映画通信シネマッシモ


映画通信シネマッシモは、2018年4月をもって、終了しました。

ブログ終了にあたり、たくさんのあたたかいコメントをお寄せいただき、本当にありがとうございました。
皆さまの映画ライフに少しでもお役に立てたならこれほど嬉しいことはありません。
長い間のご愛顧に心より感謝いたします。

イーサン・ホーク

しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス

Maudie / [DVD] [Import]
カナダ東部の田舎町に住むモードは、絵を描くことが大好きな女性。厳格な叔母と暮らす息苦しい生活から抜け出すために、何とか自立しようと考えたモードは、魚の行商をしているエベレットの家で住み込みの家政婦として働き始める。リウマチのため足が不自由なモードと、幼い頃より養護施設で育った粗野なエベレットは、最初はぎくしゃくしたが、やがて心を通わせ、結婚することに。そんなある日、モードが描いた絵に才能を見出す女性が現れ、絵は瞬く間に評判を呼んでいく…。

カナダを代表する女性画家モード・ルイスの生涯を描いた伝記ドラマ「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」。絵を描くことが何よりも好きだったモード・ルイスは、フォーク・アート(土地固有の文化から生まれた素朴なアート)を代表する画家である。だが、アメリカ大統領から注文が入るほどの人気画家になっても、わずか4メートル四方の小さな家に住み、変わらない暮らしを続けた慎ましい人だった。描き続けたのは、人々の素朴な暮らし、愛らしい動物や美しい草花などで、日常に対する温かいまなざしは、そのまま作品のぬくもりとなっている。

映画は、モード・ルイスの伝記だが、彼女の画風や才能を伝えるだけでなく、互いに寄り添いながら生きた不器用な夫婦の物語として描いているところがいい。夫のエヴェレットは、無骨で保守的なところがあって、最初はどうにも好きになれないのだが、長い年月のうちにモードと彼女の絵の優しさがしみ込んだかのように、ゆっくりと温かい人物へと変化する。終盤、ある悲しい秘密を抱えたモードに対してみせる優しさといい、死の床にある妻への感謝の言葉といい、演じるイーサン・ホークの静かな演技が光った。モード・ルイスを演じるのは、サリー・ホーキンス。身体が不自由なこと、孤独なこと、内に秘めた優しさや強さを持つことなど、このヒロインはまるで「シェイプ・オブ・ウォーター」の主人公の分身のように見える。あどけないけど、不思議な色気もある、無垢な女性を演じきったサリー・ホーキンスの名演が心に残る佳作だ。
【65点】
(原題「MAUDIE」)
(カナダ、アイルランド/アシュリング・ウォルシュ監督/サリー・ホーキンス、イーサン・ホーク、カリ・マチェット、他)
(夫婦愛度:★★★★☆)


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マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ

マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ [DVD]
NYの大学でアーティスト・コーディネーターとして働く30代のマギーは、半年と恋愛が続かない体質。大学時代の友人から精子をもらい一人で出産・子育てをしようと考えていたが、ある日、既婚の文化人類学者ジョンと出会い恋に落ちる。ジョンの妻ジョーゼットはキャリウーマンで、家庭を顧みない妻に疲れたジョンは、離婚して、マギーと結婚する。娘も生まれ幸せに見えた二人だったが、マギーは、仕事を辞めて小説家の夢を追うジョンとの結婚生活に不安を感じていた。そんな中、マギーはジョーゼットと親しくなり、知的で魅力的な彼女が鬼嫁ではなく今もジョンを深く愛していることを知る。ジョンはジョーゼットと一緒にいた方が幸せになれると確信したマギーは“夫を前妻に返す”というトンデモナイ計画を思いつくが…。

