映画通信シネマッシモ


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

映画レビュー2007

映画レビュー「その名にちなんで」

その名にちなんで (特別編) [DVD]その名にちなんで (特別編) [DVD]
◆プチレビュー◆
アメリカで暮らすインド人家族の絆の物語は、不思議な温かさと深みがある。名前に込められた父の思いとは? 【80点】

 インドのコルカタで列車事故に遭ったアショケは手にした本のおかげで九死に一生を得る。その後、料理と英語が得意な美しい娘アシマと見合い結婚し、NYで暮らし始める。だが、米国生まれの子供たちとはカルチャー・ギャップが生じてしまい…。

 自分の名前に込められた両親の深い愛情が、やがてアイデンティティーの確立へと結びつく。あるインド人移民家族の絆を描くこの物語は、とても普遍的だ。異国の地で暮らす夫婦が、小さな喧嘩や習慣の違いを乗り越えて確かな信頼を築いていく様子が好ましく、いつしか共感を覚えてしまう。二人を固く結ぶのは遠く離れても決して忘れない故郷インドの存在だ。一方、アメリカで生まれ育った子供たちは、インド人でありながら考え方は米国そのもの。親も戸惑うが、自分の拠り所に確かなものを見出せない子供たちのやるせなさも理解できる。世代と文化の溝に悩む家族の物語の原作は、ピュリツァー賞作家ジュンパ・ラヒリのベストセラー小説だ。

 この映画で初めて知ったが、インドでは生まれてからしばらくの間、名前を付けなくてもOKらしい。ただしアメリカに住むインド人夫妻の子供は名無しというわけにはいかない。そこで息子に付けた名が、ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリから取った“ゴーゴリ”だ。この小説家は天才だが、皮肉屋で変人、一生のほとんどを異国の地で暮らした孤高の人である。米国生まれのインド系なのにロシア人の名の息子は、自分の名前が大嫌いだ。この名のせいで、からかわれてきた彼は、米国風の名前に変えたがる。最初は息子の希望に「好きにすればいい」と言った父だったが、ある時、自分は若い頃、列車事故に遭って、ゴーゴリの「外套」の切れはしを握り締めていたおかげで救出されたのだと息子に語って聞かせる。命が助かったことに次ぐ奇跡が、子供の誕生だったという父の思いが息子に伝わり感動的だ。ゴーゴリは名前の由来を聞いてから、それまで疎ましく思っていた自分の名に誇りを持ち、両親が自分に託した希望を感じ取る。アメリカナイズされたはずの彼が、自らのルーツであるインドを強く意識し始めたのはそれからだ。家族の死、恋人との別れ、結婚と離婚。節目にさしかかるたびに、故郷インドとの再会があった。

 原題は“他人の名をとって名付けられた人”の意味。ひとつの名前からスケールの大きな家族の物語をつむぐ構成が素晴らしい。また、最初は父のアショケ、次は母のアシマ、それから息子のゴーゴリと、次々に視点が変わるのに、物語はまったくブレることはない。最も大きなウェイトを占めるのはアシマだが、登場人物のどの位置からもストーリーの道筋が見える。まるでとうとうと流れる大河のようだ。時にその流れは、両岸の堆積物や浮遊物を取り込み、でも方向を見失うことなく、ゆったりと進んでいく。人生も同じだ。楽しいこともつらいことも理解できないことも起こるが、どんな時も愛する人の手をしっかりと握っていれば怖くない。国際的に活躍する女性監督ナーイルは、ストリート・チルドレンや若者の結婚観からインド社会をみつめてきたが、そのまなざしは決して告発調ではなく、どこか楽観的で温かい。この人の中では、西欧とアジア、伝統と革新は対立せず、渾然一体で存在している。ましてや優劣を競うものではないのだ。母アシマを演じる女優タブーの驚くほどの美しさ、インド特有の華やかな祝祭の高揚感。この映画には、母性にも通じる大らかさがある。見終われば、アショケとアシマ夫妻の大きな愛情に包まれたかのような幸福感を覚えた。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)家族愛度:★★★★★

□2006年 アメリカ・インド合作映画 原題「The Namesake」
□監督:ミーラー・ナーイル
□出演:カル・ペン、タブー、イルファン・カーン、ジャシンダ・バレット、他

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映画レビュー「アイ・アム・レジェンド」

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◆プチレビュー◆
古典SFの3度目のリメーク。無人の大都市NYのビジュアルが素晴らしいが、終盤の展開は物足りない。 【60点】

 西暦2012年。ウィルス感染で人類が滅び、唯一人生き残った科学者ネビルは、廃墟と化したNYから生存者に向けて無線でメッセージを送り続けていた。だが応答はない。夜行性の謎の生命体と戦い、想像を絶する孤独に耐えるネビルだったが…。

