映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

ジョージ・クルーニー

映画レビュー「ファミリー・ツリー」

ファミリー・ツリー オリジナル・サウンドトラックファミリー・ツリー オリジナル・サウンドトラック
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◆プチレビュー◆
ジョージ・クルーニーが絶妙の演技をみせる「ファミリー・ツリー」。ほろ苦いドラマだが後味はさわやかだ。 【80点】

 ハワイ・オアフ島に住む弁護士マット・キングは、妻と二人の娘と順調な人生を送っていた。だが妻がボートの事故で昏睡状態になった上に、浮気していて、離婚を考えていたことが発覚する。そのことを、長女や友人夫妻までもが知っていたことに愕然とするマット。ともあれ妻の浮気相手に会う決心をするが…。

 洒脱でさっそうとしたナイスガイ。あるいは社会悪に立ち向かう正義漢。はたまたコミカルでクセのある変わり者。ジョージ・クルーニーは変幻自在に役を生きる。そんな彼が父親を演じるのは初めてではないが、今回の役は、実に情けない。妻に浮気され、思春期の長女からは信用されず、文無しの従兄弟たちからは金銭面でのみ頼られている中年男なのだ。

 なんともピリッとしない主人公マットだが、彼が置かれた状況はすこぶるやっかいである。妻の生命維持装置をはずすべきかという決断と、先祖代々の土地を売却すべきかという難題を同時に抱えることになったのだ。マットは、生まれて初めて、自分の人生に正面から向き合うことになる。

 順調な人生を送ってきたかに見えて、家庭は妻にまかせっきり、子供たちとまともに会話したことさえなかったマットは、本当は大切なことに目をそむけて生きてきた。予期せぬ形で転機を迎えることにはなったが、彼は、人生、家族、命の意味を子供たちと共に、不器用に、でも本気で考える。私たち観客もまた、そんなマットに寄り添いながら、彼が出す答えを見守ることになる。

 監督のアレクサンダー・ペインは、寡作ながら上質の作品を送り出す職人肌の監督だ。「サイドウェイ」以来の7年ぶりの監督作となる本作でも、ハワイの独特の風土や歴史を存分に生かした。家族の絆を見直すプロセスを、土地を手放すことが祖先から子孫へのつながりを断ち切ることになると気付く主人公の心の変化に重ねる手腕は見事だ。

 最悪と思った出来事が、意外な形で主人公の人生をリロードし、導いていく。タイトルのファミリー・ツリーとは、大地に根を張り、受け継がれる家族の系譜を指している。ラスト、父娘がソファに座ってTVを見るシーンで、皆がひとつのハワイアン・キルトを足元にかけている場面がとてもいい。それは入院時の母にかけてあげていたキルトだ。誰もが欠点を持ち、誰もが完全には正しくない。互いを補いあう家族だからこそ、それでいい。映画全編をそっと包み込む、柔らかなハワイアン・ミュージックがそう告げている。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ペーソス度:★★★★★

□2011年 アメリカ映画 □原題「THE DESCENDANTS」
□監督:アレクサンダー・ペイン
□出演:ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー、アマラ・ミラー、他
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ファミリー・ツリー@ぴあ映画生活

スーパー・チューズデー 正義を売った日

Ides of MarchIdes of March
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アメリカの大統領選の駆引きと人間模様を描く「スーパー・チューズデー 正義を売った日」。腹黒さと信頼が入り乱れる、硬派な政治ドラマだ。

スティーヴン・マイヤーズは、マイク・モリス知事の大統領選挙キャンペーンチームで広報官をつとめる若き野心家だ。戦略担当として手腕を発揮する彼は、今後の選挙戦において重要な拠点となるオハイオ州での予備選討論会の後、対立陣営から密会を持ちかけられる。一方で、同じチームの女性インターンのモリーと親しくなる。この二つの出来事が、やがて選挙戦を揺るがす事態へ発展し、スティーヴン、モリス、ベテランの参謀ポールらを予想不可能な運命へと巻き込んでいく…。

