映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「フィフティ・シェイズ・ダーカー」「ハクソー・リッジ」「結婚」「ありがとう、トニ・エルドマン」etc.

ジェレミー・レナー

メッセージ

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突如、地球上の各地に謎の巨大球体型飛行物体が現れる。彼らがどこから来たのか、目的は何なのか、何もかもが不明だった。言語学者のルイーズは、彼らの言語を解読し、その意図を探るように軍から要請される。黒い煙状の表意文字を解読するうちに、ルイーズは、彼らが人類とはまったく異なる時間の観念を持っていることに気付く。物理学者のイアンと共に、彼らと友好的に交信しようとするルイーズだが、各国は彼らを敵とみなし攻撃の準備を始める。ルイーズは、地球を救い、彼女自身の思いを伝えるため、思い切った行動に出るが…。

未知なる飛行物体のメッセージを読み解くことで、人間の存在意義を問う異色SF「メッセージ」。原作は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」だ。人間に対して友好的にせよ、攻撃的にせよ、人類が宇宙人と遭遇するSF映画は、過去にも多く作られた。だが本作は、ビジュアル、ストーリー、観念的かつ崇高な志という点で、今までのどの映画ともテイストが異なる。言語学者のルイーズは、幼い娘ハンナを病で失ってから深い喪失感の中にいる。そんなルイーズの母性にも似た寛容が、未知のエイリアンに対し、根気強くコンタクトを求め、攻撃ではなく別の可能性を見出すという設定は非常に興味深い。この物語の主人公がヒーローではなく、ヒロインであることに大きな意味があるのだ。縦型のアーモンドのような宇宙船の造形や、7本脚(ヘプタポッド)のエイリアンのビジュアルは独創的で、黒い煙状のサークル型の表意文字は、美しいアートのようである。ルイーズが感じ取る、時間を逆行するような感覚と、やがて知る驚きの真実は、少々複雑で分かりにくいのだが、悲しみの中でも彼女が生きてきた意味が解明され、深い感動を味わえるだろう。ルイーズは人生や宇宙、時間という概念の真実を知り、混乱しながらも、未知なるものを受け入れ、愛することを止めないと決意する。このことが、本作を、宇宙人との遭遇という平凡なSF映画から、深淵な人間ドラマへと昇華していった。派手なバトルやヒロイックな戦闘などは登場しない。だが、各国が一触即発の非常事態に陥る愚かさと、パーソナルな悲しみや迷い、それでも保ち続ける理性と愛をも描くことで、現実を巧みに照射している。エイミー・アダムスをはじめ、実力派俳優たちの丁寧な演技が、深い人間ドラマを紡ぎ、生きることの意味を問う壮大な物語を作り上げた。またしても俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の才能に驚かされた1本だった。
【85点】
(原題「ARRIVAL」)
(アメリカ/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、他)
(独創的度:★★★★☆)
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エヴァの告白

エヴァの告白 [Blu-ray]
転落の運命を辿りながら生き抜くヒロインを描く「エヴァの告白」。M.コティヤールのために作られたメロドラマだが、終わってみれば男性キャラの歪んだ純情が記憶に残る。

1921年。戦火のヨーロッパを逃れて米国に来たポーランド人女性エヴァ。だが一緒に来た妹は病気のため隔離され、エヴァ自身も理不尽な理由で入国を拒否される。強制送還を待つばかりエヴァの美しさにひと目で心を奪われたブルーノは、金の力でエヴァを助ける。だが、ブルーノは移民の女性たちを劇場で踊らせ、売春を斡旋する危険な男だった。何としても妹を救いたいエヴァは懸命に働くが、ついには娼婦に身を落としていく…。