現代のNYを舞台に、離婚や再婚でこじれた男女の奇妙な三角関係を描くハートフル・コメディ「マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ」。不倫、離婚、略奪婚…などの言葉でストーリーを説明すると、ドロドロの愛憎劇を想像しそうだが、本作は、ウディ・アレン映画にも通じる、のほほんとした恋愛劇だ。主要登場人物のマギー、ジョン、ジョーゼットは、いい大人なのに、皆、自分勝手で不器用な人たちだし、現妻が前妻と一緒に、夫を返す作戦を練るという展開は、オペレッタや艶笑喜劇のよう。聡明だがドジでヘマばかりやってる主人公マギーは、恋愛下手のこじらせ女子なのだが、いつだって一生懸命で最善を尽くしている。マギーは、劇中にジョーゼットが彼女を評して言うせりふの通り、純粋でちょっとおバカなキャラクターなのだ。「フランシス・ハ」ですっかりNYを体現する女優になった感があるグレタ・ガーウィグは、大柄でもっさりとした体格や、端正だけど美人過ぎない北欧系の顔立ちのためか、そんなとぼけたヒロインが実に良く似合う。冬のNYの風景、ダサ可愛いファッション、北欧風のインテリア、アーティスティックなグリニッジ・ビレッジのライフ・スタイルなど、女性誌が喜んで特集しそうなアイテムにあふれているインディーズ映画だが、よくみると、イーサン・ホークやジュリアン・ムーアなど、なかなかの実力派キャストが顔を揃えている。こじれた三角関係と、マギーの人生修復プランの行方は? それは映画を見てぜひ確かめてほしい。人間というのは、持ちつ持たれつで成り立っているんだなぁ…と苦笑してしまうお話だが、何とも憎めない小品だ。
【60点】
(原題「MAGGIE’S PLAN」)
(アメリカ/レベッカ・ミラー監督/グレタ・ガーウィグ、イーサン・ホーク、ジュリアン・ムーア、他)
(ハートフル度:★★★★☆)
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ドローン・オブ・ウォー

ドローン・オブ・ウォー [Blu-ray]
アメリカ空軍に所属するトミー・イーガン少佐は、ラスベガスにある基地のコンテナ内にいながら、無人機ドローンをコンピューターで遠隔操作して1万キロ余りも離れた異国の地の爆撃を行っている。クリック一つでミサイルを発射し、1日の任務が終われば、妻モリーと二人の子供が待つ郊外のマイホームに帰る。これがトミーの日常で、異常な現代の戦争の姿だ。実際に戦闘機に乗っていたトミーは、このゲームのような戦争に嫌悪感を感じ、次第に精神的に追いつめられていく…。

アメリカ軍の対テロ戦争で使用されている無人戦闘機ドローンの実態をドライなタッチで描く異色の戦争ドラマ「ドローン・オブ・ウォー」は、「ガタカ」のアンドリュー・ニコル監督が久し振りに無機質でスタイリッシュなムードを醸し出して“らしさ”を見せた作品だ。実際に戦地に行かずして、深刻なPTSDに苦しむ兵士の姿に、現代の戦争の歪んだ姿をみる思いがする。冷房の効いたコンテナ内でまるでゲームのように爆撃を行うが、それはすべて現実感を伴わない人殺しの行為。しかも中東の最貧国の実態や目を覆うような悪行も画面の中で、はっきりと目にする。CIAの指示で行う任務は電話の声だけで爆撃を指示され、音さえしないクリックでドカン! こんなゲーム感覚の戦争に、大義も正義もあったものではない。これでは主人公トミーが現実の戦場を切望するのもやむを得ないと思うのだ。寡黙なトミーは完全に目が死んでいるが、最後の最後で彼なりの正義で人間性を取り戻す。「ガタカ」とも共通するドライなタッチの戦争映画だが、これがSF映画ではなく、すでに現実であるという事実が一番怖い。
【75点】
(原題「GOOD KILL」)
(アメリカ/アンドリュー・ニコル監督/イーサン・ホーク、ブルース・グリーンウッド、ゾーイ・クラヴィッツ、他)
(淡々度:★★★★☆)
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ドローン・オブ・ウォー@ぴあ映画生活

パージ

パージ [Blu-ray]
近未来。アメリカでは、年に12時間だけ、殺人を含む全ての犯罪行為を合法にする法律が定められていた。パージと呼ばれるその日の夜、ジェームズは完璧なセキュリティシステムによって保護された自宅で妻子と共に過ごしていた。だが、一人の男が一家に助けを求め、息子がセキュリティを解除して男を家にかくまったため、暴徒化した近隣住民に取り囲まれ、一家は危険にさらされてしまう…。