 困った映画だ。3回目のリメークだが、一応、オチがあるので、ストーリーは詳しくは語れない。主人公ネビルは、ウィルスのワクチンを開発する軍所属の学者で、科学的知識と戦闘能力を兼ね備えた人物だ。彼は、絶望的な状況の中で、殺人ウィルスの感染者が変異した闇の生物“ダーク・シーカーズ”を治療するための薬の研究を、たった一人で続けている。ネビルは、ワクチンを開発できず人類を救えなかった罪悪感を抱えているのだ。そんな正義感あふれる主人公を演じるのが、ウィル・スミスである。旧作と最も違う点は、このネビルの人間描写が丁寧なことだ。

 地球上でひとりぼっち。もし自分がそうなったら…と想像するだけで怖い。だが、このモチーフの抜群の面白さに比べ、後半の展開に魅力が薄いのだ。地球規模の災厄の後なのに、ライフラインがバッチリ整っていることへのツッコミはこの際やめておこう。物語は、はたして生存者はいるのか?というミステリアスな要素より、アクション系サバイバルのテイストの方が濃くなってしまっている。ネビル一人に免疫がある理由をもっと明確にして、そこに謎を込めることも出来ただろうに。そのサバイバル・バトルの相手、ダーク・シーカーズは、旧作では、出来損ないのゾンビが集まって作ったKKK風カルト集団のようで苦笑したものだが、今回は余計な言葉を発せず凶暴さと不気味さをグレードアップ。宗教臭さが無くなっているのはありがたい。とは言え、主人公が人類再生の鍵と信じる闇の生物に、ただ敵という役割だけを与えるのは、いささか片手落ちだ。ラストの落とし前も、方法は違うが旧作と同じスピリットではないか。せっかく21世紀にリメークするのだ。もっと大胆な新解釈があってもいいはずである。大風呂敷を広げた割に、オチはこれ?と文句のひとつも言いたくなった。これでは、来日時にネタバレしたウィル・スミスを責める気にもなれない。

 不満ばかり並べてしまったが、見所がないのかと言えば、決してそんなことはない。まず、主演のウィル・スミスの硬軟使い分けた演技が堪能できるのが嬉しい。主人公は唯一の相棒の愛犬と車に乗り、無人で荒れ果てた街を行く。食料となる鹿を追い、公園で野菜を育て、誰もいない店でマネキンに話しかけながらDVDを“借りる”。ほとんど一人芝居に近い演技をこなすスミスの上手さを改めて確認できる。ヒーローが似合う役者だが、SFやアクション、ラブコメディから人間ドラマまで、彼の守備範囲は広いのだ。アスリートのようにたくましいウィルが、打ち捨てられた軍用機の翼の上でゴルフをする様子はちょっと絵になる光景である。もう一つの見所は、廃墟になったNYのユニークなビジュアルだ。虚無感を漂わせつつ、街全体が自然に飲み込まれたように作り込んだ造形美が何ともクールで素晴らしい。地球の荒廃が宇宙からの異生物などではなく、人間自らがまいた種で引き起こされた皮肉。その上、人の気配がなく、原始に立ち返ったような大都会の光景が、映画の中で最も強い魅力を放つとは…。やっぱりこれは困った映画である。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)恋愛度:★☆☆☆☆

□2007年 アメリカ映画 原題「I AM LEGEND」
□監督:フランシス・ローレンス
□出演:ウィル・スミス、アリス・ブラガ、サリー・リチャードソン、他

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映画レビュー「エンジェル」

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◆プチレビュー◆
強い上昇志向でセレブの仲間入りを果たした女性の成功と転落。華やかな映像が美しいが、オゾンらしさは薄い。 【65点】

 20世紀初頭のイギリス。貧しい生まれのエンジェルは、上流社会への強烈なあこがれを基に小説を書き、作家としてデビューする。大成功を収めた彼女は、豪邸を購入し貴族出身の画家エスメと結婚するが、やがて夫の驚愕の事実を知ることに…。

 男性なのになぜか女を描くのに長けた監督がいる。温かに、ユーモラスに、時には意地悪に。女性の長所も短所もちょっと冷めた目線で捉えるのが共通点だ。複雑な女心を巧みに描く監督は、例えば日本の成瀬巳喜男、米国のゲイリー・マーシャル、スペインのペドロ・アルモドバルあたり。若き巨匠の風格を漂わせる仏人監督フランソワ・オゾンもそんな映像作家の一人だ。モラルを無視した独特のストーリーテリングと、人間の深層心理を深くえぐる演出がこの人の身上である。観客の口をポカンとあけさせたり、謎を残したままジンワリと終わってみたりと、説明し難い微妙な余韻が楽しみで、ファンは彼の新作を待っている。だが、はたして本作は?これが何ともまっとうな作品だった。主人公エンジェルは自称天才の勘違い女だが、彼女が望むのは冨と名声と愛。いたって普通の願いではないか。

