映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週末の公開映画から オススメの1本! ◎
チリ他合作映画「ナチュラルウーマン」

映画レビュー2008

映画レビュー「ラースと、その彼女」

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◆プチレビュー◆
リアル・ドールとの恋物語は一見キワモノだが、中身は温かくて素敵な感動作。ゴズリングの表情が繊細だ。 【70点】

 シャイで孤独な青年ラースは人付き合いが大の苦手。そんな彼が兄夫婦に紹介した恋人ビアンカは等身大のリアル・ドールだった。兄と義姉、町の人々は最初は面食らうが、ラースを傷つけまいとビアンカを受け入れていく…。

 俗に“スモール・タウンもの”と呼ばれる映画がある。平和な町でのちょっと変わった出来事をハートフルに描く作品群で、小規模なコミュニティーでしか成立しえないストーリーが特徴だ。本作はまさにそれ。雪に覆われたスモール・タウンのぬくもりが、ジンワリと胸にしみてくる。

 まず、リアル・ドールと聞いて、アンなことやソンなことを想像しているそこの貴方、この際、よからぬ思いはきっぱりと捨てよう。何しろ本作は、アカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされた秀作だ。物語は、凡人が思い描く方向へは決して向かわない。とはいえ、コミカルな前半から、どうやって決着するのかと実は心配だったのだが、その着地点は見事なものだった。

 ラースが極端に人見知りするのは、母の死に責任を感じ、それがトラウマになって心を閉ざしているためだ。人と接触しても、その人がいつか自分から去ってしまうかと思うと怖くてたまらない。恐れが妄想を呼び、心の病が人形を擬人化したのだ。ラースとビアンカを診察したバーマン医師は「人形を恋人と思い込むラースの世界を、周囲が受け入れてあげることが問題解決の糸口」と助言する。それから、町の人すべてが参加した“お芝居”の幕があがった。

 面白いのは、最初はラースのことを変人扱いしていた周囲の人々が、徐々に変わっていくことだ。ビアンカを恋人と認め、パーティに招待し、仕事まで世話する。彼女に「ハーイ」と声をかけるとラースが代わりに挨拶を返す。救急車と入院は少々やりすぎだったが、町の人々が、忘れかけていた交流を取り戻したことは間違いない。本人は気付いていないが、ラースはこんなにも周りから愛される存在なのだ。そんな日々の中、ビアンカが突然倒れてしまったことから、事態は急転。生と死をみつめた真摯なドラマになっていく。

 人間は自分たちに似せた“ひとがた”を作るナルシストだと言われる。人形に恋するモチーフが映画に登場するのは必然の流れだ。ハリウッド映画「マネキン」のようにポップなファンタジーもあれば、カルトの極北「追悼のざわめき」のようなハードな作品まで、その振り幅は広い。本作の魅力は、人形との恋という突飛なスタートから、小さな町のヒューマニズムを経由して、主人公の心の再生というゴールへ至る道を、地に足をつけて描いたことだ。人とかかわるのは時に大変なことだけど、トライするだけの価値はある。ラースのように他人よりちょっと時間がかかってもいいじゃないか。この風変わりな恋物語は、寒い日に飲むスープのようだ。滋味があって心と身体が温まる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ハートフル度:★★★★☆

□200年 アメリカ映画 原題「LARS AND THE REAL GIRL」
□監督:クレイグ・ギレスピー
□出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・モーティマー、ポール・シュナイダー、他

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映画レビュー「ブロークン・イングリッシュ」

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◆プチレビュー◆
カサヴェテス家の末娘が長編監督デビュー。30代独身女性の悩みをリアルに描いている。 【65点】

 ノラは、NYのホテルで働く30代半ば・独身のキャリア・ウーマン。男性との付き合いで失敗続きのため、運命の出会いをあきらめかけている。そんな時、情熱的な仏人ジュリアンと出会い惹かれるが、素直になれずにいた…。

 映画界のDNAは受け継がれる。ゾエ・カサヴェテスは尊い遺伝子を持つ一人だ。彼女は“インディペンデント映画の父”で故ジョン・カサヴェテスを父に、名女優ジーナ・ローランズを母に持つ映画界のサラブレッドだ。芸術映画寄りだった父の影響を受けつつも、自分らしい作品にこだわっている。気負わないテイストが何より好感度大だ。自らの人生経験を活かしたこの物語は、コミカルでほろ苦い、大人のおとぎ話のような雰囲気がある。