殺人が合法になった近未来での恐怖の一夜を描くサバイバル・サスペンス「パージ」は、ようやく日本公開となった作品だ。籠城戦で戦う主人公という設定は、いわゆる密室劇のような濃密な空気がある。しかし、この話、かなりのムチャぶりと矛盾が多く、別の意味で、目が離せない。国民の憎悪を暴力によって発散させることで治安を維持しようという考えしかり。“完璧な”セキュリティシステムがあっさりと破られる展開しかり。権力側の恩恵を被っていた富裕層の主人公が非常事態に際していきなり倫理観に目覚めても、彼が暮らすそこは、もはやディストピアなのだ。ネタバレは避けるが、非常時から、12時間後の常時に戻ったとき、ご近所付き合いに支障をきたすことは間違いない。そんな“余計なお世話”をやきたくなる本作、つっこみどころ満載なのが逆にウケたのか、続編(「パージ:アナーキー」)も公開される。確かにアイデアそのものは面白い。狂ったシステムの中での匿名性の暴力の是非を問う物語は、真面目にとらえれば社会派ドラマなのだから。
【60点】
(原題「THE PURGE」)
(アメリカ/ジェームズ・デモナコ監督/イーサン・ホーク、レナ・ヘディ、アデレイド・ケイン、他)
(バイオレンス度:★★★★☆)
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パージ@ぴあ映画生活

6才のボクが、大人になるまで。

6歳の少年とその家族の12年間の変遷を描いた壮大な家族ドラマ「6才のボクが、大人になるまで。」。時間の流れを主役にした意欲的な実験作。

6才の少年メイソンは、離婚後キャリアップを目指す母に連れられて、姉とともにテキサスのヒューストンに引っ越す。ずっと音信不通だった父との再会、母の離婚、義父の暴力など、さまざまな試練とともに、多感な思春期を過ごすメイソン。初恋を経験し、大学に入学してカメラマンになるという夢をみつけた彼は、大人へと成長を遂げていく…。

リチャード・リンクレイター監督の映画では、いつも“時間”がモチーフとなる。デビュー作の「バッド・チューニング」しかり、「ビフォア」シリーズしかり。本作では、同じ俳優を使って12年間という歳月をかけて彼らの成長のドラマを記録するという、壮大な実験に挑んだ。平凡な家族を主人公にしたそのドラマでは、世界を揺るがす大事件はないものの、普遍的な家族ドラマの中に少年の成長や大人の成熟、あるいは諦念を見ることができ、観客はいつしかこの家族と共に“時間を共有”することになる。時代の移り変わりを背景に、主人公の少年メイソンが成長する様を収めたフィルムでは、最初は素のままのようなメイソンが、次第に俳優の顔になっていくのが興味深い。何度も傷つきながらそれでも前を向き、未来への希望をつかむ子供たち。一方、親たちには時間の経過は時として残酷なもので、母親が老いた自分を嘆くセリフや、父が夢をあきらめて現実と折り合う姿は身につまされるものだ。それにしても12年とは!リンクレイター監督の映画愛は実に深い。同じ俳優の成長を見守るケースは、「男はつらいよ」や「北の国から」、「ハリー・ポッター」シリーズがあるし、ジャン・ピエール・レオーの“アントワーヌ・ドワネル”役などもあるが、シリーズではなく1本の映画でやってのけたのが驚きである。上映時間は165分と長尺だが、退屈とは無縁。見逃せない傑作だ。
【85点】
(原題「BOYHOOD」)
(アメリカ/リチャード・リンクレイター監督/エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレイター、イーサン・ホーク、他)
(家族ドラマ度:★★★★☆)
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6才のボクが、大人になるまで。@ぴあ映画生活

ゲッタウェイ スーパースネーク

ゲッタウェイ スーパースネーク [Blu-ray]
妻を誘拐された元レーサーが危険なバトルに身を投じるカー・アクション・サスペンス「ゲッタウェイ スーパースネーク」。ひたすら車を走らせるためにある物語。

ブルガリアのソフィア。元凄腕レーサーのブレントは、見知らぬ男から「妻を誘拐した」との脅迫電話を受け、彼女を生きて返してほしければ指定した車を盗み、街中を爆走するように指示される。シェルビー・マスタングGT500スーパースネークを盗み、走りだすブレントだったが、車の所有者を名乗る少女を同乗させることに。ソフィアの街を爆走しながら街を混乱に陥れ、警察からも追われながら次々に届く犯人の指示に従うが…。

