カルラのリスト
カルラのリスト
この地味な記録映画は、いくつかの映画とリンクして見ると意義が大きくなる。例えば「ハンティング・パーティ」、例えば「サラエボの花」。さらに「あなたになら言える秘密のこと」などの映画群がそうだ。これらの劇映画に共通しているのは、旧ユーゴ紛争を描いていること。「カルラのリスト」は、今も行方が知れない戦犯たちを逮捕するために奮闘する国連検察官カルラ・デル・ポンテの孤独な戦いを追った社会派ドキュメンタリーである。
スイス生まれのカルラは非常に知的でタフな女性だ。戦争犯罪人を裁くのは、国際法の現実と戦うことで、様々な国の思惑がからまる。正義を行うことは想像をはるかに超えて難しいことなのだ。映画は時に、難航する政治交渉でイラつく彼女の姿を映すが、それが強面(コワモテ)のルックスのこの女性の、人間的な面を垣間見せている。普通なら投げ出してしまうような困難に、彼女は決して屈しない。
旧ユーゴ紛争は、民族・宗教など、複雑な要素が多くからむ内戦だ。1995年のボスニアでの民族浄化は凄惨を極めた。そのすべてを映画の中で説明するのは不可能だが、時折挿入される、被害者や遺族のインタビューは効果的で、カラジッチとムラジッチという超大物戦犯がいまだに逮捕されない事への憤りは伝わってくる。ただ、カルラ自身についてもう少し知りたかった。彼女の生い立ち、職歴、どういう経緯で旧ユーゴスラヴィア国際刑事法廷(ICTY)という国連組織の検事長になるに至ったか。これらの説明があれば、カルラの生き方にもっと共鳴できただろう。
映画の中では、旧ユーゴ各国とアメリカとの密約疑惑や、EUの思惑なども登場する。「戦争の最大の犠牲者はいつも子供たちと女性」という言葉が重い。そしてカルラ自身がつぶやく「旧ユーゴ紛争は、国際社会の中で最優先事項ではなくなった」との嘆きの言葉がすべてを物語る。それでもあきらめずに国際正義を求めるカルラの努力が実る日がきっと来ると信じたい。
(2006年/スイス/監督:マルセル・シュプバッハ/原題「CARLA'S LIST」/出演:カルラ・デル・ポンテ、他)
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ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
ブエナ☆ビスタ☆ソシアル☆クラブ
キューバ音楽に魅せられたドイツ人監督ヴィム・ヴェンダース(「ベルリン、天使の詩」「パリ、テキサス」)が、アメリカで活躍するギタリスト、ライ・クーダーを中心に、知られざるキューバ人音楽家たちの素晴らしい演奏シーンとインタビューで構成した秀作ドキュメンタリー映画。キューバ音楽の魅力を丁寧に追った名作で、音楽好きなら必見の1本。
淡々と進む演出がヴェンダースらしいが、登場する老ミュージシャンがみんな実にイイ顔をしている。音楽を愛している!とその顔のしわに刻まれているようだ。サウンドはひたすらに快適で心地よいが、キューバの政治的、経済的な背景などはいっさい語らない。
見ている私たちは、ハバナの情緒あふれる街並を散歩しているような気分になるが、老演奏家たちは、ニューヨークの高層ビルを見上げて「いい街だ」とつぶやきながらうっとりしている。彼らの歩んできた歴史の難しさをふとのぞかせるシーンで、心に残る。
忘れられた音楽家の情熱、変わらぬ笑顔。ぶっとい葉巻を口にくわえながら床掃除するおばさんまで、最高にカッコいい。ラストのカーネギーホールでのコンサートは涙ものの素晴らしさだ。
サントラ盤もおすすめ。ライ・クーダーがキューバ音楽の老音楽家たちと創り上げたアルバム「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は、世界中で大ヒットを記録、1997年のグラミー賞を受賞した。
(1999年/独・米・仏・キューバ /ヴィム・ヴェンダース監督/原題「BUENA VISTA SOCIAL CLUB」)
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マーティン・スコセッシ 私のイタリア映画旅行
