映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる映画 ◎
「フィフティ・シェイズ・ダーカー」「ハクソー・リッジ」「結婚」「ありがとう、トニ・エルドマン」etc.

ジュリアン・ムーア

ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気

ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気 [DVD]
ニュージャージー州オーシャン郡。20年以上仕事一筋に生きるベテランの女性刑事ローレルは、ステイシーという若い女性と出会う。年齢も環境も違う二人は惹かれあい、郊外の家を購入して一緒に暮らすようになる。だが、幸せな生活は長くは続かず、ローレルにガンが見つかり、余命半年と宣告される。ローレルは自分が死んだ後も、愛するステイシーが思い出がつまったこの家で暮らせるように、遺族年金を残そうとするが、同性のパートナーには法的にそれが認められなかった。病気が進行する中、ローレルは、自分たちの権利を訴えて法制度改正を求める活動をはじめるが…。

同性のパートナーに遺族年金を残すため法制度や世間の偏見に挑んだ女性の実話「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」。本作はドラマ仕立てだが、ベースになっているのは、第80回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞を受賞した「フリーヘルド」だ。女性刑事ローレルは、ずっと同性愛者であることを隠してきた。オーシャン郡が保守的な土地柄で、これまた保守的な男性社会である警察組織で、生き残っていくために、やむを得なかった。彼女に好意を持つ相棒のデーンにも打ち明けていない。そのことで自分への信頼を疑うデーンに、ローレルが言う「あなたは、白人で、男性で、ストレート。私とはスタート地点が違う」という言葉が、彼女が置かれた立場の弱さを物語る。女性というだけですでにハンデなのに、さらにLGBT(性的少数者)では、どれほど勤勉で優秀でも、仕事でまっとうな評価は得られないのだ。それでもローレルは戦う。ガンで憔悴しきった彼女の訴えは、次第に影響力を増すが、彼女自身は単に遺族年金を恋人に残すという平等を求めただけ。だが周囲の人々、ゲイの権利を主張する活動家たちによって、社会的ムーブメントになっていく。この時のローレルとステイシーのとまどいがリアルだ。もしもローレルが健康なら、彼女たちはできるだけ静かな人生を送ることが望みだったのかもしれない。LGBTの権利は、先人たちのひとつひとつの努力と勇気と犠牲によって積み重ねられてきたのだ。当たり前のことを当たり前に要求することの難しさが、ローレルとステイシーのカップルの姿から痛いほど伝わってくる。演技派のジュリアン・ムーアは安定の名演、若手のエレン・ペイジはボーイッシュなステイシーを繊細な演技で好演している。終盤、病が悪化し声が出なくなったローレルに代わり、ステイシーが法廷でスピーチするシーンが感動的である。本作はLGBTの映画であると同時にフェミニズムの映画でもあるが、不当に奪われた権利を守るために戦った勇気ある人々の実話として、男女を問わず見てほしい。
【65点】
(原題「FREEHELD」)
(アメリカ/ピーター・ソレット監督/ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、他)
(勇気度:★★★★☆)
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アリスのままで

アリスのままで [Blu-ray]
若年性アルツハイマー病を発症した女性とその家族の葛藤を描く「アリスのままで」。オスカーを射止めたジュリアン・ムーア渾身の演技に目を見張る。

50歳のアリスは名門大学で教鞭を取る言語学者。ある日、物忘れがひどくなり病院を訪れると、若年性アルツハイマー病と診断されてしまう。やがては家族のことも自分が誰であるかも忘れてしまう病気におびえながら、アリスは家族の支えでなんとか暮らしていくが…。

本作は、いわゆる難病ものではあるが、ベタついたお涙頂戴映画などではない。それはヒロインと家族をシビアな視線でみつめているからだ。知的でウィットに富んだ女性アリスは、自分が自分でなくなる病気の恐怖と共に、その病が子供たちに遺伝してしまうことで大きな罪悪感を感じる。最初は小さな物忘れから次第にエスカレートしていく描写も非常に丁寧で、ジュリアン・ムーアの名演も手伝い、若年性アルツハイマー病という病気の性質がしっかり理解できるはずだ。やがてすべてを忘れる自分にビデオメッセージを残すが、症状がかなり進行したアリスがそれを見るシークエンスは、緊張感が漂う。だがこの映画が他の難病ものとはひと味違うのは、インテリ一家のそれぞれのアリスへの接し方にある。医師である夫や優等生タイプの長女がどこか逃げ腰なのに対し、一家では落ちこぼれの次女リディアは母親の病と正面から向き合い、しっかりと支えていく。母と娘という関係性以上に女性として人間として関わっていこうとする毅然とした姿勢が印象的で、クリステン・スチュワートの自然体の演技がムーアに負けずに素晴らしい。例え記憶は薄れても、アリスがアリスであった事実は決して消えることはない。高齢化社会、老い、記憶。いつかは自分や家族にも…と身につまされる観客も多いかもしれない。アイデンティティーと尊厳を、静かなタッチで描く良作だ。
【80点】
(原題「STILL ALICE」)
(アメリカ/リチャード・グラツァー、ワッシュ・ウェストモアランド監督/ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、クリステン・スチュワート、他)
(女性映画度:★★★★☆)
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アリスのままで@ぴあ映画生活

