アート系映画の魅力
2008年05月23日

石の花5

石の花
ソ連初の長編カラー映画として、映画史に残る美しい作品。物語は、ロシア・ウラル地方の民話をもとにした幻想的なファンタジーで、戦後まもない日本でも大ヒットを記録した。

若く才能のある石工ダニーラには、美しい婚約者カーチャがいるが、妖艶な銅山の女王の妖術によって自分を失う。結婚の宴を途中で抜け出し、歳月を忘れて「石の花」を彫り続ける…。

脚本を書いたウラル出身の作家パヴェル・バジョフは、「石の花」「ウラルの石工」「銅山の女王」の3篇をまとめて映画「石の花」の脚本を作った。

テーマは、ロシア人独特のねばり強さと純真な人間愛といったところか。職人が奥義を窮めようと貪欲になる。その探究心に、「冬になると銅山に石の花が咲く。その山には地下に宝物があり、技術の奥義をきわめた女王が住んでいる」という言葉が誘惑のように響く。だが最後には、愛の力がすべての誘惑に勝るという結論で落ち着く。

主人公は孔雀石細工の石工だが「この仕事をする人間は名人になればなるほど、石粉を吸い込むため長生きできない」など、アスベスト被害を連想させるような、職業への目配せのセリフがあったりするから驚いた。物語は他愛ない教訓話だし、フィルムそのものも古いので映像的には素朴な技術なのだが、ハリウッドや日本とは異質の、初期のソ連映画独自の色彩に圧倒される。光り輝く石の花の映像、神秘的な森の様子、現われては消える女王の美しい姿など、カラー映画創世記の技術を駆使した映像には、ウラル地方の風土性も取り込まれている。技術的には、ソ連が終戦時接収したドイツのアグファ社のテクニックを使用し撮影されたものだ。

「映像の魔術師」と呼ばれたアレクサンドル・プトゥシコ監督の幻想と詩情あふれる美しい映像が堪能できるファンタジーの名品だ。

(1946年/ソ連/アレクサンドル・プトゥシコ監督/原題「KAMMENNYI TSVETOKA/A STONE FLOWER 」)

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2008年04月02日

BLUE ブルー5

ブルー
スクリーンに映し出されるのは、75分間、最初から最後まで全編青一色。画像は全くない。音楽とナレーションが映像に添えられているが、言葉は非常に瞑想的で、詩、散文の朗読、命を落とした友人の名などが語られる。ゲイを人生と映画のテーマにした異才デレク・ジャーマン監督の遺作がこの映像詩「BLUE ブルー」だ。

エイズによる合併症の末期状態だったジャーマンは、製作当時、ほぼ盲目だったという。視力を失って自分の病を見つめるにあたり、「青」という色にたどり着いた。淡々としたナレーション、自らの人生、友の思い出、エイズ患者に対する世間の仕打ちへの嘆き、死への想いなどが語られ、いつのまにか引き込まれる。感情をこんな風に映像表現できるとは驚きだ。これは孤高のアーティストが自ら奏でるレクイエムなのだ。

サウンドトラックは、サイモン・フィッシャー・ターナー。
声は、ジョン・クェンティン、ティルダ・スウィントン、ナイジェル・テリーなど、ジャーマン作品でおなじみの俳優たち、そしてデレク・ジャーマン自身が担当している。
色調から、仏の画家イヴ・クライン(単色の作品を制作するモロクロニズムを代表するアーティスト)へのオマージュと言われている。

青についての随想と詩によって、ジャーマンが入院中に書いたエイズとの苦しい闘病について静かに語られるが、時折回復する視力がかえって痛ましい。これは彼の悲痛な遺書なのだが、根底には愛を感じるから不思議である。あまりに風変わりな映画で、決して万人には勧められないが、究極の映像表現という意味で、ぜひ紹介しておきたい作品である。デレク・ジャーマンは1994年2月にエイズで死去した。

(1993年/イギリス/デレク・ジャーマン監督/原題「Derek Jarman's Blue」)

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2007年09月12日

ひなぎく5

ひなぎくひなぎく

共産圏だった東欧の国の映画に、こんなぶっ飛んだ可愛いらしいガーリー・ムービーがあることをまず知ってほしい。反体制の気運を遊び心で表す映画的センスは、ほとんど奇跡だ。ポップな映像で活写されるお話は、東欧のヌーベルバーグと呼びたくなる。

ひなぎくの花言葉は“貞淑”。ただしこれはチェコでの意味のようで、この花には、純潔、無邪気、お人好し、無意識、幸福、明朗など沢山の花言葉がある。

自分たちのしたいことだけを、周囲の迷惑などかえりみず徹底的に楽しむ姉妹が主人公。ストーリーは、この姉妹がサイケなおしゃれとおしゃべりで大騒ぎ、おいしい物をたらふく食べて、男をだまして、スタコラと逃げてしまうというハチャメチャなもの。痛快だ!

