映画通信シネマッシモ


【本音で語る新作映画レビュー】
シネマッシモでは、映画レビューはネタバレなしのヒントあり。映画を見る前と見た後と、2度読んで楽しめます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

トム・ハンクス

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」オリジナル・サウンドトラック
ベトナム戦争が泥沼化しつつある1971年、アメリカでは反戦運動の気運が高まっていた。国防総省(ペンダゴン)はベトナム戦争についての客観的な調査・分析した膨大な文書を抱えていたが、その一部をニューヨーク・タイムズがスクープする。ライバル紙に先をこされたワシントン・ポスト紙では、女性発行人キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーの二人が残りの文書を独自に入手し、真実を伝えるため全貌を公表しようとする。だが、それはニクソン大統領率いる政府を敵に回す危険な行為だった…。

ベトナム戦争時に政府が隠した機密文書を公表するべく奔走した新聞記者たちの姿を描く社会派ドラマ「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」。最高機密文書のペンタゴン・ペーパーズとは、アメリカ政府とその4代にわたる歴代大統領が、ベトナム戦争に勝機はないとことを知りながら、それを隠したまま戦争になだれこんだた不都合な機密文書を指す。政府と大統領による隠ぺい工作とは、あきれてものが言えないが、これがアメリカ現代史の真実である。だからこそ、スティーヴン・スピルバーグは、トランプ政権誕生の瞬間に映画化しようと決意し、たった1年という短期間で見事に骨太な政治ドラマを作り上げた。まさにタイムリーな映画なのである。

映画は、政府の圧力に屈せずに報道の自由を勝ち取り、真実を公表する使命に燃えたジャーナリストたちを描くが、スピルバーグが偉大なのは、それだけにとどまっていない点だ。物語はサスペンスフルだが、政府が機密文書を隠ぺいした事や、潰しにかかったワシントン・ポスト紙が今も健在なこと、このことが後のウォーターゲート事件の引き金になった史実を私たちは既に知っている。既視感がある事実に、もう一つのタイムリーな視点、フェミニズムを持ち込み、それを軸にした点が上手い。アメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハムは、父や夫の亡き後に新聞社を継いだ人物だが、社交は好きでも控えめな性格で、仕事では無能な経営者と思われていた。そんな彼女が、徐々に殻を破り、文字通り命がけで政府にケンカを売る決断をするプロセスは、まさに女性の成長物語そのものだ。そんなグラハムを演じる名女優メリル・ストリープの演技が、力演や熱演ではなく、静かで淡々としているのがいい。一人の女性の勇気ある決断が、アメリカを、ひいては世界の歴史を変えてみせた。大きな政治的事件を取り扱っているが、同時に、弱さや迷いを持つ生身の人間の視点を忘れない。スピルバーグが巨匠と言われる理由がよくわかる作品だ。
【80点】
(原題「THE POST」)
(アメリカ/スティーヴン・スピルバーグ監督/メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、他)
(フェミニズム度:★★★★☆)


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ザ・サークル

Circle [Blu-ray] [Import]
世界一のシェアを誇る巨大SNS企業「サークル」。誰もが憧れるこの一流IT企業に勤めることになった新人のメイは、ある事件をきっかけに、カリスマ経営者ベイリーの眼に留まり、新サービスの実験モデルに抜擢される。サークルが開発した超小型カメラを使って自分の私生活24時間をネット上に公開したメイは、瞬く間に1000万人を超えるフォロワーを獲得し、アイドル的存在になっていく。だが、そこには思わぬ悲劇が待ち受けていた…。