フライト・ゲーム

フライト・ゲーム (初回限定特典/デジタル・コピー付) [Blu-ray]
トラウマ持ちの航空保安官がハイジャックに立ち向かうサスペンス・アクション「フライト・ゲーム」。戦うオヤジといえばリーアム・ニーソンだ!

NYからロンドンへと向かう旅客機に乗った連邦保安官ビルは、突如、1億5千万ドルを指定口座に送金しなければ20分ごとに1人ずつ機内の誰かを殺すという、凶悪な犯行予告のメールを受け取る。半信半疑のビルだったが、予告通り犠牲者が出たことで、ビルは乗客を一人一人調べながら、犯人の特定に奔走。だが犯人が指定した口座がビルの名義だったことから、地上の保安局からはビル自身が犯人との疑いをかけられてしまう…。

遥か上空の航空機内は逃げ場がない閉鎖空間。正体不明のテロリストに命運を握られた上、自分が犯人にされてしまう大ピンチ。絶対絶命の危機でいきなり強くなるキャラといえば、近年アクション俳優として覚醒している演技派リーアム・ニーソンの十八番である。だが、今回はただ強いだけではない。過去の不幸な出来事から、アル中で精神状態が不安定という、今までにない弱さがあるのが新鮮だ。146人の乗客乗員は誰もが怪しい。偶然、隣に座った女性で唯一の味方のジェンが、もしや彼女が犯人かも…という疑心暗鬼系のロマンス対象であるところもお約束通りだ。ジリジリと追いつめられるような緊迫感が漂う前半、航空機内という密室ながら銃撃戦や爆発という派手なアクションがさく裂する後半と、メリハリもある。特に、狭い場所での格闘戦は、まるで傷みが伝わるかのよう。主人公が犯人である可能性は最後までひっぱるというサービスも忘れない。なかなか姿を現さないテロリストにシビレが切れた頃、意外な犯人が現われる。犯行の動機にはちょっぴり拍子抜けしてしまったが、二転三転するスピード感たっぷりの演出と、後味のいいラストで、意外にも楽しめる密室型サスペンスに仕上がっていた。
【60点】
(原題「NON-STOP」)
(アメリカ/ジャウマ・コレット=セラ監督/リーアム・ニーソン、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ドッカリー、他)
(ハラハラ度:★★★★☆)
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フライト・ゲーム@ぴあ映画生活

ドン・ジョン

ドン・ジョン [DVD]
超モテ男がタイプの違う2人の女性と出会い真実の愛を知るラブ・コメディ「ドン・ジョン」。ポルノ大好きという一見扇情的な設定だが実は純愛ものだった。

鍛えた肉体と甘いルックスで女性に不自由はしないプレイボーイのジョンは、家族を愛し、教会にもきちんと通う平凡な男。だが、実はジョンは、現実の女性に満足できず、完璧な快楽を求めて、日夜、パソコンでポルノ鑑賞に熱中する日々を送っている。最高にセクシーな美女バーバラと出会って真剣に付き合い始めるものの、やっぱりポルノ鑑賞は止められない。一方のバーバラも、映画のようなロマンスに憧れジョンに理想の男性像を押しつけるばかり。そんなある日、ジョンはワケありな年上女性のエスターと出会い、新たな価値観に気付いていく…。

