映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「ドリーム」「亜人」「僕のワンダフルライフ」etc.

クリント・イーストウッド

ハドソン川の奇跡

ハドソン川の奇跡 ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
2009年1月15日、厳冬のニューヨーク。160万人が暮らすマンハッタン上空850メートルで突如、前方からの鳥の衝突が原因で航空機事故が発生する。全エンジンが完全停止し、制御不能となった旅客機が高速で墜落を始める中、ベテランの機長サレンバーガーは、必至の操縦により、70トンの機体を目の前を流れるハドソン川に着水させる。乗客乗員155名全員無事という奇跡を成し遂げたサレンバーガー機長は、たちまち英雄としてマスコミに取り上げられる。だがその裏では、機長の判断を巡って、国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われていた…。

実際に起こった航空機事故とその後の顛末を描く人間ドラマ「ハドソン川の奇跡」。2009年1月15日に起こった航空機事故で、乗客全員が生還した奇跡的な出来事は、当時、日本でも大きく取り上げられた。だが、クリント・イーストウッド監督は、この実話を凡百の感動作には描かない。人命を救った英雄であるはずのサレンバーガー機長が“容疑者”として厳しい追及を受けていたという知られざる事実を描いて、英雄的行為の代償を描くドラマに仕上げた。川に着水したのは本当に正しい判断だったのか。空港に引き返す選択肢もあったのでは。だとしたら、サレンバーガー機長がしたことは、高額の航空機を破損させ、乗客の命を危険にさらしたことになる。航空会社と国家運輸安全委員会が、機長に対してこんな理不尽な追求を行っていたことは、この映画を見るまでまったく知らなかった。名優トム・ハンクス演じる機長は、常に冷静沈着だが、一人になったときや眠ったとき、もし最悪の結果を招き人命を損なったとしたら…という悲惨な悪夢に苛まされていた。さらにプロ意識に徹して誠実に仕事をこなしてきたとはいえ、表舞台にでることがなかった自分が、突然マスコミによって英雄に祭り上げられてしまうとまどいもある。そんなサレンバーガー機長のプレッシャーと苦悩が痛々しい。だがパイロット歴40年のベテラン機長は、航空会社が、コンピューターによるシミュレーションで機長の判断ミスを実証しようとする中、コンピューターの計算では決してはじきだせない人間の感情を武器に戦ってみせるのだ。そこには初めて経験する危機を前にした生身の人間の焦りや逡巡、その中から生まれる最善の選択がある。チェスや囲碁の世界でも機械が、人間の能力に追いつき追い越そうとしている現代社会。名匠イーストウッド監督は、生と死のギリギリの状況の中でこそ、人間らしさが必要で、それは単純な計算では決して生まれない強さなのだと訴えている。いくらでも冗長にできる物語を、約90分にキリリとまとめてみせた編集が潔く、緊張感を持続させてくれる。いい意味での古風な人間讃歌を作るイーストウッド監督らしさが出た良作だ。
【75点】
(原題「SULLY」)
(アメリカ/クリント・イーストウッド監督/トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、他)
(人間性度:★★★★☆)
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アメリカン・スナイパー

アメリカン・スナイパー ブルーレイ&DVDセット (初回限定生産/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
実在の射撃手クリス・カイルの半生を映画化した「アメリカン・スナイパー」。無音のエンドクレジットに米国の闇を見る。

アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズの隊員クリス・カイルは、イラク戦争に狙撃手として派遣される。カイルは、並外れた狙撃の精度で多くの仲間を救い“レジェンド”と呼ばれる一方、敵からは“悪魔”として懸賞金を賭けられ命を狙われる。家族を愛し、良き夫、良き父でありながら、極限の緊張状態の中、引き金を引いて敵の命を奪い続けるカイル。その過酷な任務は、やがて彼の心を蝕んでいく…。