 キャリアも魅力も持っていて、それなりに充足した自分のライフ・スタイルを変えるのが、ちょっとおっくうなのが30代独身女性の本音。周囲が、結婚、結婚とプレッシャーをかけるのが悩みの種だ。それでも、まだ運命の恋を待っている。ノラは、気になっていた彼と親友が結婚してしまったり、好きになりかけた男性から裏切られたりで、すっかり弱気になっていた。「私を愛してくれる男性なんていないんだわ」。あきらめモードの彼女と、心配する家族や友人を通して、大都会NYの暮らしぶりと恋愛事情を軽やかにスケッチしていく。

 恋に臆病になっているノラが、ジュリアンとの出会いに警戒し引いてしまうのが何ともリアルだ。情熱的にアプローチしてくる彼のことは好きだけど、また傷つくのは怖い。だがこのイケメンのジュリアン、意外にもいいヤツだ。一見、軽そうなのに、実は誠実な好青年。口説き上手なのはラテンの血がそうさせるのだから仕方ない。ハードルが高いこのキャラを、メルヴィル・プポーが嫌味にならず、サラリと演じている。ノラが自分の気持ちに素直になろうとした矢先に彼は言った。「僕と一緒にパリに行かないか」。悩んだノラはいったんは断るが、迷った末に親友と共にフランスへ。ヒロインの心の揺れを丁寧に描いたNYパートに比べ、パリでの展開は少々雑で表層的。バランスを欠くのが気になるが、あと味は悪くない。現在、仏人の夫とパリに住む異邦人ゾエには、偶然とロマンティシズムこそ、パリに対して抱くイメージなのだろう。

 主演のノラを演じるのは“インディペンデント映画の女王”と呼ばれるクセもの女優パーカー・ポージーだ。本作ではナチュラルな魅力に加え、陽性の悩みっぷりが可愛くてつい応援したくなる。インディーズの香りは残しつつ、親しみやすく柔らかな感性の作風が、ゾエ流だ。

 タイトルの“ブロークン・イングリッシュ”とは、異なる言語による勘違いに例えて、完璧ではないコミュニケーションの中で互いに歩み寄ることの大切さを提案するもの。NYとパリという世界で最もおしゃれな都市を舞台に選んだことで、シンプルな物語に彩りが加わった。この等身大のラブストーリーは、少しの勇気で幸せになれるんだよと、優しく語りかけてくれる。自分がいるべき場所は必ずある。愛し愛されることを怖がりさえしなければ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ロマンチック度:★★★★☆

□2007年 米・日・仏合作映画 原題「Broken English」
□監督:ゾエ・カサヴェテス
□出演:パーカー・ポージー、メルヴィル・プポー、ジーナ・ローランズ、他

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映画レビュー「WALL・E/ウォーリー」

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◆プチレビュー◆
独創的なラブ・ストーリーに鋭い現代文明批判を組み合わせた秀作。ロボットのカップルが愛しい。 【85点】

 29世紀、人類が去って荒廃した地球。ゴミ処理型ロボットのウォーリーは、700年間ひとりぼっちで作業を続けていた。ある日、そこに真っ白な流線型のロボット・イヴが現れる。ひと目で彼女に恋したウォーリーだったが…。

 これはボーイ・ミーツ・ガールの物語だ。ただし主人公は、時代遅れのゴミ処理ロボットとピカピカで最新型の探査ロボット。ひらめきのあるストーリーの中で、人間以上の輝きを放つ彼らは、見るものを必ず虜にするだろう。

 映画序盤は、たった一人でもくもくと、でもどこか誇らしげに働くウォーリーのこだわりの仕事ぶりを、テンポ良く描いていく。几帳面な動作、宝探し、労働の後のくつろぎの時間。人類が捨て去った地球の圧倒的な孤独の中、人間らしさを必死に求めるかのようなウォーリーの姿がやるせない。そんな彼のもとにイヴは来た。この出会いこそ奇跡の始まりだ。

 凸凹(でこぼこ)コンビのウォーリーとイヴの間に徐々に芽生えるあったかい感情が、映画を珠玉のラブ・ストーリーに導いていく。最初は警戒していたイヴはピンチの時に助けてくれたウォーリーに好意を持ち始める。なんだか、内気なオタク少年が学園一の美少女に恋する青春恋愛映画を見ているようで、ほほえましい。だが凡百の映画と大きく違うのは、喜怒哀楽の感情を、セリフではなく仕草とサウンドだけで完璧に表現していることだ。肩を小さく震わせ笑い合う。そっと手をつないで仲良く夕陽を眺める。このアニメの動きは驚異的に繊細で豊かだ。そして空の美しさといったら、とても言葉では言い表せない。最先端のテクノロジーがほのぼのした物語をしっかりと支えている。