人気、実力ともに注目の俳優ジョゼフ・ゴードン=レヴィットが初監督し、自ら主演を務めるこの映画、ポルノ大好きという思わずドン引きしたくなる設定だが、それで見逃すにはあまりに惜しい示唆に富んだ作品だ。タイトルのドン・ジョンとは、日夜クラブに繰り出しセクシーな美女をナンパしては一夜限りの関係を繰り返すジョンを、遊び仲間が伝説のプレイボーイのドン・ファンにちなんで呼ぶ名称である。女性に不自由しないはずのジョンだが、パソコンの中のポルノこそ理想と考え、教会で“婚前交渉”と“自慰”を懺悔し続けている。こんな歪んだ主人公が恋愛によっていったいどう変わっていくのかと興味津々になるはずだ。だが自分本位なのはジョンだけではなく、恋人のバーバラもロマンス中毒で自分の理想をジョンに押しつける。リアルから逃避し、大人になりきれない二人が上手くいくはずもないのだが、それを気付かせるのが、飾らない性格で人生の機微を知る中年女性のエスターだ。互いに相手の本当の姿に埋没することで初めて現実から理想へと近付ける。こんな深い愛の心理を語るのに、ポルノを小道具に使うとは“新人監督”ゴードン=レビットのセンスはなかなか鋭い。しかもコミカルかつアイロニカルに描いていくからテンポもすこぶる良い。ポルノはあくまでも脇役で、これは自分本位な男が、真剣に他者と関わることで、本当に豊かな人間関係を築くことを知る成長物語なのだ。完璧な美女をスカーレット・ヨハンソン、ジョンの恋愛指南役の年上女性をジュリアン・ムーアというキャスティングも効いている。何より、優しい風貌で草食系男子のイメージだったジョゼフ・ゴードン=レヴィットが、自らのイメージを真逆の肉食系に変えてみせた荒業が見事だった。
【70点】
(原題「DON JON」)
(アメリカ/ジョゼフ・ゴードン=レヴィット監督/ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、スカーレット・ヨハンソン、ジュリアン・ムーア、他)
(恋愛指南度:★★★★☆)
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ドン・ジョン@ぴあ映画生活

メイジーの瞳

メイジーの瞳 [Blu-ray]
6歳の少女メイジーの視点で大人の世界を描く「メイジーの瞳」。大人の身勝手に黙って耐える少女の姿が痛々しい。

NYに住む6歳のメイジーは、両親の離婚で、美術ディーラーの父ビールとロック歌手の母スザンナの家を10日ごとに行き来している。やがて父はベビーシッターだったマーゴと、母は心優しいバーテンダーの若者リンカーンと再婚するが、両親は自分のことに忙しく、それぞれのパートナーにメイジーの世話を押し付けるようになる。メイジーはマーゴやリンカーンと過ごす時間が長くなるが、ある日、スザンナが突然ツアーに出てしまい、メイジーは夜の街に置き去りにされてしまう…。

原作は、19世紀から20世紀初頭に活躍した作家ヘンリー・ジェイムズの小説。ジェイムズといえば「鳩の翼」や「ある貴婦人の肖像」など、映画化された作品も多いが、本作は設定を現代のNYに置き換えているのが目を引く。6歳のメイジーを演じるのは撮影当時本当に6歳だった新星オナタ・アプリールちゃんで、彼女の可愛らしさ、けなげさが大きな魅力になっているのは間違いない。両親は共にメイジーを愛してはいるが、自分のことで精一杯。それぞれのパートナーも彼らの身勝手に我慢の限界を超えて出て行ってしまう。無責任な大人たちのいざこざやわがままを、じっとみつめて耐える6歳の少女が、一番大人に見えて仕方がない。メイジーは聞き分けが良く、我慢強いが、それでも時折寂しげな表情を見せるのが痛ましい。都会で生きる子供の常で世慣れてはいるが、決してスレてはいない彼女こそ、人生でもっとも大切なもの“愛”をストレートに理解しているのだ。大人を気遣い、優しさを求めるメイジーは、やがて血のつながりを超えた家族の形を選ぶことになる。これは、現代を生きる子供の視点から問題提起し、離婚が珍しくなくなった現代社会の家族のあり方を模索しながら、大人も子供も傷つきながら希望を見出す物語なのだ。家族の問題をシビアに扱いながらも、ガーリーなファッションや光あふれる映像で、どこか優しさが漂うドラマに仕上がっている。
【65点】
(原題「WHAT MAISIE KNEW」)
(アメリカ/スコット・マクギー、デイヴィッド・シーゲル監督/ジュリアン・ムーア、アレキサンダー・スカルスガルド、オナタ・アプリール、他)
(けなげ度:★★★★☆)
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メイジーの瞳@ぴあ映画生活

