映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ゲット・アウト」「ブレードランナー 2049」「先生」etc.

オクタヴィア・スペンサー

ドリーム

「ドリーム」オリジナル・サウンドトラック
1960年代初頭、アメリカは、国内では人種問題、対外的には東西冷戦で揺れていた。ソ連との熾烈な宇宙開発競争が繰り広げられる中、ヴァージニア州ハンプトンのNASAラングレー研究所では、優秀な黒人女性たちが、理不尽な差別や格差に耐えながら、計算手として働いていた。天才的な数学の才能を持つキャサリンは、黒人女性として初めて宇宙特別研究本部に配属されるが、白人ばかりの職場の雰囲気は冷たく、そのビルには有色人種用のトイレもなかった。一方、管理職を目指すドロシー、エンジニアを志すメアリーらも、数々の困難の中でひたむきに夢を追い続けていた…。

NASAで宇宙開発に携わった黒人女性たちの功績を実話をもとに描く「ドリーム」。マーキュリー有人飛行計画と言えば「ライトスタッフ」がすぐに思い浮かぶが、本作で描くのは、その計画を支えたのが、ずば抜けた才能を持った黒人女性たちだったという知られざる事実だ。時は1960年代。NASAで働くキャサリン、ドロシー、メアリーの3人の黒人女性は、人種差別と女性蔑視という2つの差別と戦わねばならなかった。こう説明するとシリアスな社会派ドラマに思えるが、本作はあくまでも明るくポジティブな作風で。見れば元気をもらえる痛快エンタテインメント・ムービーなのである。1960年代当時の明るいファッションやポップな音楽が、これまたチャーミングだ。

トイレやコーヒーポットまで非白人用と区別する愚行は、コミカルな描写で笑いを誘い、同僚や上司の嫌がらせには、知性とウィットで対抗する。時に愚痴ったりあきらめかけたりもするが、そんな時の助けは、友情や家族の支え、新しい恋のときめきだ。何よりも彼女たちが本来持つ、明るい性格やあたたかい人間性が、周囲や社会、ひいては時代を動かしたのだと思えてならない。タラジ・P・ヘンソンを筆頭に、俳優陣は皆、好演だが、キャサリンの誠実な恋人を演じるマハーシャラ・アリの柔らかな雰囲気が特に印象的で、オスカーを獲得した「ムーンライト」とはまた違った魅力を発見できる。本作は、いくつもの“最初の扉”を開けたアフリカ系アメリカ人の女性たちのチャレンジを痛快なエピソードでテンポ良く描いてみせた快作だ。人種差別や性差別は今も社会にはびこり、アメリカが今までになく不安な時代を迎えている今だからこそ、彼女たちの知的な勇気がより輝いて見える。
【80点】
(原題「HIDDEN FIGURES」)
(アメリカ/セオドア・メルフィ監督/タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ、他)
(歴史秘話度:★★★★★)
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フルートベール駅で

フルートベール駅で [DVD]
黒人青年が鉄道警官に射殺された実話を映画化した「フルートベール駅で」。痛ましい事件だが、告発調にしていないところがいい。

サンフランシスコの郊外ベイエリアに住む、22歳の黒人青年のオスカーは、恋人ソフィーナと、2人の間に生まれた愛娘タチアナと共に慎ましく暮らしている。失業したが、何とか生活を立て直そうと心に誓っていた。大晦日、母親の誕生日を祝い、ソフィーナや仲間たちと新年の花火を見るためサンフランシスコへ行くが、地下鉄の中でケンカに巻き込まれて乱闘騒ぎになってしまう。駆け付けた鉄道警官からフルートベール駅のホームに引きずり出されたオスカーは、何もしていないと主張するのだが…。