 エンジェルは大衆にウケるロマンス小説を書いてベストセラー作家となるが、批判にはいっさい耳を貸さない。その態度は、不遜というより天然に近い。根拠のない自信こそが彼女の武器だ。エンジェルは貧しい出生を隠し通すために自分の人生を嘘で脚色していく。父は貴族、母は名ピアニストと語り、夫の死因を捏造するその姿は、滑稽で哀れだ。小説と現実はいつしか混同し、それが彼女を本当の幸せから乖離させる。そんなヒロインの性格設定を効果的に表すのは、往年のハリウッド映画のような色彩だ。豪奢な衣装が数多く登場するが、エンジェルが一人で自分と向き合うときは白い服であることに注目したい。彼女は何色でもなく、油断するとすぐにくすんでしまう脆い存在だ。認めたくない現実を封じ込めるには、たとえ不吉であろうと時代遅れであろうと、強い色が必要なのである。終盤、主人公は、人生のどんでん返しを味わうことになるが、そこで効いてくるのは売れない画家の夫エスメがエンジェルに言った「君には真実がない」という言葉だ。ヒロインは空想の世界に逃げ込み、決してそこから出ようとしなかった。幼い頃からあこがれた豪邸“パラダイス”が、彼女を縛る牢獄に見えてしかたがない。私たちは、映画を見ながら、成功へと駆け上ったエンジェルが、どういう風に転落していくのかを興味津々で見守ることになろう。

 観客が共感できない傲慢な主人公に、オゾンはいつも特別な罰と辛辣な慰めを与えてきた。だが、この作品では、ヒロインにそっと寄り添い、オゾン流の優しさを見せている。エンジェルを軽蔑する編集者の妻シャーロット・ランプリングに「小説は認めないけれど、大した女性だわ」と言わせるのがその証拠だ。ちなみに、この映画の主人公は、今は本国イギリスでも忘れられた、当時の流行作家をモデルにしている。自分が生きている間に成功を収めるエンジェルは時が経てば忘れられる商業作家。一方、夫エスメは死後に画家として評価が上がる孤高の芸術家だ。アーティストとして、人間として、どちらが幸せか。そしてこの映画「エンジェル」は、永遠に映画ファンの記憶に残る作品か。そんな疑問が映画監督オゾンの脳裏をよぎったに違いない。この物語では、いつになく同情混じりの穏やかなまなざしでヒロインをみつめている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)毒気度:★★☆☆☆

□2007年 ベルギー・英・仏合作映画 原題「ANGEL」
□監督:フランソワ・オゾン
□出演:ロモーラ・ガライ、サム・ニール、シャーロット・ランプリング、他

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映画レビュー「ベオウルフ/呪われし勇者」

ベオウルフ/呪われし勇者 劇場版 [DVD]ベオウルフ/呪われし勇者 劇場版 [DVD]
◆プチレビュー◆
最古の叙事詩と最新の技術が出会った伝説の英雄物語は、因果応報を思わせる。虚と実の狭間の映像が独特。 【60点】

 6世紀のデンマーク。怪物グレンデルを退治するべく勇者ベオウルフが海を越えてやってくる。壮絶な死闘の末に勝利するが、そこには怪物の母の恐ろしい誘惑と呪いが待っていた…。

 奇妙な違和感が漂う映画である。「何かがヘン…」と落ち着かない気分が、まとわりついて離れない。まずはその映像の質感だ。ロバート・ゼメキス監督は「ポーラー・エクスプレス」でモーション・キャプチャーという技術を披露したが、本作はそれをさらに緻密に進化させたパフォーマンス・キャプチャーというもの。センサーを付けた役者の演技をコンピューターに取り込み、自由に加工してグラフィック化する新媒体のCGアニメだ。本物の俳優に薄気味が悪いほど似ている顔つきとは裏腹に、動きはどこかぎくしゃくしている。荒々しい英雄物語であるはずの本作の映像を見たとき、私は奇しくも、シュレックが「300(スリーハンドレッド)」を演じているような錯覚を覚えたものだ。カッコいいのか、可愛いのか、気持ち悪いのか、どうにもハッキリしない。一方、人間とは異なるクリーチャーの造形は、迫力かつゴージャスなもので目を見張る。違和感の理由のひとつは、この曖昧さに満ちたビジュアルだ。

 不可思議な映像に何とか慣れた頃、次なる違和感がやってくる。物語がこれまた奇妙なものなのだ。原作は、英語で書かれたものとしては最古の叙事詩。「指輪物語」のトールキンが評価するまでは、欠点の多い荒唐無稽な冒険物語と捉えられていた。作者不明のその詩で省略されている細かい描写を、映画では大胆な脚本で自由に埋めている。直情型のベオウルフは、乳離れしてない怪物グレンデルと闘うに当たり、突如“脱ぐ”。理由は「怪物相手に剣は通用しない」というもの。それならば剣を置くだけでいいのでは…と言いたいが、そんなことはお構いなしで素っ裸で大暴れする。目のやり場に困るというより、この映画の方向性を見失いそうで動揺した。もしかしてギャグなのか?!気を取り直して物語に戻ってみると、部下の半数を失う大乱闘の末に、手負いの怪物を取り逃がすというていたらくではないか。だが瀕死の怪物とその母を退治しに洞窟へ入ったときこそ、本当の呪いの時だった。怪物の母は、ベオウルフへの復讐に燃えつつ、彼を誘惑。沼からぬうっと現れる美女は全裸でしかも金色だ。素足のかかとに生えたヒールがちょっとクールだが、どこから見ても怪しい。この母を怪演するのが、最近、セクシュアリティのありかが不明瞭なアンジェリーナ・ジョリーである。いささか思慮に欠ける勇者ベオウルフは、この子持ち女が提案する、権力と冨の誘惑に負けてしまう。所詮この世は色と欲なのか。最古の叙事詩に漂うアイロニーには、北国特有の暗い思想を感じてしまう。モラルに欠ける英雄というキャラも、矛盾に満ちていて興味深い。物語は、呪いの約束から、一気に老ベオウルフのドラゴン退治へ。省略と飛躍も違和感の正体だった。

