映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

ウィル・スミス

7つの贈り物

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感動作のふりをしているが、中身は、神の真似事をする不愉快な物語だ。心に傷を負ったベンは、見知らぬ男女7人に彼らの人生を変える贈り物をする。ネタバレは禁止なので詳しくは明かせないが、主人公は、善人に対し善行を施すのが目的。だが“選ぶ”などという行為がそもそも傲慢だ。基準も曖昧で納得できない。動機もある意味で平凡である。冒頭から苦悩モードのウィル・スミスの熱演も、物語に説得力がなければ空回りするばかりだ。7人目の女性と共に過ごす穏やかな場面のみ、幸福感が漂う。この作品は、間違いなく意見が割れる。それが目的なら大成功といったところか。
【10点】
(原題「SEVEN POUNDS」)
(アメリカ/ガブリエレ・ムッチーノ監督/ウィル・スミス、ロザリオ・ドーソン、ウディ・ハレルソン、他)
(問題提起度:★★★★★)

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映画レビュー「ハンコック」

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◆プチレビュー◆
嫌われ者のスーパーヒーローという設定が新しい。前半は面白いのに後半失速するのが残念。 【65点】

 スーパーヒーロー・ハンコックは嫌われ者の困ったヤツ。人助けはするが勢いあまってビルや道路をメチャクチャにし、常に市民からヒンシュクを買っていた。酒好きでだらしない彼だが、偶然助けたレイからある提案を受ける…。

 人々の窮地を救うヒーローが非難されるという悲喜劇を、コミカルに見せる前半がとにかく楽しい。なぜか力加減ができないハンコックは、悪人退治に駆けつけるものの、着地に失敗して道路を破壊、建物をぶっ壊してブーイングをあびている。クジラを投げ飛ばして海に戻せば沖のヨットに命中して沈めてしまうし、車や列車を片手で持ち上げては大破させる。裏目に出るとか、世間に不満があるとか、そんな理由じゃない。要するに雑なのだ。力をもてあます子供のような男。それがハンコックである。

 その大きな子供は、記憶がない。超人パワーや不死身で歳をとらない理由はおろか、自分が誰なのかもわからない。アイデンティティーの喪失は孤独へとつながり、心はいつも寂しいというわけだ。そんな彼が偶然助けたのがPR会社の営業マンのレイだった。お人よしの彼は、命の恩人のハンコックに何とかお礼をと、イメチェンを買って出る。「誰からも愛される本当のヒーローにならないか?僕が手伝うよ」。まずは、礼儀正しく、相手を思いやり、身なりも整える。不本意なボディースーツを身にまとい、ギクシャクと正しいヒーローになっていくハンコックが、なんだか可愛くなる。

 前半はこのようにファンキーなヒーロー像をたっぷり堪能でき、まったく飽きない。だが後半ときたら、いきなりトーンダウンし別の映画のようなのだ。家族ぐるみのつきあいをしてくれるレイに、気がついたら病院に寝ていたことやそれ以来不死身になったことなど、自分の覚えている少ない過去をポツリポツリと語りはじめるハンコック。ここから、レイの美人妻メアリーが意外な形でからんでくる。これには正直驚くが、いきなりのシリアス・モードはいかがなものか。パワーダウンの理由や過去の秘密もはっきりしない。ヒップホップでノッていたスミスが、急にムード歌謡を歌いだすくらいの落差があり、すっかり調子が狂ってしまった。後半は怒涛のアクションもあるというのに、壮快感を失っていくストーリーがもったいなくて仕方ない。

 物語のバランスには納得できないものの、そんな時こそウィル・スミスである。92分の短時間だ。興行成績請負人でミスター・サマームービーの異名を取る大スターの魅力があれば十分と言わんばかりにぶっちぎる。実際、スミスほどヒーローがよく似合う男はいない。たとえヨレヨレの服装で、言葉使いが悪くても。たとえキレやすくて、空気が読めなくても。ちなみにヒーロー像は世相を表すという。はたしてハンコックの体現するものとは?ズバリ、型破りということだ。既成観念を打破する人物。私たちは現実でも映画でも、そんなヒーローを待っている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)グッドジョブ度:★★★☆☆

□2008年 アメリカ映画 原題「HANCOCK」
□監督:ピーター・バーグ
□出演:ウィル・スミス、シャーリーズ・セロン、ジェイソン・ベイトマン、他

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映画レビュー「アイ・アム・レジェンド」

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◆プチレビュー◆
古典SFの3度目のリメーク。無人の大都市NYのビジュアルが素晴らしいが、終盤の展開は物足りない。 【60点】

 西暦2012年。ウィルス感染で人類が滅び、唯一人生き残った科学者ネビルは、廃墟と化したNYから生存者に向けて無線でメッセージを送り続けていた。だが応答はない。夜行性の謎の生命体と戦い、想像を絶する孤独に耐えるネビルだったが…。

