映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ドリーム」「亜人」「僕のワンダフルライフ」etc.

ウィレム・デフォー

ドッグ・イート・ドッグ

ドッグ・イート・ドッグ (ハヤカワ文庫NV)
服役を終えて出所したトロイは、刑務所で知り合った仲間で、薬物中毒のマット・ドッグ、巨漢のディーゼルと再会する。先が見えない未来を変えるため、仲間思いのトロイは、地元ギャングのボスに相談し新たな仕事を請け負うことに。それはボスへの借金を返済しない男の息子を誘拐し身代金を要求するというもの。簡単な仕事に思われたが、予想外の展開へと発展し、3人は追われる身となってしまう…。

誘拐を請け負った前科者の男たちが追い詰められていく様を描くクライム・サスペンス「ドッグ・イート・ドッグ」。タイトルは“喰うか喰われるか”の意味で、原作は、自らも服役経験があり、獄中で書いた小説で作家になったエドワード・バンカーの犯罪小説だ。バンカーは11歳で少年院に入ってから20数年、ほとんどを刑務所の囚人として過ごしたというから、かなり異色の小説家である。暴力や犯罪、刑務所の描写は、経験を踏まえているだけあって、リアルだと評判で、本作でも情け容赦ないバイオレンス描写やムショ仲間特有の腐れ縁などが詳細に描かれている。主人公のトロイは仲間思いで恩義に厚く“比較的”まともな男だが、マッド・ドッグはコカイン中毒で誰もが手を焼くキレやすい性格。家庭持ちで取り立て屋のディーゼルは、普段は温和だがキレたら怖い巨漢の男だ。こんなアブナイ3人組の仕事が無事に済むわけがなく、人生の一発逆転を狙った大仕事は、偶然や必然、悪運に疑心暗鬼が重なって、堕ちるところまで堕ちていく。まぁ、ダメ男の負け犬たちがたどる運命は最初から予想がつくのだが、それにしてもウィレム・デフォーの狂犬ぶりはすさまじい。本作の通奏低音は、暗い色調の映像と運命にからめとられてがんじがらめになる男たちのハードボイルドな転落ぶりだ。手あたり次第に役を引き受けている感がある、近年のニコラス・ケイジの仕事ぶりを見ていると、彼が出演するならB級映画と安易に思われがち。あながちハズレではないが、むしろ本作はカルト映画の部類で、バイオレンス描写の合間にシレッと挿入される乾いた笑いに独特の味がある。クールなモノクロ映像で始まる冒頭、トロイが、先に出所していたマッド・ドッグからプレゼントされたスーツに対して礼を言う。「スーツをありがとう」。直後にカラー映像になり、それが「誰が着るのか、こんなモン?」状態の鮮やかな青緑色のスーツだと分かり、思わず吹き出して笑った。
【55点】
(原題「DOG EAT DOG」)
(アメリカ/ポール・シュレイダー監督/ニコラス・ケイジ、ウィレム・デフォー、クリストファー・マシュー・クック、他)
(ハードボイルド度:★★★★★)
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ジョン・ウィック

ジョン・ウィック [Blu-ray]
ジョン・ウィックは、裏社会にその名を刻んだ伝説的な殺し屋だったが、妻と出会い足を洗って穏やかに暮らしていた。その最愛の妻を病で失い悲しみの隠遁生活を送っていたジョンを、彼が何者か知らないロシアン・マフィアの暴漢が襲う。愛車を奪われたうえに妻が遺した愛犬を殺されて、怒りに燃えたジョンは復讐を誓い、封印していた殺しのスキルを甦らせ、銃火器を取り出し、敵を次々と殺害していく…。