監督のジェームズ・グレイはロシア系移民。劇中で登場するバナナの食べ方が分からずまるかじりするシーンは、グレイ監督の両親の実体験に基づく描写だそうだ。移民の貧困と苦労を知り尽くした監督が描くこの物語は、悲しい運命を背負った女性が転落していくという典型的なメロドラマである。本作は最初からマリオン・コティヤールを主役に想定して書き下ろされたそう。どこか戦前のフランス映画を思わせるストーリーに、コティヤールの凛とした美しさがフィットしている。だがジェームズ・グレイ監督といえば、過去作品では圧倒的に男性映画のイメージが強い。特に本作でも起用しているホアキン・フェニックスとは4度目のタッグのためか、彼が演じるブルーノという男の存在感が大きいのだ。エヴァを愛し、大切にしたいと思っているのに、彼女を傷つけることでしか愛情を表現できない、哀しい男を、フェニックスが絶妙な演技で演じている。さらにこのブルーノと、ジェレミー・レナーが演じるロマンチックな手品師で従兄弟でもあるオーランドとの愛憎入り混じる関係性も興味深い。エヴァというヒロインの映画でありながら、男の不器用な愛情が浮かび上がる物語に仕上がっている。幸薄く、それでいてたくましいエヴァを演じるコティヤールが美しい。
【65点】
(原題「THE IMMIGRANT」)
(米・仏/ジェームズ・グレイ監督/マリオン・コティヤール、ホアキン・フェニックス、ジェレミー・レナー、他)
(生命力度:★★★★☆)
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エヴァの告白@ぴあ映画生活

ボーン・レガシー

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“ボーン”シリーズの世界観を引き継いだ新たなシリーズの幕開け「ボーン・レガシー」。役者はやや地味だが緊迫感は途切れない。

記憶を失った凄腕の暗殺者ジェイソン・ボーン。彼をめぐる陰謀と死闘の裏で、同時進行していたもうひとつの計画と巨大な陰謀があった。それは、ジェイソン・ボーンに匹敵する能力を持つ、高度な遺伝子操作で生み出された最強の暗殺者アーロン・クロスを抹殺するというもの。暗殺者養成計画という倫理を逸脱した計画の漏洩を防ぐため、隠蔽チームのリーダーのリック・バイヤーが全プログラムの抹消を命じたからだ。アーロンは、工作員の体調を薬によって管理していた女性科学者のマルタと共に、真相を求めて闘うことになる…。

秀作アクションシリーズのボーン三部作が終わってがっかりしていたファンがいかに多かったことか。だが貪欲なハリウッドは、そんなファンの要望にしっかり応えてくれた。CIAの極秘プログラムによって作られた最強の暗殺者はジェイソン・ボーン一人だけではなく、その裏側に別の極秘プログラムが存在していたという設定は、このシリーズを無限に続かせる可能性を生み出した。だがボーン・シリーズと銘打つ以上、ハンパなアクションというわけにはいかない。しかも、マット・デイモンに比べ、ジェレミー・レナーでは、どうしても印象は、地味。そこで、今回は、洗練されたヨーロッパの街を主戦場とした前シリーズとはまったく異なり、灼熱と喧騒のアジア、フィリピンのマニラを舞台にして趣をガラリと変えてみせた。これがなかなか成功している。序盤はボーンと同じ時系列を強調するため、やや説明不足で判りにくい。だが、肉体と精神を遺伝子レベルで強化され、特別な薬を必要とする主人公が、女性科学者マルタに真相を問いただすプロセスで、徐々に状況が見えてくる。半永久的な効果を持つ活性ウィルスを求めてマニラへと飛ぶ展開は、自分自身を“探す”、まさしくボーン・シリーズだ。狭い路地や人々でごった返す街中を駆け巡る、超絶的なアクションは、完全に人間離れしていて、息つくヒマを与えてくれない。ボーン3部作に携わったトニー・ギルロイが脚本・監督したことで、本作には、世界観の統一が見られたことが最大の長所だ。おそらく作られるであろう続編では、旧作のメンバーと新たな登場人物との化学反応が楽しみである。それにしても、自らが創り出した力によって窮地に陥り、すべてを闇に葬ろうとする、この体質は、映画でも現実でもアメリカの見慣れた“伝統”。困ったものだ。
【65点】
(原題「THE BOURNE LAGACY」)
(アメリカ/トニー・ギルロイ監督/ジェレミー・レナー、エドワード・ノートン、レイチェル・ワイズ、他)
(スリリング度:★★★★☆)
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ボーン・レガシー@ぴあ映画生活