巨大SNS企業が個人のプライバシーを侵食する脅威を描くサスペンス「ザ・サークル」。SNS社会の光と闇を描く本作は、監視社会の危険性に警鐘を鳴らすもので、もしかしたらそう遠くない未来に起こりうる同時代性をはらんでいる。テクノロジーの進歩には功罪の両面があって、サークルの言い分は「隠し事は罪。すべてをさらして共有すれば悪いことはしないし、世界はもっと良くなる」というものだ。どう考えても危なすぎるこの主張に、主人公のメイが何となくのせられてしまうのは、憧れていた巨大企業の中で埋没したくないという虚栄心があったのだろうか。日常に孤独を抱えていたメイは、フォロワーの数を人気と勘違いし、アイドルとなった自分に舞い上がってしまうのだ。

サークルの社員は、個人情報や嗜好を執拗にシェアしたがり、新サービスの提案のプレゼンでは「シェアは思いやり。隠し事は嘘」と全員で大合唱するなど、まるで新興宗教のような不気味さだ。もちろん誇張はあるのだが、あまりにも描写が薄っぺらい。一流の頭脳が集う最先端IT企業で、この無自覚って?!何をシェアするべきかも考えない浅はかさは、見ていて不快だ。10代のティーンエイジャーならともかく、ヒロインは24歳の社会人。家族や友人を犠牲にし、やっと真実が見えてくるようでは遅すぎる。終盤のリベンジが、根本的な解決になっていないのも、モヤモヤが残る原因だ。ただ、実生活でSNS被害の体現者であるエマ・ワトソンが、監視社会によるプライバシー剥奪や、集団心理による個人攻撃を扱ったこんな作品に出演するのが、興味深いところだ。
【50点】
(原題「THE CIRCLE」)
(アメリカ/ジェームズ・ポンソルト監督/エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボイエガ、他)
(問題提起度:★★★★☆)
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王様のためのホログラム

王様のためのホログラム [Blu-ray]
大手企業を解雇され、車も家も妻さえもなくしたアランは、何とか再就職したIT企業で、業務を言い渡される。それは、アメリカから遠く離れた国サウジアラビアで、国王に最先端の映像装置・3Dホログラムを売りつけるというもの。さっそく砂漠に到着するが、オフィスはただのボロテント、エアコンは壊れ、Wi-Fiはつながらず、ランチを食べる店さえない。抗議しようにも、担当者は不在で、国王がいつ現れるかもわからない。上司からのプレッシャーと慣れない土地でのストレスで、アランはついに体調を壊してしまう。そんなアランを助けたのは、予想もしない人物だった…。

異文化の中で奮闘する中年男の危機と再生を描くドラマ「王様のためのホログラム」。中東で欧米人が孤軍奮闘するといえば「砂漠でサーモン・フィッシング」が思い浮かぶが、本作の原作はデイヴ・エガーズ。むしろ、現実と幻想が溶け合う「かいじゅうたちのいるところ」や、エリートの都会人が農民相手に悪戦苦闘する「プロミストランド」との共通点が透けて見える。主人公アランがやってきたのは砂漠のド真ん中。それまでの常識や既成概念はいっさい通用しないイスラム文化とのカルチャー・ギャップに、身も心もヘトヘトだ。うまくいかない仕事のストレスを、一杯のアルコールで癒そうにも、ここはアルコール禁止のイスラム圏(実は、隠れて飲んだりしている)。ついに背中にできたしこりが悪化してしまい…という展開から、それまでビジネスライクだった物語が、一気に恋愛へと傾くのはご愛敬だろうか。最新鋭のテレビ会議システムである“3Dホログラム”を売るという興味深いビジネスの行方をもっと突き詰めてほしかった気もするが、すったもんだの末に主人公がみつけるのは人生の輝きだ。目が覚めるように青い海がスクリーンに広がって、幸福感を感じてしまう。通常のサクセス・ストーリーとは一味違う物語で主人公に希望を与えるのは、ウォシャウスキー監督との共作「クラウド・アトラス」でもハンクスと組んだトム・ティクヴァ監督だ。あくまでも小品だが、芸達者なハンクスの軽妙な演技を楽しめるほか、異文化や相互理解といった、タイムリーな素材をコメディ・タッチでサラリと描いた佳作である。
【60点】
(原題「A HOLOGRAM FOR THE KING」)
(アメリカ/トム・ティクヴァ監督/トム・ハンクス、アレクサンダー・ブラック、ベン・ウィショー、他)
(再出発度:★★★★☆)
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インフェルノ