キアヌ・リーヴスが凄腕の暗殺者を演じる「ジョン・ウィック」は、久しぶりにアクション・スターのキアヌの本領を発揮したバイオレンス・アクションだ。何しろ主人公のジョン・ウィックは、あきれるほど強い。裏社会でその名を轟かせたヒットマンは、裏稼業の同業者を殺す暗殺者。つまり一流中の一流である。ロシアン・マフィアのボスのバカ息子など、もとから敵ではないのだが、息子を守ろうとする父親のボスが無数の殺し屋を送り込む。だが誰が来ようと何人来ようと、ジョンは最強。群がる敵をバッタバッタとなぎ倒すという構図だ。黒のスーツに身を包んだキアヌは、どこまでもクールなのだが、彼が披露する銃撃と格闘技を組み合わせた、新銃術“ガンフー”がユニークなので注目してほしい。流れるような動きで接近戦を制し、瞬時に状況を判断して敵を撃つ。近年のアクションの中では特筆の美しさで惚れ惚れした。さらに裏稼業の男女が集う中立地帯のホテルのたたずまいがシブい。そこでは独特のルールと美学があって、そのことがジョンを後押ししているのだ。「スピード」や「マトリックス」といったアクション映画の傑作に主演したのに、最近ヘンテコな作品ばかりだったキアヌ。どうやらシリーズ化も決まっているらしい本作で、見事に復活を遂げている。
【75点】
(原題「JOHN WICK」)
(アメリカ・カナダ・中国/チャド・スタエルスキ監督/キアヌ・リーヴス、ウィレム・デフォー、イアン・マクシェーン、他)
(スタイリッシュ度:★★★★★)
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ジョン・ウィック@ぴあ映画生活

エレニの帰郷

エレニの帰郷 [Blu-ray]
激動の20世紀に翻弄される3人の男女の姿を描く「エレニの帰郷」。2012年に急逝した巨匠アンゲロプロスの遺作。

20世紀末の現在。ローマの撮影所チネチッタでは、映画監督の“A”が、中断していた自作の撮影を再開するが、彼の両親のパーソナルな物語と20世紀の歴史的事件の関係性を描くその映画の完成は困難を極めていた。“A”の母親エレニは大学生の頃、秘密警察に逮捕され、テサロニキ収監所に送られた後、命がけで脱走する。彼女は、離れ離れになった恋人のスピロスとギリシャ難民の町で再会。だが、スターリン死去による混乱で、再び逮捕された二人と、エレニの友人で彼女を愛するイスラエル難民のヤコブはシベリア送りになり、またしても離れ離れになる。スピロスの子を授かったエレニは、彼を探しながら、モスクワ、オーストリア、NY、カナダと移り住む。再び現代に戻り、“A”はベルリンでエレニ、スピロス、ヤコブの3人と再会するが…。

時間と空間を自由に飛び越えながら、時に冷徹に、時に叙情的に物語を描くのが、ギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロスのスタイルだ。ポリティカルドラマとメロドラマが多重構造になる彼の作品は、しばしば入れ子状態になり、難解な作品になってしまうが、本作でも同様である。現代を生きる映画監督の“A”の物語と、彼の母エレニの過去、そして現在のエレニの物語が時空を超えて綴られる。その背景には、スターリンの死、ウォーターゲート事件、ベトナム戦争、ベルリンの壁の崩壊などの激動の20世紀の歴史が横たわるが、逮捕、脱走、越境、再会に伴う個人の苦しみと喜び、何より愛を貫いた3人の男女の人生が、静かに浮かび上がってくる。前作「エレニの旅」、本作、次作「もう一つの海」の3本で“20世紀3部作(トリロジア)”という形だが、アンゲロプロスの事故死で一時は公開が危ぶまれた本作が、無事に完成して届けられたのが嬉しい。3作目もアンゲロプロスの娘たちが製作スタッフとなって公開を目指して奮闘しているという。アンゲロプロスの代名詞であるワンシーン・ワンカットの撮影スタイルはもちろん健在だ。さらに、雪や霧、風などの自然描写を登場人物の心情に重ねながら、非情な政治と庶民の人生を対比するなど、アンゲロプロス特有の語り口がたっぷりと堪能できる。そんな本作が、どこかアンゲロプロス自身の自叙伝のように見えてしまうのは、彼がもうこの世に存在しないからだろうか。年老いて再会したエレニとスピロス、ヤコブの3人がダンスを踊るシークエンス、雪が舞うブランデンブルグ門でスピロスと孫のエレニが笑うラストシーンがノスタルジックで、忘れがたい余韻を残してくれる。
【65点】
(原題「TRILOGIA II: I SKONI TOU HRONOU」)
(ギリシャ・伊・独・露/テオ・アンゲロプロス監督/ウィレム・デフォー、ブルーノ・ガンツ、ミシェル・ピッコリ、他)
(詩情度:★★★★☆)
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エレニの帰郷@ぴあ映画生活

ジョン・カーター

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伝説的なSF小説を最新3Dで映像化したスペクタクル・アドベンチャー「ジョン・カーター」。直球すぎる演出を大味と感じるか、正当派と見るかで評価が分かれそうだ。

