映画通信シネマッシモ


映画通信シネマッシモは、2018年4月をもって、終了しました。

ブログ終了にあたり、たくさんのあたたかいコメントをお寄せいただき、本当にありがとうございました。
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長い間のご愛顧に心より感謝いたします。

わたしは

わたしは、幸福(フェリシテ)

わたしは、幸福 サウンドトラック+REMIX (解説付き)
コンゴ民主共和国の首都キンシャサ。“幸福”を意味する名前を持つシングルマザーのフェリシテは、バーで歌いながら息子を育てている。ある日、一人息子サモが交通事故に遭い重傷を負ってしまう。病院に駆けつけると、医者から医療費を前払いしないと手術はできないと言われる。フェリシテは、親戚や友人、以前金を貸した男女、見ず知らずの金持ちのボスにまで訴えて、なりふり構わず金策に奔走する。そんな中、誇り高いフェリシテの中で何かが壊れ始め、やがて絶望から歌うことができなくなる…。

コンゴ民主共和国の首都キンシャサを舞台に一人のシングルマザーが直面する厳しい現実を描く人間ドラマ「わたしは、幸福(フェリシテ)」。セネガル系フランス人アラン・ゴミス監督は、現代アフリカ映画界のエースと呼べる存在で、長編第4作となる本作で、2017年ベルリン映画祭で銀熊賞審査員大賞ほか、多くの賞を受賞している。幸福という名前とは裏腹に、ヒロインのフェリシテは、幸福の本当の意味を知らない。金がすべてという容赦ない現実に立ち向かいながら、生き抜いてきた女性だ。堂々とした体格と強いまなざし、無表情に近い顔つきからはふてぶてしさがにじむ。そんなフェリシテが、困窮と絶望の果てに小さな幸福の意味を見出す物語は、圧倒的な音楽の魅力、パワフルなのに摩訶不思議な語り口で、見るものを虜にする。

汚職や犯罪が蔓延し、混沌としたキンシャサではタフでなくては生きていけない。追い詰められていくフェリシテの前に、厳しい現実のリアルがある一方で、ほとんど唐突に夜の森の闇を彷徨う夢のようなシークエンスが挿入される。この虚と実は、生と死、聖と俗、闘いと諦めなどの対比だろうか。そこに覆いかぶさるように流れるサウンドが圧倒的に魅力がある。フェリシテの歌はもちろん、ワールド・ミュージックの雄、カサイ・オールスターズの音楽のグルーヴ感、地元のアマチュア交響楽団が繰り返し演奏する“フラトレス”(エストニアの作曲家アルヴォ・ペルト作)など、すべてがアフリカの大地を思わせるソウルフルなサウンドだ。アフリカの映画を見る機会は、決して多くはない。だが、自然でも社会派でもない、こんなにも生々しいアフリカをスクリーンで見たのはこれが初めて。分かりやすい映画の型にはまらない、むせかえるようなエネルギーを感じてほしい1本だ。
【75点】
(原題「FELICITE」)
(仏・セネガル・ベルギー・独・レバノン/アラン・ゴミス監督/ヴェロ・ツァンダ・ベヤ、ガエン・クラウディア、パピ・ムパカ、他)
(エネルギッシュ度:★★★★★)
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わたしは、ダニエル・ブレイク

わたしは、ダニエル・ブレイク [Blu-ray]
イングランド北東部にある町ニューカッスルに住む、59歳の大工のダニエル・ブレイクは、心臓の病気で医者から仕事を続けることを止められる。国の援助の手続きをしようとするが、複雑な制度に翻弄され支援を受けられない。そんなある日、二人の子どもを抱えるシングルマザーのケイティと知り合い、思わず彼女を助ける。それをきっかけにケイティや子どもたちと交流し、貧しい中でも助け合うことで、疑似家族のような絆が生まれていく。だが、彼らにはさらなる試練が降りかかり、厳しい現実に追い詰められていく…。

社会の片隅で懸命に生きる人々の現実を描くヒューマン・ドラマ「わたしは、ダニエル・ブレイク」。イギリスの巨匠ケン・ローチ監督は、一貫して貧しい労働者階級の現実に焦点を当ててきた。本作は、どこにでもいる一人の実直な初老の男性ダニエルが、国の援助を受けられずに追いつめられていく様を描くが、融通がきかないお役所的な手続きや、フードバンクでのエピソードなど、多くは、実話からヒントを得ているそう。弱者に冷たい官僚的システムに翻弄され耐え難い屈辱を味わっても、ダニエルは尊厳を失わない。そればかりか、本当は自分が助けが必要なのに、より困窮しているケイティ親子を助けるのだから、彼の善意に感動してしまう。弱者が生きられない社会に怒りがこみ上げ、引退宣言を撤回して再びメガホンを手にしたローチ監督だが、決して声高なメッセージなどは発していない。ダニエルとケイティのリアルな日常を丁寧に積み上げ、彼らが観客にとって身近な存在であること、失業や貧困などの問題は、誰にでも起こりうることなのだと訴えることで、静かに問題提起しているのだ。ケイティの子どもたちに木で作った飾りをプレゼントする心優しいダニエルは、人を助けるのに迷いはない。だが、プライドからか、自分が助けられることに無意識のうちに抵抗している。それをケイティの幼い子どもが「お願い、あなたを助けさせて」と訴える場面は、名もない庶民の善意を信じるローチ監督の真骨頂で、涙がこぼれそうだった。だからこそ、ラストの切なさが胸にせまってくる。タイトルは、ダニエルが壁に書く言葉からとられているが、これは全世界の労働者の叫びにほかならない。主人公を演じるデイヴ・ジョーンズは、英国では有名なコメディアンで俳優業は本職ではないが、真面目で不器用、どこかユーモラスなあたたかいダニエルを魅力的に演じている。ケン・ローチに二度目のカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)をもたらした本作は、これまでのキャリアの延長線上にありながら、頂点ともいえる、底辺で生きる人々への力強い応援歌だった。
【75点】
(原題「I, DANIEL BLAKE」)
(英・仏・ベルギー/ケン・ローチ監督/デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、他)
(問題提起度:★★★★★)
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