牛乳のお風呂に入り、グラビアを切り抜くうちにお互いを切り刻んでバラバラに…など、シュールな場面も多い。色や形をわざとズラしてみたり、劇中に出てくるオブジェも前衛的センスを感じる。モノクロとカラーを使い分けるなど、映像的にもかなり凝っている作品だ。何といっても、金持ちの宴会に勝手にもぐりこんで、さんざん飲み食いしたあげくに唐突にENDになるところが良い。

同時に“プラハの春”の時代の、重い政治思想を跳ね飛ばして民主主義への渇望を訴える、いたって真面目な思いが透けて見えるのだ。事実、ヒティロヴァ監督は当局ににらまれて創作活動を制限されたりしながら、映画を作り続けた反骨の人である。

60年代に生まれた元祖“女の子ムービー”だが、衣装や小道具などの造形といい、今見てもまったく遜色がない。アヴァンギャルドなアート・シネマとしてぜひ楽しみたいところだ。

(1966年/チェコスロバキア/ヴェラ・ヒティロヴァ監督/原題「Sedmikrasky」)

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2007年05月10日

ベイビー・オブ・マコン3

ベイビー・オブ・マコンベイビーオブ・マコン

豪華なタペストリーのような作品である。ルネサンス時代の名家メディチ家の末裔が、目の前で演じられる宗教劇の舞台に乱入、現実と虚構が入り乱れる。

宗教色全開だが、その内容はかなり背徳的。17世紀のイタリア、フィレンツェを舞台に、利権をむさぼる教会、狂気におちいった名家の領主、舞台での出産と、次々に狂乱が演じられる。赤子はまさにキリストのごとく全ての罪を背負って人々の犠牲になる。赤を基調とした目がくらむような舞台美術が圧巻。シンメトリー(左右対称)を好むグリーナウェイだが、この作品では絵画的構図にこだわりが見える。

グリーナウェイ作品は残酷描写もあってアクが強く、好みがはっきりと分かれる。しかし、好きか嫌いかはとにかく、作家自身の豊かな教養がにじみ出る作風はクセになるだろう。グリーナウェイという映画作家は、本物の贅沢とは何かを知っている人だ。

(1993年/イギリス/ピーター・グリーナウェイ監督/原題「The Baby of Macon」)

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2007年04月12日

カラヴァッジオ4

カラヴァッジオ

イタリアに生まれた天才画家ミケランジェロ・メリシ・カラヴァッジオの生涯を、独特の美意識と大胆な解釈で描く伝記映画。

16世紀後半のイタリアに実在した画家カラヴァッジオは、娼婦や浮浪者などをモデルとして宗教画を描き、教会からにらまれていた。果ては酔ったあげくの殺人事件を起こし、ローマから逃亡。マルタ島やナポリなどに身を隠すという、前代未聞の放蕩の画家だ。ただし、画才は天才的で、独特の明暗の激しい劇的な絵画は神々しさを漂わせている。

映画の物語は、画家の人生の忠実な再現ではないが、ほぼ全編を室内で撮影された映画は、カラヴァッジオが描いた絵画の構図をそのまま写したかのような静けさを漂わせていて、非常に魅力的。ジャーマンのミューズ、ティルダ・スウィントンの中性的な魅力が映画をいっそう引き立たせた。全てのジャーマン作品に共通する、同性愛嗜好と、時代設定を無視した美術や音楽なども健在。映画と絵画の両方が楽しめるまさにアートな1本といえる。

86年度ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作品。
出演は、ナイジェル・テリー、ショーン・ビーン、 デクスター・フレッチャーなど。
(1986年/イギリス/デレク・ジャーマン監督/原題「CARAVAGGIO」)

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2007年01月11日

ざくろの色5

ざくろの色

新企画「アート系映画の魅力」スタート!

73分と短い上映時間を8章に分けて構成。18世紀のアルメニアの宮廷詩人サヤト・ノヴァの生涯を扱っているが、冒頭に「これはサヤト・ノヴァの伝記ではない」ときっぱり宣言。イメージでつむぐ映像詩であることがわかる。まさにアートだ。

溢れる色彩の洪水。セリフはほとんどなし。パントマイムのような役者の演技。絵画を見ているかのような錯覚を覚える。もしやこれは映画の源ではないのかとさえ感じる豊かで個性的な表現手段だ。

映像はしびれるほど美しく、特に色彩がすごい。アルメニア、グルジアなどの、旧ソ連の中でも独自のエスニック性を前面に押し出している。ファッションの面からも注目に値する映画だ。冒頭の、ざくろの赤が画面ににじむ場面でグッと引き込まれる。

セルゲイ・パラジャーノフ監督は、旧ソ連時代に何度も当局と対立し、時には投獄されながらも映画作りに執念を燃やした人。あのゴダールも彼には影響を受けたと明言しているほど、映画人からリスペクトされている。

官能と幻想の世界で構成される魔法のような映画が「ざくろの色」なのだ。同監督の「火の馬」もぜひ。

(1971年/ソ連/セルゲイ・パラジャーノフ監督/英語原題「THE COLOR OF POMEGRANATES」)

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