ハリウッドのトップスターのジョージ・クルーニーが、監督・出演・制作を務めた、スリリングな政治サスペンスだ。スーパー・チューズデーとは、民主、共和両党の候補者を選ぶ各州の選挙が集中する日のこと。アメリカのみならず、世界中が注目する米国大統領選では、スキャンダルやネガティヴ・キャンペーン、有力者の取り込みなど、情報操作や心理戦は当たり前。そんな駆け引きと裏切りが横行する中では、正義や忠誠心の意味は刻々と変化し、原型をとどめない。主人公は、大統領候補のクルーニーではなく、モリス陣営のナンバー2を演じるライアン・ゴズリングだ。政治に理想を求めていた主人公が、非情ともいえる策略家になっていく様と、その中でみせる彼なりの正義。一度はワナにはまり絶対絶命になるものの、モリスの決定的なスキャンダルを握ってからのゴズリングの変貌ぶりは見事だ。物語は、権謀術数を操らなければ生き残れない権力の構図を浮き彫りにする。終盤、モリスとスティーヴンが暗がりで対話するシークエンスは、武器を持たない殺し合いにも似て緊張感たっぷりだ。政策や人格などは二の次。保身のためならどんな手も使う政治の世界を、スリルたっぷりの娯楽作で批判してみせるクルーニーの手腕が冴える。フィリップ・シーモア・ホフマンやポール・ジアマッティら、脇を固めるくせ者俳優の使い方も上手い。原作は、実際に選挙キャンペーンで働いていたボー・ウィリモンによる戯曲「ファラガット・ノース」。アメリカの政治とは、裏切りやスキャンダルも含めて“ショー”なのだ。主役になるには清濁併せ持つタフな精神力が必要ということだろう。
【70点】
(原題「THE IDES OF MARCH」)
(アメリカ/ジョージ・クルーニー監督/ライアン・ゴズリング、ジョージ・クルーニー、フィリップ・シーモア・ホフマン、他)
(情報操作度:★★★★☆)
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スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜@ぴあ映画生活

ファンタスティック Mr.FOX

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こだわりのストップモーション・アニメ「ファンタスティック Mr.FOX」は、シュールなユーモアといい、パペットの独特の動きといい、稀に見る傑作。狐が主人公だが人間社会をそのまま映す鏡のようだ。

盗みの天才Mr.FOXは、妻のMrs.FOXの妊娠をきっかけに泥棒稼業から足を洗い、新聞記者として地道に働いている。親子3人仲睦まじく暮らしていたが、丘の家を購入し、近所に住む、裕福で意地悪な人間の農場主3人の暮らしぶりをみて、昔の泥棒魂と野生の本能が目覚めてしまう。農場から家畜を盗むことに快感を覚えるMr.FOXだったが、とうとう人間たちの怒りを買って争いが勃発してしまう…。

原作は「チャーリーとチョコレート工場」のロアルド・ダール。文学以外にも映画の脚本も手がける才人だが、児童文学の作品には大人のファンが多い。ダールの持ち味である“奇妙な味”は本作の原作「すばらしき父さん狐」でも健在。主要なキャラクターは動物たちだが、これは動物社会を人間社会に見立てた寓話だ。

監督のウェス・アンダーソンは代表作の「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」同様、家族をテーマに描いている。平穏な日々に飽き足らず、野生の本能と泥棒稼業、何よりスリルに熱い血をたぎらせるMr.FOX。貧乏な穴ぐら生活を嫌う夫に対し、妻のMrs.FOXは「狐が穴の中で暮らすには理由があるのよ」と諭す。そんなMrs.FOXも、いざという時には凛々しい姿を見せてくれるのだから嬉しい。夫婦愛の他にも、父親に認めてほしい息子の屈折や、穴に住む仲間のアナグマ、フクロネズミらとの関係性など、物語は実に練られている。もちろん終盤には、手に汗握る大アクションも用意されていて、キツネVS農場主のバトルが楽しめる。

CGや3Dが全盛のこの時代に、あえて手作りにこだわり、ストップモーションで1秒間に24コマ撮りという時間と労力を注いだその理由は、構想10年というアンダーソン監督の情熱に他ならない。ジョージ・クルーニーやメリル・ストリープ、ビル・マーレイらの名優たちがそれに見事に答えた。凝りに凝ったセットや衣装も素晴らしい。本能に逆らわず生きる。シンプルにして重要なテーマが胸を打つ、とびきり贅沢なアニメーションだ。

(出演:(声)ジョージ・クルーニー、メリル・ストリープ、ジェイソン・シュワルツマン、他)
(2009年/米・英/ウェス・アンダーソン監督/原題「FANTASTIC MR.FOX」)
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ラスト・ターゲット

