映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

ジェイミー・フォックス

モンスター上司

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「モンスター上司」は、最悪の上司をやっつける復讐コメディだが、どこか中途半端で消化不良。有名俳優たちが悪役を怪演しているのが見物だ。

日々職場で耐えられないほどイヤな思いをしているニック、カート、デイルの3人。ニックの上司ハーケンは昇進をエサにしながら約束を果たさないパワハラ、カートの上司の歯科医ジュリアは無類の男好きでセクハラ、デイルの上司ボビーは悪徳経営者でデイルのキャアを潰そうとするだけでなく、有害廃棄物を垂れ流そうとするバカハラという具合だ。バーで出会った怪しげな元詐欺師の提案により、互いの上司を亡き者にするという交換殺人の計画を立てるのだが…。

交換殺人は、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」が有名だし、その映画をパロッたダニー・デビートの監督デビュー作「鬼ママを殺せ」という作品がある。加えておバカ3人組の過激なコメディは「ハングオーバー!」を思わせる。この不景気に会社を辞めるわけにもいかない部下たちが、最悪の上司たちをやっつけるというアイデアはいかにも痛快に思えたが、これが何だか今一つ盛り上がらないのだ。気のいい3人に殺人など出来るわけがないのは最初から予想できる。だが、3人組がついにキレる瞬間にはもっと突き抜けた爽快感がほしいのに、何だか小さくまとまりすぎている。予想外の展開で殺人が起こるアイデアにも工夫がない。ニック、カート、デイルの3人に何か特別な才能でもあれば面白かったかもしれないが、終盤に決定的な仕事をするのがカーナビでは、苦笑するしかない。一方、見所は、トンデモない役を嬉々として演じているビッグ・スターたちだ。特に、パワハラ上司を演じるケビン・スペイシーの嫌味っぷりはサマになっている。サラリーマンの不満や悩みを“脳内解決”してくれる小品といったところだろうか。
【50点】
(原題「HORRIBLE BOSSES」)
(アメリカ/セス・ゴードン監督/ジェイソン・ベイトマン、チャーリー・デイ、ジェイソン・サダイキス、他)
(痛快度:★★★☆☆)



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モンスター上司@ぴあ映画生活

完全なる報復

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2人の男の間に横たわるのは、正義というシリアスな命題。主人公のすさまじい復讐の相手は司法の欠陥なので、彼の歪んだ正義を単純に責めることはできない。クライドは自宅に押し入った強盗に妻と幼い娘を惨殺され、自身も重傷を負う。犯人は逮捕されたが、主犯格の男ダービーは担当検事ニックの独断による司法取引で、裁判で極刑を免れる。それから10年後。短い刑期を終えてさらに犯罪を重ねていたダービーが惨殺された。クライドは自分が殺したことを認め、獄中にいながら、司法制度の不備を改めなければ、裁判に関わった人物を殺害すると予告する…。

どんな国の法律にもある種の矛盾が存在する。本作の場合、上昇志向の強い敏腕検事のニックが行った司法取引が、自身の有罪率を上げるためだったという事実が、司法取引という法の立ち位置をぐらつかせている。クライドの復讐は、法律を正しく機能させるためという独自の“正義”に基づいているというわけだ。彼が最も憎んでいるのが、妻子を殺した犯人ではなく、その犯人を野放し状態にしたニックであることがその証拠だ。クライドには、実は特殊な能力があり、刑務所の中にいながら次々に凶行を繰り返し、裁判に関わったすべての人間の命を奪っていく。このあたり、クライドの背景を知るスパイに、彼の能力の高さと恐ろしさを語らせるだけで、共犯者やクライドの綿密な計画はほとんど明かさず、ひたすら復讐の鮮やかな手口を見せる手法だ。説明不足にも思えるが、かえってクライドの底知れない怒りを感じさせ効果的に思える。自分をナメると手痛い目に遭うのだと有無を言わさず納得させるのも、分単位の緻密な計画に基づいてのこと。交渉する窓口はニックのみで、彼には最後まで手を出さないのもクライドの知性を感じさせた。10年という年月が、彼に完全な準備をさせ、怒りを熟成させたのだろう。自分の有罪率を上げることしか興味がなかったエリート検事のニックが、クライドの怒りの前で、本当の正義とは何かを初めて考えるようになる。はたしてニックはクライドの報復劇を止めることができるのか。ジェラルド・バトラーとジェイミー・フォックス。男臭い役者の組合せが、このノワール劇にぴたりとフィットした。舞台が合衆国誕生の地で、正義を象徴する都市フィラデルフィアであることが効いている。
【65点】
(原題「LAW ABIDING CITIZEN」)
(アメリカ/F・ゲイリー・グレイ監督/ジェラルド・バトラー、ジェイミー・フォックス、他)
(用意周到度:★★★★★)