マーティン・スコセッシ 私のイタリア映画旅行
アメリカ映画界を代表する名匠で、今年(2007年)についに念願のオスカーを受賞したマーティン・スコセッシ監督。彼はNYのリトル・イタリー生まれということからもわかるように、イタリア・シチリア島移民の子でルーツのイタリアを強く意識している映画人だ。その彼を案内人に、イタリアとイタリア映画をたどるという贅沢なドキュメンタリーがこの作品。4時間近い大作だが、見応え十分で満足度は高い。
作品で紹介される映画は、「無防備都市」「自転車泥棒」「揺れる大地」「甘い生活」「太陽はひとりぼっち」などなど、イタリア映画の名作がずらりと並ぶ。個人的にはロッセリーニの「ストロンボリ」について語ってくれているのがうれしい。
イタリア映画の歴史を知る資料的価値が高いのは言うまでもないが、スコセッシ自身の人間性も垣間見えるところが素晴らしい。映画の保存活動にも熱心なスコセッシは、本当に映画を愛しているのだ。映画好きにおすすめしたい記録映画だ。
(2002年/アメリカ/マーティン・スコセッシ監督/原題「My Voyage to Italy/Il Mio viaggio in Italia」) ←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/
夜と霧
夜と霧
原作はヴィクトール・フランクルの同名の著書「夜と霧」。約30分の短い作品で、俳優はいっさい登場しない。
フランス映画界が誇るヌーベルバーグ、セーヌ左岸派を代表するアラン・レネ監督の代表作のひとつ。ホロコーストとアウシュビッツ収容所の記録映像資料としても一級品の価値を持つ。現在は廃墟と化したアウシュビッツ収容所のカラー映像と、生々しい虐殺のモノクロ映像の対比が強烈なメッセージ性を放ち、映画は、ユダヤ人大虐殺というとうてい許されない暴挙を告発し続ける。
目をそむけたくなる映像が次々に出てくるが、ナレーションを含め映像表現はあくまでも淡々としている。現実をそのまま突きつけられることで鑑賞者ははじめて、歴史の暗部と向き合うことができると言いたいのだろう。
ホロコーストやアウシュビッツ収容所などユダヤ人虐殺を扱った劇映画には、「ライフ・イズ・ビューティフル」や「戦場のピアニスト」など、多くの有名かつ質の高い作品が多いが、この記録映画はまったく次元が違うところに存在する孤高の傑作だ。 ←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/
アラン・レネという作家は、非常に個性的な作風だが、記録映画を作るときもその才能は他者と一線を画するものであることが分かる。
(1955年/フランス/アラン・レネ監督/仏語原題「NUIT ET BROUILLARD」)
夜と霧―ドイツ強制収容所の体験記録
極北の怪異(極北のナヌーク)
極北の怪異 (極北のナヌーク)
新企画「ドキュメンタリーの魅力」スタート!
やはり最初は、この作品を紹介しないといけない。監督のロバート・J・フラハティは、記録映画の父と呼ばれる人物だ。イヌイットの一家の生活を追ったドキュメンタリー黎明期の傑作である。
極寒の地での密着取材は、さぞや大変だったろうと想像する。氷でできた住居内での映像などは、カメラ撮影のために、特別に大きなサイズの家を作って映画用に撮影されたもの。やらせとは違うが、初期の頃から、記録映画には演出がほどこされていたことが判る。
日本公開時のタイトルは「極北の怪異」。その後のリバイバル上映や、DVD、ビデオなどでは「極北のナヌーク」となっていることが多い。これを見ずして、ドキュメンタリーは語れないとまで言われる傑作。必見だ。 ←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/
(1922年/アメリカ/ロバート・フラハティ監督/原題「Nanook of the North」)


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