 困った映画だ。3回目のリメークだが、一応、オチがあるので、ストーリーは詳しくは語れない。主人公ネビルは、ウィルスのワクチンを開発する軍所属の学者で、科学的知識と戦闘能力を兼ね備えた人物だ。彼は、絶望的な状況の中で、殺人ウィルスの感染者が変異した闇の生物“ダーク・シーカーズ”を治療するための薬の研究を、たった一人で続けている。ネビルは、ワクチンを開発できず人類を救えなかった罪悪感を抱えているのだ。そんな正義感あふれる主人公を演じるのが、ウィル・スミスである。旧作と最も違う点は、このネビルの人間描写が丁寧なことだ。

 地球上でひとりぼっち。もし自分がそうなったら…と想像するだけで怖い。だが、このモチーフの抜群の面白さに比べ、後半の展開に魅力が薄いのだ。地球規模の災厄の後なのに、ライフラインがバッチリ整っていることへのツッコミはこの際やめておこう。物語は、はたして生存者はいるのか?というミステリアスな要素より、アクション系サバイバルのテイストの方が濃くなってしまっている。ネビル一人に免疫がある理由をもっと明確にして、そこに謎を込めることも出来ただろうに。そのサバイバル・バトルの相手、ダーク・シーカーズは、旧作では、出来損ないのゾンビが集まって作ったKKK風カルト集団のようで苦笑したものだが、今回は余計な言葉を発せず凶暴さと不気味さをグレードアップ。宗教臭さが無くなっているのはありがたい。とは言え、主人公が人類再生の鍵と信じる闇の生物に、ただ敵という役割だけを与えるのは、いささか片手落ちだ。ラストの落とし前も、方法は違うが旧作と同じスピリットではないか。せっかく21世紀にリメークするのだ。もっと大胆な新解釈があってもいいはずである。大風呂敷を広げた割に、オチはこれ?と文句のひとつも言いたくなった。これでは、来日時にネタバレしたウィル・スミスを責める気にもなれない。

 不満ばかり並べてしまったが、見所がないのかと言えば、決してそんなことはない。まず、主演のウィル・スミスの硬軟使い分けた演技が堪能できるのが嬉しい。主人公は唯一の相棒の愛犬と車に乗り、無人で荒れ果てた街を行く。食料となる鹿を追い、公園で野菜を育て、誰もいない店でマネキンに話しかけながらDVDを“借りる”。ほとんど一人芝居に近い演技をこなすスミスの上手さを改めて確認できる。ヒーローが似合う役者だが、SFやアクション、ラブコメディから人間ドラマまで、彼の守備範囲は広いのだ。アスリートのようにたくましいウィルが、打ち捨てられた軍用機の翼の上でゴルフをする様子はちょっと絵になる光景である。もう一つの見所は、廃墟になったNYのユニークなビジュアルだ。虚無感を漂わせつつ、街全体が自然に飲み込まれたように作り込んだ造形美が何ともクールで素晴らしい。地球の荒廃が宇宙からの異生物などではなく、人間自らがまいた種で引き起こされた皮肉。その上、人の気配がなく、原始に立ち返ったような大都会の光景が、映画の中で最も強い魅力を放つとは…。やっぱりこれは困った映画である。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)恋愛度:★☆☆☆☆

□2007年 アメリカ映画 原題「I AM LEGEND」
□監督:フランシス・ローレンス
□出演:ウィル・スミス、アリス・ブラガ、サリー・リチャードソン、他

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幸せのちから

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原題のHAPPYNESSが、IではなくYになっているところにこだわりが感じられる。ウィル・スミスとその実子の共演で、実の親子ならではの自然な空気感がいい。現代のアメリカン・ドリームは、ホームレスから会社経営者へ。実話ならではの説得力が効いた。
【60点】
(原題「THE PURSUIT OF HAPPYNESS」)
(アメリカ/ガブリエレ・ムッチーノ監督/ウィル・スミス、ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス、タンディ・ニュートン、他)
(子役が可愛い度:★★★★★)

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アイ、ロボット

アイ,ロボット 通常版 [DVD]アイ,ロボット 通常版 [DVD]
◆プチレビュー◆
感情を持つロボットものの映画としては、「ブレードランナー」がイチオシ。人間が機械化する逆パターンとしては「ロボコップ」が代表。共存を哲学的に描いたのは押井守の「イノセンス」。やっぱりロボット映画はSFの大看板だ。

2035年のシカゴ。ロボット三原則の提唱者であるラニング博士が謎の死を遂げる。捜査を担当するスプーナー刑事は、ある出来事以来、ロボットに対して不信感を持っていた。スプーナーは、博士を殺したのはロボットのサニーではないかと疑うが、事件の裏には企業の巨大な陰謀が隠されていた…。