映画レビュー「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」

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◆プチレビュー◆
大スターが本気で挑むスパイ・アクション「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」。これぞエンタメの王道だ。 【75点】

 ロシア・クレムリンで大規模な爆破テロが発生する。事件の容疑をかけられたイーサン・ハントと彼のチームは、米大統領が発令した“ゴースト・プロトコル(架空任務)”によって、極秘諜報機関IMFの存在そのものを抹消され、スパイの称号を剥奪されてしまう。さらなるテロを防ぐため、何より自らの汚名をはらすため、彼らは中東のドバイへと飛ぶことになるのだが…。

 「ミッション・インポッシブル」は、もともとは60年代の人気TVシリーズ。それをトム・クルーズ主演でゴージャスに映画化したものだが、今や“トム・クルーズの”ミッション・インポッシブルと言っても過言ではない。毎回大ヒットを飛ばすシリーズの、5年ぶりの新作は、イーサンがテロ容疑をかけられ、孤立無援の中、核による世界滅亡を企てる首謀者を追うというもの。さらに、結束すべきチームで内部抗争が起こるという、予測不可能な展開だ。

 だが、この最難関のミッションは、よくよく目を凝らして見ると、核の発射コードを奪うという、映像的には実に見栄えのしないもの。それなのに、映画を見ている間は、地味だなどとは、微塵も感じさせないから、たいしたものである。モスクワ、ドバイ、インドと、舞台は目まぐるしく変化し、大爆発や砂嵐の中でのチェイスと、ド派手なアクションを連打する演出は、息もつかせぬスピード感だ。演出の上手さに加えて、俳優の頑張りをあげねばならない。ドバイの超高層ビル“ブルジュ・ハリファ”の壁面を登るシーンは最も手に汗を握る場面だが、何しろ地上828メートルで、大スター、トム自身が演じているのだ。そのプロ根性には頭が下がる。

 見所満載の本作だが、注目してほしいのは、空間の使い方と、ユーモアのセンスである。「レミーのおいしいレストラン」でオスカーを獲得した実力派ブラッド・バード監督が、初の実写映画を手がけているのだが、アニメ出身だけあって、空間を自由にとらえる感覚が素晴らしい。前述のブルジュ・ハリファの場面をはじめ、ベルトで電線をすべりながら車上に降りたり、立体駐車場でのバトルなど、縦方向へ伸びるアクションは秀逸だ。さらに、天才ハッカー役のサイモン・ペッグに三枚目を演じさせ、緊張感の中に、ほどよい笑いを加味したのもバードならでは。ハイテク・スクリーンの前でのとぼけたしぐさや、吸盤手袋の頼りなさなどは、最高のジョークだ。

 イーサン・ハントの命がけのミッションは、インドのムンバイでクライマックスを迎える。その熱演は、もはやトムとイーサンが同一人物に見えてしまうほど。ハリウッドのトップをひた走る“最後の大スター”クルーズは、演技にアクションに、プロデュース業にと、八面六臂の大活躍だ。49歳の今も変わらず、白い歯がまぶしいハリウッド・スターは、観客を楽しませるため、本気で映画に取り組んでいる。エンタメ映画の王道を生真面目に行く本作、掛け値なしに面白い。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)エンタテインメント度:★★★★★

□2011年 アメリカ映画 原題「MISSION: IMPOSSIBLE - GHOST PROTOCOL」
□監督:ブラッド・バード
□出演:トム・クルーズ、ジェレミー・レナー、ポーラ・パットン、他
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ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル@ぴあ映画生活

映画レビュー「ザ・タウン」

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◆プチレビュー◆
宿命から抜け出そうともがく青年の純愛と、クライム・アクションのからみが絶妙な「ザ・タウン」。監督アフレックの手腕は確かだ。 【85点】