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映画レビュー「路上のソリスト」

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◆プチレビュー◆
人気コラムが原作の実話は音楽を通して綴る友情の物語。モダンな映像感覚に注目したい。 【75点】

 ロサンゼルス・タイムズの記者ロペスは、ある日、路上生活者で天才音楽家のナサニエルと知り合い、彼を素材にコラムを書こうと取材を始める。だが優れたチェリストであるナサニエルは幼少期のつらい過去から心を病んでいた…。

 天才チェリストが路上で“発見”され、善意と偶然に恵まれる話は、実話である。だがその感動は、不幸な境遇の音楽家のサクセスストーリーには推移しない。二人の男の関係性を通し、相手の自由と尊厳を慮(おもんばか)るプロセスが描かれる。映像化したのは、友情と音楽という形を持たないものだ。舞台はLA。俯瞰で捉えた街は、建物の屋根の幾何学模様の集合体で、まるで抽象絵画のよう。神の視点で見れば、大都会の成功も挫折も大差ない点描に映る。

 ロペスは、ナサニエルがかつて名門音楽院に在籍し将来を嘱望されたチェリストだと知って、何とか彼を助けようとする。その思いの中にワケありのホームレスの人生を調べ、コラムの素材にするという“下心”があったにせよ、家と楽器を与え、病気の治療を手助けしたいと願う気持ちに嘘はなかった。仕事の枠を越えてまで彼を助け、音楽家としての道を開いてやりたいと奔走する姿は、世間では善行に映る。だがそれは本当に相手が望むことなのか。

 映画が描きたいのはまさにここである。統合失調症という心の病を抱えたナサニエルは、家や仕事、家族まで失っても音楽だけは捨てなかった。神聖な宝物である音の空間は、どんなに親しい間柄の人間も勝手に踏み込んではいけない領域なのだ。ロペスがそのことに気付かず、一方的な親切を彼に与えて音楽を強要するたびに、ナサニエルの精神はバランスを崩してしまう。ロペスは、自分の尺度の幸せを押しつけたことを知り、ナサニエルとの関わりを見つめ直すことに。本作には心の病というフィルターがかかっているが、人間関係の本質を探るストーリーは普遍的なものだ。そこにこの作品の尊さがある。

 物語には音楽的な成功という華々しさはないが、音が大きな魅力であることは確かだ。ミュージシャンを演じさせて無類の上手さを見せるジェイミー・フォックスの存在感は言うまでもない。加えてジョー・ライト監督の音に対する独特のセンスが光る。トンネルに響く車の騒音とチェロの音色の不思議な調和。飛び立つ鳩の羽音。夜の街の危険なざわめき。華やかなコンサートの場面より、何気ない日常空間にある音にこそ輝きを感じるだろう。何より、オーケストラのリハーサルを遠くから聴くナサニエルの至福の表情はどうだ。音楽の神に愛された者だけが享受できる高揚感。それを、映像アートのような抽象的な色彩と動きで表現したモダンな感覚が素晴らしい。そのイメージの乱舞は、聴覚を失った楽聖ベートーベンの脳裏に浮かんだであろう音にも重なっていく。