 さて、この風変わりなファンタジーを見て頭に浮かぶのは、映画の本質とは?という疑問だ。いきなり大げさだが、結局、映画というのは、虚と実の間を揺れ動きながら存在しているもののような気がするのだ。この作品は、リアルとバーチャルの間の奇妙な感覚をすくい取っている。178センチの小太りのレイ・ウィンストンを198センチの引き締まったマッチョなベオウルフに変えてみせるゼメキスの手腕はどうだ。いかがわしい錬金術のような楽しさは、映画の醍醐味のひとつ。この作品も、叙事詩などと固いことは考えず、ファンキーな珍作として味わってみてはどうだろう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)因果応報度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「BEOWULF」
□監督:ロバート・ゼメキス
□出演:レイ・ウィンストン、アンソニー・ホプキンス、アンジェリーナ・ジョリー、他

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映画レビュー「マイティ・ハート/愛と絆」

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◆プチレビュー◆
パキスタンで誘拐・殺害されたジャーナリストとその妻を描く実録社会派映画。アンジーの熱演が見所。 【70点】

 2002年、パキスタンのカラチで取材中のウォールストリート・ジャーナルの記者ダニエル・パールが誘拐される。妊娠中の妻マリアンヌと友人たちは、地元警察やFBI捜査官らと共に、全力で捜査を開始するが…。

 数々の話題作を配給してきたUIP映画。メガヒット「JAWS/ジョーズ」、名作「レインマン」、最近では、華麗な「ドリームガールズ」や大ヒットSF「トランスフォーマー」などで洋画を牽引してきた存在だ。大作のイメージが強いが「ユナイテッド93」のような小規模な秀作もUIP映画の作品である。この伝統ある配給会社は、2007年末で日本での37年の歴史を閉じる。前置きが長くなったが、同社の最後の配給作品になるのがこの「マイティ・ハート/愛と絆」だ。ブラッド・ピット製作、アンジェリーナ・ジョリー主演と聞けば華やかだが、作品は意外なほど地味で硬派な社会派映画である。英国の実力派マイケル・ウィンターボトム監督は、記録映画のような生々しさと、叙情的な美しさを作品に込めながら、アルカイダと推察されるテロリストによる誘拐事件を、夫の無事を信じ続ける妻の強い愛情を中心に演出した。

 映画の最大の魅力は、マリアンヌを演じるアンジーの、静かな熱演だ。平和活動家でもある彼女には、思い入れの強い役柄だろう。映画製作中にアルカイダから脅迫状が幾度届いてもそれに屈せず、作品を世に出した勇気と、恋愛もアクションもない地味な作品に、損得抜きで全力投球した熱意は本物だ。マリアンヌは、夫が誘拐された時、妊娠5ヶ月。どれほど不安だったか想像もできない。心身ともに極限状態にありながら、決してあきらめない意思の強さは並み外れたものだ。彼女を支えたのはおなかに宿る小さな命。子どもの存在は、それだけで女性を何倍も強くするのだと改めて思う。だが、そんなマリアンヌが、心がくじけそうな時「南無妙法蓮華経」とお題目を唱えるシーンは、感動していた気持ちに水を差した。日本と欧米における創価学会のイメージの差異はひとまず脇に置くとして、実際、宗教はこの誘拐事件を必要以上に複雑にしている悪しき要素なのだ。パキスタンは国民の大半がイスラム教徒。そこにはアルカイダの極端なジハード思想も存在する。おまけにダニエルは彼らが忌み嫌うユダヤ系だ。当時の国際情勢も、インドと敵対するパキスタンの思惑や、アメリカとの関係性など、一筋縄ではいかない。宗教と政治がからみついた時、歴史は常に悲劇を引き起こしてきた。なるほどパール家では、異なる人種や宗教が共存するが、それはごく小さな特殊な世界のこと。神頼みするほどの窮地なのは分かるが、この事件の渦中でジャーナリストが宗教にすがる心情は納得できない。