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寡黙な殺し屋をシリアスに演じるジョージ・クルーニーが新鮮。メジャーな観光スポットではないイタリアの渋い風景も見所だ。

孤独な殺し屋ジャックはスウェーデンで休暇中に何者かに襲われる。“組織”の連絡係パヴェルの指示でイタリアの山岳地帯の町に身を潜めることに。米国人カメラマンを名乗り静かに暮らしながらも、地元の娼婦・クララと恋に落ちたジャックは、組織からの依頼である狙撃銃の製作の仕事を最後に引退を決意する。だが彼には謎の暗殺者が忍び寄っていた…。

原作はマーティン・ブースの小説「暗闇の蝶」。どこかおちゃめな役を得意とするクルーニーは、今回はひたすら渋い。暗殺者が主人公だが、ド派手なアクションや騒々しい銃撃戦とは無縁。たった一人で潜伏し、黙々と銃を組み立て、それを依頼者に渡すときも警戒を怠らない。まさしくジャックは“職人”だ。銃製作のディティールは尋常ではなく凝っていて、これがラストの伏線になっている。主人公が引退を決意するのは、もはや自分は若くないと悟ったからなのだが、共に生きようとする女性が少々若すぎやしないか。大スターのクルーニーに配慮したのかもしれないが、ここは人生をよく知る、少しくだびれた感じの中年女性の方がびったりくる。ともあれ裏社会から足を洗うと決意した凄腕暗殺者を組織が放っておくはずはない。彼の本当の“最後の仕事”とは、また、その標的(ラスト・ターゲット)とは…という謎が、クライマックスに明かされる。城壁の街カステル・デル・モンテのロケーションが美しく、世界的な写真家であるアントン・コービン監督の自然光を使った映像が印象的だ。
【60点】
(原題「THE AMERICAN」)
(アメリカ/アントン・コービン監督/ジョージ・クルーニー、ヴィオランテ・プラシド、テクラ・ルーテン、他)
(抑性度:★★★★☆)
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ヤギと男と男と壁と

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マジですか?!思わず確認したくなるのは、米軍に実在したという超能力部隊のお話。米ソにはスーパーナチュラルな力を軍事力として利用するため、研究を重ねてきた歴史があることは知られているが、こんなにも根が明るくノホホンとされては、戦争そのものがバカバカしくみえてくる。2003年、地方紙の記者であるボブは、離婚の痛手から立ち直るべく、スクープを求めてイラク戦争の取材に赴く。偶然クウェートで知り合ったリンという男が、以前取材した、米軍の超能力特殊部隊“新地球軍”所属の軍人と知り、イラクに行くというリンに同行することに。道中、リンは、80年代に設立された超能力部隊の驚くべき歴史を語り始める…。

コメディ・タッチの娯楽作だが、原作はジョン・ロンスンのノンフィクション「実録・アメリカ超能力部隊」。れっきとした実話がベースなのだが、いったいどこまでが本気…、いや、本当なのかと首をかしげたくなる。なにしろ、壁を突き抜け、見つめるだけでヤギを絶命させるパワーを持つ超能力プロジェクトの名前は“ジェダイ計画”だ。この話の語り部が「スター・ウォーズ」で若きオビ・ワン・ケノービーを演じたユアン・マクレガーなのだから、これだけで掴みは成功といえよう。超能力の師であるジェフ・ブリッジスや、隊員のジョージ・クルーニー、ケビン・スペイシーという並み居るオスカー俳優が、楽しげに演じているおかげで、物語はリズミカルかつ軽妙なテイストで進む。彼らの必殺技は、キラキラ眼力。そもそも、この力、超能力というより、ベトナム戦争時のカルチャー・ムーブメントである、ラブ・アンド・ピースのヒッピー文化に近いのだ。自称エスパーのリンのやることはどこまでもアホらしく効力などないのだが、たまにはまぐれ当たりも。どうだい、信じてみたくなっただろ?と言わんばかりのクルーニーの眼力が、ボブの人生を少しだけ優しい方向へと向かわせる。地球上から争いごとをなくすための超能力部隊の奮闘がコミカルかつアイロイニカルに描かれるが、結局は、最新テクノロジーも怪しげな超能力も、すべては戦争に使われてしまうという、シニカルなメッセージも透けて見えた。演技達者がズラリと揃うが、なぜか女っけはなし。ちょっと不思議である。
【60点】
(原題「THE MEN WHO STARE AT GOATS」)
(アメリカ・イギリス/グラント・ヘスロヴ監督/ジョージ・クルーニー、ジェフ・ブリッジス、ユアン・マクレガー、他)
(実践的度:★☆☆☆☆)