 だが、驚くのはここからである。ロボットという設定はユニークでも、プロットは手垢のついた恋愛ものかと思ったら大間違い。まるで、可憐なメロディで始まった音楽が、力強いシンフォニーへと変化するように、壮大な人類救済のストーリーへと昇華していくのだ。小さな植物を見つけたイヴは宇宙船に連れ去られる。彼女を追ってウォーリーも未知の宇宙へと旅立つことに。そこには巨大な宇宙ステーションの中で、怠惰な生活に甘んじる肥満体の人間たちの姿があった。ある秘密によって非常事態となった人類の覚醒、さらにイヴを救うと誓ったウォーリーの大冒険が、宇宙を駆け巡る。

 生命と人間性の尊厳を思い出させるのが、不恰好なロボットの一途な思いというところに感動がある。すべてがマニュアル化された社会の中で、コントロールされていることにさえ気付かない愚かな人類は、もしかしたら私たちの未来の姿なのかもしれない。痛烈な文明批判と共に、まだ間に合うと映画は訴える。ウォーリーのお気に入りのミュージカル映画「ハロー・ドーリー!」のように、誰かと手をつなぐ喜びを忘れさえしなければ希望はある。最高の映像技術とセンスあふれるサウンド、そして極限まで練られた物語が、ウォーリーの愛によってコンプリート。スクリーンはたちまち感動の宇宙空間へと変わった。辞書によると“魅了する”という言葉は、人の心を惹きつけて、うっとりさせてしまうことだそう。映画「ウォーリー」にはその言葉がふさわしい。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ハートフル度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「WALL・E」
□監督:アンドリュー・スタントン
□出演:(声)エリッサ・ナイト、ジェフ・ガーリン、シガニー・ウィーバー、他

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映画レビュー「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」

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◆プチレビュー◆
おバカ映画に大金を投じるハリウッドの心意気が映画のレベルを上げる。カメオ出演が豪華。 【75点】

 3人のクセ者俳優が戦争映画で共演。製作者は彼らを東南アジアに連れて行く。だが、予算オーバーをカバーするために放り込まれたそのロケ地は本物の戦闘地帯だった。あくまでゲリラ撮影と思い込み、熱演する彼らだったが…。

 日本とアメリカではコメディーに対する温度差がある。何より、米国にはコメディーへのリスペクトがある。結果としてバカをやっていても計算されたギャグが仕込まれていて、作る方は真剣そのものだ。戦争大作にしてナイスなパロディ映画の本作は、映画に殉じる覚悟で作った本気度満載のおバカ映画だ。

 何しろキャラが抜群に立っている。落ち目のアクションスター、シモネタ専門のコメディアン、オスカー俳優で自己喪失気味の役者バカ。3人とも実際のハリウッドにいそうなタイプで思わずニヤリとしてしまう。さらにリアリティーを追求するべく、俳優たちを本物の戦場に放り込むというムチャクチャも、これまたハリウッドならありかも…と思わせる。ケチな小道具を手にした3人はどこまでも映画の撮影と思い込むが、何かがヘン…と感じても役者のプライドが邪魔してお互いに言い出せない。果たして映画は完成するのか?いや、そもそも彼らは生きて帰れるのか?

 パロディのベースはコッポラの怪作「地獄の黙示録」だ。こう見えても私は、この作品に関してはウルさいのだが、このパロディは本当に上手い。特に感心したのは照明だ。ベン・スティラーが顔の半分を光に当てながら暗闇から現れるが、これは、わがまま俳優マーロン・ブランドが、撮影当時太りすぎていたのをごまかすため、カメラマンが考えた苦肉の策。おかげでむやみに神秘的なムードが出てしまい、ただでさえ難解な映画がますますワケが分からなくなったと言われている。修羅場だったことで有名な「地獄の黙示録」の製作現場をしのぐサバイバルが展開するのが「トロピック・サンダー」なのだ。

 その他にも「プラトーン」や「ディア・ハンター」などの名場面が続々と登場し、映画好きにはたまらない。元ネタを知っていれば数倍楽しめるし、知らなくても、映画製作の無軌道ぶりを痛烈に批判する業界内幕ものとして十分に堪能できる。さらに堂々のPG−12指定だけあって、内容もエッジが効いて小気味良い。流血に生首、差別スレスレの演出や汚い言葉もてんこもり。フェイクとはいえ、やりたい放題で、ブラックな笑いが炸裂だ。