 どこかスッキリしないこんな思いを一気に吹き飛ばすのが、物語後半に登場するマリアンヌの2つの叫びだ。まず、夫の命が遂に尽きたと知ったときの身を絞るような慟哭(どうこく)。言葉にできない悲しみがスクリーンににじみ、結果を知っていても涙を誘う。もう一つは出産時の生みの苦しみの叫び声だ。激しさは同じだが、死と生、絶望と希望が、表裏一体で呼応している。共にジャーナリストであったダニエルとマリアンヌのパール夫妻は、危険な取材には何度も遭遇しているだろう。色々な意味で、覚悟がなければ務まらない職業で、マリアンヌは今もフランスでこの仕事を続けている。憎しみに負けなかった一人の女性を通して映画が語ったのは、混迷の時代を生きる難しさだ。だが、同時に見えるかすかな希望を私たちは見失いたくない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)母は強し度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「A MIGTHY HEART」
□監督:マイケル・ウィンターボトム
□出演:アンジェリーナ・ジョリー、ダン・ファターマン、アーチー・パンジャビ、他

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映画レビュー「ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた」

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◆プチレビュー◆
若いウェイトレスが望まない妊娠で自分自身に目覚める温かい物語。沢山のパイが主人公の思いを伝えてくれる。 【70点】

 田舎のダイナーで働くジェンナは、パイ作りの名人。嫉妬深い夫アールに悩まされながら、半ばあきらめたように単調な日々を送っていた。ある日、妊娠が発覚し病院に行くが、担当医と恋に落ちてしまう…。

 1本のハートフルドラマがサンダンス映画祭で大絶賛。大作・話題作に混じってボックスオフィスを賑わせた。地方の小さなクラブチームが、大都市のビッグクラブを破るかのような快進撃で、映画ファンの注目を集めたから痛快である。そんな話題の映画とは、ド田舎でショボい毎日を送る主婦のお話だ。主人公ジェンナはまだ若く美しいのに、人生すっかりあきらめモード。それというのも異常に嫉妬深い夫アールに何から何まで支配されているからなのだ。パイ作りの名人の彼女が隣町のパイ・コンテストに出たいと頼んでも「俺だけのためにパイを焼け!」と怒鳴って町を出ることさえ許さない。米国南部の田舎町には今でもこんな男尊女卑的な空気が残っているのか、目ぼしい企業もないシケた町でどんより暮らす人々が、リアルに見える。そんなジェンナの変化は、大嫌いなはずの夫の子供をなりゆきで身ごもったことだ。とりあえず行った産婦人科で担当医と衝動的に不倫してしまう。これが彼女を自立に導く起爆剤になるからおもしろい。

 女性にとって結婚・妊娠・出産は、人生という長いリーグ戦の中での特別な試合。望まない妊娠は、ジェンナの足元に来たイレギュラーなバウンドのボールだ。だが、彼女はその球をむやみに蹴り出したりせず、タッチライン際で活かしてみた。ここにジェンナの勝機がある。でも、家出を企てても失敗するような不器用な彼女のゲームプランが全く読めない。暴力亭主をブチ殺す?不倫相手と逃避行?もしや宝くじにでも当たるのか?!それは映画を見てのお楽しみだが、攻められっぱなしのゲームの中で奮闘していたジェンナが、鮮やかなカウンターを決めて得点すると言っておこう。それは女性にだけ許される激変の果ての力強いシュートだ。不幸なのは全部亭主のせい!などと考える自分にサヨナラした時、本当に目指すべき夢のゴールが見える。もちろんそこにはジェンナを陰で支えてきたダイナーのオーナーや、何でも相談できる同僚たちの優しいアシストがあったことを忘れちゃいけない。ジェンナの選択と映画ならではの甘い追加点に、試合を見守った観客は惜しみない拍手を送るだろう。

 物語を引き締める名審判の役割を担うのは、劇中に登場するパイの数々。パイに想いを込める妄想気味のヒロインは、さまざまな材料を使いながらユニークな名前を付ける。恋するチョコパイ、憎き亭主パイ、アールの赤ん坊なんていらないパイといった具合だ。どのパイもカラフルだが、いかにも大味なアメリカ風。全てがおいしそうとは思えないのだが、それもまた人生を反映して頷ける。さしたるスター俳優もいない低予算映画を、ハートウォーミングな物語に仕上げたのは、女優で監督のエイドリアン・シェリーである。実は彼女は、2006年、不幸なトラブルに遭遇し、40歳の若さで他界した。「ウェイトレス」は、彼女の日本での監督デビュー作にして遺作になってしまった作品なのだ。現実は残念な経緯になったが、彼女が映画で残したのが希望に溢れた愛すべき物語だったことを、どうしても付け加えておきたい。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)グルメ度:★★★☆☆

□2007年 映画 原題「WAITRESS」
□監督:エイドリアン・シェリー
□出演:ケリー・ラッセル、ネイサン・フィリオン、シェリル・ハインズ、他

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映画レビュー「ボーン・アルティメイタム」

ボーン・アルティメイタム 【VALUE PRICE 1800円】 [DVD]ボーン・アルティメイタム 【VALUE PRICE 1800円】 [DVD]
◆プチレビュー◆
まれに見る出来の良さで3部作をしめくくる人気アクション・シリーズ完結編。気合の入った映像は興奮もの。 【85点】