1881年、NY。大富豪のジョン・カーターが突然死去する。彼は、唯一心を許していた甥のエドガー・ライス・バローズに一冊の日記を残した。そこに書かれていたのは、カーターが若き日に経験した想像を絶する体験談。愛する妻と娘を失って生きる希望を失くしたカーターは、ある不思議な現象によって、未知なる惑星“バルスーム”へと迷い込む。高度な文明を持つその星は、全宇宙を支配しようとするサーン族の“マタイ・シャン”によって滅亡の危機に瀕していた。バルスームの民たちは突如現れたカーターに希望を託すのだが…。

原作は、「ターザン」の作者として知られるエドガー・ライス・バローズの伝説的SF小説「火星のプリンセス」。「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカスや「アバター」のジェームズ・キャメロンが、多大な影響を受けたと公言している、冒険小説の元祖のような作品だ。約100年前の小説を、現代の最先端技術で映像化するのだが、演出は意外なほどオーソドックスである。赤茶けた大地がトレードマークの火星のドライな空気感、異形の緑色人に、美しく勝気な姫君、そして選ばれた勇者として覚醒する主人公の活躍と、すべてが定番通りに進んでいく。監督のアンドリュー・スタントンは「ファインディング・ニモ」や「ウォーリー」を手がけた名手だが、今回は初の実写映画へのチャレンジだ。練られたストーリーと上質の絵作りで知られる監督だけに、この壮大なアドベンチャーも、細部まで作りこんでいる。ただ偉大な原作への配慮か、初の実写映画への緊張か、はたまたウォルト・ディズニー生誕110周年記念という大プロジェクトのプレッシャーか、いわゆるスペース・アドベンチャー活劇として型にはまりすぎた気も。せめてダークなサーン族の背景にもう少し踏み込んでほしかった。だが平凡という形容は避けたい。これぞ冒険活劇というワクワク感は、何にも変えがたい映画の魅力なのだ。大作への出演が相次ぐテイラー・キッチュの肉体改造と、惑星バルスームの壮大な景観を楽しみたい。
【55点】
(原題「JOHN CARTER」)
(アメリカ/アンドリュー・スタントン監督/テイラー・キッチュ、リン・コリンズ、ウィレム・デフォー、他)
(原点回帰度:★★★★☆)
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ジョン・カーター@ぴあ映画生活

ハンター

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世界遺産に登録されたタスマニアでオールロケを敢行した異色のサスペンス・ドラマ「ハンター」。神話的とも思えるストイックな作風が美しい。

世界中を渡り歩いた百戦錬磨の傭兵にして凄腕のハンターであるマーティンは、あるバイオ・テクノロジー企業の依頼でタスマニアにやってくる。それは絶滅したとされる幻の野生動物タスマニアタイガーの目撃情報により、ライバル他社に先んじてタイガーを捕獲し生体サンプルを持ち帰るという困難な依頼だった。他人との関わりを避けて生きてきたマーティンだったが、ベースキャンプ代わりの民家に暮らす母親や幼い姉弟と、素性を隠したまま図らずも親しくなり心を通わせる。一方で、仕事を依頼してきた企業に対し、倫理的な疑念が沸くようになるが…。

険しい顔つきのマーティンがなぜ傭兵として生きているのか。幼い少年バイクはなぜ言葉をまったく発しないのか。マーティンに仕事を依頼してきた企業の真の目的は。それらに対して、明快な説明はほとんどないが、そのそっけなさは、荒々しくも美しいタスマニアの荒野に不思議とマッチしている。何やら企業サスペンスの匂いをさせつつ、アドベンチャーの要素もあり、エコロジーと雇用の社会問題もチラリ。しかし劇中の描写は、そのどれもが中途半端で、最終的に着地するヒューマニズムもどこか唐突な印象を覚えた。だがこの寡黙なオーストラリア映画には、それを欠点と感じさせない空気がある。タスマニアタイガーは絶滅したとされる幻の動物だが、それは主人公にとって、いや、人間にとって、神聖な存在だ。最後の一頭になり孤独に狩りをしながら黙って死を待つタイガーとついに対峙したマーティンが取る“行動”は、決して汚してはならない尊い生物への彼なりのリスペクトなのだ。原作はジュリア・リーの小説「THE HUNTER」。個性派俳優ウィレム・デフォーの、セリフに頼らない静かな熱演が素晴らしい。
【65点】
(原題「THE HUNTER」)
(オーストラリア/ダニエル・ネットハイム監督/ウィレム・デフォー、フランシス・オコナー、サム・ニール、他)
(タスマニア満喫度:★★★★☆)
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ハンター@ぴあ映画生活