 ボストン北東部チャールズタウン、通称“タウン”は、有数の犯罪地域。特に銀行強盗は全米で最多だ。タウン育ちで、プロの強盗一味を率いるダグは、ある時、なりゆきで支店長クレアを人質にとる。その後彼女を無事解放するが、キレやすいジェムが、クレアが同じ街の出身と知り、始末しようと言い出す…。

 ボストンというと、著名な大学が集まっているせいか、どこか知的な学術都市のイメージがある。だが「ミスティック・リバー」や「ディパーテッド」などの映画の中で描かれるそこは、多くの場合、貧困と犯罪がうずまくふきだまりだ。ここでは強盗がファミリー・ビジネスとなり、次の世代に受け継がれるほど、すさんでいる。母は家を出て、父は服役中というダグも、そんな人生を歩む一人。誰も傷つけないことを信条に強盗を繰り返しながらも、いつかここを抜け出して、まっとうに生きたいと切望する青年だ。幼馴染ジェムの過激すぎる行動にも辟易しているのだが、友情に厚く恩人でもあるジェムとの絆を断ち切るのは難しい。何よりタウンが新しい生き方をダグに許さない。

 そんなダグの心を揺さぶったのは、純粋で心優しいクレアとの出会いだった。自分の正体を隠して、彼女の動向を探るうち、ダグは恋に落ちる。銀行強盗のリーダーと、人質の女。クレアはやがて彼の正体を知ることに。だが、ダグは彼女との出会いによって、ボストン・レッドソックスのスタジアム襲撃という大仕事を最後に、犯罪から足を洗い、街を離れる強い決意を固めることになる。計画は成功するのか。幼馴染のジェムや仲間たちと決別できるのか。さらに強盗グループの黒幕である花屋のファーギーの卑劣な脅しと、彼の口から聞いた母の衝撃の事実を、ダグはどう受け止め、どう決着を着けるのか。映画は登場人物の人間性を丁寧に掘り下げながら、極上のクライム・サスペンスとして昇華していく。監督ベン・アフレックの巧みな演出は、すでに巨匠の風格さえ漂わせていて、目の肥えた映画ファンを釘付けにするだろう。

 そのアフレックは、本作で、監督、脚本、主演をこなす大活躍だが、決して自分だけが前面に出るオレ様映画にしなかったのが上手い。「グッド・ウィル・ハンティング」の脚本で盟友マット・デイモンと共にオスカーを手にした彼は、派手な演出より緻密なストーリーを重視していて、堅実さがうかがえる。監督第一作の「ゴーン・ベイビー・ゴーン」も、日本では劇場未公開と冷遇されたものの、素晴らしい人間ドラマで、この人の手腕に唸ったものだ。俳優兼監督の大先輩クリント・イーストウッドとの共通性を指摘されることが多いが、厳しい現実の中で生きる男たちの友情や純愛、譲れない誇りと葛藤は、なるほどイーストウッドを思わせる。渋いキャスティングにも共通性が見られ、脇役にクリス・クーパーやピート・ポスルスウェイトのようないぶし銀の名優を使うセンスが素晴らしい。

 出身地ボストンに強くこだわりながらも、タイトルは“ボストン”や“チャールズタウン”ではなく「ザ・タウン」なのはなぜか。それは本作が、世界中の、貧しく荒れた街のストーリーだからだ。暗くつらい現状から抜け出し、未来を求める青年の姿は普遍的で、いつしか私たちは、希望と絶望の間にいる主人公に手を差しのべたくなる。物語は、陽光が降り注ぐハッピーエンドではない。だが、柔らかい優しさで包まれる夕焼けのようなラストが、心にしみた。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)緊張感度:★★★★☆

□2010年 アメリカ映画 原題「THE TOWN」
□監督:ベン・アフレック
□出演:ベン・アフレック、ジェレミー・レナー、レベッカ・ホール、他


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ザ・タウン@ぴあ映画生活

映画レビュー「ハート・ロッカー」

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◆プチレビュー◆
爆発物処理班の兵士を通して戦争の真実と虚無感を描く秀作。スクリーンから片時も目が離せない。 【85点】