キャリー

キャリー 2枚組ブルーレイ&DVD (初回生産限定)
いじめられっ子の復讐劇を描いた傑作ホラーのリメイク「キャリー」。オカルト・ホラーというより青春映画の様相。

高校生のキャリーは地味で内気な女の子。学校ではいじめられ、家では狂信的な母親に支配されて、不幸な毎日を送っていた。実は彼女は、激しい興奮状態に陥ると物を動かせる念動力という超能力を秘めていたが、母親はそれを悪魔の仕業と決め付けていた。ある日、同級生からのいじめ事件をきっかけに、女生徒のあこがれの的であるトミーとプロムのパーティに出席することになる。母親の反対を押し切り、手作りのドレスに身を包んだキャリーは幸福を感じるが、その裏では、キャリーに対する残酷ないたずらが計画されていた。全身に真っ赤な血を浴びたキャリーは怒りが頂点に達し、パーティ会場と町は、壮絶な惨劇へと向かうのだった…。

70年代のオカルトホラーブームの中でも大ヒットを記録した映画「キャリー」は、ブランアン・デ・パルマ監督による傑作ホラーだ。それを今、蘇らせる試みは、いじめというあまりにも現代的なテーマを考えると必至の出来事かもしれない。過去作との比較は避けられないが、デ・パルマ版のキャリー役シシー・スペイセクが、オドオドと鬱屈していて見ているこちらまでイライラさせられるほどのキャラだったのに対し、モレッツ版キャリーは、どうみても可愛く健康的。なぜこの子がいじめられっ子に?この子ならプロムに誘ってもよさそうなのでは? と疑問に思うほど愛らしい。ヒロインのルックスの良さはさておき、今回のキャリーは現代っ子らしく積極的だ。自分の持つ力におびえるだけでなく、ネットで超能力について詳細に調べ、図書館で本を読破し、同じような能力の仲間がいることを突き止めるという行動力が目を引く。もっともそれを活かす応用力はないので、やっぱりいじめられてしまうのだが。怖さや陰湿さではデ・パルマ版には及ばないものの、スクール・カーストの最下部に位置する若者の一発逆転の復讐劇である青春映画としてみると、爽快感さえ感じてしまう。他者とは違う自分を肯定し暴走はするもののやられっぱなしではないキャリーは、間違いなく21世紀の女の子なのだ。オリジナルを知る映画ファンには、母親に突き刺さる刃物や頭から浴びせられる豚の血など、繰り返されるモチーフを確認できる。さて、ラスト、公開当時、劇場内を阿鼻叫喚で包んだという有名なあのショックシーンは用意されているのか? それは見てのお楽しみだ。
【60点】
(原題「CARRIE」)
(アメリカ/キンバリー・ピアース監督/クロエ・グレース・モレッツ、ジュリアン・ムーア、ジュディー・グリア、他)
(現代性度:★★★★☆)
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キャリー@ぴあ映画生活

ラブ・アゲイン

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冴えない中年男の自分改造計画が思いがけない波紋を呼ぶ「ラブ・アゲイン」。ウェルメイドなラブ・コメディだが、意外な人間関係で“世間は狭い”と判らせる。

真面目を絵に描いたような中年男キャルは、ある日突然、妻のエミリーから離婚を切り出される。仕事も家庭も順調だと思っていたキャルは、妻の浮気に大ショック。一人寂しく地元のバーで飲んでいたところを、プレイボーイのジェイコブと知り合う。キャルは、妻への未練を断ち切るべく、若いジェイコブからファッションや女性との接し方などを教えてもらい、新しい人生を歩もうとするが…。

妻の浮気といえば夫には大事件だが、この主人公の怒りは、妻や浮気相手への怒りよりも、情けない自分に矛先が向く。それはキャルが、波風とは無縁だったぬるま湯のような人生を、心のどこかで反省している証拠だ。だが、高校時代の恋人だった妻しか愛したことがない彼には、女性への免疫力はない代わりに、誰よりも深く妻を愛する純情がある。そんなキャルが、ジェイコブの導きで次々に女性にモテまくり、おしゃれな男に変貌するのは、男性側には都合がよすぎる展開なのだが、そうそう世の中が甘くないことは、マリサ・トメイ演じるセクシーな女性教師との“縁”で、しっかりクギをさして、判らせるという仕掛けだ。個人的に、キャルとエミリーの仲よりも気になったのは、キャルの13歳の息子ロビーと、ベビー・シッターのジェシカとの歳の差カップル(?)の恋の行方。ジェシカは実はキャルに恋していたりするのだが、登場人物が一同に会して、ドタバタ劇がなんとか収まった後に、ジェシカがキャルに小さなプレゼントをする場面が、なかなかニクい。とことん男性目線の物語だが、将来のイケダンへの“教育”も抜かりはないのだ。アメリカでは大人気のコメディ俳優スティーブ・カレルの魅力ありきの作品だが、おいしいところを持って行ったのは、どんな役もひょうひょうとした軽さで演じる隠れ演技派ライアン・ゴズリング。この俳優が今、超売れっ子である理由がよく判る。
【60点】
(原題「CRAZY STUPID LOVE」)
(アメリカ/グレン・フィカーラ、ジョン・レクア監督/スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ジュリアン・ムーア、他)
(ハートウォーミング度:★★★★☆)
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ラブ・アゲイン@ぴあ映画生活

