映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評


【本音で語る新作映画レビュー】
毎日のレビューは分かりやすく簡潔な寸評で、週1本の長文映画レビューでは作品をディープに掘り下げます。
映画評サイトもこのブログで4代目になりました。すべての映画好きを歓迎します!
(点数は100点が、★は5つが満点)
シネマッシモとは、シネマ(映画)とマッシモ(イタリア語でmax,最大)とを組み合わせた造語。
どうぞゆっくり楽しんでください \(^▽^)/

◎ 今週の気になる公開作品 ◎
「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「サニー」

トム・ハンクス

幸せの教室

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トム・ハンクスの監督第2作「幸せの教室」。ハリウッドお得意のウェルメイドな作品で、安心してハッピーになれる。

地元の大型スーパーで同僚や常連客からも親しまれているベテラン従業員ラリーは、ある日突然、大学を出ていないという理由でリストラされてしまう。仕事が大好きだったラリーは落ち込むが、気を取り直して、心機一転、地元の大学に通うことに。年齢も境遇も異なる生徒が集まるキャンパス・ライフを満喫するラリーだったが、そんな彼が選択したスピーチクラスの教師のメルセデスは、私生活のトラブルもあり、教えることへの情熱をすっかり失った教師だった。ラリーとメルセデスの出会いは、やがてお互いの人生を大きく変えていくことになる…。

トム・ハンクスが1996年の「すべてをあなたに」以来の監督に挑んだ本作は、彼が短期大学に通った経験から着想を得たという。主人公が通うことになるコミュニティ・カレッジ(通称CC)とは、18歳以上で高校を卒業してさえいれば、誰でも入学できる米国の大学システムのひとつ。入学試験はないが、学生は自分の目的をしっかりと持って、さまざまなクラスを選択して単位を取得する。ラリーは経済学とスピーチクラスを選び、リストラ後の再就職に役立てようという考えだ。仕事のためのステップアップは、やがて元来前向きなラリーが、自分自身の可能性を再発見することにつながっていく。トム・ハンクスほど善人が似合う役者はそうはいないが、本作でも彼の好感度がストーリーに大きな説得力をもたらしている。仕事熱心で、逆境にもメゲす、新しい仲間たちと共にさっそうとスクーターを飛ばす前向きなラリーを見ていると、いつも仏頂面でアルコール片手に暴言を吐くメルセデスが、次第に教えることへの情熱を取り戻すのが自然に思えてくるのだ。トム・ハンクスとジュリア・ロバーツはかつて「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」で共演し、今回も息があったところをみせる。物語は決して大それた成功物語ではない。失敗や悔いがある過去を美化もせず、否定もしない。欠点だらけの、でも愛すべき人間が、新しい自分に気付き、明日を信じるストーリーなのだ。ラリーとメルセデスの間に芽生えるロマンスも、控えめで上品。これから先の幸福を想像させる終わり方がさわやかで、余韻を残してくれた。
【60点】
(原題「LARRY CROWNE」)
(アメリカ/トム・ハンクス監督/トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、ブライアン・クラストン、他)
(健全度:★★★★☆)
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幸せの教室@ぴあ映画生活

映画レビュー「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

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◆プチレビュー◆
心のロード・ムービー「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」。国家的で特殊なトラウマの克服を、一人の子供の視点で描くスタイルが素晴らしい。  【85点】

 大好きな父を9.11同時多発テロで失った少年オスカーは、父の死を受け入れられず、傷ついた心を抱えて一人悩んでいた。そんな時、父が残した1本の鍵とブラックと書かれたメモを見つける。謎の鍵に合う鍵穴と“ブラックさん”を探してNY中を奔走するオスカーだったが…。

 少年にとって、大好きな父親はヒーローで世界のすべてだ。だが、9.11はそんな父を何の理由もなく奪った。この理不尽をオスカーは理解できず、遺体がない空っぽの棺の葬儀も、まやかしとしか思えない。これは、愛する者を奪われ、取り残された少年が、悲しみとどう折り合いをつけ、どう立ち直るかを描く、ユニークでスリリングな旅の物語である。

 父からのメッセージを探そう。そう思いつめたオスカーの冒険は、それでもどこか楽しさにあふれていた。危険な街へ繰り出す覚悟は子供ながらに出来ていて、毎日訪ねる様々な人との出会いは、オスカーを少しずつ成長させていた。だからこそ、ついに鍵の秘密を握る人物に出会ったとき、オスカーは自分がとった取り返しのつかない行動を口にすることができる。オスカーが父の死を引きのばしていたのはなぜか。彼の苦悩に誰もが涙するだろう。