 2004年イラク・バグダッド。ジェームズ二等軍曹は、駐留米軍の爆発物処理班ブラボー中隊の新リーダーとして赴任する。爆弾処理の腕は一級だが、平気で規則を無視する向こう見ずな彼の行動に、仲間や部下は不安を抱くが…。

 爆発物処理班の兵士の死亡率は、一般兵の5倍にもなるという。爆弾を発見すれば、過酷な暑さの中、重装備の防護服を身に付け、慎重に配線を切り信管を取り除いて爆発を解除する。そのプロセスは、見ているこちらまで緊張で身体がこわばってしまうほどだ。極限状態の中で冷静な判断を下す彼らの仕事は、常にチームで動き、互いをサポートすることで成り立っている。脚本家のマーク・ボールは、イラクで従軍記者として爆発物処理班と行動を共にした体験を基に、細部までリアリティに満ちた物語を練り上げた。戦場には、派手な銃撃戦だけでなく、爆発物処理という、ほとんど報道されない、地味だが最も危険な任務があることを、改めて教えられた。この映画の優れた点のひとつは、爆弾処理の知られざる実態を詳細に描き、広く認知させたことだろう。

 ジェームズは、これまでに873個もの爆弾を処理したエキスパートだ。実績からの自信か、はたまた過剰な正義感か、無謀な行動でチームの和を乱す。それでも彼は、仲間のサンボーン軍曹や部下のエルドリッジ技術兵と対立しながらも冷静に任務をこなしていた。だがそんな彼も、身体に爆弾を埋め込まれた少年の死体には、我を忘れる。テロ組織への怒りと、いたいけな子供の遺体の中から爆発物を取り出して処理せねばならないおぞましさ。この少年は、もしやいつも基地のそばでサッカーをしていた顔馴染みの少年なのではないか。そんな思いからの憤りは、死と隣り合わせの任務を楽しんでいるかのようだったジェームズが、まだまっとうな人間である証拠で、安堵感を覚える。

 だが、安全な場所にいる私たち観客は、非日常が日常と化してしまった戦争の真の恐ろしさをまだ知らない。限界を超える緊張がもたらす恍惚と、どんな小さなミスも許されない究極のミッションへの気概。ジェームズにとっては、それらを併せ持つ戦場だけが生を実感できる場所だ。「どうせ死ぬのなら気持ちよく死にたい」と、防護服を脱ぎ捨てて大量の起爆装置を解除する彼の行為は、勇気に見えて実際は狂気なのだ。戦争は、ドラッグのように兵士を魅了し、精神を蝕んでいく。全編を通して甘さや情緒を廃し、女性監督らしからぬ骨太な描写を貫いたキャスリン・ビグローの演出が素晴らしい。

 過去の戦争映画の秀作は、戦争がもたらす悲劇をあらゆる視点から照射してきた。そのひとつ、ベトナム戦争を描いた怪作「地獄の黙示録」の中に「戦場では故郷を思い、故郷に戻ると戦場に恋焦がれる」というモノローグがある。本作の主人公ジェームズも、米国に戻っての平穏な日常の中では、表情はうつろだ。だがイラクに戻り再び1年間の任務についた彼の目は、獲物を追う野獣のように輝いている。ここにも戦争に魅入られ後戻りできなくなった人間がいる。自爆で死ぬ敵、姿が見えないテロリスト、誰からも歓迎されない土地で爆発物を処理する米兵。いったい何のための戦争なのかという疑問と虚無感が、爆風で舞い上がる砂塵のように広がっていく。“ハート・ロッカー”とはイラクの兵隊用語で、行きたくない場所、棺桶を意味するという。爆発の瞬間を恐れながらその重圧が快楽となった人間のヒロイズムとその代償を、ドライなタッチで描いた本作、紛れもない傑作だ。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)緊張感度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「THE HURT LOCKER」
□監督:キャスリン・ビグロー
□出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、他


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◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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