映画通信シネマッシモ


映画通信シネマッシモは、2018年4月をもって、終了しました。

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ダニエル・デイ=ルイス

リンカーン

リンカーン [Blu-ray]
理想の実現のために権謀術数も厭わないリンカーン像が新鮮な「リンカーン」。スピルバーグ渾身の作品だが、重苦しく生真面目な作りで少々疲れる。

1865年、エイブラハム・リンカーンは大統領に再選されるが、南北戦争は4年目の泥沼に突入していた。リンカーンは永久的な奴隷制度廃止のため、幾度となく議会で否決されてきた、憲法13条の修正に挑むことに。側近さえも難色を示す中、国務長官のスワードらと共に、多数決で票を確保するため、なりふりかまわぬ議会工作に乗り出す。そんな中、息子のロバートが大学を中退し両親の反対を押し切って北軍に入隊してしまう。大統領として、夫として、父として、リンカーンはある決断を下すことになるのだが…。

タイトルはアメリカ合衆国の大統領の名前だが、この映画の内容から見ると、むしろ「憲法修正第13条」という題名の方がふさわしい気がする。映画序盤に、彩度の低い映像で悲惨な戦場の様子が映るが、その後はむしろ修正法案を通すための政治のかけひきのドラマだ。超有名な偉人の伝記で結果は分かっているし、演出は動きが少なく地味。しかも終始、重苦しいトーンが続く。それでもリンカーン大統領が、自らの理想を貫くために、時に狡猾な政治手腕を発揮し、奴隷制存続を主張する政敵を出し抜くために権謀術数を駆使したという視点はなかなか新鮮だ。リンカーンは奴隷制の賛否が戦争を長引かせていることを百も承知している。だが、人間は平等だと信じる彼は、奴隷制廃止は絶対に譲れない。平和のためには血を流して戦わねばならないというジレンマは、アメリカという国が血まみれの歴史の上に成り立っていることを改めて示すものだ。内に秘める激情とはうらはらに、議会での激論はあっても、リンカーン自身は常に静かで穏やか。いや穏やかというより無表情に近く、すでに死相が表れている。なりきり系の名優ダニエル・デイ=ルイスの演技は例によって的確で、猫背なシルエットで、理想と現実の狭間で苦悩しながら修正法案成立へ執念をみせる大統領を熱演。奴隷制廃止急進派の議員を演じるトミー・リー・ジョーンズがこれまた素晴らしい。戦争終結や暗殺の場面をさらりと流したのは、平和を望み戦ったリンカーンの思いを際立たせるためだろう。いたって真面目な作風だけに堅苦しさは否めないが、リーダーの資質を改めて問いかける力作。「シンドラーのリスト」で組んだ名撮影監督、ヤヌス・カミンスキーの見事なカメラワークを堪能したい。
【70点】
(原題「LINCOLN」)
(アメリカ/スティーヴン・スピルバーグ監督/ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールド、デヴィッド・ストラザーン、他)
(渋み度:★★★★☆)
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リンカーン@ぴあ映画生活

NINE

NINE スペシャル・エディション [DVD]NINE スペシャル・エディション [DVD]
超豪華キャストのミュージカルは、全盛期のイタリア映画への敬意に満ちている。1964年のイタリア。世界的な映画監督のグイドは、新作映画のクランクインを前に、深刻なスランプ状態だ。脚本が1行も書けずにパニックになり愛妻のルイザに助けを求めるが、グイドには妻以外にも沢山の愛する女性が。全てを忘れさせてくれる愛人、魅惑的な主演女優、長年の親友の衣装係、若くて美人の記者、最愛の母親に果ては初めて男として目覚めさせてくれた娼婦まで。プレッシャーの中で苦悶するグイドは、多くの女たちの幻想に溺れていく…。

フェデリコ・フェリーニの映画からブロードウェイへ、さらにそれを映画化へという流れは、過去に「カビリアの夜」のミュージカル版「スイート・チャリティ」があるが、「81/2」を素材とした本作の方が断然面白い。「81/2」が創作に思い悩むフェリーニ自身を自虐的に投影したアート系ムービーの最高峰なら、「NINE」はその山に登るための優れたガイドブック。つまり非常に分かりやすいのだ。「NINE」を見た後なら難解な名作「81/2」はすんなり理解できるはず。逆の順番で見る観客は案外幸福かもしれない。決定的な違いは、「81/2」が仮にも映画作りへの悩みに重きを置くのに対し「NINE」の悩みの割合は圧倒的に女性との愛。主人公が陥る幻想世界を官能的な歌と踊りで活写しながら、大人になっても持ち続ける“少年”を肯定する。これだけのオスカー俳優をズラリと並べ、ゴージャスな美女たちが繰り広げるエモーショナルな映画の誕生は、それだけで“大事件”といえよう。特筆は、きらびやかな魅力が炸裂する歌と踊りを披露するケイト・ハドソンだ。映画版に新たに加わったアメリカ人記者役の彼女が歌う「シネマ・イタリアーノ」は最高にノレるナンバーで、ロブ・マーシャルの手腕を感じさせる。さすがの歌唱力で魅せるのは、娼婦サラギーナ役のファーギー。居並ぶオスカー俳優の中でオスカーを“まだ持っていない”二人に最も印象深いシークエンスをまかせるとは粋な計らいではないか。