 子役のトーマス・ホーンは、演技はほとんど未経験だそうだが、その自然で繊細なたたずまいは天性のものだ。不安な気持ちをタンバリンで鼓舞し、472人のNYのブラックさんを探す綿密な計画を立て、街を駆け回る彼の奮闘に、私たちは寄り添わずにはいられない。特に、言葉をいっさい発しないマックス・フォン・シドー演じる老人との“会話”は味わい深い。心に傷を負う者同士の哀しみと思いやり。本作が映画デビューの少年がこれほどの感動をもたらすとは。

 さて、少年と父親の絆の前で、母親はどうしていたのか。夫の死を嘆き、息子と上手く接することが出来ずにいる無気力な母リンダの存在感はあまりに薄い。だが、終盤、彼女は“大逆転”を演じることになる。どれほど悲しみに打ちひしがれようと、子供を愛し守ることを決して止めない母の強さに私たちはノックアウトされる。そしてこれが、少年の心の再生をみつめると同時に、母の限りない愛を描いた物語であると分かり、ふくよかな感動に包まれるはずだ。少年の軌跡がやがて人々をつなぐ温かい輪となるこの傑作、トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、監督スティーブン・ダルドリーと、映画界の才能が集結しているだけのことはある。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)ミステリアス度:★★★★☆

□2011年 アメリカ映画 
□原題「EXTREMELY LOUD AND INCREDIBLY CLOSE」
□監督:スティーヴン・ダルドリー
□出演:トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、他
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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い@ぴあ映画生活

映画レビュー「トイ・ストーリー3」

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◆プチレビュー◆
おもちゃの再出発というエモーショナルな展開で大人を泣かせる傑作。さよならの涙はこんなにも温かい。 【85点】

 おもちゃの持ち主アンディは大学生に。屋根裏に行くはずだったおもちゃたちは、手違いで託児施設に寄付されてしまうが、そこは凶暴な子供たちがいるトンデモナイ場所だった。カウボーイ人形のウッディはアンディの元に帰ろうとするが、残ったバズやジェシーら仲間たちに危機が迫っていることを知る…。

 おもちゃの世界の住人たちの冒険と友情を描いて大ヒットした「トイ・ストーリー」は、世界初の全編フルCGの長編アニメ映画だ。もともとは「ティン・トイ」という短編映画で、そのクオリティの高さから長編映画として再構築されたものである。奇想天外で楽しいおもちゃたちの世界や、人間とのかかわり、おもちゃ同士のライバル心や友情など、どれをとっても視点が新しく、傑作揃いのピクサー作品の中でも特別な存在だ。本作は3部作の最終章を飾るもの。テーマは“別れ”だというから、見る前から切なさがこみ上げた。

 そういえば、子供の頃、お気に入りだった人形やぬいぐるみは、どうしたっけ? ちゃんとお別れを言ったかしら? 映画は人間から遊んでもらえなくなったおもちゃの運命はどうなるのかという、思いもよらない問いを真剣に考えながら、人とおもちゃの両方の旅立ちを描くものだ。冒頭から、躍動するおもちゃたちの大活劇が登場し、観客の心をわしづかみにする。その後、おもちゃで遊ばなくなったアンディとの別れや、あるおもちゃによる陰謀がうずまくサニーサイド保育園での試練と脱出のサスペンス、ついにはゴミ捨て場での大アクション劇へとなだれこみ、一瞬も目が離せない。加えて今回は、バービーとケン、ひょんなことからラテン系になったバズの情熱的な恋というロマンスも。相変わらず、ピクサーのエンタメ度はおしゃれで手堅い。だが、シリーズ最高傑作と確信する本作の最も素晴らしいエッセンスは、最後の最後にやってくるおもちゃの運命の顛末にある。これには泣かされた。上手い。上手すぎる!
 