160人を射殺した米軍の凄腕狙撃手クリス・カイル。徹底して仲間を守ったカイルは伝説とまで呼ばれた兵士だが、本作は彼を単純に英雄視はしない。彼は命令に従って4度もイラクへと送られるが、「ハートロッカー」で描かれた戦争ジャンキーに近い症状だったカイル自身がいつもそれを望んでいたように思える。カイルにとって最優先なのは、幼い頃の父の教えから、仲間を守るという価値観だ。その証拠に、敵とはいえ、家族がいる兵士や、女性、子供の命まで奪う非情な任務の是非よりも、救えなかった仲間の命を思って葛藤する。国や家族を心から愛するカイルは、戦争の原因やその行きつく先の未来にはまったく思いが巡らないのだ。だが映画はそのことを肯定も否定もしない。茶色の砂埃が舞うイラクでの戦争の正義など、最初から視界不良なのだから。自ら映画化権を買い、肉体改造して熱演するブラッドリー・クーパーが素晴らしい。戦争の現実を直視しつつ、主人公の心の内面を丁寧に描きながら、敵のスナイパーとの一騎打ちのような娯楽性もちゃんと加味したイーストウッド監督の老練な演出も見事なものである。だが、何よりも衝撃を受けたのは、ラストに明かされるクリス・カイルの死の原因だ。淡々と明かされるその死は、戦場の狂気のもう一つの側面なのだろう。音楽に造形が深いあのイーストウッドが、あえて音を封印し、無言のエンドクレジットを流した。この沈黙の中に、今も戦争の呪縛から逃れられないアメリカの苦悩がある。
【85点】
(原題「AMERICAN SNIPER」)
(アメリカ/クリント・イーストウッド監督/ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ジェイク・マクドーマン、他)
(問題提起度:★★★★☆)
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ジャージー・ボーイズ

ジャージー・ボーイズ ブルーレイ&DVDセット (初回限定生産/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
60年代に数多くのヒット曲を生んだ4人組音楽グループ、ザ・フォーシーズンズの栄光と挫折を描く「ジャージー・ボーイズ」。人間ドラマと同じくらい音楽に軸足を置くのがイーストウッド流。

1960年代、ニュージャージー州の最も貧しい地区に住むフランキー・ヴァリら4人の若者たちは、未来のないその街から抜け出そうと歌手を目指す。金もコネもない彼らだったが、天性の歌声、作曲の才能、音楽への情熱とチームワークを武器に“ザ・フォーシーズンズ”という音楽グループを結成。ヒット曲を連発し、瞬く間に成功を収めるが、やがて彼らの間に亀裂が入り、裏切り、挫折、家庭不和といった不幸に襲われる…。

舞台のミュージカルをクリント・イーストウッドが映画化と聞いた時は、ちょっと意外だった。だが、ジャズ、ブルース、カントリーなど、イーストウッドの音楽好き、音楽通は玄人並。本作はビートルズ誕生以前に一世を風靡したポップグループ“ザ・フォーシーズンズ”の栄光と挫折の歴史を、ヒット曲をたっぷり聞かせながら深い人間ドラマとして仕上げている。田舎街で育ったイタリア系の貧しい若者たちは、裏切りや挫折を経験し、仲間の不祥事を知ってもなお、友情を捨てることはできない。“古風な男の友情”こそイーストウッド節なのだ。「シェリー」や「恋はヤセがまん」などの楽しげなメロディは誰もが知るヒット曲だが、名曲「君の瞳に恋してる」の誕生秘話は思わず泣ける。イーストウッドのストーリーテリングはもはや名人芸のようで、語り手をグループ4人で次々にリレーしていくスタイルが見事。彼らの人生は、栄光がまばゆいほど影も濃い。クリストファー・ウォーケン演じるヤクザじみた裏稼業の大物さえもイーストウッドにかかれば滋味あふれるシブい男に見えてくる。物語はやるせないが、最後の最後に、総天然色のようにハッピーなダンスシークエンスが用意されていて、物悲しい気分を吹き飛ばしてくれる。さらにエンドロールではオリジナルの曲をたっぷりと流すという念の入れよう。重厚なドラマが得意のイーストウッドだが、巨匠と呼ばれても軽やかさと遊び心は忘れてはいないのだ。
【65点】
(原題「JERSEY BOYS」)
(アメリカ/クリント・イーストウッド監督/ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ロメンダ、他)
(友情度:★★★★☆)
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ジャージー・ボーイズ@ぴあ映画生活