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映画レビュー「マイレージ、マイライフ」

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◆プチレビュー◆
人との大切なつながりはマイルには換算できない。クルーニーの演技が味わい深い秀作。 【85点】

 敏腕リストラ宣告人のライアンは、面倒な人間関係を避け、効率良く人生を生きてきた。年間322日も出張しマイレージを貯めることが唯一の生きがいの彼だったが、ある日、ネット世代の新人ナタリーの教育係に任命される…。

 主人公ライアンは“バックパックに入らない荷物は背負わない”がモットー。リストラ宣告で相手と向き合い、巧みな話術で解雇を納得させ希望を与えはするものの、罪悪感はほとんどない。淡々と上手く仕事をこなして次に行く。こんなライアンと、地上に足がついていない分だけ貯まる数字マイレージの組み合わせとは、何とも上手いメタファーではないか。「JUNO/ジュノ」で非凡な才能を見せ付けたジェイソン・ライトマン監督は1977年生まれとまだ若いが、意表を突く素材とユーモラスな語り口で問題提起する才能に長けている。

 ライアンという人物の面白さは、人を切る非情な仕事をしながら、あくまでも“軽く”生きる男だということ。彼は決して悪人ではなく、他者と深く係わらないのは、予め自分を防御するバリアを張っているからに他ならない。空港やホテルで無駄なく動き、スマートにキメているつもりのライアンの、滑稽なまでのこだわりを見ていると、彼もまた社会の犠牲者に思えてくる。

 そんな彼をピンチに陥らせるのは、ネットでリストラを宣告することで経費が節減できると提案するドライな新人ナタリーの出現だ。解雇宣告人の自分が切られるかもしれない危機感よりも「それでは出張がなくなりマイルが貯まらない!」との憤りの方が先に立つから可笑しい。切実な思いを抱いてナタリーと行動を共にしながら、ライアンは次第に自分の人生を見つめ直すことになる。さらに同じ出張族の女性アレックスとの出会いから、家族の存在を意識することに。気楽な生活を理想としてきた彼が、空っぽのバックパックに何かを入れたいと思い始めたそのとき、地に足を付けたものだけが感じる痛みが訪れる。

 映画は、リストラそのものを批判せず、インターネットを含むデジタルの世界を否定もしない。フォ−カスしているのは人間の危機的思考だ。マイレージのように、私たちは人生の多くの要素をデジタル化された数字に置き換えてしまってはいないか。リストラを見極めるのは成績という数字だし、ポイント生活による消費の連鎖は依存症をも生むだろう。現代社会は便利なはずのツールにいつしか縛られている。私たちの内部にも“小さなライアン”がいる。そのことに気付けば、荷物を背負う力はまだ健在と思っていい。

 それにしてもジョージ・クルーニーは素晴らしい俳優だ。ハリウッドでもとびきりのイイ男であることは言うまでもないが、2枚目なのに3枚目の味もあり、自信に満ちてゴージャスでありながら、どこか空虚な影を感じさせる。こんな風情を感じさせる役者は、マルチェロ・マストロヤンニ以来ではなかろうか。ラスト、空港で行き先を告げるボードを見上げるクルーニーの複雑な表情は絶妙だ。これから先の人生の行き先はライアンにも観客にもまだ分からないが、立ち止まったことで確実に見えた何かがある。あくまでも軽やかなタッチで、それでいて鋭い同時代性を湛え、深い余韻に満ちた映画に出会うことは、劇中に登場する超特権カード“コンシェルジェ・キー”級に貴重なことだ。見事な脚本の人間ドラマは、米映画の伝家の宝刀なのである。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ペーソス度:★★★★☆

□2009年 アメリカ映画 原題「UP IN THE AIR」
□監督:ジェイソン・ライトマン
□出演:ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ、アナ・ケンドリック、他