インフェルノ (初回生産限定) [Blu-ray]
宗教象徴学者のロバート・ラングドン教授は、記憶喪失状態でフィレンツェの病院で目覚める。おぼろげな意識の中に浮かぶのは、地獄のイメージ。理由もわからず病院で命を狙われたラングドンは、医師のシエナの助けで何とか逃げ延びる。世界的な大富豪で生化学者ゾブリストが、人口増加問題の過激な解決策として伝染病を利用した人口淘汰を目論み、殺人ウィルスの拡散計画を目論んで、ラングドンに挑戦状を突きつけたのだ。ゾブリストは、詩人ダンテの叙事詩「神曲」の地獄篇(インフェルノ)に暗号を隠し、ラングドンは、人類滅亡を阻止するため、その謎を解きながら、フィレンツェ、ヴェネツィア、イスタンブールへと向かう…。

ダン・ブラウン原作の“ロバート・ラングドン”シリーズの映画化最新作で「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」に続く第三弾「インフェルノ」。今回は対処法のない殺人ウィルスの拡散を阻止するため、敵も味方も、皆がラングドンを追いかける。そのラングドンは、頭部を強打し負傷したことが原因で記憶が曖昧という設定が効いていて、彼の見る幻覚と、恐ろしい地獄のイメージがまるでホラー映画のように重なっている。中世の疫病の地獄絵と、現代の風景がミックスされたそのヴィジュアルは、まさに世界の終わりという様相だ。誰が敵で誰が味方なのかがわからない状況もこの恐ろしさに拍車をかけている。例によって博識のラングドン教授が、一般人では知りえないような、宮殿や大聖堂といった宗教建造物の抜け道や秘密の扉や天井裏の構造まで熟知していて、次々にあらわれる暗号の謎を瞬時に解きながら、警察や敵の包囲網をすんなりとくぐり抜ける。この展開があまりにも早業すぎて、見ている観客は、謎を考えたり、首をひねったりするヒマさえないという有様だ。ラングトンの“走り”についていくだけで精一杯なのだが、何しろフィレンツェのヴェッキオ宮殿、ヴェネツィアのドゥカーレ宮殿、イスタンブールのアヤソフィア大聖堂という壮麗な歴史建造物を背景にしているので、知的好奇心をたっぷりと刺激される。思いがけない人物の思いがけない行動も含めて、あっという間に駆け抜ける2時間だった。
【65点】
(原題「INFERNO」)
(アメリカ/ロン・ハワード監督/トム・ハンクス、フェリシティ・ジョーンズ、オマール・シー、他)
(スピード感度:★★★★★)
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ハドソン川の奇跡

ハドソン川の奇跡 ブルーレイ&DVDセット(初回仕様/2枚組/デジタルコピー付) [Blu-ray]
2009年1月15日、厳冬のニューヨーク。160万人が暮らすマンハッタン上空850メートルで突如、前方からの鳥の衝突が原因で航空機事故が発生する。全エンジンが完全停止し、制御不能となった旅客機が高速で墜落を始める中、ベテランの機長サレンバーガーは、必至の操縦により、70トンの機体を目の前を流れるハドソン川に着水させる。乗客乗員155名全員無事という奇跡を成し遂げたサレンバーガー機長は、たちまち英雄としてマスコミに取り上げられる。だがその裏では、機長の判断を巡って、国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われていた…。