映画レビュー「人生の特等席」

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◆プチレビュー◆
頑固な父と不器用な娘の和解を描く「人生の特等席」。ストーリーは平凡だが、イーストウッドの存在感で魅せる映画。 【75点】

 メジャーリーグの伝説的スカウトマンのガスは、最近は、年齢による衰えを隠しきれない。フロント側は彼を引退させようとし、ガスは苦しい立場に追い込まれる。そんなガスに手を差し伸べたのは疎遠な関係の娘ミッキーだった…。

 イーストウッドは渾身作「グラン・トリノ」で実質的な俳優引退宣言をしたが、彼が“唯一の弟子”と認めるロバート・ロレンツが監督デビューするとあっては出演しないわけにはいかない。役柄は老いたスカウトマン。キャリアの終焉と父娘の関係修復を2つの軸に、再生のドラマが端正な筆致で語られる。

 主人公ガスは己の目と耳で才能ある新人を嗅ぎ分ける力があり、スカウトした選手が不調になれば、彼の家族を呼び寄せ心を落ち着かせるという“情”に寄ったオールドスタイルの人間だ。そんな男には、必ず味方がいる。

 ガスの味方とは、長年の友で、スカウト主任のピートであり、ガスに見出された元投手で、今はライバルチームのスカウトをしている青年ジョニーだ。何より、敏腕弁護士ながら、父と同じ野球愛というDNAを持つ娘のミッキーが誰よりも強い味方となるのは、予想通りである。

 無論、疎遠だった父娘の関係にも変化が。父が娘と距離を置いたその理由を聞けば、ガスが誰よりもミッキーを愛していることが分かる。「おまえに苦労させたくなかった、こんな三等席の人生で」とつぶやく父に、ミッキーはきっぱりと言うのだ。「三等席じゃない。目覚めるといつもパパの野球を見て…。人生の特等席だった」。心はちゃんとつながっていたのだ。

 ベテランの底力と親子の和解。手垢のついた物語なのだが、ウェルメイドな安心感がある。その最大の理由は、しわだらけの顔にしゃがれた声の老優イーストウッドの魅力につきる。この映画のイーストウッドは渋い。冒頭からおしっこが出ず、ブツブツと文句を言い、視力が衰え、パソコンも使わない(使えない)にも係わらず、渋い。酒場で娘にからんだ男をぶっ飛ばす時の鋭い表情は、誰にもマネできないだろう。

 データ野球で新時代の扉を開いた「マネーボール」とは真逆のこの物語は、出来すぎなほどハッピーな結末を迎える。意外性はないし、この厳しい時代に、それでは甘いという意見もあろう。だが、それでいいじゃないか。“君は僕の輝く太陽。僕を幸せにしてくれる”。劇中に登場する名曲「ユー・アー・マイ・サンシャイン」の最も有名な一節だが、この曲の歌詞はフルバージョンで聞くとなかなか切ない。酸いも甘いも知りつくした老スカウトマンのラストには、球場を見渡せる特等席からの穏やかな陽射しがふさわしい。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)安心感度:★★★★★

□2012年 アメリカ映画 □原題「Trouble with The Curve」
□監督:ロバート・ロレンツ
□出演:クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク、他
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人生の特等席@ぴあ映画生活

映画レビュー「J・エドガー」

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◆プチレビュー◆
ディカプリオがフーバーの青年期から老年期までを怪演。伝説の男が信じた正義は現代アメリカの闇を照射する。 【75点】

 FBI初代長官のジョン・エドガー・フーバーは、70代になり回顧録を執筆する。それは、20代で後にFBIとなる組織の長に就任し、50年近く強大な権力を保ちながら、アメリカの“正義”を偏執的に信じた孤独な人生だった…。

 監督イーストウッドと俳優ディカプリオの初タッグで描くのは、権力者の功罪の物語だ。今も賛否が分かれる人物ジョン・エドガー・フーバー。FBI初代長官だった彼は、近代的な科学捜査や膨大なデータベースを構築する一方で、大統領をはじめとする要人の秘密を掌握してファイル化することで、権力を維持した。フーバーが信じた正義や公安は、時に法を曲げることさえ厭わない狂信的なもの。この複雑な人物を、ディカプリオが徹底した役作りで、不気味なほどに熱演する。時代を前後させ、老年のフーバーと、若き日のフーバーを交互に見せる演出は、謎多き人物に、深く、冷徹に切り込む手法として興味深い。