アンチクライスト

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ほぼ二人芝居のこの物語は、自ら“うつを患った”と公言するラース・フォン・トリアー監督が、物議を醸すことを目的にしたかのような問題作だ。子供を失った夫婦が“地獄と化した楽園”からさえも追放される運命を、章立ての構成で冷徹に描いていく。愛し合っている最中に、幼い息子を事故で失くした夫婦。悲しみと自責の念から妻は精神を病んでしまい、セラピストの夫はなんとか妻を救おうと、「エデン」と名付けた森の中の山小屋にこもって心理療法を試みる…。

ハイスピード・カメラで撮られた冒頭のモノクロのシークエンスの、なんと美しいことだろう。だがその美しさゆえに、その後の地獄が際立って、見るものの神経を逆なでするから、上手いというより狡猾である。本来、セラピーは家族が行なうものではないとされていて、深く愛するがゆえに客観性を欠くというのがその理由なのだそう。子供を亡くしたのは妻も夫も同じなのだが、夫は自分ならば妻を救えると思っている。まずここに罪深い“傲慢”がある。だがなぜ妻だけが常軌を逸してしまうのか。自責の念や後悔は夫婦に共通だが、妻の心の奥底に眠っていたダークサイドが最愛の息子の死というショックによって目覚めてしまったと考えられる。屋根裏にあった妻の書きかけの論文は、魔女や拷問について考察した異様なもので、冒頭にサブリミナル・ショットのように一瞬映る歪んだ女の顔こそは、彼女のもうひとつの顔なのだ。夫の治療がますます妻の容態を悪化させ、完全に狂気を孕んだ妻の行動は、夫だけでなく自分自身をも痛めつけるもの。日本では映倫があるため、ショッキングなシーンにはぼかしが入るのだが、それでも、夫の足にドリルで穴をあけたり、女性器を切断するなどの、あきれるほど凄惨な“アクション”は、十分に見ていて痛い。エデンという楽園からの追放は、壮絶で衝撃的な結末を迎える。夫婦が愛し合う大木から伸びる無数の手、山にたたずむ夫の周囲の、大勢の顔の無い女たち。象徴性を持つ3種の獣。いったいどれほどの寓意が込められているのか、もはや計り知れないが、そこにあるのは間違いなく絶望だ。夫婦が再起を賭けたエデンに神はいなかった。神の不在をもって神を肯定するラース・フォン・トリアーのアンチテーゼは、放り出すかのようにあっけなく終わる。好き嫌いが激しく分かれそうな作品だが、正真正銘の問題作であるのは間違いない。
【60点】
(原題「ANTICHRIST」)
(デンマーク・独・仏他/ラース・フォン・トリアー監督/シャルロット・ゲンズブール/ウィレム・デフォー、他)
(壮絶度:★★★★★)


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アンチクライスト@ぴあ映画生活

映画レビュー「デイブレイカー」

デイブレイカー [DVD]デイブレイカー [DVD]
◆プチレビュー◆
スタイリッシュなバンパイア映画で、クールな映像が魅力的。現代社会を照射する内容は考えさせられる。 【70点】

 2019年、バンパイアが地球上の大多数を占めるようになった世界。そこでは、人間は血液を供給する食料として飼われていたが、圧倒的に数が足りず絶滅寸前だった。血液学者のエドワードは、代用血液の研究を続けながら、なんとか人間を救おうと考えていたが…。

 バンパイアものとSFという組合せの妙が、この映画最大の勝因だ。本来はホラー映画の枠にいて、恐れられ、孤独な存在であるべきマイノリティのバンパイアが、近未来ではマジョリティとなり、自分たちに適した社会を構築して暮らしている。昼夜逆転の構図といい、人間とのパワー・バランスといい、バンパイアの暮らしぶりのディテールが興味深い。うすら寒い平穏が、今までにないバンパイア映画としてこの作品をユニークなものにしている。

 物語の個性はそれだけではない。食料不足によりバンパイアの世界にも格差が生まれ、血液が欠乏すると“サブサイダー”という凶暴なモンスターへと変貌してしまうという緊張感のある設定が上手い。しかも、主人公エドワードは、元バンパイアの人間という例外種のコーマックに出会い、人間に戻ることが治療と気付くことから、話は意外な方向へと転がっていく。その間に、アクションあり、スプラッタありで、まったく飽きることがない。

