ピンチクリフ・グランプリ
ピンチクリフグランプリ
ノルウェー発のスーパー・パペット・アニメ(少しづつ人形のポーズを変えて1コマ撮りをする手法)は、ハートウォーミングなストーリーと、スピード感が見所だ。主人公は人間、助手は動物(アヒルとハリネズミ)という設定は、「ウォレスとグルミット」を連想させるが、誕生は本作が先。北欧ノルウェーの、独特のあたたかみのある人形の造形と、なめらかなのに素朴な動きが魅力になっている。監督のイヴォ・カプリノは、編集・アニメーション製作・撮影もこなす才人。元家具職人だったという異色の経歴の持ち主だが、手仕事でつちかったこだわりの映像がすばらしい。
ピンチクリフ村の自動車修理工レオドルは、天才発明家。助手は、楽天家のあひるのソラン、心配性のハリネズミのルドビグで、3人は仲良く暮らしていた。ある日、レオドルのかつての弟子ルドルフが、スーパーカーでグランプリ・レースに参加するというニュースが。その車は、以前、レオドルの設計図を盗んで作った車なのだ。それを知ったレオドルと助手たちは手作りスーパーカー“イル・テンポ・ギガンテ号”でグランプリに挑むことに。果たしてレースの行方は…?
本国ノルウェーで動員記録歴代第1位を誇る傑作人形アニメは、クライマックスのレースのスピード感に大興奮。生命の息吹を吹き込まれた精緻な人形たちに目を奪われる。ノルウェー映画を変えたとまで言われるこの作品の最大の魅力は手作りの温かさだろう。家の中の家具調度品、人形たちの服や小物、スーパーカーの小さな部品にいたるまで、精緻で細やかなのに大らかさを感じる。人形劇の文化が成熟する北欧ならでは味わいを感じる傑作アニメだ。
(1975年/ノルウェー/イヴォ・カプリノ監督/原題「THE FLAKLYPA GRAND PRIX」)
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春のめざめ
春のめざめ
まるで絵画がそのまま動いているような錯覚を起こす美しいアニメーションだ。物語は、ツルゲーネフに捧げていることからも分かるように、少年の初恋を描いたもの。同時に成長物語でもある。世界の優れたアニメーション映画を紹介する、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー事業の第1弾がこの作品だ。
19世紀末、革命前夜のロシア。貴族学校に通う16才の少年アントンは、彼の家で働く同じ年ごろの少女パーシャと、隣の家に越してきた年上の美しい令嬢セラフィーマに、同時に心を奪われる。初恋を夢想し、年齢も境遇もまったく違う2人の女性の間を揺れ動くアントンだったが、現実の世界では残酷な出来事が起こってしまう…。
「老人と海」でアカデミー賞短編アニメ賞を獲得したアレクサンドル・ペトロフは、印象派の巨匠ルノワールを意識してこの作品を作ったという。通常のセルアニメではなく、油絵を用いた技法が独特で、ガラス板に油絵の具を直接指で描いたものだ。細かい部分のみ筆を使用しているが風合いはあくまで指独特のもので、繊細かつダイナミックな仕上がりが素晴らしい。
思春期の少年の心象風景を、印象派絵画のような油絵タッチの映像で描き、さすがはアニメーション大国ロシアの作品とうならせる秀作。ちなみに、ロシアアニメの巨匠ユーリ・ノルシュテインはペトロフ監督の師匠にあたり、二人の親交は深い。両者共に、作品にコンピューターは導入はするものの、あくまで仕上げに使うだけ。創作作業の基本は手作業というところに作品作りへの強いこだわりが感じられる。
(2006年/アレクサンドル・ペトロフ監督/英語原題「MY LOVE」)
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木を植えた男
フレデリック・バック作品コレクション
繊細で詩のようなパステル調の映像が素晴らしい。だが何より優れているのはこの物語のメッセージ性だ。今でこそ、エコロジーとか「地球に優しく」などという言葉がはやっているが、一過性の流行とは全く違う次元で、自然環境を慈しむリアルな思いがここにある。
この物語、実話かと思ったら完全なフィクションと知ってますます驚いた。さらに驚くのは、この原作や映画に感銘を受けて、実際に木を植え続けた人々が世界中に多数いたということ。本物の芸術は、世の中を動かすことさえ出来るのだ。
フランスの山岳地帯に住む羊飼いのエルゼアール・ブフィエは、たった一人で黙々と荒野に木を植え続けていた。彼は木を植える目的など語ろうともしない。旅をする若者がブフィエの姿を最初に目にしてから、2度の大戦が過ぎ、再びそこを訪れたのは30年後。荒れ果てた大地は緑あふれる豊かな土地へと変わっていた。木は森になり、鳥や動物を呼び、そして人々を呼び戻していたのだ。
「人間は破壊も創造もできる存在」という言葉が深く胸に響く傑作。1987年アカデミー短編アニメーション賞、受賞作。カナダのアニメーション作家、フレデリック・バックは、他にも「大いなる河の流れ」「クラック!」などの作品がある。原作はジャン・ジオノの短編。
木を植えた男
(←大型本の絵本はこちら)
(1987年/カナダ/フレデリック・バック監督/仏語原題「L'HOMME QUI PLANTAIT DES ARBRES」英語原題「THE MAN WHO PLANTED TREES」)
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ストリート・オブ・クロコダイル
Brothers Quay: Shorts
イギリス出身のスティーブとティムのクエイ兄弟による、驚愕の人形アニメーション。細部にまで病的に作りこまれ、こだわったビジュアルはときにめまいさえする。