 実際、フーバーにはミステリアスな部分が多く、資料や証言でも真実は容易には見えてこない。イーストウッドは、そのことを逆手に取り、謎を残しながら描くことで、観客それぞれの解釈に委ねた。

 フーバーとはどういう人物なのか。鍵を握るのは、過保護な母親アニー・フーバー、長年の個人秘書ヘレン、腹心の部下で私生活でも“パートナー”だったクライド・トルソンの3人だ。同性愛や女装癖など、さまざまな噂があったフーバーだが、映画は、彼のスキャンダラスな秘密には焦点を当てず、絶大な権力を手にした男の強いコンプレックスと、権力者ゆえの孤独をリンクさせた。イーストウッド映画の特徴である、人物を黒々とした闇に置く撮影が、そのことをより強調し、深い渋みを与えている。

 イーストウッドの狙いは、フーバーが向き合った、禁酒法時代のギャングとの攻防や、リンドバーグ愛児誘拐事件、赤狩りなどの20世紀の事件を通して、米国近代史の光と闇を浮かび上がらせること。それが奇しくも、現代における正義の意味を検証することにつながる。

 フーバーが断行した正義とは、法を越えてまで自分を優位に置き、他者を抑圧する強引なものだった。それはかつて「許されざる者」でジーン・ハックマンが演じた、自分の正義を信じて町を牛耳る保安官の姿にピタリと重なる。そして、現代アメリカの強迫観念にも似た政治とも。市長の経験もあり、政治を知るイーストウッドは、国家の中枢にいた人物の複雑な輪郭をあぶり出すことで、米国が同じ過ちを繰り返してはならないとのメッセージを込めている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ミステリアス度:★★★★☆

□2011年 アメリカ映画 原題「J.EDGAR」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、ジョシュ・ルーカス、他
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J・エドガー@ぴあ映画生活

映画レビュー「ヒア アフター」

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◆プチレビュー◆
死と隣接した3人の男女が巡り会う物語「ヒア アフター」。これまでのイーストウッド作品とは少し違う手触りだ。 【65点】

 仏人ジャーナリストのマリー、霊能力がある米国人ジョージ、双子の兄を亡くした少年マーカス。臨死体験をしたマリーが書きあげた本が発売され、3人は何かに導かれるようにマーカスの住むロンドンで巡り会う。死に直面した彼らが見い出す答えとは…。

 死を深くみつめることで生の意味を知る。本作のテーマを端的に表すと、こういう言葉になるが、それは決して簡単なことではない。死後の世界や、死者との交流というスーパーナチュラルな物語を、常に現実をみつめてきたイーストウッドが監督するのは少し意外で、むしろ製作総指揮のスティーブン・スピルバーグの好みに近いように思う。だがイーストウッドには、信仰や宗教を隠し味にした「ペイルライダー」のような作品もあることを考えると、スピリチュアルな題材に対する興味はこの人の意識の根底にあったのかもしれない。

 運命的に巡り会う、国籍も性別も年齢も異なる3人は、皆、死によって影響を受けているが、死との“出会い”はそれぞれ異なる。マリーは東南アジアで津波に巻き込まれ、臨死体験をする。触れたのは自分の死だ。彼女は、それ以来、現実と上手く向き合えなくなってしまう。一方、死者と交信ができるジョージが自分の能力を持て余すのは、他人の死にまつわる情報に苛まされるため。「この能力はギフト(贈りもの)なんかじゃない。カースト(呪い)なんだ」。ようやく心が通い始めた愛する女性メラニーも、その力のためにジョージから離れてしまい、彼の孤独はますます深まった。この哀しいエピソードは、ジョージの能力の功罪を象徴していて、とても印象に残る。