感情を持つロボットという設定は、SFでは古典とも言えるもの。それだけ人気で興味深いテーマなのだ。SFの巨匠アイザック・アシモフの短編「われはロボット」を原作とするこの映画は、ロボットと共存する近未来を舞台に、アクション、サスペンス、ドラマと複数のジャンルをまたぎながら展開する。扱いようによっては、人間の存在意義を問う深遠なテーマにもなるところを、しっかりエンタメ作品に仕上げるのがやはりハリウッドだ。

主人公のスプーナー刑事を演じるウィル・スミスは製作総指揮も務めている。そのせいか、ロボット嫌いのトラウマは少々優等生すぎる感も。さらに、全裸のシャワーシーンなど、不必要なサービスショットもあり、笑わせてくれる。だが、コンバースのスニーカーを「2004年モノだぜ」と自慢してアナログ感覚を醸し出し、近い未来はさもありなんと思わせるなど、意外に細かい芸も披露する。

SFでは未来社会を視覚化するビジュアル・センスがものを言う。その点、このロボットの造形はシンプルでなかなか良い。メタリックなロボットの大群は、かなり不気味。表面よりも筋肉構造で擬人化する技術に注目だ。監督のプロヤスはエジプト生まれのオーストラリア育ち。クールな映像センスが持ち味の人である。

感情を持つ究極のロボット、サニー。サニーは本当に殺人を犯したのか。もし、そうなら、いったい何のために?スプーナー刑事の上司が言う「人間が人間を殺していた時代が懐かしい」というセリフが意味深い。テクノロジーの暴走というありがちなテーマではあるが、そう遠い世界の話ではないのだから、この際、大真面目に鑑賞するのもいいだろう。

□2004年 アメリカ映画 原題「I, ROBOT」
□監督:アレックス・プロヤス
□出演:ウィル・スミス、ブリジット・モイナハン、ジェームズ・クロムウェル、他

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アイ,ロボット@ぴあ映画生活

バッドボーイズ2バッド

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◆プチレビュー◆
宣伝担当の綺麗なお姉さんが「2時間26分もあるんですよ…」と言った時の、悲しげな瞳が忘れられない。刑事ものは白人と黒人の組合せが多いので、黒人2人組という設定はちょっと新鮮。

マイアミ市警のマーカスとマイクは型破りな捜査で有名な刑事コンビ。麻薬シンジケート壊滅の特捜チームに任命された彼らだったが、捜査は難航する。マーカスは仕事に悩みを抱え、マイクはマーカスの妹シドと密かに交際中。さらにシドが潜入捜査任務を帯びた麻薬捜査官だったことが判明し、事態は複雑になっていく…。

前作は確かに見た。…はずなのだが、見事なまでに記憶がない。それほど当時の彼らはどうでもいい存在だった。W.スミス、M.ローレンス、監督のM.ベイに製作のJ.ブラッカイマーの4人があまりにビッグになってしまったので、スケジュール調整が大変だったというのが続編完成まで8年もかかった理由だが、前作を見ていなくても、いや、覚えていなくても全く問題ない作りになっているので大いに助かった。

とにかくド派手な映画だ。そもそもブラッカイマーの映画は場所やキャラが変わってもテイストは全て同じのファースト・フード映画。質より量で勝負なのだ。ストーリー性はほとんど無視して、市街でのカーチェイスや銃撃戦など、息つく暇もないほどのアクションが繰り広げられる。これのいったいどこが“極秘”捜査だと言うのか。ちなみに一介のヒラ刑事が、フェラーリに乗るのも、分不相応な豪邸に住んでいるのも出演者がビッグになったことに比例しているのだろうか。何ともバブルな設定だ。

100億円という日本の一般ピープルにはにわかに想像し難い額を投入して作った映像は、ひたすら“ブチ壊す”もの。何百台という車を潰し、ビルを壊し、豪邸を吹き飛ばす。かつて軍艦や小惑星まで吹っ飛ばしたブラッカイマーにとっては些細なことに過ぎないのだろうが、とどのつまりにキューバに乗り込むにいたっては開いた口がふさがらない。突如鳴り出す叙情的な音楽と「俺達は仲間だ」のセリフと共に登場する助っ人。あぁ、どうしてこうなるの。キューバ軍兵士を皆殺しにするってのは、政治的にも問題なんじゃないのか。ブラッカイマーの映画に真面目にツッコミを入れること自体がマナー違反という気もするけれど…。

さんざん文句を言っておいてナンだが、困ったことに見る価値はある。何しろ、これほど派手さに徹したアクション映画は滅多におめにかかれないし、主演2人のマシンガン・トークも最高に楽しい。ヘタな大義名分や歴史的考察なんぞとは無縁なので何も考える必要はない。必然性のないアクション場面はひたすら観客へのサービス精神に基づくものなので、いちいち格好をつけるW.スミスもどこか得意げである。

