、藤原啓治、間島淳司、林沙織、椎名ひかり、他)
(2013年/日本/まんきゅう監督/原題「劇場版アニメ どーにゃつ」)


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エリート・スクワッド

エリート・スクワッド [DVD]
ブラジルの特殊部隊BOPEの命がけの日常を描くクライム・アクション「エリート・スクワッド」。

ブラジル・リオデジャネイロ。犯罪多発地域のスラムでパトロールに従事する特殊部隊BOPE(ボッピ)の隊長ナシメントは、法王がブラジルを訪問しスラム地域の近くに宿泊を希望したことで頭を悩ませていた。もうすぐ父親になる彼は、あまりに危険な任務であるBOPEを引退しようと考えていたが、法王訪問のためスラム地域の麻薬ディーラーを一掃するという最後の任務は断れなかった。一方で、正義感の強い新人警官のネトとマチアスは、腐敗した警察内部の実情を知ってショックを受ける。彼らはやがて最も危険で過激な特殊部隊BOPEへの入隊を希望するが、そこにはあまりにも過酷な現実が待っていた…。

リオデジャネイロに実在するスラムとそこにはびこる犯罪を過激に描写した秀作「シティ・オブ・ゴッド」のスタッフが結集して作った本作は、BOPE(ボッピ)と呼ばれる特殊部隊の実情を描いた、リアルなクライム・アクションだ。原作は実際にBOPEのメンバーだった人物を含む3人の共著で、2006年に刊行された書籍「Elite da Tropa」。史実とフィクションを織り交ぜBOPEの日常業務を描いている。映画では法王の来訪という、彼らにとっては迷惑な非常事態に備え、犯罪組織に対峙する部隊長ナシメントの苦悩と、正義感の強い新人警官が厳しい現実の中で非情ななBOPE隊員になっていく様子をまるでドキュメンタリーのようにリアルなタッチで描いてく。

「シティ・オブ・ゴッド」もそうだったが、彼らの日常を見ると、日本などまるでぬるま湯だ。何しろ、戦闘地域でさえもここまではないだろうというくらい武器が氾濫し、日常的に殺人が起こる。警察内部の人間のほとんどが麻薬組織と癒着してワイロで懐を潤し、警察仲間の分まで奪い合うという腐敗ぶりだ。そんな組織と任務で、主人公のナシメントは明らかに精神を病みつつある。それほど人間を追い詰める過酷な仕事なのだが、麻薬ディーラーとの戦いの過激さと同じくらい、BOPEの訓練のシークエンスがすさまじい。人間性を徹底的に破壊して、初めてBOPEの一員になれるのだ。新人のネトとマチアスの激変ぶりには背筋が凍る思いだ。

映画を完成させるまでは苦難の道のりで、ブラジルに実際にはびこる警察の腐敗や汚職を暴く内容に、ジョゼ・パジーリャ監督は権力者たちから何度も製作中止の脅迫を受けたという。だが出来上がった作品のあまりの迫力にブラジルでは驚異的な大ヒットを記録。2010年には続編「エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊B.O.P.E.」も作られた。第58回ベルリン国際映画祭金熊賞(最高賞)ほか全世界で30以上の映画賞を受賞した衝撃作だ。

(出演:ワグネル・モウラ、アンドレ・ハミロ、カイオ・ジュンケイラ、他)
(2007年/ブラジル/ジョゼ・パジーリャ監督/原題「TROPA DE ELITE」)


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エリート・スクワッド@ぴあ映画生活

コブラ・ヴェルデ 緑の蛇

コブラ・ヴェルデ 緑の蛇 Blu-rayコブラ・ヴェルデ 緑の蛇 Blu-ray [Blu-ray]山賊から奴隷商人、やがてアフリカ総督にまで成り上がる粗野な男の半生を描くドラマ「コブラ・ヴェルデ 緑の蛇」。