 こんなバカバカしくも愉快な企画を立ちあげてバッチリものにしてしまうのは、コメディーのツボを知り尽くしたベン・スティラーだからこそ。原案・共同脚本・製作・監督・主演の5役を兼ねた彼の人脈と才覚で、多くのスターが、脇役やカメオ出演で集まった。特に、ハゲでメタボで下品なプロデューサー役を嬉々として演じる大スター、確か「オースティン・パワーズ ゴールドメンバー」でもハジケてくれていたっけ。実はおちゃめな人のようである。映画作りはジャングルも顔負けの無法地帯。それでこそ狂乱のハリウッドだ。映画愛と悪ノリを同居させ、自分がいる業界を笑いたおす。桁違いの予算は無理でも、このコメディーの土壌は、日本でも育てるべきではなかろうか。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)自虐度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「Tropic Thunder」
□監督:ベン・スティラー
□出演:ベン・スティラー、ジャック・ブラック、ロバート・ダウニーJr.、他

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映画レビュー「ブラインドネス」

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◆プチレビュー◆
謎の病の発生により人間の本性がむき出しになる心理パニック・サスペンス。メイレレスの手腕が見事。 【90点】

 街角で若い男性が突然視力を失う。それから各地で失明者が続出し、白い闇の病“ブラインドネス”は驚異的なスピードで拡大した。発症者は強制的に療養所に隔離されるが、そこは無法地帯と化し、人々から人間性を奪っていく…。

 物語の場所や時代は特定されていない。性別、年齢、人種が異なる登場人物には名前はなく、ただ、医者、医者の妻、バーテンダー、最初に失明した男というふうに記号化されている。この物語で注目すべきテイストは、普遍性とボーダーレスな世界観だ。そんな作品にふさわしく各国の実力派俳優が集まった。日本からは伊勢谷友介と木村佳乃が重要な役で参加。高い演技力を披露し、豪華キャストの中でしっかりと存在感を示している。監督はブラジルの俊英フェルナンド・メイレレスだ。派手なアクション・ヒーローものやゾンビ系ホラーにもできるところを、深みのある人間ドラマに仕上げて見事な実力を見せる。

 その奇病が奪うのは視力だけではない。見えないことによって皮膚の下に隠れていた本性が丸見えになり、人間性を奪っていくパニック劇に背筋が凍る。療養所を支配したのは、拳銃を入手して権力を握ったグループだ。彼らは、食料と薬の代わりに金品を要求。ついには食料の対価として「女を出せ!」と言い放つ。略奪、レイプ、殺人。さながらそこは生き地獄だ。これは、見えない世界に出現した凶暴な格差社会である。このストーリーは、今までとまったく違うルールの中で生きねばならない人間の、モラルを問う寓話だ。

 だが、一人のマイノリティが無秩序な世界から人々を救う役割を担う。全員が失明しているはずの収容所の中に、一人だけ“見えている”人間が紛れ込んでいた。失明した夫を守るため、見えることを隠して病棟に入った医者の妻は、虐げられるグループでリーダーとしての責任を果たすことに。だが、視力は彼女にメリットを与えず、逆に、見えないことを共有する人々の中で孤立し、夫の裏切りにさえ遭う。見えることが強烈な孤独につながる展開は、ゾクリとするほどシニカルだ。しかも彼女の苦悩を理解してくれる人は誰もいない。

 それでも彼女を中心にしたグループが、収容所内のサバイバルをくぐりぬけ、外界に出て行くことができたのは、異種である彼女が理性と希望を失わない強さを持つ人間だからだ。外界は想像以上の荒廃ぶりだが、命の危険にさらされつつも、食料と安全が確保できる医者の自宅を目指す。閉ざされた恐怖から開かれた絶望へ。白い闇の中を行進する男女の行く末には何が待つのか。 

 見えることとはいったい何だろう。ひょっとして私たちは、何か大切なものを見失っているのではないか。一列に並び前の誰かの肩に手を置いて進む人々はあまりにも弱々しい。その中で、ふと何かにぶつかっただけで列から離れ、まったく違う方向へ一人で離れてしまう人間がいるのが象徴的だ。結んだ手を簡単に離してはいけない。離れた手で空中を模索し再び温かい肩に触れたときの喜びを、忘れてはいけないのだ。善悪の臨界点をハードな内容で描きながら、信じあうことが出来れば希望はあると物語は提示する。ラストのまぶしい光から、新しい一歩が始まると感じたならば、この映画は福音となろう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)カオス度:★★★★☆

□2008年 日本・ブラジル・カナダ映画 原題「BLINDNESS」
□監督:フェルナンド・メイレレス
□出演:ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、木村佳乃、他

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映画レビュー「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」

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◆プチレビュー◆
巨匠ロメロのゾンビ・モキュメンタリー。ホラーの枠を超えて社会派映画の域に達している。 【75点】