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バーン・アフター・リーディング

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デタラメさの連鎖が楽しいクライム・コメディだ。CIAの機密情報が入ったCD-ROMを巡って諜報員や連邦保安官、その妻や不倫中の愛人らがそれぞれの思惑で入り乱れ、予測不能なドタバタ劇を繰り広げる。豪華キャストはどいつもこいつもムチャクチャな役なのだが、とりわけスポーツ・インストラクター役ブラピのバカっぷりは見ものだ。“多少の犠牲”はあるものの迅速に正確に処理するCIAの役人たち。素人相手に奮闘する彼らの悩みはつきないが、幼稚な犯罪計画が国家をも揺るがす展開に、世界平和の行く末が本気で心配になる。コーエン兄弟が、肩の力を抜きまくり、仲間たちと遊び倒したゴージャスなエンタメ映画。これもオスカー監督となった余裕だろう。
【65点】
(原題「Burn After Reading」)
(アメリカ/ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督/ブラッド・ピット、ジョージ・クルーニー、ジョン・マルコヴィッチ、他)
(おバカ度:★★★★★)

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映画レビュー「かけひきは、恋のはじまり」

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◆プチレビュー◆
クルーニーが監督・主演した大人のスクリューボール・コメディ。丁々発止のやりとりが楽しい。 【65点】

 1920年代の米国。引退間近の選手ドッジは落ち目のアメフト・チームを何とか立て直そうと学生アメフトの花形スターをスカウトする。そこに、ある目的でチームを取材する美人敏腕記者レクシーが登場。最初は反発し合う二人だったが…。

 邦題から受ける印象はあくまでロマンチックなラブ・コメディだが、実はこれ、アメフト草創期を描く物語でもある。映画の中で跳ねるのは二つのボールだ。アメリカンフット“ボール”とスクリュー“ボール”コメディ。両方のボールが試合と恋愛の間で勢いよく弾めば、古き良きアメリカのコメディが輝きだす。

 スクリューボール・コメディとは、さまざまな要素で対立する男女の恋愛模様を、小気味よい会話と笑いで描くものだ。最悪の出会いやケンカを経て惹かれあい、最後にはめでたし、めでたしがお約束である。このテの作品の第一号は「或る夜の出来事」だが、そう言えばクルーニーは、どこかクラーク・ゲーブルを意識したような役作りだ。ならば相手役のゼルウィガーは、さしずめゲーブル夫人だった美女キャロル・ロンバートと言えば褒めすぎだろうか。

 ベテラン選手ドッジは、若手実力選手カーターの人気でチーム再建を目論むが、女性記者レクシーはカーターのスキャンダルを暴こうとする。互いに惹かれるドッジとレクシー二人の立場もビミョーなら、レクシーに想いを寄せるカーターがからむ三人の関係はもっと複雑だ。だがひとつ問題がある。仮にも三角関係もどきだというのに、クルーニーに対してカーター役のジョン・クラシンスキーがあまりに魅力が薄いのだ。ここはもっと華のある若手スターがほしかった。クルーニーの魅力炸裂が大前提の作品とはいえ、ライバルがこう地味では寂しすぎる。これではレクシーでなくとも、女はドッジを選ぶに決まっているではないか。

 そんなドッジとレクシーは自信過剰で勝気な似た者同士だ。二人は出会った時から互いにパンチを効かせて応戦する。美人のレクシーを一目見て気に入ったドッジは果敢に近づくが、男勝りの彼女は「私の前から消えて!」とピシャリと拒絶。だが、心の中では、粋で楽しいマシンガン・トークを繰り広げながらアプローチしてくる伊達男に悪い気はしない。また、寝台列車で同室になる場面は、安易にエロチックな展開にはならず会話で笑わせる。かつての米映画には性描写に厳しい規制があり、それが逆に洗練された演出を生み出してきた。その良き伝統がちゃんと活かされているのが嬉しい。今やライバルチームの一員となったカーターの所属するチームと決戦の試合を迎えた時、荒っぽいプレーでならしたドッジのチームは新時代の到来を知る。同時に主人公たちの恋の行方も見えてこよう。

 原題のレザーヘッズとは、20年代、アメフトの試合中にかぶった皮製のヘッドギアを指す。映画は、アメフトが本格的なプロ・スポーツリーグへと変わる瞬間を描くが、米国ほどアメフトの人気がない日本では、邦題からスポーツの香りは抜け落ちた。本作の魅力はやはりスリリングな恋愛のかけひきと言いたいのだろう。そして、アメリカ製ラブ・コメディのウィットは、クルーニーのようなカリスマ・スターが引き継いでこそ本物の伝統になるのだということも。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)クラシック度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「LEATHERHEADS」
□監督:ジョージ・クルーニー
□出演:ジョージ・クルーニー、レニー・ゼルウィガー、ジョン・クラシンスキー、他