19世紀初頭のブラジル。極貧の暮らしの中で山賊になったフランシスコ・マヌエルは“コブラ・ヴェルデ(緑の蛇)”と呼ばれ恐れられていた。独特の人格を買われ、農園の奴隷監督に抜擢されるが、農園主の娘3人すべてに手を出し、やっかい払いのように奴隷商人としてアフリカのダオメーへ行くことを命じられる。便宜上、仕官の位を与えられたコブラ・ヴェルデは、そこで戦争資金の調達に追われる王タカバリ、その王を倒し革命を起こした甥カペン王子らとの攻防、共闘の末、アフリカ総督に任命される。だが、突如ブラジルが奴隷制度廃止を宣言。ブラジル、アフリカ双方にとって彼は邪魔な存在になってしまう。コブラ・ヴェルデはいつ果てるとも知れない逃亡を続けるが…。

タランティーノは「ジャンゴ 繋がれざる者」でアメリカの奴隷制度の暗部に新たなアプローチを試みたが、本作は旧西ドイツ時代に鬼才ヴェルナー・ヘルツィークが、得意の“西欧文明VS異文化”の枠組みの中で、奴隷貿易と奴隷商人、奴隷の供給元のアフリカを描いた怪作だ。ヘルツォークは、神話的、土俗的な生命力を追求してきた映画人で、手付かずの自然を好んで取り入れる。アマゾンの密林や荒れ狂う火山、荒れ果てた砂漠に、人類未踏の険しい山岳などが作品の風景として荒々しく広がっている。

どこか寓話のようなこの物語は、ブラジルの荒野や農園から一転、奴隷の供給地アフリカの王国が舞台。主人公コブラ・ヴェルデの数奇な運命は、「海には気をつけろ」との予言の通り、逃亡の果てに海にたどり着き、砂浜で力つきるというものだ。ヴェルナー・ヘルツォークの分身ともいえる怪優クラウス・キンスキーは、相変わらずのハイテンションの演技で物語の太い軸となり、その周辺にヘルツィーク十八番の演出法である、演技経験なしの現地の住民を大挙して配置して、異様な空気をかもし出している。

原作は英国の作家ブルース・チャトウィンの小説「The Viceroy of Ouidah」。善も悪も、不条理さえも飲み込んでしまう、圧倒的な自然の中、この奇怪な物語から何を読み取ればいいのか。文明から隔離された場所でもがくアンチ・ヒーローの美学だろうか。近年のヘルツィークは、どこか分かりやすい物語に帰属してしまった感があるが、80年代、ニュー・ジャーマン・シネマの最終盤の時代に作られたこの作品には、観客に迎合するどころか、見るものを唖然とさせてしまう迫力が残っている。

(出演:クラウス・キンスキー、ホセ・レーゴイ、キング・アンパウ、他)
(1987年/西ドイツ/ヴェルナー・ヘルツォーク監督/原題「COBRA VERDE」)


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コブラ・ヴェルデ 緑の蛇@ぴあ映画生活

マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾

マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾 [DVD]マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾 [DVD] [DVD]
マカロニ・ウエスタンにオマージュを捧げた、スペイン産異色活劇「マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾」。

スペイン南部のアルメリア地方。60年代に世界的ブームになったマカロニ・ウエスタンの多くはこの地で撮影され、今ではその撮影所は観光地“ウエスタン村”になっていた。西部劇ショーの座長を務めるフリアンは、クリント・イーストウッドとジョージ・C・スコットの代役を務めたことが自慢の元スタントマン。観光客も激減し、今やすっかり落ちぶれてはいるが、フリアンはウエスタン村とマカロニ・ウエスタンに深い愛着を持っている。だが、企業の用地買収によりそのウエスタン村を閉鎖する案が持ち上がる…。

タランティーノ監督の「ジャンゴ 繋がれざる者」の大ヒットで、改めて注目されているイタリア製西部劇のマカロニ・ウエスタン。この異色のジャンルは、1960年代にかけて世界的なブームになった。低予算、早撮りが原則で、西部劇とはいえ、本国アメリカでのロケなどもってのほか。多くはスペイン、あるいは旧ユーゴで撮影された。中でもスペイン南部のアルメリア地方は、かつて400本以上のマカロニ・ウエスタンが撮影された西部劇の“聖地”。さらに、「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」「パットン大戦車軍団」「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」といったハリウッド大作もここでロケされたという、知る人ぞ知る“映画の都”なのだ。だが、それはすでに遠い昔、過去の栄光である。