実際に起こった航空機事故とその後の顛末を描く人間ドラマ「ハドソン川の奇跡」。2009年1月15日に起こった航空機事故で、乗客全員が生還した奇跡的な出来事は、当時、日本でも大きく取り上げられた。だが、クリント・イーストウッド監督は、この実話を凡百の感動作には描かない。人命を救った英雄であるはずのサレンバーガー機長が“容疑者”として厳しい追及を受けていたという知られざる事実を描いて、英雄的行為の代償を描くドラマに仕上げた。川に着水したのは本当に正しい判断だったのか。空港に引き返す選択肢もあったのでは。だとしたら、サレンバーガー機長がしたことは、高額の航空機を破損させ、乗客の命を危険にさらしたことになる。航空会社と国家運輸安全委員会が、機長に対してこんな理不尽な追求を行っていたことは、この映画を見るまでまったく知らなかった。名優トム・ハンクス演じる機長は、常に冷静沈着だが、一人になったときや眠ったとき、もし最悪の結果を招き人命を損なったとしたら…という悲惨な悪夢に苛まされていた。さらにプロ意識に徹して誠実に仕事をこなしてきたとはいえ、表舞台にでることがなかった自分が、突然マスコミによって英雄に祭り上げられてしまうとまどいもある。そんなサレンバーガー機長のプレッシャーと苦悩が痛々しい。だがパイロット歴40年のベテラン機長は、航空会社が、コンピューターによるシミュレーションで機長の判断ミスを実証しようとする中、コンピューターの計算では決してはじきだせない人間の感情を武器に戦ってみせるのだ。そこには初めて経験する危機を前にした生身の人間の焦りや逡巡、その中から生まれる最善の選択がある。チェスや囲碁の世界でも機械が、人間の能力に追いつき追い越そうとしている現代社会。名匠イーストウッド監督は、生と死のギリギリの状況の中でこそ、人間らしさが必要で、それは単純な計算では決して生まれない強さなのだと訴えている。いくらでも冗長にできる物語を、約90分にキリリとまとめてみせた編集が潔く、緊張感を持続させてくれる。いい意味での古風な人間讃歌を作るイーストウッド監督らしさが出た良作だ。
【75点】
(原題「SULLY」)
(アメリカ/クリント・イーストウッド監督/トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、他)
(人間性度:★★★★☆)
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ブリッジ・オブ・スパイ

ブリッジ・オブ・スパイ 2枚組ブルーレイ&DVD(初回生産限定) [Blu-ray]
アメリカとソ連が冷戦下だった1950〜60年代。保険関連の敏腕弁護士ドノヴァンは、実直な人柄と堅実な仕事ぶりでキャリアを積み重ねてきたベテランの弁護士だ。ある日、彼は、米国が身柄を拘束したソ連のスパイ、アベルの国選弁護人をほぼ強引に委ねられる。周囲の冷ややかな視線にさらされながらも、どんな人間も正当な裁判を受ける権利があると信じるドノヴァンの弁護により、アベルは死刑を免れる。数年後、ドノヴァンは、CIAから、ソ連に捕えられたアメリカ人スパイとアベルの交換を成し遂げる大役を任されることに。それは米ソの全面核戦争を阻止するという、世界平和を左右する重大な任務だった…。