 痛ましいのはマーカスだ。強い絆で結ばれていた双子の兄を突然失い、母とも引き離され、深い喪失感を感じている幼い少年は、もう一度兄に会いたいと願っていて、子供らしいまっすぐな思いで霊能力者を訪ね歩く。マリーやジョージのエピソードより、マーカスのそれがより切実なのは、彼が経験したのが、自分にとって大切な人に訪れた死だからだ。近年のイーストウッド作品では、愛する人を失う悲しみがしばしば描かれ、そのことがストーリーを激しくうねらせるのだが、本作ではイーストウッドの、登場人物たちを救済したいとの思いが、より強く感じられた。だからこそ、映画は、死を描きながら生を肯定するストーリーへと昇華していくのである。

 人間は死んだあとはどうなるのだろう? 誰もが一度は頭をよぎる疑問だ。イーストウッドは、ディザスター映画さながらの巨大津波をCGによってスクリーンに叩きつけて観客の意表を突いた後に、水中に、死後の世界の輪郭をぼんやり浮かび上がらせた。その不思議なビジョンはまるで夢のように静かに存在している。穏やかな死の世界と登場人物たちが、イーストウッド作品特有の渋い色彩や、そっと寄り添うように流れる音楽と溶け合う様は、コーヒーにじんわりとミルクが溶け込んでいく様子にも似て、ごく自然だ。生と死を明確に分離するのではなく、私たちの周辺に当然あるものとしての死を、肯定的に受け入れる。そのことをスピリチュアルな体験を通して描くスタイルは、リアルな人間ドラマを得意とするイーストウッドの新しい挑戦なのだ。1930年生まれの老巨匠は、映画に対して果敢なチャレンジ精神を決して忘れない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スビリチュアル度:★★★★☆

□2010年 アメリカ映画 原題「HEREAFTER」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:マット・デイモン、セシル・ドゥ・フランス、ブライス・ダラス・ハワード、他


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ヒア アフター@ぴあ映画生活

インビクタス/負けざる者たち

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偉人マンデラの理想と希望を、ラグビーとのつながりを通して描く実話だ。1994年、27年間の投獄生活から解放されたネルソン・マンデラは、南アフリカ共和国初の黒人大統領になる。アパルトヘイトにより黒人と白人の間にできた大きな溝、激しい経済格差、国際社会でのアピールなど、さまざまな課題を抱えたマンデラは、南アの白人社会の象徴であるラグビーチームの建て直しを図り、1995年の自国開催のラグビーW杯での優勝を目指すと宣言する。

マンデラがスポーツを国家再建の鍵とみなしたことは、長期間、監獄にいながら世の中の情報や人心を把握する指導者としての優れた資質を失わなかったという事実を示している。国をひとつにまとめるという大事業はどんな国でも困難だが、人種差別により憎しみが横行する南アではなおさらのこと。マンデラは、険しい道の第一歩は、虐げられていた黒人が白人に対して赦しを提示することと主張した。この人には、寛容はむろんのこと、白人の誇りを尊重した人心掌握の読みの深さがある。さらにスポーツイベントが国際社会に及ぼす影響をも見越した政治的センスも。その一方で、誰よりも精力的に激務をこなしながら、家庭では問題を抱えて悩む姿も描き、画一的なキャラクターにしていないところが、イーストウッドらしい。

マンデラ大統領をモーガン・フリーマン、ラグビー・チームのキャプテンでマンデラの人柄に魅了されていくピナールをマット・デイモンが演じて、磐石のキャスティングだ。だが、「チェンジリング」「グラン・トリノ」と、近年、心をわしづかみにする傑作を連打している巨匠イーストウッドの作品としては、ソツのない作りではあるが平凡な出来。実話なので、大会で起こる奇跡の躍進劇にも驚きは薄い。それでも、ついに始まったW杯では、肉弾戦でぶつかる選手の声や真下からのカメラワークなど、ラグビーというスポーツの激しく美しい側面をスクリーンにとらえ、感動的なドラマに迫力を添えて仕上げている。何より、黒人も白人も一体になり、スタジアムから国全体に広がる高揚感で満たされるクライマックスには、ストレートな感動を覚えた。
【65点】
(原題「INVICTUS」)
(アメリカ/クリント・イーストウッド監督/マット・デイモン、モーガン・フリーマン、他)
(融和度:★★★★☆)