 大学生ジェイソンらは森の中で卒業制作のホラー映画を撮影中。だが各地で蘇った死者のニュースを聞き、慌ててトレーラーで家路を目指す。ゾンビ化した人々に襲われながらも、すべてを手持ちカメラで記録するジェイソンだったが…。

 ゾンビと言えばロメロ。ロメロと言えばゾンビ。それくらいロメロはゾンビ映画の第一人者だ。傑作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」以来、数々の亜流映画が誕生したが、やっぱり本家本元は完成度が違う。かつてはショッピング・モールでさ迷うゾンビたちの姿に消費社会への批判を込めたが、今回は、ネット社会のツールをフル活用。手持ちカメラ、パソコンや携帯の画像、YouTubeなどの情報を溢れさせ、映像メディアの功罪を訴えている。

 恐怖と笑い、同時代性と社会批判をわずか95分できっちり描く充実の出来栄えが嬉しい。ロメロ本人がゾンビ化してしまったかのような風貌を見るたびに本気で不安だったのだが、心配無用。彼はまだまだ吼える気だ。何より、学生映画監督の映像を通してゾンビを描くというアイデアが冴えている。低予算を逆手にとって、いかにも素人くさい映像をスピーディーに作り出し不安感を煽りまくった。カメラを通してみる血や死の記録が少しずつリアリティを失っていく一方で、次々にネットにアップされるゾンビ映像にすさまじい数のアクセスが殺到。恐ろしいのは、誰もが表現者をきどった傍観者になることなのだ。

 主人公ジェイソンはすべてを記録して真実を伝えると決意するが、そもそも情報化社会における真実とは何だろう。もはや公共メディアは機能せず、個人の主観映像ばかりが氾濫するインターネットの、どこに信憑性の基準を置けばいいのか。そして映像メディアが本当にやらねばならないこととは。こんなディープな問いかけを、腐れモンスターのゾンビを使ってやってのける荒業が天才的だ。しかもその怪物は、自分たちと同じ人間のなれの果てという、激辛の皮肉が効いている。ゾンビ化は誰にでも起こりうる事態なのだ。
 
 こんなシリアスな社会批判を血しぶきの中で展開しつつ、ユーモア精神を忘れてないところがナイスである。病院の医者とナースがペアでゾンビ化している几帳面さもウケるが、ゾンビの頭を真っ二つに切断したり、強気のテキサス娘が元仲間のゾンビに対してブチ切れるなど、気合の入った黒いギャグが満載だ。特に、耳が不自由な老人と共に農家の納屋で戦うくだりは、爆笑必至。そうかと思うと、プールに沈むゾンビたちをアーティスティックなビジュアルで演出し、退廃美で観客をシビレさせる。完全に崩壊した社会の中で、人間性を保つ方法などありはしないとのロメロの諦念が、ユーモアの中にじわりと染みてくる。

 ポイント・オブ・ビュー(主観映像)で描かれたのは世界の終焉のはじまりだ。逃げる人間にも追うゾンビにも、安楽の地はない。ラスト、痛烈な絶望感が漂う“救う価値があるのか?”との言葉こそこの映画のすべてである。新境地のゾンビ映画で、本家の意地をみせたロメロ御大。巨匠の雄叫びを今こそ聞こう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)サバイバル度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「DIARY OF THE DEAD」
□監督:ジョージ・A・ロメロ
□出演:ジョシュ・クローズ、ミシェル・モーガン、ショーン・ロバーツ、他

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映画レビュー「かけひきは、恋のはじまり」

かけひきは、恋のはじまり [DVD]かけひきは、恋のはじまり [DVD]
◆プチレビュー◆
クルーニーが監督・主演した大人のスクリューボール・コメディ。丁々発止のやりとりが楽しい。 【65点】

 1920年代の米国。引退間近の選手ドッジは落ち目のアメフト・チームを何とか立て直そうと学生アメフトの花形スターをスカウトする。そこに、ある目的でチームを取材する美人敏腕記者レクシーが登場。最初は反発し合う二人だったが…。

 邦題から受ける印象はあくまでロマンチックなラブ・コメディだが、実はこれ、アメフト草創期を描く物語でもある。映画の中で跳ねるのは二つのボールだ。アメリカンフット“ボール”とスクリュー“ボール”コメディ。両方のボールが試合と恋愛の間で勢いよく弾めば、古き良きアメリカのコメディが輝きだす。

 スクリューボール・コメディとは、さまざまな要素で対立する男女の恋愛模様を、小気味よい会話と笑いで描くものだ。最悪の出会いやケンカを経て惹かれあい、最後にはめでたし、めでたしがお約束である。このテの作品の第一号は「或る夜の出来事」だが、そう言えばクルーニーは、どこかクラーク・ゲーブルを意識したような役作りだ。ならば相手役のゼルウィガーは、さしずめゲーブル夫人だった美女キャロル・ロンバートと言えば褒めすぎだろうか。