 誰かのために行なう行為に、世間一般の幸福観や自身の成功論を当てはめてはいけない。何よりも尊重すべきなのは相手の尊厳だ。大都会の片隅で出会ったロペスとナサニエルの友情の道は、交差点で交わった後にそれぞれの方向へ走る大通りではない。少し離れた距離を保ちながら共にゆっくりと歩き続ける、穏やかな遊歩道なのである。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)信頼関係度:★★★★☆

□2009年 アメリカ映画 原題「The Soloist」
□監督:ジョー・ライト
□出演:ロバート・ダウニーJr.、ジェイミー・フォックス、キャサリン・キーナー、他

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映画レビュー「キングダム/見えざる敵」

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◆プチレビュー◆
政治的な内容を、ハリウッドらしい演出で描いた社会派娯楽映画。テロの真犯人に迫る終盤の展開は手に汗を握る。70点】

 サウジアラビアの外国人居住区で大規模な自爆テロ事件が発生。同僚を亡くしたFBI捜査官フルーリーら4人は、現地での調査を主張し、半ば強引にサウジに渡る。状況のすさまじさに愕然としつつ、僅か5日という期限付きの調査を開始するが…。

 キングダム(王国)とは、石油による莫大な富によって王一族が支配する絶対君主制の国サウジアラビアを指す。国王の命令イコール法律、憲法すなわちコーラン、外国メディアの取材は許されず、メッカ巡礼以外の観光は不許可という特殊な世界だ。映画の最初に、サウジと米国との関係を、概略で説明してくれるのがありがたい。サウジが近隣諸国のテロ組織に密かに資金を提供し、それを米国が黙認している事実や、米国の敵イラン・イラクへの微妙な思惑、米国の軍事力や科学技術に依存する半面、介入を嫌がるサウジの空気などを頭に入れておくと、この映画がより楽しめるだろう。特に、民意を無視した国家間のあやふやなかけひきが、結局はイスラム圏をテロの温床にする点は、見逃せない。映画の冒頭、むごたらしい自爆テロの場面に驚かされるが、平和な日常のすぐ隣にテロの恐怖があるのが、ジハード(聖戦)という考え方が浸透する中東の実態なのだ。監督はピーター・バーグだが、製作はマイケル・マン。硬派な作風で、闘う男の美学を追求する。

 本作は社会派作品だが、ハリウッドの常で、虚実混合はもちろんある。資料によると、サウジ国内で女性やユダヤ系の人間が、堂々と捜査に加わるというのは考えにくいらしい。法医学、爆弾処理、情報分析を専門とするFBI捜査官たちが特殊部隊並みに活躍するなど、無理な設定もある。だがそのことを気にするよりも、政治的で複雑な内容をエンターテインメントとして見せた力量を評価したい。報道管制により情勢を把握するのが難しいサウジを舞台に選んだチャレンジは、今後、米映画界がこの国を無視できないと認めている証拠だ。映画は、圧倒的に不利な捜査状況で成果をあげるために、現地サウジの国家警察のガージー大佐という強い味方を配している。はじめは反発しあうガージーとフルーリー捜査官の間に、次第に目的を同じにするプロフェッショナル同士の絆が芽生えるところがいい。たとえそれが悲劇の中のひとときの慰めであれ、殺伐としたこの物語の中で、唯一の人間らしいパートが、異文化の彼らの間に生まれる友情なのだ。