閉鎖された博物館に迷い込んだ男が見たのは、クロコダイル通りという名の街の模型。そこに置かれた機械仕掛けの人形たちが突然動き出す。まるで観客自身がキネトスコープ(覗き見式の映像投影装置)で悪夢を見ているかのよう。老人が垂らす唾で人形が動きはじめるという発想が、シュールにして天才的だ。
映像魔術師の呼び名にふさわしいクエイ兄弟は、双子で、制作のビジョンも息もピッタリなのだろう。不気味でエロティックなパペット・アニメは、その後の人形アニメーション制作作家たちに、今も大きな影響を与え続けている。
原作はブルーノ・シュルツの短編「大鰐通り」。シュルツは20世紀ポーランドを代表する作家・画家で、ユダヤ人。ナチスによって路上で撃ち殺されるという悲劇の最期を遂げている。
(1986年/イギリス/ブラザーズ・クエイ監督/原題「Street of Crocodiles」) ←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/
シュルツ全小説
ファンタスティック・プラネット
ファンタスティック・プラネット
物語とともに独特の絵柄において記憶されるフランス発の長編SFアニメ映画の傑作。ルネサンス期の宗教絵画を連想させるが、ブリューゲルやボッシュの絵にもどこか似ている。一度見たら絶対に忘れられない絵柄というのは、アニメーションにおいて最高のインパクトだ。
架空の星を舞台に、巨人(文明人)が小さな野蛮人をペットにして、可愛がったり辱めたりしている。この小さな野蛮人こそ人間の象徴でもあり、同時に、フランスをはじめとする欧米人が支配下においたアジア人の化身だろう。不条理な悪夢と呼ぶにふさわしい物語で、“可愛らしいもの”がウケる日本のファンにはショックを与える作品だ。
ジェニファー・ロペス主演で、けれん味たっぷりの映像が美しい映画「ザ・セル」では、心理学者のヒロインが、この映画をTVで見ている。
(1973年/フランス・チェコスロバキア/ルネ・ラルー監督/原題「LA PLANETE SAUVAGE」) ←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/
岸辺のふたり
岸辺のふたり
2001年アカデミー賞短編アニメーション賞受賞作。8分の短編アニメーションだが、素晴らしい傑作だ。
セピア調の色彩に、シンプルな水彩画風の絵柄、人物の表情も見えないデフォルメされた線が独特。セリフは一切なく、アコーディオンとピアノによる音楽が、物語に静かに寄り添う。
父と幼い娘が自転車にのって、岸辺にやってくる。父は娘を岸辺に置いて、突然旅立ってしまう。娘はそれから何度も何度も、川岸を訪れるが…。いなくなった父を想い、岸辺に立つ少女時代から、恋をして大人になり、やがて老いていくまでを叙情的なタッチで描くスタイルは、繊細で感動的でさえある。10分にも満たない短い作品だが、2時間の映画に匹敵するクオリティの高さだ。
映画はDVDで鑑賞できるが、絵本も味があるので、機会があったらぜひ。 ←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/
ちなみに、本の翻訳は、「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で映画デビューした、うちだややこ(樹木希林の実娘、映画では漢字で内田也哉子と表記)が、翻訳を担当している。
(2000年/オランダ/マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィッド監督/英語原題「Father and Daughter」)
岸辺のふたり―Father and Daughter
話の話
ユーリ・ノルシュテイン作品集
ユーリ・ノルシュテイン作品集Vol.1 「話の話」
新企画「アニメーションの魅力」スタート!
アニメーションと言えば、日本のジャパニメーションや、アメリカのアメコミが有名。だが、私の好みはヨーロッパのアニメーション、通称ユーロ・アニメだ。このコーナーではユーロアニメを中心に紹介していきます。まずは尊敬するこの監督の作品から。
アニメ界の巨星、ユーリ・ノルシュテイン(「ごひいき監督」の項を参照)の代表作がこれ。難解な作品だが、鋭い社会批判に満ちている。それなのに絵柄は愛らしくて癒される。まさに傑作だ。
ロシアの民話(子守歌)の中に登場するキャラクターで、子どものオオカミが狂言回しをつとめる。子オオカミが見つめながら語るのは、激動の社会変遷、戦争の悲劇、市井の人々の日常の幸福だ。見ていると、不思議な浮遊感に満たされる。
アニメショーン史上で語り継がれる名作だが、ハリウッドや日本の商業主義のアニメとは全く別物。旧ソ連には、タルコフスキーやパラジャーノフなど、判りやすい物語とは決別した優秀な映像作家が多くいて、しかも世界中に熱烈なファンを持つが、このノルシュテインもそんな作家の一人だ。
個人的には「ごひいき映画」の中で紹介している「霧につつまれたハリネズミ」が好みだが、映画の完成度、成熟、メッセージ性などはこちらが上で、この作品こそ、ノルシュテインの代表作に挙げる人が多い。 ←この記事が気に入ったら、ポチッとクリックしてもらえると嬉しいです\(^o^)/
(1979年/ソ連/ユーリ・ノルシュテイン監督/原題「Skazka Skazok/The Fairy tale of Fairy tales」)


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