東西冷戦下の1960年に実際に起きた、ソ連による米国偵察機撃墜事件“U-2撃墜事件”の舞台裏を描くヒューマン・ドラマ「ブリッジ・オブ・スパイ」。監督スピルバーグ、主演トム・ハンクス、実話の映画化とくれば、オスカー狙いがミエミエの感動作、社会派ドラマかと思うだろう。たしかにそういう側面はあるが、本作は、思った以上にサスペンス色が濃いエンタメ作品だ。同時にとぼけたユーモアやアイロニーまであって、これまでのスピルバーグ作品とはちょっと印象が異なる。それは間違いなく、脚本を担当したコーエン兄弟のカラーが反映されているからだろう。実直な弁護士ドノヴァンは、たとえ米国中から憎まれている敵国のスパイでも、きちんと弁護する、法に忠実な愛国者。一方、ソ連のスパイのアベルもまた、決して祖国を裏切らない。自分の信念に忠実な二人の間に生まれる奇妙な友情は、本作の見所のひとつだ。映画後半、東ベルリンでのスパイ交換のプロセスは、息詰まるサスペンスで、ブルーグレーの画面の中でのスリリングな演出はさすがである。良き夫、良き父、良き市民として、平凡な人生を歩んできた男が、全力で不可能に立ち向かった知られざる実話は、見応えたっぷりのドラマだ。主演のハンクスはもちろん、アベルを演じた英国俳優マーク・ライアンスの抑えた演技が素晴らしい。何より、人と人とのつながりを肯定するメッセージが感動的で、期待通りの秀作に仕上がっている。
【85点】
(原題「BRIDGE OF SPIES」)
(アメリカ/スティーヴン・スピルバーグ監督/トム・ハンクス、ビリー・マグヌッセン、マーク・ライアンス、他)
(ヒューマニズム度:★★★★☆)
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キャプテン・フィリップス

キャプテン・フィリップス [Blu-ray]
海賊に襲撃され人質となった船長の緊迫の4日間を描く実録サスペンス「キャプテン・フィリップス」。名優トム・ハンクスのラストの熱演に息を呑む。

2009年4月、コンテナ船アラバマ号は、ベテランのフィリップス船長やクルーたちと共に航行していたが、ソマリア沖で武装した4人の海賊に襲われる。非武装の船は簡単にのっとられてしまい、フィリップス船長は20人の乗組員の命と引き換えに、自ら人質となる。事件は世界中を駆け巡り、米国のオバマ大統領は国家の威信をかけて人質奪還を命じる。海軍特殊部隊ネイビー・シールズ、救出作戦実行チームのスナイパーらが出動する中、フィリップス船長はソマリア人の海賊と息詰まる心理戦を繰り広げ、何とか生き延びる道を探っていた…。

海賊に人質にとられ、死の恐怖にさらされながら最後まであきらめず勇気と執念で戦った船長リチャード・フィリップスの実話をベースにしたノンフィクション・ドラマだ。 何しろ、全編にわたる緊迫感がすさまじい。冷静で経験豊富、だが特殊能力があるわけでも武器を持つわけでもない、平凡な主人公を、オスカー俳優トム・ハンクスが熱演する。この稀代の名優に、素人俳優の未知数の演技をぶつけたのが面白い効果を挙げていて、不穏な緊張感をかもし出しているのだ。乗組員の命を守るために人質にとられてからは、狭い救命艇の中で4人の海賊を相手に心理戦を繰り広げるが、ハンクス演じるフィリップス船長はもとより、海賊たち4人の人生や性格描写まで的確、丁寧に描き分けている点は感心する。何とか現状を打破しようと隙を見て反撃を試みる主人公の行動には手に汗を握るが、圧巻はクライマックスのハンクスの演技だ。緊張感がマックスに達し、二度と会えないかもしれない家族への思いや、恐怖心が爆発するその場面には圧倒された。やはりトム・ハンクスという俳優は凄い。ポール・グリーングラス監督お得意のグラグラ揺れる手持ちカメラは、今回はただでさえ海上という不安定な状況のため、さほど必要性は感じないのだが、それでも結末が分かっている物語をハンクスという極太の柱を中央に据えて全方向性の心理アクションとして描ききった手腕は見事だった。
【75点】
(原題「CAPTAIN PHILLIPS」)
(アメリカ/ポール・グリーングラス監督/トム・ハンクス、キャサリン・キーナー、マックス・マーティーニー、他)
(緊張感度:★★★★☆)
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クラウド アトラス

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6つの物語がシンクロする壮大な物語「クラウド アトラス」。今まで見たことがないような構成にびっくり。ウォシャウスキーが兄弟ではなく“姉弟”になったことに驚いている場合じゃない!