ものすごくいいかげんなものを見てしまった時のトリップ感覚が快感だ。観客を楽しませ、自らも利益をあげ、爽快感の他には後には何も残さない。実に合理的である。娯楽の追求という意味では徹底した映画なので、潔ささえ漂っていた。副題の「2バッド」はトゥー・バッドのモジりで“ヤバ過ぎる”の意味。豪快な暴れっぷりは、そのまま今のハリウッドのエネルギーと考えていいだろう。

□2003年 アメリカ映画  原題「BAD BOYS 2BAD」
□監督:マイケル・ベイ
□出演:ウィル・スミス、マーティン・ローレンス、ガブリエル・ユニオン、他

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アリ

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◆プチレビュー◆
常に挑発的で、決して守りに入らないアリ。冒頭のブルースにシビレた。

1964年、22歳でボクシングヘビー級チャンピオンになったカシアス・クレイは、名前をモハメド・アリに改名。ボクサーとして通算61戦56勝37KO5敗という驚異的な数字とは裏腹に、彼の人生は、栄光と挫折そのものだった。イスラム教への改宗、ベトナム戦争への徴兵拒否、不当に剥奪されたボクサーの資格を取り戻すための裁判と、苦難の日々がアリを待ち受けるが、彼は常に闘い続ける…。

ボクシングというスポーツは映画になりやすいのか、昔から数多くのボクシング映画が作られてきた。この映画は過去最高と言ってもいい選手モハメド・アリが主人公。未だ存命の実在の人物、スポーツ界のカリスマを描くのは、さぞ難しいだろうと予想していたが、やはり、従来のボクシング映画とは一味違った伝記映画。極力ドラマ性を廃し、ドキュメンタリータッチに徹している。

映画が描くのは若干22歳で世界ヘビー級チャンピオンになった1964年から、王者ジョージ・フォアマンを破って復活を遂げる1974年の“キンシャサの奇跡”まで。この、時代的にもアリ個人的にも複雑な状況を、M.マン監督はクドクドと説明せずに、ごく簡単に描くからすごい。音楽はブルースが中心だが、このオープニングの上手さと音楽の良さで、ぐっと引き込まれる。

元来、ボクサーといえば寡黙な人物が多い中、アリは有言実行を遥かに越えて、大ボラ吹きと呼ばれるくらい口が達者。相手を挑発しながらボクサーとして不動の地位を築いていくが、ベトナム戦争徴兵拒否が、彼の運命を狂わせる。劇中でも「敵は政府だ。」とはっきり口にするが、宗教的な理由や正義感などではなく、一人の人間として「恨みのない人間を殺す理由はない。それに自分は自由に生きたいんだ。」というシンプルな思いからの言動に見えた。だからこそ、とことんこだわれたに違いない。独特のトークと恐れを知らない挑発的な言動は、いやでもリング内外での闘いを彼に強いた。

ウィル・スミスは身も心もアリになりきったと言うだけあって、見事な肉体改造。ヘビー級の選手にしては驚くほど身が軽いアリの軽やかなフットワークは“蝶のように舞い、蜂のように刺す”という言葉そのもので、音楽界出身で抜群のリズム感を持つ彼を起用したM.マン監督の眼力のすばらしさを実感。

ドキュメンタリータッチは観客におもねる部分がなく、サービス精神にも欠けるが、個人的には好きなスタイル。アリという人物を描くのにも適しているように思う。アリの人生と交差させて描かれる社会情勢は、マルコムXやキング牧師の暗殺、公民権運動の高まりや、人種差別問題、ベトナム戦争、ザイールの国家の思惑など様々。そのときアリは何を思っていたのか、観客自身に考えさせる。つきはなしたアプローチが逆に新鮮だ。

雨のなか行われたアフリカ、ザイール(旧ベルギー領コンゴ)のキンシャサの復活試合は、今なお語り継がれる名勝負で、単に王座奪回というだけでなく、決して信念を曲げなかった男の自分自身に対する闘いの決着の場だ。体力の衰えや不安と闘いながら望んだ勝負に答えが出たとき、空から慈雨が降り注ぐ。自分の信じる正義のために、時代や政府という巨大な敵と戦ってきたアリの生き方は、たとえ欠点はあっても、スポーツという枠を越えて人々に訴えかける何かがある。

伝説のボクサー、モハメド・アリが自らの信念を貫き通す姿を描く伝記映画。常に闘い続けた男アリ。モハメド・アリはイスラム語で“賞賛されるべき人”という意味だ。

□2001年 アメリカ映画 原題「ALI」
□監督:マイケル・マン
□出演:ウィル・スミス、ジョン・ボイド、他

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◆映画ライター、映画評論家
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◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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