まず断わっておきたいが、本作はサム・ペキンパーの「ゲッタウェイ」とは何の関係もない。混乱するからこういうタイトルはやめてほしいが、それはさておき。これは、ひたすら車が爆走するカー・アクション映画だ。舞台はブルガリアの首都ソフィア。物語上、ここである必要性はまったくないので、単にロケ地として格安だったのだろう。ここですでにチープな雰囲気が漂ってくるのだが、本作の売りは、CGなしのリアル・アクションで、精鋭スタントマン22人による本物のカー・アクションとのこと。ん?!ということは主演のイーサン・ホークはロクに運転してないってことじゃないのか?!とツッコミを入れたくなるのは私だけではありますまい。とはいえ、平均45秒に1台ずつ大破する破壊型カー・アクションはド迫力の極みだ。夜の街を突っ走りながら、謎の男の理不尽な難題をクリアしながら先に進む展開は、ゲーム感覚。名車であるマスタング・シェルビーGT500スーパースネークのパワーと魅力をたっぷりと楽しめるので、車好きは必見だ。
【50点】
(原題「GETAWAY」)
(アメリカ/コートニー・ソロモン監督/イーサン・ホーク、セレーナ・ゴメス、ジョン・ヴォイト、他)
(クラッシュ度:★★★★★)
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ビフォア・ミッドナイト

ビフォア・ミッドナイト ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産) [Blu-ray]
運命的に出会った男女のその後を描く「ビフォア・ミッドナイト」。リアルな会話が延々と続くが、先が読めない展開はなかなかスリリング。

アメリカ人で作家のジェシーとフランス人の環境活動家セリーヌは、パリで一緒に暮らし、双子の娘がいる。列車で運命的に出会い、パリの書店で再会、今は家族となった二人は、バカンスのため家族でギリシャにやってくる。仲間たちと文学や恋愛の話をし、友人が用意してくれたおしゃれなホテルで久しぶりに二人きりの時間を過ごすが、甘いムードもつかの間、口げんかになってしまう…。

「恋人までの距離」は若い二人が運命的に出会うロマンチックな恋物語。9年後のパリでの再会を描いた「ビフォア・サンセット」、さらにその9年後の本作と続くのだから、二人にとって、甘く切ない恋は遠い昔のことだ。今、彼らが交わす会話は、子育てや浮気、仕事の悩みや互いへの不満など。女性の仕事環境への難しさやそれに対する男性の無理解というフェミニズムの視点も入り込む。リチャード・リンクレイター監督の演出は、とりとめもなく会話する二人という構図なので、アドリブで自由にみえるが、実は綿密に作りこまれたシナリオなのだそう。長台詞をこなす主演二人も大変だが、長時間歩きながらの会話という超長回しのカメラワークなど、スタッフの苦労もしのばれる。そのかいあって、主人公たちの会話は実にリアルだ。特に「恋人までの距離」をパロディ化したようなセリフには苦笑する。一方で、人生や文学について語るおしゃべりは知的で洗練されていて楽しい。“真夜中”に向かって険悪になっていく二人の行く末は果たして?! 先読み不能の会話劇はスリリングで、いつしか引きこまれてしまう。ラスト、ジェシーが語るタイムマシンが、生活を共にするようになった恋人たちを助けてくれる。本作だけでも面白いが、ぜひ前2作を見てから楽しんでほしい。
【65点】
(原題「BEFORE MIDNIGHT」)
(アメリカ/リチャード・リンクレイター監督/イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック、他)
(本音満載度:★★★★☆)
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ビフォア・ミッドナイト@ぴあ映画生活