多くの美女に囲まれ愛に溺れるラテン男グイド。果たして英国俳優ダニエル・デイ=ルイスで大丈夫なのかと心配だったが、蓋を開けてみれば、なかなか味がある。ラスト、圧倒的な決意で静かにつぶやく「アクション」のひと言は、女性への愛の旅路の果てに到着した深い映画愛のごとく重々しい。60年代は世界中で巨匠たちが傑作を連打した映画史上のルネサンス期。中でもイタリア映画の輝きは抜きんでていた。単なる名作の焼き直しではなく魅力をリロードして現代に蘇らせる。これこそオマージュと呼びたい仕事だ。
【75点】
(原題「NINE」)
(アメリカ/ロブ・マーシャル監督/ダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、ジュディ・デンチ、ケイト・ハドソン、ニコール・キッドマン、ソフィア・ローレン、ステイシー・ファーガソン(ファーギー)、他)
(ゴージャス度:★★★★★)

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映画レビュー「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
◆プチレビュー◆
ダニエル・デイ=ルイスがド迫力の怪演。石油という権力を追い怪物になった男を描く暗い力作。 【90点】

 石油ブームに沸く20世紀初頭のカリフォルニア。一攫千金を狙うプレインビューは、幼い息子を連れて採掘を行いながら土地を安く買い占めていた。やがて石油を掘り当てるが、自らの欲望に囚われ常軌を逸していく…。

 映画は、プレインビューの人間性をいきなり観客に叩きつける。冒頭、彼が黙々と採掘作業をする場面がそれだ。この約20分のシークエンスにはいっさいセリフがない。誰の助けも借りない。誰も信じない。暗い穴の底にいるプレインビューは狂気そのものだ。どす黒い血“石油”が「人に対して好意を抱けない」と言う彼を主人と決めたとき、油井で大火災が発生し、欲望の雄たけびが響きわたる。毒にまみれながら破滅の道をいく男。それがプレインビューだ。

 こんな怪物を演じられるのは、なりきり俳優ダニエル・デイ=ルイス以外にいない。目つきからして完全にイッている。劇中で見せる笑顔や泣き顔が、これまた怖い。この俳優の発するパワーは桁違いだ。さらに彼の気迫は、共演のポール・ダノにも波及した。本作で彼が優れた役者だと気付く人は多いだろう。

 そのポール・ダノが演じる若きカリスマ牧師イーライとプレインビューは、宿敵にして分かち難い分身だ。二人の確執が物語の核となる。イーライは福音伝道師だが、根っこの部分は金で動く俗物。彼の権力欲はプレインビューのそれと少しも変わらない。土地買収のために屈辱的な洗礼さえ受けるプレインビューは「私は罪人だ!」と何度も繰り返すが、彼にそう言わせる偽善者イーライも、最後には神を裏切る言葉を吐くことになる。二人のあまりに破壊的な行為に寒気がした。同時に宗教の欺瞞への糾弾にエキサイトする。

 主人公の並外れた人間不信と神への憎悪の源は何だろう。私は彼の一風変わった肉親愛が気になって仕方ない。息子を道具として使い、邪魔になったらサッサと遠ざけるのに、どこか屈折した愛情を感じる。それは弟と“決別”するときに流す涙にも混じっている。本能のレベルで血縁を求めた結果、裏切られたことが、彼を怪物にしたのではないかと思えるのだ。

 意外なのは、このすさまじい欲望の物語の作り手が、ポール・トーマス・アンダーソン監督ということ。今までのどこかポップな作風をがらりと変え、荒々しく重厚な大河ドラマで絶望を描ききった。ただ、音へのこだわりは健在。ノイズのような不穏なサウンドが革新的で、物語をグッと後押しする。

 プレインビューは富と権力にとり付かれたモンスターだ。こんな人間が現在のアメリカを創ったのかもしれない。強国アメリカは石油という黒い血で肥え太ったが、物語は最後に赤い血を流して果てる。欲望の源流はまだ枯れてはいないようだ。口あたりのいいお気楽な物語を好む人には勧めない。だが、本物の映画の迫力を感じたいなら、この作品だ。疾風怒濤の158分に魂が震える。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)音響効果度:★★★★★

□2007年 アメリカ映画 原題「There Will Be Blood」
□監督:ポール・トーマス・アンダーソン
□出演:ダニエル・デイ=ルイス、ディロン・フレイジャー、ポール・ダノ、他

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