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映画レビュー「グラン・トリノ」

グラン・トリノ [DVD]グラン・トリノ [DVD]
◆プチレビュー◆
久しぶりにイーストウッド自身が監督・主演。老人と少年の静かな友情が感動を呼ぶ秀作。 【90点】

 ウォルトは、隠居生活を送る頑固で孤独な老人だ。ある日、内気な少年タオが不良から強要されて彼の自慢の愛車グラン・トリノを盗もうとし、失敗。ウォルトがタオの謝罪をしぶしぶ受け入れたことから風変わりな交流が始まる…。

 俳優兼監督の才人は多いが、目下のところ現役最高峰と言えるのがイーストウッドだ。近年の作品は傑作の連打。映像はより深みを増し、音楽は最高の脇役となり、物語は高い精神性を内包する。本作は彼の映画で頻繁に登場するテーマ“老い”を描きながら、強い贖罪意識を感じさせる人間ドラマだ。

 物語の前半はシンプルかつコミカルに進む。偏屈な白人の老人とシャイなアジア系少数民族の少年との世代と人種を越えた友情が軽やかに描かれ、笑いが絶えない。ウォルトは、毒舌家で偏見に満ちてはいるが悪い人間ではなく、昔気質の価値観を持つ典型的なアメリカ人だ。そんな彼がマイノリティの少年の人生の師となるプロットは、もはや否定できない時代の流れと米国の現実を物語る。自分の進むべき道が分からないタオに“男の生き方”を教えることは、人生の最終章を迎えたウォルトにとっても喜びとなるが、何より、勤勉で実直というアメリカ人の美徳を伝えることになる。タオや彼の姉スーとのやりとりは快活でほほえましく、イーストウッドの演出はさすがに手練だ。だが、姉弟が愚かな争いに巻き込まれたことから、ユーモラスなトーンは急変する。

 愛するものを傷つけられた主人公が、決意を秘めて立ち上がる。この流れで思い浮かべるのは名作「許されざる者」だろう。だが、イーストウッドは、老いたガンマン・マニーとは違う解決手段を主人公に用意した。自らの作品で彼が演技者となるときは、自分自身を危機に追いやりながらも、巧妙に避けてきたものが二つある。それは涙と死だ。イーストウッドは自分の映画の中で決して死なない。はたしてこのルールは本作でも守られるのか。憎しみを胸に悪徳保安官と対決したマニーや以前のウォルトなら迷わずに銃を握るが、今、彼の手にあるのは、大切なグラン・トリノと同じ滅びゆくものの誇りである。

 グラン・トリノとは、フォード社製のヴィンテージ・カーの名称だ。よく手入れされた機能と外観は、堂々と自信に満ちて気品がある。ウォルトが自らステアリング・コラムを取り付けたと自慢するその車は、失われつつあるアメリカン・スピリットを体現し、心の奥に隠した朝鮮戦争での悔恨の念をも受け止めてくれる古き良き友だ。老人の過去と少年の未来を載せた美しい車は、劇中ほとんど走らないが、静かにたたずんで主人公の運命を見守っている。

 もし天の配剤というものが本当にあるのなら、この物語をそう呼ぼう。天は薬の調合のように、善人には良い報いを、悪人には罰を配すという。悲しいのに充足感がある。寂しいのに優しさが湧き上がる。見終わった後に、胸に染み渡る形容矛盾の感動がイーストウッド映画の真骨頂だ。アメリカを愛し憂う弔砲にも似た響きに、耳を傾けたい。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)男気度:★★★★☆

□2008年 アメリカ映画 原題「GRAN TORINO」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:クリント・イーストウッド、コリー・ハードリクト、ブライアン・ヘイリー、他

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映画レビュー「チェンジリング」

チェンジリング (アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ 出演) [DVD]チェンジリング (アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ 出演) [DVD]
◆プチレビュー◆
古典の風格を持つ秀作。子供を捜し続ける母の強い愛が感動を呼ぶトゥルーストーリーだ。 【80点】

 1928年のロサンゼルス。クリスティン・コリンズの9歳の息子ウォルターが突然行方不明に。その5ヶ月後、警察が発見し連れてきた少年は見知らぬ子供
だった。彼女は再捜査を懇願するが拒否されてしまう…。