 ベテラン選手ドッジは、若手実力選手カーターの人気でチーム再建を目論むが、女性記者レクシーはカーターのスキャンダルを暴こうとする。互いに惹かれるドッジとレクシー二人の立場もビミョーなら、レクシーに想いを寄せるカーターがからむ三人の関係はもっと複雑だ。だがひとつ問題がある。仮にも三角関係もどきだというのに、クルーニーに対してカーター役のジョン・クラシンスキーがあまりに魅力が薄いのだ。ここはもっと華のある若手スターがほしかった。クルーニーの魅力炸裂が大前提の作品とはいえ、ライバルがこう地味では寂しすぎる。これではレクシーでなくとも、女はドッジを選ぶに決まっているではないか。

 そんなドッジとレクシーは自信過剰で勝気な似た者同士だ。二人は出会った時から互いにパンチを効かせて応戦する。美人のレクシーを一目見て気に入ったドッジは果敢に近づくが、男勝りの彼女は「私の前から消えて!」とピシャリと拒絶。だが、心の中では、粋で楽しいマシンガン・トークを繰り広げながらアプローチしてくる伊達男に悪い気はしない。また、寝台列車で同室になる場面は、安易にエロチックな展開にはならず会話で笑わせる。かつての米映画には性描写に厳しい規制があり、それが逆に洗練された演出を生み出してきた。その良き伝統がちゃんと活かされているのが嬉しい。今やライバルチームの一員となったカーターの所属するチームと決戦の試合を迎えた時、荒っぽいプレーでならしたドッジのチームは新時代の到来を知る。同時に主人公たちの恋の行方も見えてこよう。

 原題のレザーヘッズとは、20年代、アメフトの試合中にかぶった皮製のヘッドギアを指す。映画は、アメフトが本格的なプロ・スポーツリーグへと変わる瞬間を描くが、米国ほどアメフトの人気がない日本では、邦題からスポーツの香りは抜け落ちた。本作の魅力はやはりスリリングな恋愛のかけひきと言いたいのだろう。そして、アメリカ製ラブ・コメディのウィットは、クルーニーのようなカリスマ・スターが引き継いでこそ本物の伝統になるのだということも。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)クラシック度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「LEATHERHEADS」
□監督:ジョージ・クルーニー
□出演:ジョージ・クルーニー、レニー・ゼルウィガー、ジョン・クラシンスキー、他

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映画レビュー「レッドクリフ PartI」

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◆プチレビュー◆
アクション映画の詩人ジョン・ウーならではの三国志の世界。金城武の諸葛孔明が魅力的だ。 【80点】

 3世紀の中国。80万の大軍を率いて天下統一を目論む曹操に対し、民を思う劉備は、曹操に屈しようとしていた孫権と同盟を結ぶ。連合軍の兵力は5〜6万と圧倒的に劣るが、知将・周瑜と天才軍師・諸葛孔明は奇策を講じていた…。

 香港映画の戯画的要素とハリウッドの洗練されたテクニック、加えて中国映画らしい人海戦術で活写するのは、極上のエンタテインメント・三国志だ。ベースとなる「三国志演義」は史実とフィクションを巧みにブレンドした英雄譚。映画の軸である“赤壁の戦い”とは、西暦208年、長江沿いの赤壁で対峙した、曹操軍と孫権・劉備連合軍の水軍戦で、三国志の白眉の一つである。

 本作では、赤壁の戦いに至るまでの経緯と、人間関係の相関図を陸上戦の中で形作っていく。軍事演習や戦闘では、古代中国の兵法や、軍師の孔明が発案した奇策が俯瞰でとらえられ、独特の陣形が見事だ。これらのシークエンスは、男気溢れる豪傑たちの顔見世も兼ねていて、軍の規模や猛者たちの特徴を分かりやすく説明する。ウー監督得意のスローモーションを駆使して描く武将たちのプレビューは、映画のテンポを削いではいるが、名だたる英雄たちの魅力を端的に伝えるメリットの方が大きかろう。最初は互いに警戒していた孫権軍と劉備軍は、共に戦ううちに次第に結束し信頼し合っていく。それは両軍のリーダーも同じだ。

