映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
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(点数は100点が、★は5つが満点)
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どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週末の公開映画から オススメの1本! ◎
チリ他合作映画「ナチュラルウーマン」

オスカー・アイザック

THE PROMISE 君への誓い


1914年のトルコ南部。オスマン帝国の村出身のアルメニア人青年ミカエルは、医学を学ぶために首都コンスタンチノープル(現イスタンブール)の大学に入学する。彼はフランスから帰郷したアルメニア人の美しい女性アナと心を通わせるが、アナはアメリカ人ジャーナリストのクリスという恋人がいた。やがて第1次世界大戦が勃発しトルコが参戦すると、アルメニア人への不当な弾圧が始まり、ミカエルも問答無用で徴兵され強制労働を強いられる。ミカエルは、なんとか脱走を図り故郷へ戻るが…。

20世紀初頭にオスマン帝国が行ったアルメニア人大虐殺・追放事件を、運命に翻弄される3人の男女の姿を通して描く社会派ドラマ「THE PROMISE 君への誓い」。ナチス・ドイツによるホロコーストの約20年も前に起こったこのジェノサイドでは、150万の尊い命が奪われた。事件については、アルメニア系カナダ人のアトム・エゴヤン監督の「アララトの聖母」やトルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督の「消えた声が、その名を呼ぶ」などで描かれている。また本作の劇中にチラリと登場する、修道士で作曲家コミタスの生涯を描いた映像詩の映画「コミタス」(ドン・アスカリアン監督)もある。だが、一般的にはあまり知られていないこの事件の全容を、正面から詳細に分かりやすく、有名スターを多く起用して描いたという点では本作が初だろう。ミカエルとアナ、クリスの三角関係のメロドラマは、決して物語を通俗化していない。時代と運命に翻弄されながら生き抜こうと奮闘する姿からは、悲しみだけではなく、人間が持つ生命力を感じさせる。

国家の都合で、ひとつの民族を、理不尽に抹殺しようとした歴史は、無慈悲な暴力そのもので、言葉を失ってしまう。知られざる歴史の悲劇に光を当てることは映画の使命のひとつだ。地味で暗い内容ながら、各国のスター俳優が集っているのも、そんなメッセージに賛同してのことだろう。「ホテル・ルワンダ」のテリー・ジョージ監督は、実在の人物をからめて虐殺事件の真実を描きながら、同時に民族や国境を超えた友情や愛情が存在したことを描くのも忘れていない。今もトルコ政府が事件を公式には認めていないことから、現地での撮影許可が下りず、映画は、3つの国約22ヶ所をめぐってロケを行うなどの逆境を乗り越えて作られたそうだ。想像を絶する体験から時に復讐の思いに駆られるミカエルに、アナが言う「生き残ることこそが復讐なのよ」との言葉があまりにも重かった。
【65点】
(原題「THE PROMISE」)
(スペイン・米/テリー・ジョージ監督/オスカー・アイザック、シャルロット・ル・ボン、クリスチャン・ベイル、他)
(歴史秘話度:★★★★★)


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アメリカン・ドリーマー 理想の代償

アメリカン・ドリーマー 理想の代償 [DVD]
1981年のニューヨーク。モラルを失くしたつぶし合いと競争が当たり前のオイル業界で、クリーンなビジネスを展開し成功を収めた移民のアベルと妻のアナは、さらなる事業拡大のために、土地購入の頭金として全財産を投入する。だが、直後に彼らの成功を阻止しようとする何者かによってオイルが強奪される事件が発生。さらに、脱税や家族への脅威など、次々に難題が降りかかり、ついに銀行からの融資も断られた上、信頼し合っていた夫婦間にも亀裂が生じてしまう。孤立無援でトラブル解決のために奔走するアベルだったが、破産までの期限は、わずか30日しかなかった…。

オイルビジネスに参入した実業家夫妻の苦悩を描く「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」。1981年という年は、暴力が氾濫し、史上もっとも犯罪件数が多かった恐ろしい年だ。クリーンなビジネスを信条とし銃で防衛することを拒否するアベルに対し、ギャングの父親を持ち、会社の経理を担当する妻のアナは「これは戦争よ」ときっぱりと断言する。この物語は誰もが手を汚して生きる時代に、誠実に正義を貫くことは可能なのかと問いかけるものだ。移民であるアベルは自分だけの力で手にするアメリカン・ドリームにこだわっているかに見える。一方で、アナは汚れてしまった現実を冷静に直視している。アベルの理想がどういう形で変質していくかを、静かでドライなタッチで描く物語では、劇的な演出はほとんどない。あえて人間の複雑な心理に寄り添っているので、派手さはないが、玄人好みのドラマに仕上がっている。監督のJ・C・チャンダーは「マージン・コール」では金融界を、「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」では海での遭難を描いたが、共通するのは、ちっぽけな人間の懸命なサバイバルだ。犯罪が横行するオイル業界でのサバイバルは、単なる善悪や敵味方では分けられない、苦く曖昧な境界線を越えねばならない。理想と現実の間で苦悩する男をオスカー・アイザックが静かに熱演。寒々しい冬の風景が、崩れ去ったアメリカン・ドリームを象徴していた。
【70点】
(原題「A MOST VIOLENT YEAR」)
(アメリカ/J・C・チャンダー監督/オスカー・アイザック、ジェシカ・チャステイン、デヴィッド・オイェロウォ、他)
(劇的度:★★☆☆☆)
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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 [Blu-ray]
売れないフォークシンガーのさえない日々を独特のタッチで描く「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」。音楽、旅、そして猫の映画として味わい深い。

1961年、NY、グリニッジ・ヴィレッジ。フォークシンガーのルーウィン・デイヴィスは、歌は上手いが、さっぱり売れない。レコード会社から支払を渋られ、女友達には妊娠を告げられ、姉からは説教される。音楽をあきらめて父と同じ船員になろうとしても、それさえも上手くいかない。何かを変えようと、一匹の猫を連れてシカゴのライブハウスへ売り込みのために旅立つのだが…。

かのボブ・ディランに影響を与えたというミュージシャン、デイヴ・ヴァン・ロンクをモデルにした本作の監督は、音楽に独特のセンスを発揮するコーエン兄弟。とぼけたユーモアとアメリカのルーツのようなサウンドで、うだつの上がらない男のさえない人生を淡々とスケッチするテイストは「オー!ブラザー」の系譜に連なるものだ。主人公ルーウィンという男は、まさにドン詰まりで負け犬人生そのもの。音楽の才能はあるのに、妙なこだわりのために時代の波に乗り遅れる。さらに目の前の日銭欲しさに、後に大ヒットとなる曲の印税を逃してしまうなど、ことごとくドンくさい。彼こそが“ボブ・ディランになれなかった男”なのだが、こんな報われない才能たちを踏み越えてディランは誕生したのかと思うと、アメリカのミュージックシーンの奥深さに感心してしまうのだ。劇中に登場するオスカー・アイザックの歌声はすばらしく、本職のジャスティン・ティンバーレイクも交えて歌う“プリーズ・ミスター・ケネディ”は必聴である。だが音楽にも増して主人公とともに旅をする茶トラの猫が最高だ。忘れがたい印象を残すこの猫は、映画の終盤にユリシーズという名前だと判明する。このつかみどころのない物語は、長い苦難の旅の果てに帰還する音楽のオデュッセイアなのだ。
【70点】
(原題「INSIDE LLEWYN DAVIS」)
(アメリカ/ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督/オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、他)
(哀愁度:★★★★★)
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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