 手持ちカメラを駆使したドキュメンタリー・タッチの映像は、サスペンスフルな終盤へと観客を引きずり込む。怒り、不安、緊張。カメラはそのまま観客の目だ。クライマックス、テロ事件の首謀者と狙いを定めていた、サウジ基盤のアルカイダ幹部アブ・ハムザの懐に飛び込んでの死闘は、迫力満点で圧倒されてしまう。拉致された人質の描写など本物の映像のように恐ろしい。そんな中、激しい銃撃戦に怯える少女にお菓子を差し出した女性捜査官ジャネットが、少女の小さな手からお返しの品物をもらう。その途端にテロの真相が目の前にこぼれ落ちる瞬間は、背筋が凍ってしまった。そして、リーダーのフルーリーが、同僚の死に涙ぐむジャネットの耳元でささやく言葉と、アブ・ハムザが孫に伝える言葉が符号となることを知ったとき、きれいごとではない人間の本質を見た思いがする。暴力と憎しみの連鎖を突きつけられ、やるせない。だがそれは、この作品が世界の現状を冷静に描いているということなのだ。敵が見えないのと同じくらい、正義もまた見えない。怖い作品だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)娯楽アクション度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 原題「The Kingdom」
□監督:ピーター・バーグ
□出演:ジェイミー・フォックス、クリス・クーパー、ジェニファー・ガーナー、他

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ジャーヘッド

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◆プチレビュー◆
湾岸戦争という“地味”な戦争を素材に、近代戦の盲点を突くストーリーがすばらしい。ノリにノる俳優ジェイク・ギレンホールがいい味を出している。

海兵隊員に憧れる若者スオフォードは、厳しい訓練に耐えた末に、狙撃兵として湾岸戦争に従軍する。希望に燃えて砂漠地帯にやってはきたが、そこには銃を向けるべき敵がいない。当面の任務は、油田を守るという名目の“待つ”任務だった…。

湾岸戦争を背景にした元兵士の回顧録を映画化したこの映画は、極めてユニークな戦争映画だ。狙撃兵となった主人公は、遂に最後まで誰も殺さない。こんな戦争映画、今までに見たことがない。どこか滑稽な戦争の結末も、かつてない演出だ。

湾岸戦争を扱った映画には「スリー・キングス」があるが、本作と共通する演出はMTV的感覚にあふれたグルーヴ感。人命を奪う感覚は極めて薄い。一方、世界中の人々は遠い安全な場所にいながら、テレビで常に流される戦闘を見続ける“観客”だ。生と死を実感できなくなってゆくことに、本当の恐ろしさがある。

イラクのクウェート侵攻は、アメリカにとってハイテク戦争の始まりの合図だった。石油産出地帯に強引に乗り込む米国軍という構図は国家間のかけひき。だが、底辺には名もない兵士たちの真実がある。退屈と孤独が狂気を生み、底知れない虚無へとつながる。人間性を破壊された主人公は、戦争が終わっても決して戦地から逃れられない。誰も殺していない。だが自分自身を殺してしまっていたのだ。

□2005年 アメリカ映画 原題「Jarhead」
□監督:サム・メンデス
□出演:ジェイク・ギレンホール、ピーター・サースガード、ジェイミー・フォックス、他

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Ray/レイ

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◆プチレビュー◆
子供の頃に見た美しい色彩の記憶のエピソードが印象的。レイの失明が後天的であったことは、彼の人生と音楽に対し大きく影響したと思う。

音楽の才能に恵まれたレイ・チャールズ。彼は盲目というハンディにもかかわらず、次々に新しいサウンドに挑戦。契約条件なども熟考してビジネス面でも成功を収めたが、一方で多くの愛人を作りヘロインに依存するなど負の部分も抱えていた…。

音楽界に燦然と輝く巨星レイ・チャールズの伝記映画は、生前のレイ本人が製作に深くかかわっていたことも含めて、前々から期待していた作品だ。様々なエピソードをまじえながら、レイの馴染み深いヒット曲を随所に織り込む。音楽映画として、極めてオーソドックスな作りである。新味はないが、その奇をてらわないスタイルがレイの音楽の素晴らしさそのものを浮き彫りにする結果となった。

なんといっても主演のジェイミー・フォックスのなりきり演技が凄い。身体を揺すり背中を反らせた独特の身振りで熱演。生前のレイに実際に対面して役作りに挑んだという。女に手がはやく、ドラッグ中毒というネガティブな面も多く描かれるが、フォックスの迫真の演技で説得力のあるものになった。幼い頃の弟の死によるトラウマに苦しめられる演技は、特に素晴らしい。