 記憶を失くし、愛する人を奪われた、最強の暗殺者ジェイソン・ボーンは、自分を亡き者にしようとしている組織に立ち向かうことを決意する。自らのルーツと陰謀の真相を知るために、彼が最後にたどり着いた場所はNYだった…。

 映画史上屈指のスパイ・アクション映画がついに完結してしまうかと思うと、感無量だ。最初は、マット・デイモンにアクション映画なんて務まるのか?との危惧があったことなど、今や笑い話。精悍に鍛えた肉体で、知的でクールな主人公を演じるデイモンには、女性ファンばかりでなく男性さえも見惚れるだろう。この俳優、お世辞にも美形とは言い難いのに、どういう訳か絶大な人気がある。ガキッぽい顔でも頭脳は明晰、写真ではヘンな顔なのに動き出した途端に魅力を発する。アンバランスな危うさがウケるのでは…と密かに分析しているのだが、やはり真面目な役作りから引き出すリアルな演技が評価されての人気だろうか。ともあれ、ヤワな好青年を闘う男のイメージに変えた人気アクション・シリーズは、主人公がCIAの暗殺者、その上、殺人兵器として利用されていたことが判明し、いよいよ核心に迫ってきた。最終章、ボーンは、自分を執拗に狙う組織と対峙しようと心に決める。鍵を握るのは、恐ろしいCIA極秘プロジェクトだ。全ての記憶を取り戻した時、ボーンは組織に最後通告(アルティメイタム)を叩きつける。それは愛さえも諦めた悲壮な決意だ。

 シリーズの醍醐味である大掛かりな追跡劇は今回も健在である。モスクワ、ロンドン、マドリッドと、観客を次々に世界の大都市へと連れて行く。中でも一番の見所はモロッコのタンジールだ。ここで組織が差し向けた殺し屋と壮絶なチェイスが繰り広げられるが、狭く入り組んだ路地、特徴ある建物など、エキゾチックな景観を最大限に活かしつつ、細かいカット割で激しいアクションシーンを連打する。画面から溢れる気合たるやハンパじゃなく、まばたきする時間さえ惜しい。屋根から屋根へ飛び移り、遂にはガラス窓を破って直接向かいのビルへ飛び込むボーン。演じるデイモンはもちろん、それを追うカメラまでジャンプする躍動感に、興奮必須だ。無駄な動きは一つもなく、全て次の行動へと続く意味がある。ドキュメンタリータッチを得意とし、手持ちカメラを駆使するグリーングラス監督の映像作りの腕は一級品だ。

 ただ、忘れてほしくないのは、この映画の魅力が上質のアクションだけではないということ。観客を何よりも惹きつけるのは、ジェイソン・ボーンの人間的な魅力だ。彼は現実離れした武器など持たず、常に身近なものや情報を利用しながら、頭脳で難局をかいくぐる。一方で、記憶は失くしても全て身体が覚えている超人的な能力に、自分がやってきた罪の深さを感じてもいる。そのため、敵の正体と真意が見えない戦いの中で、無益な殺しは極力避ける。ボーンの本質は善であり、争いごとなど望んでいないのだ。そんな彼の自分探しの旅の果てにある真実が痛ましいが、彼はそれから決して逃げたりしない。強い意志と悲しみを秘めて闘う男。この姿が私たちの胸にグッとくる。主人公を熱演するマット・デイモンはもちろん、脇を固める俳優たちも渋い実力派で磐石だ。高いエンタテインメント性と、人間ドラマとしての深みを3作を通して維持した、アクション映画の傑作だと確信する。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スピード感度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「THE BOURNE ULTIMATUM」
□監督:ポール・グリーングラス
□出演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、ジョアン・アレン、他

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映画レビュー「長江哀歌(エレジー)」

長江哀歌 (ちょうこうエレジー) [DVD]長江哀歌 (ちょうこうエレジー) [DVD]
◆プチレビュー◆
三峡ダム建設現場を訪れた男女を通して見る現代中国の姿。水没する景勝地の貴重な記録としても価値がある秀作。 【80点】

 世界最大の三峡ダム建設のため、水没する運命にある長江の奉節(フォンジェ)。ハン・サンミンは、16年前に帰郷した妻子を探すためにこの古都にやって来た。一方、看護婦のシェン・ホンもまた、音信不通の夫を捜しに来るのだが…。