フッテージ

フッテージ [Blu-ray]
売れない作家が呪いの連鎖に巻き込まれるオカルト・ホラー映画「フッテージ」。原題は“不吉な、縁起が悪い”の意味。

ノンフィクション作家のオズワルドは、10年前にベストセラーを出したもののその後ヒット作はなく、スランプ状態。新作執筆のため、妻子を連れてあえて引っ越してきたのは、一家惨殺事件の現場になった一軒家だ。屋根裏部屋で古い8mmフィルム(フッテージ)を見つけ、内容を見てみると、楽しそうな家族のホームビデオが一転し、殺人現場と不気味な仮面の男、さらに謎めいた記号が映っていた。新作のネタにするため、警察にも内緒で事件を調べたオズワルドは次々に怪現象に見舞われていく。恐怖にかられた彼はフィルムを焼却処分するが、一家はすでに逃れることができない死の連鎖に巻き込まれていた…。

監督のスコット・デリクソンは秀作ホラー「エミリー・ローズ」で実力を発揮したが、本作ではジャパニーズ・ホラーの「リング」に強くインスパイアされたのだそう。それは“知ってしまった”ということだけで死の連鎖に巻き込まれてしまう不条理の部分だ。フッテージに込められたのは、古代バビロニアの邪教の呪い。8mmフィルムのザラついた映像やパソコン画面に登場する画像など、事実を間接的に見る映像要素を使い、徐々に恐怖の本質に迫る演出は、なかなか上手い。一発逆転でベストセラーを狙うという不純な動機でいわくつきの家に関与する邪念もまた、呪いの格好のえじきなのだ。ただ謎の男ミスター・ブギーの間の抜けた顔が画面に現れた瞬間に、脱力してしまう。Jホラーの特徴は、見えるか見えないかのスレスレの演出と、恐怖の本質をあえて空洞にすることにあると思うが、やはり呪いをはっきりと映像化するのがアメリカ好みの演出なのだろう。優しげな風貌ながら家族に内緒で恐怖の家に住み、やがて追い詰められていくエゴイストの作家をイーサン・ホークが好演。予告編にも登場する首吊り殺害のフィルム映像のおぞましさが秀逸だが、何よりグロテスクなスプラッタ描写に頼らなかった演出を評価したい。
【55点】
(原題「SINISTER」)
(アメリカ/スコット・デリクソン監督/イーサン・ホーク、ジュリエット・リランス、フレッド・ダルトン・トンプソン、他)
(流血度:★★☆☆☆)
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フッテージ@ぴあ映画生活

映画レビュー「デイブレイカー」

デイブレイカー [DVD]デイブレイカー [DVD]
◆プチレビュー◆
スタイリッシュなバンパイア映画で、クールな映像が魅力的。現代社会を照射する内容は考えさせられる。 【70点】

 2019年、バンパイアが地球上の大多数を占めるようになった世界。そこでは、人間は血液を供給する食料として飼われていたが、圧倒的に数が足りず絶滅寸前だった。血液学者のエドワードは、代用血液の研究を続けながら、なんとか人間を救おうと考えていたが…。

 バンパイアものとSFという組合せの妙が、この映画最大の勝因だ。本来はホラー映画の枠にいて、恐れられ、孤独な存在であるべきマイノリティのバンパイアが、近未来ではマジョリティとなり、自分たちに適した社会を構築して暮らしている。昼夜逆転の構図といい、人間とのパワー・バランスといい、バンパイアの暮らしぶりのディテールが興味深い。うすら寒い平穏が、今までにないバンパイア映画としてこの作品をユニークなものにしている。

 物語の個性はそれだけではない。食料不足によりバンパイアの世界にも格差が生まれ、血液が欠乏すると“サブサイダー”という凶暴なモンスターへと変貌してしまうという緊張感のある設定が上手い。しかも、主人公エドワードは、元バンパイアの人間という例外種のコーマックに出会い、人間に戻ることが治療と気付くことから、話は意外な方向へと転がっていく。その間に、アクションあり、スプラッタありで、まったく飽きることがない。

 興味深いのは、不老不死のバンパイアの世界でありながら、我々が住む現代社会と問題点が酷似していることだ。エドワードの上司である巨大製薬会社社長の頭には、人間の血液を商品とする非情な利潤追求しかない。特権階級と貧困層という構図は、格差社会そのものだし、血液不足によるバンパイアとサブサイダーの抗争は、食料や資源を求めて繰り広げられる戦争を連想させる。