劇中でたっぷりと味わえる数々の大ヒット曲。曲が誕生するきっかけや様々なエピソードを知った上で聴くと、感動もひとしお。ゴスペルとR&B、ブルース、ジャズ、カントリーなど、使われる曲がバラエティに富んでいることも映画としてはプラスに働いた。特に名曲「我が心のジョージア」は、映画を観る前と後では感じ方も違ってくるはず。レイの人生と音楽の意味が、観客の心の中で溶け合うだろう。

残念なのはレイ・チャールズ本人が2004年に他界してしまったこと。この映画を彼自身は“見る”ことが出来ない。レイ本人のためにも私たち観客は彼の魂(ソウル)をしっかりと受け止めよう。

□2004年 アメリカ映画  原題「Ray」
□監督:テイラー・ハックフォード
□出演:ジェイミー・フォックス、ケリー・ワシントン、レジーナ・キング、他

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コラテラル

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◆プチレビュー◆
J.フォックスが南の島の絵葉書を渡す場面が泣かせる。技術面ではデジタル・ハイビジョンでの撮影が夜の場面に効果を発揮している。

夜のロサンゼルス。タクシー運転手マックスが乗せた一人の客はヴィンセントと名乗り、大金でマックスを専用運転手として一晩雇う。ヴィンセントは実はプロの殺し屋で、その夜のうちに、5人の人物を殺す仕事を請け負っていた…。

いわゆる巻き込まれ型サスペンスだが、この物語は主人公と犯人の距離が異常に近いのが特徴だ。何しろ一晩一緒に車中で過ごすことになるのだから。タイトルのコラテラルとは巻きぞえの意味。本作での不運な犠牲者は、平凡なタクシー運転手だ。

そもそもこの物語、最初から設定に無理がある。ヴィンセントは完全主義でプロの殺し屋だ。プロの仕事には普通プロの、つまり裏社会のドライバーを雇うもの。いきあたりばったりなど、ありえない。さらに殺人現場をマックスに目撃されたなら、彼を殺して次のタクシーに乗れば話は早い。しかし殺し屋はそうしないのだ。これは二人の男が運命的に結ばれてしまった話と解釈できる。彼らは無意識にお互いを必要とした。単純な犯罪劇ではないのだ。

初の悪役であるトム・クルーズは確かに頑張っている。厳密に言うと「タップス」で不良を演じ、「インタビュー・ウィズ・バンパイア」で冷徹な吸血鬼を演じているので“初の”とは言えないのだが。しかし、本作でも彼のスターのオーラは凄かった。役になりきる俳優が演技派と呼ばれる今の時代に、いつでもどこでもトム・クルーズであることはむしろ素晴らしいことではないか。比較するのは気がとがめるが、かつてG.クーパーやC.グランドがそうだった。トムはどこを切ってもクルーズなのだ。まるで、金太郎飴のようなヤツ…。彼こそ最後の“ハリウッド・スター”である!

監督のM.マンは骨太な男のドラマが大のお得意だ。さらに凝った映像で知られ、本作でも随所にスタイリッシュな映像美が光っている。冒頭に登場する夜のLAを俯瞰で捕らえたショットは、素晴らしい。映画の中によく登場するLAの街だが、美しいと感じたのは初めてだった。

恋愛要素が皆無のこの映画の中で、車中での、検事のアニーとマックスとの会話はひとときのやすらぎの時。実はこの出会いは後に効いてくる。殺し屋のヴィンセントにとっても、タクシー・ドライバーのマックスにとっても、人生と自分自身を見つめる決定的な夜の幕が開く。その幕はどんな形で降りるのか。最近、続編やリメイクばかりで退屈していたが、なかなか骨のあるオリジナル脚本だ。ハード・ボイルドタッチのサスペンスだが、心理劇として楽しめる。

□2004年 アメリカ映画  原題「COLLATERAL」
□監督:マイケル・マン
□出演:トム・クルーズ、ジェイミー・フォックス、ジェイダ・ピンケット・スミス、他

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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
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新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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