本作では、ワンパターンで量産された挙句、飽きられ、急速に衰退したマカロニ・ウエスタン、さらに衰退したマカロニ・ウエスタンをテーマにしたスペインのウエスタン村がさびれ果てた上に、閉鎖の危機に陥るという、二重、三重の悲哀が描かれる。過去の遺物にしがみつく老いた主人公や一座のメンバーの力の抜けた映画愛は、哀愁を通り越して笑いさえこみあげる。物語は、ウエスタン村を守るために、文字通り、武器を手に立ち上がった男たちの、意地とプライドを、笑いと涙で活写するものだ。フリアンと孫のカルロスの家族愛のドラマや仲間との友情、さらに800発もの銃弾が乱れ飛ぶ、怒涛のアクションまでもが用意されている。

マカロニ・ウエスタンそのものが、本家アメリカの西部劇の“まがいもの”だが、そこには本家にはない、ドライでクールな魅力があった。正義感に欠ける主人公、壮絶なバイオレンス、悪が悪を倒すという毒のある構図。それらを踏まえた上で、本作を見ると、くたびれた男たちの映画愛に胸が熱くなるはず。スペインの社会情勢にもちょっぴり目配せしたドラマのラストには“まがいもの”にふさわしい、とっておきのシーンも。異色作「どつかれてアンダルシア(仮)」のアレックス・デ・ラ・イグレシア監督が、スペインならではのアプローチでマカロニ・ウエスタンへのオマージュを捧げた本作。映画、西部劇、そしてもちろんマカロニ・ウエスタン好きならチェックしておきたい愛すべき1本となっている。

(出演:サンチョ・グラシア、カルメン・マウラ、アンヘル・デ・アンドレス、他)
(2002年/スペイン/アレックス・デ・ラ・イグレシア監督/原題「800 BALAS」)


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宇宙飛行士の医者

宇宙飛行士の医者 [DVD]宇宙飛行士の医者 [DVD]
「三大映画祭週間」で紹介されたロシア映画の佳作。1960年代のソ連で、宇宙飛行士たちの健康を管理する医者の苦悩を描く。全編を厭世観が覆い、世界初の有人宇宙飛行のヒロイズムはかけらもない。

1961年、宇宙飛行計画に従事する専門医師ダニエル(ダーニャ)は、モスクワからカザフスタンに赴任する。ダニエルは宇宙飛行士たちの健康管理の責任者だが、若者たちが国家の発展と威信を賭けた危険なプロジェクトの犠牲になることがどうしても納得できなかった。同じ医師の妻ニーナは、そんなダニエルを心配するが、夫との距離は広がるばかり。さらにずさんな安全管理から訓練中に士官の死亡事故が起こったのをきっかけに、ダニエルは心身ともに蝕まれていく。そんな中、ロケット打ち上げの時がやってくる…。

ソ連が国家の発展のために行った世界初の有人飛行の主役はユーリ・ガガーリンだが、彼はこの物語では脇役。生きて帰還する確率が低い任務につく若き士官たちの運命を嘆き、そんな彼らを送り出さねばならない立場の自分に対し自己嫌悪に陥る医師のダニエルが主人公だ。ダニエルは、美しい妻がいながら、惰性のように浮気をしたり、仕事も終始上の空。それは、スターリン時代に両親を収容所で亡くした過去があるため、国家に対し懐疑的なのにその歯車にならざるをえないジレンマに悩み続けているからである。

それにしても、いくら1960年代の冷戦下のソ連とはいえ、先端技術の結晶であるはずのロケット発射場は、まるで収容所跡の廃墟のよう。あまりに、非科学的なのには驚く。泥と雪でぬかるんだ土地、バラックのように貧相な建物、悲壮な使命感のみを抱える宇宙飛行士と、神経を病んだ医師というこの“宇宙計画”に、幸福感や希望はどこにも見当たらない。