 長い長い中国の歴史の中でも三峡ダム建設は、万里の長城以来の国家的大事業。水を湛えた巨大ダムが完成すれば、立ち上る水蒸気でアジアの気象までも変わると言われているのだから、その規模の大きさが伺える。そんなビッグ・プロジェクトの中、映画は名もない個人を淡々と描き込む。そうすることで、国家や世界がじんわりと見える仕組みだ。物語は、タバコ、酒、茶、アメの4つにパートに分けて語られる。どれも庶民の日常に根ざした平凡なものばかり。人々が互いに差し出しあい、関係を深める手助けをするこれらの価値は失われ、残るのは個人の閉塞と格差社会の現実のみだ。4つの嗜好品の役割は、巨大ダム建設というイデオロギーに取って代わられる。世界一のダムは、はたして精神的支柱になりえるのか。ジャ・ジャンクー監督は、発展と変化の中で取り残される人々を、美しい映像の中に静かに収めた。時に眠気を誘うほどゆったりと流れるカメラと印象的な音楽が至福の時へと誘ってくれる。

 映画で印象を残すのは、あらゆる局面で顔を出す“対比”だ。その日暮らしの日雇い労働者と共に働くサンミンと、開発で冨を得た人々と出会うホン。李白の詩にも登場する絶景の景勝地と、建物をブチ壊す工事現場の瓦礫の山。古いものへの愛着と、新しいものへの希望。それら全てが、今、ここでしか得られない貴重な映像からしみじみとあふれ出る。善も悪もごちゃまぜになりながら、したたかにそこにあるのだ。その証拠に、住人や出稼ぎ労働者たちは、やけっぱちになりながらも、自分自身の日常のドラマに向き合って奮闘している。チョウ・ユンファに夢中の若者もいるし、怪しげなポン引きの商売も結構繁盛している。立ち退きによる保障金の駆け引きだって裏で必死に行っているに違いない。山水画の幽谷の美の空間でも、不似合いな携帯電話の呼び出し音が容赦なく鳴り響くのだ。街の水没は死刑宣告と同じだが、それでも「生」は輝いている。

 サンシンの妻はのっぴきならない借金を抱え込み、ホンの夫には愛人がいた。2人の男女のエピソードは最後まで交わらず、観客をとまどわせるが、彼らこそ激変する中国の目撃者である。経済成長と自然破壊に翻弄される庶民の日常を見つめる監督のまなざしは、細やかだ。「プラットフォーム」や「青の稲妻」の頃は、何とも垢抜けない作風が好きになれなかったが、本作の雄大な風景の中に漂う哀愁とほのかなユーモア、達観した視点には心から感心した。退屈すれすれの幽玄の世界に、ジャ・ジャンクーの、引いては中国映画の懐の深さを見た気がする。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)資料的価値度:★★★★☆

□2006年 中国映画 中国語原題「三峽好人」英語原題「STILL LIFE」
□監督:ジャ・ジャンクー
□出演:チャオ・タオ、ハン・サンミン、他
□ベネチア映画祭金獅子賞受賞

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映画レビュー「スターダスト」

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◆プチレビュー◆
一見たわいないファンタジー。でも裏側には異才の英国人原作者の皮肉めいた視線が。ベテランの脇役が豪華。 【65点】

 イングランドのはずれにあるウォール村。青年トリスタンは村一番の美女に愛の証として流れ星を取ってくると約束する。落ちた場所に行くと、流れ星は美女イヴェインに姿を変えていた。同じ頃、村の外壁の向こうの魔法の国ストームホールドでは、不老を求める邪悪な魔女や、王位継承を狙う王子たちも流れ星を狙っていて…。

 物語の中心は、流れ星争奪戦だ。魔法のロウソクやお守りの待雪草の花、空飛ぶ海賊船まで登場し、ワクワクするような冒険が繰り広げられる。こう説明すると、一見まっとうなおとぎ話だが、裏側には毒の気配が。原作者ニール・ゲイマンは、本来、ダーク・ファンタジーを得意とするグラフィック・ノベル作家だ。異才作家らしく、フツーのファンタジー映画のフリをして、英国らしい皮肉が巧みに仕込んである。映画では、物語の核となる流れ星イヴェインを、いまひとつ旬を感じない女優クレア・デインズに割り振るしかなかったところがツラいが、ベテラン俳優のお遊びを見る楽しみを用意してくれた。美人女優ミシェル・ファイファーは、醜い魔女を楽しそうに演じているし、海賊船の船長デ・ニーロは「まさか!」の格好で映画ファンを驚かせる。おまけにニタニタとよく笑うのだ。まぁ、この役をシリアスに演じられても困るのだが。主役より名優たちの自虐演技に目が行くなんて、やっぱりフツーじゃない。

 さて肝心の主人公トリスタンだが、さっぱり魅力がないからこれまたヘンである。流れ星のありがた味にも気付かず、村のわがまま美女の気を引くことばかり考えているおバカさんなのだ。もっとも最初がこれなので、劇中での成長度は極めて高い。一方、流れ星イヴェインは、頼りないトリスタンにつきあって、紐を付けられた子犬のように冒険の旅に同行する。見る目がないのか、面倒見がいいのか。理由は簡単、恋してしまったのだ。何しろ彼は最初に出会った“人間”だ。比較検討しろと言うのも無理である。そんな世間知らずの流れ星の胸には、地上に落ちた時にみつけたルビーのネックレスが。この宝石が物語を大きく揺さぶることになる。ともあれ、流れ星が恋をしたら、世界は激変する運命だ。イヴェインの必殺技は“星”らしく輝くこと。果たして二人は、邪悪な魔女や強欲な王子の追跡をかわすことができるのか?