1849年、太平洋上の船の上で、瀕死の青年弁護士が悪徳医師のえじきになろうとしていた。その後、1936年のスコットランドでの幻の名曲“クラウド アトラス”の誕生秘話にはじまり、6つの異なる時代、異なる場所での物語が綴られる。そして、地球が崩壊した未来で、一人の男が、壮絶な己の物語を子供たちに語っていた…。

ややこしくて難しくて長い。前評判はすべて正しいが、不思議な感動を覚える映像叙事詩だ。原作は、デヴィッド・ミッチェルの同名ベストセラー小説で、それをアンディとラナのウォシャウスキーとトム・ティクヴァの3人の監督が、豪華スターに一人6役を演じさせ、6つの物語を並行して語るという驚異的な脚本で映像化している。描かれるのは、波乱万丈の航海物語、幻の名曲の誕生秘話、原子力発電所の陰謀、人殺しの人気作家と編集者の関係、伝説となるクローン少女の自我の発露、そして崩壊後の地球の戦い。それぞれの物語の主人公たちを関連付けながら語るテーマは、輪廻転生だ。だが宗教臭さは微塵もない。何度も過ちを繰り返す人間を描きながら、死を終わりではなく、未来への希望ととらえている。それぞれに興味深いエピソードだが、ネオ・ソウルでのクローン少女が管理社会の中で、感情に目覚め、大きな変革をもたらす存在になるストーリーは、アクションありラブストーリーありで、最も印象に残る。演じるペ・ドゥナもまた素晴らしい。一人6役といっても言われなければ分からない特殊メイクのものも。エンドクレジットですべて明かされるので、それもまたお楽しみだ。時空を越えてつながり、性や種族を越えて生まれ変わるのは、愛するものに再び巡り合うためだろうか。その目印がほうき星の痣だとしたら、これはまた随分とロマンチックな物語である。こんな壮大なストーリーをイマジネーション豊かな映像で構成する本作、今まで見たどんな映画とも異なる質感だ。3時間という長尺にひるまず、ぜひ体感してほしい。
【70点】
(原題「CLOUD ATLAS」)
(アメリカ/ラナ・ウォシャウスキー、トム・ティクヴァ、アンディ・ウォシャウスキー監督/トム・ハンクス、ハル・ベリー、ジム・ブロードベント、他)
(壮大度:★★★★☆)
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幸せの教室

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トム・ハンクスの監督第2作「幸せの教室」。ハリウッドお得意のウェルメイドな作品で、安心してハッピーになれる。

地元の大型スーパーで同僚や常連客からも親しまれているベテラン従業員ラリーは、ある日突然、大学を出ていないという理由でリストラされてしまう。仕事が大好きだったラリーは落ち込むが、気を取り直して、心機一転、地元の大学に通うことに。年齢も境遇も異なる生徒が集まるキャンパス・ライフを満喫するラリーだったが、そんな彼が選択したスピーチクラスの教師のメルセデスは、私生活のトラブルもあり、教えることへの情熱をすっかり失った教師だった。ラリーとメルセデスの出会いは、やがてお互いの人生を大きく変えていくことになる…。