 もしや、私たち人間は自分が世界の中心だと思っている傲慢な存在なのか。その罪は、人間からひどい扱いを受けたおもちゃの歪んだ悲しみという形で跳ね返ってくる。兇暴な幼児が暴力そのものなら、陰謀を企むおもちゃの悪意の裏側には深い人間不信が。バズたちを罠にハメた彼らのことを単純に憎めないのはそのためだ。そして、懸命に主人のアンディを信じ続けるウッディの健気な思い。胸が締め付けられる。「僕らはアンディのおもちゃなんだ!」。その言葉は、おもちゃと人間という“種の違い”を越えた尊い絆と信頼の証だ。

 「トイ・ストーリー」はピクサー/ディズニーにとって、原点であり頂点でもある。おもちゃにとっての幸せとは? という問いかけは、結局は人間にとっての幸せとは? ということ。アンディとおもちゃとの別れには、子供が巣立っていくときの親の心情までもが浮かび上がる。必ずやってくる“さよなら”の時を受け止めることで、思い出は永遠のものに。ラスト、次世代に続くおもちゃの居場所には温かい未来と希望が用意され、大きな感動を届けてくれるはずだ。ピクサーアニメが世界を魅了するのは、映像のクオリティの高さと共に、物語が素晴らしいからというのは、言い尽くされた褒め言葉かもしれないが、あえてここでも繰り返して言おう。ストーリーが本当に素晴らしい。ジプシー・キングスが歌う「君はともだち」のメロディが流れれば、私たちは皆、おもちゃたちと過ごした幸福なあの頃へと戻ることができる。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)感動度:★★★★★

□2010年 アメリカ映画 原題「Toy Story 3」
□監督:リー・アンクリッチ
□出演:(声)トム・ハンクス、ティム・アレン、ジョーン・キューザック、他

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映画レビュー「天使と悪魔」

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◆プチレビュー◆
前作以上の謎とスピード感で描く歴史犯罪ミステリー。駆け足の謎解きを重厚な背景がサポートする。 【65点】

 宗教象徴学の権威、ロバート・ラングドン教授は、秘密結社イルミナティが復活したことを知り、教皇が急死したヴァチカンへと向かう。次期教皇候補の暗殺を阻止するべく、ガリレオの暗号コードの解明に挑むが…。

 もしも映画というメディアの定義を、物語の内容を分かり易く視覚化した娯楽と解釈するならば、この作品こそ王道と呼ぶにふさわしい。宗教学、歴史学、科学と膨大な知識を必要とする内容を、美しい映像とスピード感たっぷりの演出で活写する。これぞエンタテインメント。予備知識のない人間をも楽しませ、知的好奇心をくすぐるお得な内容だ。「天使と悪魔」は、映画では「ダ・ヴィンチ・コード」の続編になるが、原作はこちらが先に出版されている。

 テーマは宗教と科学の対立。敵役は、16〜17世紀に科学者たちが設立した秘密結社イルミナティだ。映画は、信仰の邪魔になるという理由で迫害された天才たちの集団が現代に復活したという設定だが、蘇ったイルミナティが行なう処刑の方法は、残虐かつ意味深い。宗教と芸術と科学に目配せしながらの復讐は、仕掛けも実に手が込んでいる。広範な教養がないと謎解きは難しい。

 そこで登場するのがラングドン教授なのだが、今回要求されるのは、頭脳と共に体力だ。次期教皇を選ぶコンクラーベの日に次々に起こる暗殺とその後の惨劇を阻止せねばならない。タイムリミットは24時間。時間と戦いながら、時に窒息しそうになり、時に水に飛び込む大奮闘でローマ市内を駆け巡る。そのためか、難解な符合が示されても、彼はあっという間にその意味を理解して次へ進む。「○○とは何だ?」と首をひねってから「あっ、そうか!」とひらめくまでの平均時間は約2秒。トントン拍子とはこのことだ。主人公が披露するうんちくに耳を傾け、じっくり味わう余裕がないのが玉にキズである。

 謎解きが駆け足なのは否めないが、ヴァチカンをはじめ、イタリアの壮麗な文化遺産が背景のせいか、不思議と軽く見えない。これが歴史の底力というものだろう。耳慣れないキーワードも、スムーズなセリフで解説してくれるので特に問題ないはずだ。それでも、教皇の侍従で、教皇不在時の最高権力者であるカメルレンゴという役職はしっかり覚えておこう。あらゆる局面で事件の鍵を握るカメルレンゴを演じるユアン・マクレガーが、トム・ハンクスに「あなたは神を信じていますか」と問うシーンは、思わず居住まいを正しそうになった。物語は二転三転し、思いがけない動機と真犯人が現われることに。それに一役買うのが、宗教と対立するはずの科学の要素・テクノロジーなのだ。