 最もシニカルなのは、物語の随所に王室問題をからませているところだ。醜い相続争いや、亡霊になった王子たちのブラックな会話が、英国王室への皮肉に見えて仕方がない。何といっても、瀕死の王が、争いの火種を付けるようにヒョイといたずらを仕掛けて死んでいく導入部がサエている。その王を名優ピーター・オトゥールに演じさせ、格調を保つあたりも気が利いている。冒険の果てのクライマックスは、ファンタジーのお約束である強引な大団円だが、王家の血筋は意外なところからつながっていく。正統な血などもはや存在せず、王家の面目は、突然空から落ちてくる流れ星のような混入異物の活躍にすがるしかないのだ。子供向けのファンタジーとあなどるなかれ。さりげない毒気と共に深読みすれば、英国の今が鏡のように映り込んでいる。興味があったらちょっと覗いてみよう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ハッピーエンド度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 原題「STARDUST」
□監督:マシュー・ヴォーン
□出演:クレア・デインズ、ミシェル・ファイファー、ロバート・デ・ニーロ、他

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映画レビュー「ヘアスプレー」

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◆プチレビュー◆
太めの女の子が主人公の、にぎやかで痛快なミュージカル映画。個性的なキャラが魅力的だ。85点】

 1962年のボルチモア。ぽっちゃり太めの女の子トレーシーは、歌と踊りが得意な、元気いっぱいの高校生。ひょんなことから大好きなTV番組コーニー・コリンズ・ショーに出演して人気者に。だが彼女を快く思わない母娘が様々な妨害を企てて…。

 もともとは80年代のカルト・ムービー。それがブロードウェイで大ヒット、再び映画として帰ってきた。今回はかつてのマニアックな味付けではなく、あくまでも明るく楽しく、万人ウケするミュージカルを目指している。意表をつくのは、豪華な脇役の笑える役柄だ。ビッグ・サイズのママを演じるのは、なんと女装したジョン・トラボルタ。冒頭にチョイと出てくる露出狂のおじさんは、オリジナル映画の監督の、鬼才ジョン・ウォーターズその人である。物語では、公民権運動のうねりが高まる60年代らしく、人種差別や体制への抗議などが描かれるが、重さはみじんもない。作品のテーマは、広義での既成概念の打破だ。黒人がなぜ差別されなければいけないのか?いうシリアスな問いは、太めの女の子がダンス・ショーに出てなぜいけないの?という表層的な疑問と、いつしか同じレベルに思えてくる。人種や容姿が人と違っていてもかまわない。歌い上げるのは、そんな居直り系ポジティブ・メッセージである。

 ダンスシーンは全てがエネルギッシュで、見ているこちらまでハジケそうだ。主要キャストから脇役まで見事なパフォーマンスだが、とりわけQ.ラティファのパンチの効いた歌声が圧倒的である。天下一品のハマリ役は、オーディションで選ばれたトレーシー役、ニッキー・ブロンスキー。邪気のない笑顔が超キュートだ。おチビちゃんだが、いったん歌い踊りだすと、プヨプヨの体からものすごいオーラを発する。おしゃれなファッションと二の腕の太さ!もう釘付けだ。彼女が朝っぱらから声を張り上げて歌うのが、ボルチモアへの愛というのも実は深い。そこは南北戦争の昔から、異なる価値観がせめぎあう場所だ。トレーシーは人種差別反対のデモに参加し、そのことで大ピンチになってしまう。だが、正しいと思うことにはまっすぐにトライするのがトレーシーだ。それは、翌1963年のワシントン大行進の最初の一歩にもなろう。

 差別や不正がはびこるミス・ヘアスプレー・コンテストは、トレーシーたちによって痛快なフィナーレへ。観客を興奮の頂点に連れて行く。実際、この映画のテンションの高さといったらインド映画並みだ。高揚感みなぎる群舞で、スクリーンは60'sの極楽浄土と化していく。天真爛漫なヒロインを好きにならずにいられない。こんなにラブリーな作品はめったにない。だけど、この映画の人工的な明るさが逆にシニカルに見えるのが、現代という時代の哀しさである。差別は、表面的な行為や言葉では無くせても、昔のような露骨さがない分、より巧妙に意識下に浸透している。最高に楽しんだ後にゆっくりと立ち上ってくるのは、ノーテンキなエンタメ映画の枠組みからにじみ出る、ウォーターズ作品とは別種のニヒリズムなのだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)前向き度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 原題「HAIRSPRAY」
□監督:アダム・シャンクマン
□出演:ニッキー・ブロンスキー、ジョン・トラボルタ、クイーン・ラティファ、他

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