 そのリーダーとは三国志の中でもとびきりの切れ者の二人。圧倒的に不利な戦いを知恵と勇気で勝利に導こうとする、孫権軍の知将・周瑜と劉備軍の天才軍師・諸葛孔明だ。いずれ劣らぬ知性と人徳でならす二人のカリスマが、心を通わせるように琴を奏でる場面は、土煙と血しぶきの物語の中で、豊潤なオアシスのように美しい。互いを認め合う男たちの友情こそが、物語をリードする。さらに嬉しい驚きは、金城武の諸葛孔明が思いがけず素晴らしいことだ。英知の象徴として伝説を残す孔明は、冷静沈着でしたたかな策士のイメージだが、この天才軍師を、時におちゃめでユーモラスな若者のように、時に芸術を愛する夢見がちなアーティストのように演じて新鮮だ。ひょうひょうとした表情で、トレードマークの扇を優雅に携えながら軍を指揮する金城武の若々しい孔明に魅了される。

 ヒロイックな人物にこと欠かない三国志だが、ウー監督はこの英雄伝に、美しく魅力的な女性の存在を加えることも忘れない。曹操の野望の陰の目的が周瑜の美人妻を奪うことという設定は、今後のストーリーに悲劇の予感を漂わせる。また蜀の皇帝・孫権の、おてんばな妹の存在もフレッシュでほほえましい。この男勝りの美女は、後にひと波乱起こしてくれそうだ。

 二部構成で描くため、第一部である本作は赤壁の戦い前夜まで。いざ、決戦!というところで「続く」となるのが何とも悔しい。第二部は水と火の壮絶な戦いになるだろう。大河・長江とそこに集結する大船団を俯瞰映像のパノラマでとらえ、さらにジョン・ウー印の白い鳩の視点でその全貌を鳥瞰すれば、三国志のダイナミックな世界はもう目の前だ。魏・呉・蜀の三国が屹立した歴史の結果は先刻承知。それでも英雄たちの物語の続きを期待せずにはいられない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スペクタクル度:★★★★★

□2008年 米・中・日・台・韓合作映画 原題「Red Cliff/赤壁」
□監督:ジョン・ウー
□出演:トニー・レオン、金城武、チャン・チェン、他

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映画レビュー「ブーリン家の姉妹」

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◆プチレビュー◆
若手実力派女優2人の競演が華やかな歴史劇。前後につながる実在の人物を想像しながら見ると面白い。 【70点】

 16世紀のイングランド。新興貴族のブーリン家は、男子の世継ぎに恵まれない国王ヘンリー8世に、自慢の娘で美しいアンを愛人として差し出す。だが王が気に入ったのは、誠実で気立ての優しい妹のメアリーだった…。

 女好きのイングランド王ヘンリー8世のわがままは、その後の英国を、いやヨーロッパ全体を激変させた。何しろ自分が新しい妻を迎えたいばかりに、カトリックを捨て英国国教会を作ったのだ。女のために宗教を変えたツケは、何代にも渡って払わねばならないが、これが英国に名君を生み、欧州各国を前進させ、近代国家の礎となったことを考えると、歴史というのは何が幸いするか分からない。

 アン・ブーリンは、王の愛人から王妃の地位を手に入れた女性だ。アンの悲劇的な顛末はよく知られるが、この映画では文献にほんの数行現われるだけのメアリーの存在をクローズアップして膨らませた。英国王室のゴタゴタより、一人の男性を愛した姉妹の葛藤と絆を描こうとする視点が、物語を身近にする。

 歴史に名を残した野心的なアンか、平凡な幸せを求めた心優しいメアリーか。“あなたはどちらのタイプ?”的な女性誌の特集のような発想だけはしないでほしい。それではこの映画の魅力と本質を見誤る。時に憎しみあうが深い部分で頼りあう彼女たちは、コインの表と裏のような存在。これは、姉妹という分かち難い絆で結ばれた二人の女性の、権力への挑戦の物語なのだ。権力とは、男社会、貴族社会、宗教や時代でもある。戦い方は違うがどちらも芯は強かった。

 意外だったのは、野心家アンをポートマン、温和なメアリーをヨハンソンという配役である。かつて「1000日のアン」でアンを演じたのはコケテッシュなジュヌヴィエーヴ・ビジョルドだったことを思うと、アン役は小悪魔タイプのヨハンソンが適役と思ったが、演じたのは理知的なポートマンだった。これがなかなか良いのである。特に鋭い眼光が素晴らしい。人気・キャリア・実力すべてで互角の2人に、イメージと異なる役を配した賭けは吉(きち)と出た。

 ただし史実は映画と異なり、メアリーは実はアンの姉だという。メアリーを自由に描き直し、歴史の行間を想像力で埋めることで、英国史を動かしたアンを鮮やかに照射、再構築してみせた演出が巧みだ。当時は、成り上がりの悪女と蔑まれても、現代なら、男性や家の駒となることに抗ったパワフルな女性像が浮かび上がる。王妃になってからは過酷な運命に翻弄されるアンは、我が子だけは守ろうと妹メアリーに託した。その行為が尊いものだったことは歴史が教えてくれる。