ハリウッド映画に、同じく宇宙飛行プロジェクトを扱った「ライトスタッフ」がある。熱っぽい高揚感、連帯感に沸き上がるチームワークに家族愛、何より宇宙開発の先端を担う誇りと喜びが、スクリーンいっぱいに描かれていた。本作には、「ライトスタッフ」とは真逆の、底知れない孤独が漂っている。監督はアレクセイ・ゲルマン・ジュニア。父親は「フルスタリョフ、車を!」で知られる映画監督アレクセイ・ゲルマンで、演出には、父親譲りの冷え冷えとした映像美と深い喪失感が垣間見える。1960年代のソ連では、人々は、たとえ愛する人と共にあっても、孤独と諦念の中で生きていたのだ。宇宙飛行の華々しさより、人間の内面の哀しみと矛盾を掘り下げたドラマには、深い余韻が残る。2008年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞作。

(出演:メラーブ・ニニッゼ、チュルパン・ハマートヴァ、アナスタシア・シェベレワ、他)
(2008年/ロシア/アレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督/原題「BUMAZHNYY SOLDAT/PAPER SOLDIER」)


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キナタイ マニラ・アンダーグラウンド

キナタイ マニラ・アンダーグラウンド [DVD]キナタイ マニラ・アンダーグラウンド [DVD]
「三大映画祭週間」で紹介されたフィリピン映画の問題作。警察官志望の青年が足を踏み入れた闇の世界を不穏な映像で描いていく。

ペッピング(ペピン)は、警察学校に通う学生。すでに恋人との間に子供も生まれ、正式な結婚を控えて幸せな毎日を送っている。だが貧しい暮らしのため、サイドビジネスとして麻薬の売買に関わり、小銭を稼ぎながら生計を立てていた。ある日、汚職に手を染める友人から金になる仕事があると誘われ、軽い気持ちで受けてしまう。しかし、それは裏社会のどす黒い闇の世界への入口で、ペピンは汚職警官や殺し屋と共に、悪夢のような一夜を過ごすことになる…。

フィリピン出身のブリランテ・メンドーサ監督は、夜のマニラの街に潜む悪徳をすさまじい筆致で描いて、世界中を驚かせた。主人公のペピンは元来、明朗な好青年だが、貧しさゆえに汚れた仕事もせざるを得ないと考えている警察学校生。友人の誘いで受けた使い走りの仕事とは、悪徳警官が自分たちが受け取るべき裏金をごまかした娼婦に制裁を加える場に立ち会うことだ。

誘拐、暴力、レイプ、惨殺と、情け容赦ない場面が続くが、それらの映像が、すべて人里離れた隠れ家で周囲を見張るペピンたちの視点で描かれるため、おぞましい場面を覗き見しているような、異様な空気がある。だが、それらのバイオレンスシーン以上に恐ろしいのは、基本的に善人の青年が、軽い気持ちから足を踏み入れた闇の世界で、簡単に流され、悪を目撃しても黙って服従してしまう実態だ。「警官の給料だけでは暮らしていけない」というセリフがリアルだが、凶悪犯罪が多発するマニラの粗悪な環境が、悪に慣れ染まっていく人間の弱さを助長し、モラルを麻痺させるのか。ペピンが着ている警察学校の制服であるポロシャツの背中に“絶えず健全さを保持せよ”とのスローガンがプリントされているのが、強烈な皮肉となっている。

タイトルの「キナタイ」とは、英語と共にフィリピンの公用語であるタガログ語で「屠殺」の意味。ハード・ボイルドやフィルム・ノワールなどといった小奇麗なカテゴリーには分類できない、フィリピンの闇社会の実態を、冷徹なまなざしで描いた秀作だ。2009年カンヌ国際映画祭監督賞受賞作。

(出演:ココ・マルティン、フリオ・ディアス、マリア・イサベル・ロペス、他)
(2009年/仏・フィリピン/ブリランテ・メンドーサ監督/原題「KINATAY」)

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キナタイ−マニラ・アンダーグラウンド@ぴあ映画生活
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