 興味深いのは、不老不死のバンパイアの世界でありながら、我々が住む現代社会と問題点が酷似していることだ。エドワードの上司である巨大製薬会社社長の頭には、人間の血液を商品とする非情な利潤追求しかない。特権階級と貧困層という構図は、格差社会そのものだし、血液不足によるバンパイアとサブサイダーの抗争は、食料や資源を求めて繰り広げられる戦争を連想させる。

 何よりビジュアルがクールで魅力的だ。全体がスタイリッシュな印象なのは、モノトーンとブルー系の映像で統一されているため。苦悩する主人公がよく似合うイーサン・ホークが、そんな世界にたたずむ様はそれだけで絵になる。同時に、そこはかとないユーモアもある。バンパイアたちは郊外の住宅地から都心のオフィスに出勤し、途中で立ち寄るコーヒー・ショップでは血液入りのブラッド・コーヒーを飲む。「血をめぐんで」と書いた紙を持った浮浪者もいれば、紫外線注意のアラートも鳴り響く。ディテールの細かさが実に楽しい。

 冒頭、少女が遺書を書いている。そこには「不老不死で永遠に生きるなど耐えられない」との言葉が。そして彼女は、夜明けに外に座って太陽を浴び、炎となって自殺する。インパクトのあるオープニングでぐっと観客の心をつかむこの映画、人間のままであろうとバンパイアになろうと、はたまたそれらの種を行き来しようと、そこには格差と争いが必ず存在するというペシミスティックな世界観がベースだ。さらにその選択肢の前に、人間の“成分”そのものが、毒にも薬にもなるというジレンマがある。進化という枠組みでとらえ直してみると、この映画はいく通りもの解釈が可能なのだ。バンパイアものとSFのクロスオーバーの狙いは、案外そこにあるのかもしれない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スタイリッシュ度:★★★★★

□2008年 豪・米合作映画 原題「DAYBREAKERS」
□監督:ピーター・スピエリッグ、マイケル・スピエリッグ
□出演:イーサン・ホーク、ウィレム・デフォー、イザベル・ルーカス、他

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シャドウ・オブ・ヴァンパイア

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◆プチレビュー◆
狂気が漂うW.デフォー。製作がニコラス・ケイジというのも話題。物語のアイデアが良かった。

1921年、監督ムルナウは映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」に着手する。主演の吸血鬼役のマックス・シュレックは実は本物のヴァンパイアで、出演後の報酬として、主演女優の生き血を監督から約束されていた。しかし、映画にこだわるムルナウと、シュレックのわがままで撮影現場は混乱、スタッフも次々と犠牲になっていく…。果たして映画は完成するのか?

ヴァンパイア、つまり吸血鬼が出てくるからホラー映画と勘違いしそうだが、実はこの映画、ブラックな笑いがつまった業界もの。俳優が本物の吸血鬼だったというアイデアのおもしろさがポイントだ。監督が究極の凝り性なら、俳優は超わがまま、しかもヴァンパイア。監督のムルナウは傑作の吸血鬼映画を撮ろうと固く決意する。リアリティを追及するあまり、本物の吸血鬼を見つけてきて主役に据えるとは。一方、演技派の吸血鬼は、人間離れは仕方ないとしても、撮影中もわがまま放題だが思いがけず熱演する。

監督にとってワガママな俳優ほど扱いにくいものはない。しかし、彼ほどすばらしい役者はいないとなると作品のために我慢するのが映画人。このあたりの葛藤が可笑しい。凝り性監督と吸血鬼俳優の緊迫した攻防が続く中、次々にスタッフが血祭りに上げられる。監督の映画への執念がどういう形で実を結ぶかは見てのお楽しみだ。

無声映画は、今見るとなぜか新鮮。映像的にもなかなかおもしろいものがある。劇中で度々出てくる「アイリス」とは、主にサイレント時代に使われたもので、レンズの前に装着されたもうひとつの絞りのこと。これを開いたり閉じたりすることで、画面の転換を図る。この映画のもととなったドイツ映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」は、1922年のサイレント映画で、今なお吸血鬼映画の傑作とされている。

恐怖と笑いを誘う異色のエンターティメント作品。デフォーの熱演をたっぷりと楽しもう。劇中劇からそのままクライマックスに突入。デフォーVSマルコビッチ、入魂のラストシーンが見ものだ。

□2000年 アメリカ映画 原題「Shadow of the Vampire」
□監督:E.エリアス・マーハイジ
□主演:ジョン・マルコビッチ、ウィレム・デフォー、他

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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
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新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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