クロエ

クロエ [DVD]クロエ [DVD]
この官能サスペンスは、キャスティングが絶妙。話そのものは陳腐でさえあるのに、品格を失わないのはジュリアン・ムーアの演技力のおかげだ。

産婦人科医キャサリンと、大学教授のデビッドは長年連れ添った夫婦。息子と3人で平穏に暮らしているが、夫の携帯電話に女性の写真をみつけたことから、キャサリンは夫の浮気を疑い始め、精神状態が不安定になる。偶然出会った美しい娼婦のクロエに、夫を誘惑させ、その模様を詳細に報告するよう頼むが、そのことは、キャサリンを後戻りできない危険な世界へと導いていくのだった…。

この映画の元ネタはフランス映画の「恍惚」。ファニー・アルダンとエマニュエル・ベアールが演じた危うい関係を、今度はハリウッドの実力派女優ジュリアン・ムーアと、売れっ子若手女優アマンダ・セイフライドが演じている。リメイクだと知らなくても、この物語の“真相”はうすうす分かるだろう。サスペンスや官能という点では弱いのだが、スタイリッシュな映像を撮るカナダの鬼才アトム・エゴヤンは、鏡を効果的に使って美しい心理ドラマとして仕上げている。欲求不満の人妻の夢をかなえる娼婦という単純な構図ではなく、やがて自我と愛に目覚める女の執念がクライマックスで炸裂。その後の、平穏な家族を見て、安易なハリウッド的収束かとがっかりしかけたが、最後の最後にジュリアン・ムーアが後ろ姿を見せたとき、秘めた愛情が垣間見えて物語に含みを持たせた。見開いた瞳が印象的なアマンダは意外にも好演だが、やはりジュリアン・ムーアの存在感でもっている作品だろう。
【55点】
(原題「CHLOE」)
(加・仏・米/アトム・エゴヤン監督/ジュリアン・ムーア、リーアム・ニーソン、アマンダ・セイフライド、他)
(官能度:★★★☆☆)
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キッズ・オールライト

【初回限定生産】キッズ・オールライト オリジナルバージョン [DVD]【初回限定生産】キッズ・オールライト オリジナルバージョン [DVD]
少し風変わりな家族の間に起こる騒動をライト・タッチで描く佳作。小さな作品だが実力ある俳優を起用して、現代の新しい家族の形を説得力のあるものにしている。

LA郊外に暮らす18歳のジョニと15歳のレイザーは、レズビアンカップルの2人のママと仲良く暮らしている。ある日、ジョニは大学進学を機に、弟と共に自分たち姉弟の遺伝子上の父親ポールを訪ね、彼と親しくなる。そのことがそれぞれの母親ニックとジュールズにバレてしまったことから、家族間に異変が起き始める…。

一家を経済的に支える医師のニックは厳格すぎるし、不安定なガーデニング業を始めたジュールズはお気楽な独身男のポールと突発的に浮気する。この物語の大人たちは親というには欠点だらけなのだが、それでも確かな愛情で結ばれている。平凡な家族が“小さな波風”を経て、本当の愛情を確認しあい家族の絆を深めるストーリーは、同性愛カップルということを除けば、よくある話だ。だがこの小品の好感度は、作品全体を包むオプティミズムにある。精子提供者であるポールの登場は、ニックとジュールズに、心の底にたまっていた小さな不満や不安を吐露させることに。過ちや失敗は認めながらも自分をしっかりと主張することが、わだかまりを解消していく力になるのだろう。子育てを終えて本当のパートナーにもう一度なろうとするカップルが、これから未来を歩んでいく子供たちに対して喜びと寂しさが入り混じる感情を見せるラストが感動的だ。アネット・ベニングとジュリアン・ムーアという、上手いのに軽味も出せる名女優の組合せの妙が光った。原題を直訳すると「子供たちは大丈夫」ということになるが、この楽天主義がカリフォルニアの明るい太陽とフィットして、さわやかな後味を残してくれる。
【70点】
(原題「THE KIDS ARE ALL RIGHT」)
(アメリカ/リサ・チョロデンコ監督/アネット・ベニング 、ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、他)
(家族愛度:★★★★☆)
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映画レビュー「シングルマン」