 滑り出しは、行方不明の息子が発見されると別人だったという、どこかスーパーナチュラルな設定だ。だが表面に警察権力の非道が浮かび上がると、観客は、これは想像を絶する困難と闘う母親の物語なのだと分かる。図らずも警察と対決し社会変革の一端を担う彼女の苦悩をよそに、ストーリーは予想外の猟奇殺人事件へ。ヒロインの乗った舟がたどり着く岸辺は、はたしてどこなのか。

 汚職や暴力で悪評高いLA警察は、事件の早期解決で名誉回復を狙った上に、自らの失態を隠すため、一人の人間の人生を平気で踏みにじる。市民が正義の拠り所とする警察組織の腐敗ほど、絶望感を煽るものはない。女性の地位が低かった時代、シングルマザーのクリスティンは、警察にたてついた代償として強制的に精神病院に入れられてしまう。だが彼女の息子への愛は、どんな試練より強かった。不屈の母親を熱演するアンジーの重厚な演技が素晴らしい。

 二転三転する事件で、主人公の過酷な運命は嵐の中の小船のように揺れ動くが、映画そのものは決してブレない。物語は脇役の心理描写に至るまで丁寧で、時代考証も見事だ。わずかに不満があるとしたら、ニセの子供の背景が曖昧なこと。ここには史実を越えた解釈があっても良かったのではないか。だが、国家権力の腐敗という極めて社会派な側面を持ちながら、決して告発調にしていない点をより高く評価したい。物語を牽引するのは母親の愛情で、彼女の強い信念を描ききったところに、イーストウッドのクレバーな演出力がある。

 そこでふと感じるのは、イーストウッド作品の多くは、女性への敬意と畏怖が入り混じるという奇妙な事実だ。クリスティンの心の強さは、平静で凛としたものだが、終盤、殺人鬼に激しく詰め寄る姿は、強烈な印象を残す。初期の「恐怖のメロディ」やキャリアでは異色の「マディソン郡の橋」、秀作「ミリオンダラー・ベイビー」で描かれた、一途な思い込みが愛と渾然一体になり、ゆっくりと運命に絡め取られる女の姿とダブッてしまうのだ。息子の生存を信じるクリスティンの横顔に、母の愛と共に静かな狂気を感じるのは、過去の作品の狭間からイーストウッドの屈折した女性観が垣間見えるせいだろう。

 チェンジリングとは、取りかえられた子供の意味。その言葉の背景には“妖精が置いていく醜い子”の伝説が宿る。ヒロインの願いは、権力に打ち勝つことではなく、我が子との再会のみ。彼女の思いは届くのか。近年のイーストウッドの語り口には、登場人物と一定の距離を置くクールな空気がある。だからこそ、ラストでヒロインに穏やかな表情を与えた彼の優しさが染み渡った。映画は、最後に事件の顛末を伝えるが、それでも主人公の人生に希望の光が当たることを願わずにはいられない。深い慈愛が漂うラストは、長く心に残るものだ。この余韻こそ、イーストウッドが巨匠と呼ばれる理由だろう。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)母性愛度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「Changeling」
□監督:クリント・イーストウッド
□出演:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、エイミー・ライアン、他

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さよなら。いつかわかること

さよなら。いつかわかること
イラク戦争を新しい視点から扱った意欲作。戦争で、父ではなく、母親を亡くした家族の再生の物語だ。考えれば女性兵士もいるわけでこういうケースもありなのだ。父娘のロード・ムービーにしたことで心の変化が繊細に感じ取れる。好青年のイメージのキューザックが体重増加して静かな熱演。亡き妻の声を求めて留守電を聞き、語りかける姿が切ない。自作以外に初めて曲を提供したイーストウッドの美しいメロディが物語に寄り添って、涙を誘う。
【65点】
(原題「GRACE IS GONE」)
(アメリカ/ジェームズ・C・ストラウス監督/ジョン・キューザック、シェラン・オキーフ、グレイシー・ベドナルジク、他)
(反戦度:★★★☆☆)

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執筆やラジオ出演など、メールと電話で対応可能な場合は、全国から仕事を受注していますので、まずはお問合せください。
プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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