 何よりビジュアルがクールで魅力的だ。全体がスタイリッシュな印象なのは、モノトーンとブルー系の映像で統一されているため。苦悩する主人公がよく似合うイーサン・ホークが、そんな世界にたたずむ様はそれだけで絵になる。同時に、そこはかとないユーモアもある。バンパイアたちは郊外の住宅地から都心のオフィスに出勤し、途中で立ち寄るコーヒー・ショップでは血液入りのブラッド・コーヒーを飲む。「血をめぐんで」と書いた紙を持った浮浪者もいれば、紫外線注意のアラートも鳴り響く。ディテールの細かさが実に楽しい。

 冒頭、少女が遺書を書いている。そこには「不老不死で永遠に生きるなど耐えられない」との言葉が。そして彼女は、夜明けに外に座って太陽を浴び、炎となって自殺する。インパクトのあるオープニングでぐっと観客の心をつかむこの映画、人間のままであろうとバンパイアになろうと、はたまたそれらの種を行き来しようと、そこには格差と争いが必ず存在するというペシミスティックな世界観がベースだ。さらにその選択肢の前に、人間の“成分”そのものが、毒にも薬にもなるというジレンマがある。進化という枠組みでとらえ直してみると、この映画はいく通りもの解釈が可能なのだ。バンパイアものとSFのクロスオーバーの狙いは、案外そこにあるのかもしれない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スタイリッシュ度:★★★★★

□2008年 豪・米合作映画 原題「DAYBREAKERS」
□監督:ピーター・スピエリッグ、マイケル・スピエリッグ
□出演:イーサン・ホーク、ウィレム・デフォー、イザベル・ルーカス、他

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クロッシング

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行き場のない苦悩を抱える3人の警官のストーリーが交錯するクライム・サスペンスの佳作。それぞれの正義の有り方から暗く重い現代アメリカの姿が浮き彫りになっていく。NYの犯罪多発地区ブルックリンに3人の警察官がいた。退職目前のベテラン警官エディは何の功績もなく同僚や後輩からも軽蔑されている。家族思いの麻薬捜査官サルは、病気の妻と5人の子供をかかえ経済的に困窮している。潜入捜査官のタンゴは自分を偽る毎日に、心身ともに限界に達していた。ある強盗殺人事件をきっかけに、同じ警官ながら接点のない3人の人生が交錯することになるのだが…。

正義もしくは悪徳という両極端な側面を描くことが多いのがポリティカル・ドラマ。だがこの映画に出てくる警察官たちは、報われない仕事から生じる空虚な思いに心をむしばまれている男たちだ。彼らの中では、善悪の境界線は極めて曖昧になってしまっている。毎日危険と隣り合わせなのに信じられないほどの薄給で、やりがいも希望も持てない職務の前では、「自分は犠牲者」という思いが膨らむのも無理はない。そんな犯罪多発地域の警察官の現実が、リアルに描かれている。囮捜査のためギャング組織に潜入しているタンゴは、自分の命を救ってくれたギャングへの友情を感じ、麻薬捜査の現場に踏み込むたびに大量の札束を目にするサルは、自分とは無縁の大金に手が伸びそうになる。あまりに脆い正義を盾に、神経をすり減らすタンゴとサルの未来が、無気力で事なかれ主義のエディの姿に重なって見えてくる。だが、無難に過ごした末に退職しようとしていたエディに、思いがけない変化が現れたことから、3人の運命が転がり始める。とはいえ、エディ、サル、タンゴの3人は1つの事件とその場所を共有しながら、互いに認知することもなくすれ違うのみ。これが邦題「クロッシング」の由来なのだが、映画は、一人一人の正義を束ねることが出来なければ、どうなるのかを容赦のない筆致で描き切った。これが今のアメリカの閉塞感なのかと思うと陰鬱な気持ちになるが、徹底的に甘さを排除したアントワン・フークアの演出は、凄味がある。信仰心が厚いサルが言う「欲しいのは神の赦しじゃない。神の助けなんだ!」という言葉は、彼らの人生の中での神の不在の証。目の前の現実と、己が信じる正義の間で揺れる警察官の苦悩が胸を打つ。リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードル、いずれも渋い熱演で、素晴らしい。
【70点】
(原題「BROOKLYN'S FINEST」)
(アメリカ/アントワン・フークア監督/リチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードル、他)
(閉塞感度:★★★★☆)

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