シングルマン コレクターズ・エディション [DVD]シングルマン コレクターズ・エディション [DVD]
◆プチレビュー◆
死を覚悟して初めて知る生の輝き。デザイナーのトム・フォードの手腕は初監督とは思えないほど見事だ。 【75点】

 「愛する者を失った人生に意味などあるのか」。1962年11月30日。8ヶ月前に16年間共に暮らしたパートナーのジムを事故で失ったジョージは、自殺を決意し準備を着々と整えていく。だが彼は、死を前に日常のすべてが違ったものに感じて戸惑いを覚えた。そんな時、親友の女性チャーリーから電話が入る…。

 2人の男がゆっくりと水に沈むポエティックなシーンと、痛々しい交通事故の俯瞰の映像、自殺の決意とその準備の淡々とした連写。映画の序盤に、この一連の流れを無駄のないフォルムで描き、同時に主人公ジョージの人となりが簡潔に浮かび上がる手際の良さは、非常にスマートだ。何度も現れる幸福な日々のフラッシュバックで、今の彼の絶望がいかに深いかを物語る。劇中に登場するさまざまなコントラストが、ストーリーを丁寧に形作っていく。

 英国人の大学教授ジョージは、繊細なキャラクターだ。自殺を前に「発つ鳥跡を濁さず」とばかりにすべてを整理整頓する隙のない人物でもある。銀行の貸し金庫の中身を処分し、家政婦にメモを残し、自分の葬式用のスーツを整え、ネクタイの結び方まで指示する。几帳面な生き方と端正な装いという鎧で脆さを隠しながら生きてきたジョージだったが、50歳を過ぎていても“終わり”が“始まり”になっていく人生の不思議をまだ知らない。観客もまた、死と生が対比する彼の特別な1日につきあうことで、そのことを教えられる。

 ジョージはゲイだという設定なのだが、そのことはこの物語ではポイントではない。むしろ立ち上がってくるのは、ミドルエイジ・クライシス(中高年男性の不安)と、米国で暮らす英国人の孤立感だ。さらに60年代初めという古き良き時代の夕映えにも似た最後の輝きが、ジョージの悲しみに寄り添っている。世界を大きな不安が包む季節の直前に、人生を終えようとしていたジョージが気付いたのは、ささやかな日常にこそ宿る幸福感だった。

 いつもと変わらないはずの英文学の講義、煩わしいはずの隣家の少女、敏感に変化を感じ取る教え子や、駐車場でふと言葉をかわした青年。死を決意したことで日常を別のアングルでとらえ直し、新しいまなざしで世界を受け止めていくジョージを演じるコリン・ファースが卓越して素晴らしい。繊細で抑性が効いた彼の演技が、この映画を比類ないものにしている。さらにジョージとは正反対でありながら、同じ孤独を内包するチャーリーを演じるジュリアン・ムーアとの共鳴が効いている。心から笑いあえる友がまだそばにいる幸福を呼び起こし、ジョージが生へと心を解放したその時、思いがけない運命が訪れる。

 監督のトム・フォードは、グッチやイヴ・サンローランなどで活躍し大きな成功を手にしたカリスマ・ファッションデザイナー。近年では「007」の衣装を担当し存在感を示していた。そんな彼がかねてより関心があった映画作りに挑戦、脚本まで自ら手掛け、とても初監督とは思えない高い完成度の作品を作り、世界を驚かせた。思えば映画界では、異業種の才能は珍しいことではない。たとえば、勅使河原宏は華道家、ジャン・コクトーは詩人、北野武は自分の本業はコメディアンと公言する。そんな中、トム・フォードの“武器”は、他の追随を許さない並はずれた美意識だ。繊細で哀歓漂うこの作品、キャスティングの妙も含めて、まるで仕立ての良いスーツのように美しい。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)端正度:★★★★★

□2009年 アメリカ映画 原題「A SINGLE MAN」
□監督:トム・フォード
□出演:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルト、他

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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