2009年の元日、サンフランシスコのフルートベール駅で、22歳の黒人青年オスカー・グラントが鉄道警察に銃で撃たれて死亡した。丸腰の彼が撃たれる様子は、居合わせた他の多くの乗客が携帯で撮影。人種差別によって引き起こされたその事件の映像はネットに流れ、全米で抗議集会が行われるなど、大きな波紋となって広がった。本作は、事件の犠牲者である青年オスカーの“人生最後の1日”を描くものだ。前科がありドラッグの売人の経験もあるオスカーは、失業したことで一度は麻薬の売人に戻ろうとするが、良き夫、良き父親になるため、踏みとどまる。彼は、より良い人生をおくりたいという希望を胸に抱いた、ごく平凡な心優しい青年なのである。オスカーのこのキャラクターは、観客に「自分の近くにもオスカーはいる」と思わせ、共感を呼ぶはずだ。事実、これが最後の1日になるとは知らずに過ごす、オスカーの日常は、思い悩みながらも、小さな喜びや幸福感に満ちている。そんな中、印象的な場面は、ガソリンスタンドの前でひき殺された犬を抱きしめるシーンだ。無抵抗なまま命を奪われるその犬は、オスカー自身に他ならない。フルートベール駅のホームで、手錠をかけられうつぶせの状態で白人警官に射殺された黒人青年オスカーの事件は、波紋を呼ぶが、白人警官に下された罰は懲役2年でわずか11ヶ月で釈放されている。これがアメリカの法の実態だ。作り手は大きな憤りを胸に秘めているが、映画は決して告発調には傾かない。不条理に命を奪われた一人の青年の、ささやかだが愛おしい人生を見つめた演出が好ましい。低予算でわずか20日間で撮影された本作は、サンダンス映画祭他、世界中で高く評価された。米国の黒人を扱う映画の多くは主人公は偉人や有名人でドラマチックな歴史を背負うことが多いが、本作の主人公は名もない青年。だからこそ彼の短かすぎる人生が多くの観客の胸にリアルに迫る。
【65点】
(原題「FRUITVALE STATION」)
(アメリカ/ライアン・クーグラー監督/マイケル・B・ジョーダン、メロニー・ディアス、オクタヴィア・スペンサー、他)
(不条理度:★★★★☆)
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映画レビュー「ヘルプ 心がつなぐストーリー」

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◆プチレビュー◆
女性たちの勇気と友情に感動する「ヘルプ 心がつなぐストーリー」。真面目なテーマを軽やかに語る演出が好感度大だ。 【75点】

 1960年代の米国南部・ミシシッピ州。作家志望のスキーターは、黒人メイドがいるのがあたり前の上流家庭で育った。だが、大人になり、南部の保守的な因習に疑問がわく。インタビューで黒人メイドたちの本音に迫ろうとするが、社会からの報復を恐れ誰も答えてくれない。そんな時、メイドのミニーが不当に解雇されたことから、ミニーの親友エイビリーンが取材に応じてくれることになる…。

 人種差別。女性解放。社会変革。シリアスになりがちなテーマを内包するのに、この作品の軽やかさはなんと心地よいことか。公民権運動は時代の大きなうねりだが、当時の黒人たちには、大義も大事だが、日々の仕事を確保し、生活していくことが最優先事項だ。この映画は、そんなメイドたちの地に足がついた生活や、虐げられた日常の中でも決して失わない誇りとユーモアを丁寧に描いている。

 ヘルプとは、白人家庭で、育児や家事をこなす黒人メイドのことだ。進歩的な考えを持つ女性・スキーターの育ての親である老齢メイドがなぜいなくなったのかという謎を隠れたけん引役にして、60年代らしいカラフルな風物の中、女性たちの勇気ある物語が紡がれる。ただし、社会の矛盾を声高に叫ぶのではなく、語り口はあくまでも軽やかに。

 女優たちのアンサンブル演技もまた魅力的だ。エマ・ストーンやヴィオラ・デイヴィスら、皆、輝いている。中でも料理上手のメイドのミニーを演じ、アカデミー助演女優賞を受賞したオクタヴィア・スペンサーの存在感は素晴らしい。毒舌家のミニーが、差別主義者のヒリーを、あるトンデモない方法でノックアウトするくだりには、思わず拍手しそうになる。本作が好感度が高いのは、社会派に傾かず、キャラクターの性格や心理をあたたかい視点で描いているからなのだ。

 原作は、NYタイムズで書籍ランキング1位のベストセラー小説。著者のキャスリン・ストケットは、本作の監督テイト・テイラーとは幼馴染だそうだ。色鮮やかな衣装、おいしそうな南部料理、女たちのにぎやかなおしゃべり。小さな勇気が、時代に風穴を開けるストーリーは、最後まで楽観的だ。彼女たちは、その後の苦労も、きっと持ち前のしなやかさでやりすごしていくことだろう。偉人ではない、名もなきメイドたちの声に、とことん前向きになれる感動作である。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)女性映画度:★★★★★

□2011年 アメリカ映画
□原題「THE HELP」
□監督:テイト・テイラー
□出演:エマ・ストーン、ヴィオラ・デイヴィス、ブライス・ダラス・ハワード、他
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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