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映画レビュー「フィクサー」

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◆プチレビュー◆
俳優の演技合戦がたっぷり楽しめる大人の映画。硬派なジョージ・クルーニーが魅力的だ。 【80点】

 マイケルは大手法律事務所の弁護士。しかし彼の仕事は不祥事を陰で処理するフィクサー(もみ消し屋)だ。重宝はされるが昇進もなく、私生活でもトラブルを抱えて行き詰っている。そんな中、巨額の薬害訴訟担当の同僚弁護士アーサーが企業の悪事の暴露を企て、マイケルが事態を収拾することになる…。

 社会の不正の中で自分は何をすべきか。ふと心がピュアになった瞬間にその分水嶺は見えた。裏稼業専門のマイケルは、野生馬の姿に心を奪われ立ち止まる。“美しさに感動する心”を彼がまだ持っていたこと。これが主人公を変えた。映画は、冒頭に車の大爆発という派手な場面を用意し、それから過去へと遡って、いったいなぜ彼が命を狙われたかを解き明かしていく。これは、綺麗事ではすまない現実の中で、個人の立場を問うスリリングな意欲作だ。

 物語は社会派サスペンスと人間ドラマの両面を持つが、いくらでも娯楽作になる題材を、あえて地味なスタイルにした点に、作り手の本気度が見える。キャスティングもしかり。硬軟演じ分ける実力派で人気スターのクルーニー、演技派のウィルキンソン、クセ者女優スウィントンと聞けば、映画ファンなら誰もがうなるだろう。

 三人三様の個性は静かな火花が散る演技合戦となり、非常に見応えがあるが、役柄の内面性という点では、スウィントンが抜きん出る。仕事に誇りが持てないマイケルの焦燥も、良心に目覚めたアーサーの苦悩も、巨大農薬会社の法務部本部長で、企業の利益のためなら手段を選ばないカレンの、パニック寸前の精神状態に比べれば、まだ救いがあるとさえ思えた。鏡に向かって何度もインタビューの練習を繰り返す異様な姿。脇にはびっしょりと汗。引きつった笑顔。保身のために理性を無くしたことさえ気付かない人物を、冷徹さと脆さの両方をにじませて演じたスウィントンの表情は、見事なものである。

 監督のトニー・ギルロイは脚本家出身だけあって人物描写が非常に丁寧だ。だが丁寧すぎて前半がダレるのが惜しい。主人公の家族を登場させ人物像を掘り下げるが、マイケルが暗い地下室でギャンブルに興じる場面とその憔悴しきった顔だけで、彼がのっぴきならない状況にあることは、完璧に理解できる。フィクサーとその同僚、そして女性企業弁護士。崖っぷちにいる3人の関係性こそがこの映画の黄金率だ。それに絞って物語を語るべきだったと思う。

 それでもこの極めて地味な作品は単なるサスペンスに終わらず、人間の最も弱い部分を炙り出すことに成功している。誰かが誰かに勝利するのではない。追い詰めるのは他でもない自分自身だ。ここにこの映画の質の高さがある。自分を見失っていた男が人生の軌道を修正するストーリーは、手垢がついたものかもしれないが、ラストの主人公の行動には胸がすく思いだ。劇中で2度登場する野生馬の姿は、厳しい現実の中にもあるべき人間性の象徴なのである。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)大人向け度:★★★★☆

□2007年 アメリカ映画 原題「Michael Clayton」
□監督:トニー・ギルロイ
□出演:ジョージ・クルーニー、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、シドニー・ポラック、他

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さらば、ベルリン

さらば、ベルリン [DVD]さらば、ベルリン [DVD]
「カサブランカ」や「第三の男」を彷彿とさせるミステリーは、見応えはあるが、過去の作品への敬意だけでは才人ソダーバーグの才能が泣く。戦後のベルリンを訪れた主人公はかつての恋人と再会するが彼女には大きな秘密があった。クルーニー、ブランシェットの実力派が中心だが、小悪党を演じるトビー・マグワイアがおもしろい味を出している。40年代のフィルム・ノワールを徹底的に意識したモノクロ映像が美しい。
【65点】
(原題「THE GOOD GERMAN」)
(アメリカ/スティーヴン・ソダーバーグ監督/ジョージ・クルーニー、ケイト・ブランシェット、トビー・マグワイア、他)
(ノスタルジー度:★★★★☆)

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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