 アンの生んだ娘の名はエリザベス。男子を切望し生涯に6人の妻を持ったヘンリー8世の娘は、後に英国の黄金時代を築く名君になった。名作「わが命つきるとも」では、ヘンリー8世の離婚に反対する忠臣トマス・モアをポール・スコフィールドが熱演。そしてヴァージン・クィーンは「エリザベス」でケイト・ブランシェットが迫力の名演。歴史映画を見る楽しみは、過去に見た俳優と役柄が、今見ている作品に絶妙に映り込み、映像世界を無限に広げてくれることにある。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)華やか度:★★★★☆

□2008年 アメリカ・イギリス映画 原題「The Other Boleyn Girl」
□監督:ジャスティン・チャドウィック
□出演:ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、エリック・バナ、他

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映画レビュー「イーグル・アイ」

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◆プチレビュー◆
ノンストップで駆け抜けるサスペンス・アクション。全編にヒッチコックの香りが漂っている。 【65点】

 コピー・ショップの店員ジェリーとシングルマザーのレイチェルは、突然、謎の女からの電話を受ける。「私の指示に従わないと死ぬことになる」と告げられ、とまどう2人。電話の声は次々に命がけのミッションを課すのだが…。

 映画とは、つくづく拡大再生産型のメディアだと思う。トーキーやカラーのような真に革新的な技術は数えるほどで、新作の役目の多くは偉大な過去を継承することにある。すべての芸術の進歩は“美しい模倣”が基本なのだ。スピルバーグ原案の本作は、サスペンスの神様ヒッチコックの応用作品のよう。コンセプトは、監視社会とテクノロジーの脅威への警鐘だ。それ自体は目新しくないが、21世紀スタイルのジェットコースター・ムービーは間違いなく観客を興奮させる。

 何しろ最初から最後までハイ・テンションで息つく暇がない。それでも、冒頭のアフガンでのテロ討伐と、ジェリーが一卵性双生児という2つだけはしっかりと覚えておこう。全く面識がなかったジェリーとレイチェルは“選ばれて”相棒となる。物語の中盤までは、逃げまくる彼らの姿を追うだけで精一杯だ。電話の指示があまりにムチャなので守りたいのか殺したいのか疑いたくなるが、その読みは確実に追っ手の先をいく。怒涛の展開すべてがヤマ場状態で、もちろん大迫力のカーチェイスも満載だ。ATMや携帯電話、街の信号や電光掲示板などを自由自在に操って2人を導く電話の女の目的とは? 女の正体と極秘のイーグル・アイ計画の実態が分かる中盤以降は、その敵は牙をむいて襲ってくる。

 それにしてもこの映画のヒッチコック度の高いことと言ったらない。まず、巻き込まれ型サスペンスというのがヒッチだ。ケーリー・グラントやジェームズ・スチュワートの上品さには劣るが、シャイア・ラブーフのポカンとした表情はいかにもこのテの物語にフィットする。広々とした平原で襲われる場面は「北北西に進路を取れ」だし、オーケストラ演奏をモチーフにするのは「知りすぎていた男」だ。D・J・カルーソーという監督、よほどのヒッチコキアンに違いない。

 謎の女の名はアリア。金色に輝く彼女と対面した主人公は驚愕するが、これは正直、予想通りだ。こんな人間離れしたマネが出来るのは他にはいない。ただ、ジェリーに比べレイチェルが選ばれた理由に説得力が薄いのが気になる。演奏する子供たちの中でなぜ彼女の息子サムなのか。あらゆる情報操作が可能なアリアなら、もっと簡単で迅速で確実な方法を選べるだろうに。そもそも、目的達成のためにこんな手の込んだプロセスが必要か?との疑問もわく。まぁ、それを言っては身もふたもなくなるが。

 ともあれ、平穏な日常は命懸けの非日常へ。最先端のテクノロジーの暴走を描いた本作の怖さは、国家がミスッたらどういうツケを払うことになるかをシミュレーションしたことだ。私たちには、国家的陰謀を知る機会も阻止する術もないが、アリアは間違いなくもう生まれている。興奮冷めやらぬまま映画館を出て、安全な現実にホッとする人も多いはず。だが本当にそこが安全かどうかは、そろそろ考えた方が良さそうだ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)恋愛度:★☆☆☆☆

□2008年 アメリカ映画 原題「EAGLE EYE」
□監督:D・J・カルーソー
□出演:シャイア・ラブーフ、ミシェル・モナハン、ビリー・ボブ・ソーントン、他

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古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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