トム・ハンクスが1996年の「すべてをあなたに」以来の監督に挑んだ本作は、彼が短期大学に通った経験から着想を得たという。主人公が通うことになるコミュニティ・カレッジ(通称CC)とは、18歳以上で高校を卒業してさえいれば、誰でも入学できる米国の大学システムのひとつ。入学試験はないが、学生は自分の目的をしっかりと持って、さまざまなクラスを選択して単位を取得する。ラリーは経済学とスピーチクラスを選び、リストラ後の再就職に役立てようという考えだ。仕事のためのステップアップは、やがて元来前向きなラリーが、自分自身の可能性を再発見することにつながっていく。トム・ハンクスほど善人が似合う役者はそうはいないが、本作でも彼の好感度がストーリーに大きな説得力をもたらしている。仕事熱心で、逆境にもメゲす、新しい仲間たちと共にさっそうとスクーターを飛ばす前向きなラリーを見ていると、いつも仏頂面でアルコール片手に暴言を吐くメルセデスが、次第に教えることへの情熱を取り戻すのが自然に思えてくるのだ。トム・ハンクスとジュリア・ロバーツはかつて「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」で共演し、今回も息があったところをみせる。物語は決して大それた成功物語ではない。失敗や悔いがある過去を美化もせず、否定もしない。欠点だらけの、でも愛すべき人間が、新しい自分に気付き、明日を信じるストーリーなのだ。ラリーとメルセデスの間に芽生えるロマンスも、控えめで上品。これから先の幸福を想像させる終わり方がさわやかで、余韻を残してくれた。
【60点】
(原題「LARRY CROWNE」)
(アメリカ/トム・ハンクス監督/トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、ブライアン・クラストン、他)
(健全度:★★★★☆)
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映画レビュー「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

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◆プチレビュー◆
心のロード・ムービー「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」。国家的で特殊なトラウマの克服を、一人の子供の視点で描くスタイルが素晴らしい。  【85点】

 大好きな父を9.11同時多発テロで失った少年オスカーは、父の死を受け入れられず、傷ついた心を抱えて一人悩んでいた。そんな時、父が残した1本の鍵とブラックと書かれたメモを見つける。謎の鍵に合う鍵穴と“ブラックさん”を探してNY中を奔走するオスカーだったが…。

 少年にとって、大好きな父親はヒーローで世界のすべてだ。だが、9.11はそんな父を何の理由もなく奪った。この理不尽をオスカーは理解できず、遺体がない空っぽの棺の葬儀も、まやかしとしか思えない。これは、愛する者を奪われ、取り残された少年が、悲しみとどう折り合いをつけ、どう立ち直るかを描く、ユニークでスリリングな旅の物語である。

 父からのメッセージを探そう。そう思いつめたオスカーの冒険は、それでもどこか楽しさにあふれていた。危険な街へ繰り出す覚悟は子供ながらに出来ていて、毎日訪ねる様々な人との出会いは、オスカーを少しずつ成長させていた。だからこそ、ついに鍵の秘密を握る人物に出会ったとき、オスカーは自分がとった取り返しのつかない行動を口にすることができる。オスカーが父の死を引きのばしていたのはなぜか。彼の苦悩に誰もが涙するだろう。

 子役のトーマス・ホーンは、演技はほとんど未経験だそうだが、その自然で繊細なたたずまいは天性のものだ。不安な気持ちをタンバリンで鼓舞し、472人のNYのブラックさんを探す綿密な計画を立て、街を駆け回る彼の奮闘に、私たちは寄り添わずにはいられない。特に、言葉をいっさい発しないマックス・フォン・シドー演じる老人との“会話”は味わい深い。心に傷を負う者同士の哀しみと思いやり。本作が映画デビューの少年がこれほどの感動をもたらすとは。

 さて、少年と父親の絆の前で、母親はどうしていたのか。夫の死を嘆き、息子と上手く接することが出来ずにいる無気力な母リンダの存在感はあまりに薄い。だが、終盤、彼女は“大逆転”を演じることになる。どれほど悲しみに打ちひしがれようと、子供を愛し守ることを決して止めない母の強さに私たちはノックアウトされる。そしてこれが、少年の心の再生をみつめると同時に、母の限りない愛を描いた物語であると分かり、ふくよかな感動に包まれるはずだ。少年の軌跡がやがて人々をつなぐ温かい輪となるこの傑作、トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、監督スティーブン・ダルドリーと、映画界の才能が集結しているだけのことはある。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ミステリアス度:★★★★☆

□2011年 アメリカ映画 
□原題「EXTREMELY LOUD AND INCREDIBLY CLOSE」
□監督:スティーヴン・ダルドリー
□出演:トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、他
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