 派手なアクションや大爆発も用意され、典型的なハリウッド大作には違いないが、宗教象徴学者があらゆるシンボルの意味を解きながら、知的で大胆な仮説を打ち出すのがこのシリーズの醍醐味である。信仰は尊いが、宗教、特に権力や政治と結びついたそれは、うさんくさく血生臭い逸話にこと欠かない。歴史を紐解けばいくらでもネタはあろう。さらに、信仰が狂信へと変わり他者を排除する暴挙は、いつの時代も無縁ではない。映画のラストに印象深いセリフがある。「宗教には欠点があるが、それは人間に欠点があるからだ」。宗教と科学の善良な側面を見据えて融和をはかる“シンボル”を見逃してはならない。

(シネマッシモ評価:★5つが満点)スピード感度:★★★★★

□2008年 アメリカ映画 原題「ANGELS AND DEMONS」
□監督:ロン・ハワード
□出演:トム・ハンクス、アイェレット・ゾラー、ユアン・マクレガー、他

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チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

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なんとも薄気味の悪い映画だ。米ソ対立の80年代に、米国が全力でアフガンを支持し、大量の武器を供給したビックリ極秘プロジェクトの実話。善意の米国人が奇跡を起こすが、この展開は現在の米国と中東の関係を考えればとんでもない皮肉に満ちたショーだ。それは最後にサラリと語られ、それまでの明るいムードを激変させる。ハンクスの善人顔が、悪気はなかったんだと言っているようでやるせない。実は仕事も優秀な美人秘書がイケていた。
【65点】
(原題「CHARLIE WILSON'S WAR」)
(アメリカ/マイク・ニコルズ監督/トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、フィリップ・シーモア・ホフマン、他)
(皮肉度:★★★★★)

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ダ・ヴィンチ・コード

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◆プチレビュー◆
物語の秘密はあくまで仮説。キリスト教徒には大ひんしゅくかもしれないが、神も仏もない人間にはちょっぴり楽しく興味深い、怒涛の2時間30分だ。キャスティングは好みが分かれるだろう。

ルーブル美術館で謎めいた死体が発見される。ダ・ヴィンチの素描を模した形で息絶えた館長のソニエールが残した手がかりの中に、宗教象徴学の権威でハーバード大学教授ラングドンの名前が。そのため彼は容疑者として追われることになる。暗号解読官で館長の孫娘ソフィーと共に、謎を解こうとするラングドンだったが…。

スコセッシの「最後の誘惑」やパゾリーニの「リコッタ(「ロゴパグ」)」など、教会の怒りを買った映画は数多い。時には上映禁止の処置まで取られたが、今回は禁止するにはあまりに話題性がある。いまさら待ったをかけたとて、逆に宣伝効果になってしまうだけ。原作ファンも未読の人も、今年最も気になる映画のはずだ。

謎めいた暗号で解き明かされるのは、人を殺めてまでも守る聖杯の秘密。鍵を握るのはダ・ヴィンチの「最後の晩餐」だ。ここにイエスの重大な謎が秘められている。キリスト教の闇の歴史と宗教象徴学のうんちくが多く語られるが、映画の中での説明はさわりだけ。言葉での説明を省略した分、歴史の再現場面や具体的な映像を見せて情報を提供している。活字とは違う映像の視覚的なメリットを最大限に活かしていて評価したい。また、ルーブル美術館をはじめ、本物の歴史建造物が見事。映画のもうひとつの主役と言ってもいいくらいだ。

膨大な量の原作の内容を全て語るのはもともと無理な話。その分、映画は心理描写よりスピード感で勝負した。ロン・ハワードの作品で人間描写がほとんどないのはいかがなものか?とも思うが、何しろ、主人公たちは警察と秘密結社の両方に追われながら、謎を解かねばならないのだから、ひとつひとつの余韻にひたるヒマはない。評価が分かれるであろうこの作品。まずは映画を見て自分の目で確かめてほしい。ちなみに私は、賛否両論になることがおもしろい映画の条件だと思っている。

□2005年 アメリカ映画  原題「THE DA VINCI CODE」
□監督:ロン・ハワード
□出演:トム・ハンクス、オドレイ・トトゥ、ポール・ベタニー、他

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ターミナル

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◆プチレビュー◆
キャサゼタ姐さんが珍しくしおらしい役。仏映画「パリ空港の人々」も空港内で暮している人たちをユーモアとペーソスで描いた作品だったが、ハリウッドが作ると同じ素材でも華やかなエンタメ映画になるからさすが。

NYのJFK国際空港に着いたビクターは東欧のクラコウジア人。ある約束を果たすためにアメリカにやってきたが、空港に着いた途端に祖国で政治クーデターが起き、入国できなくなってしまう。帰ることもできない彼は、しかたなく空港で暮し始めるが…。

スピルバーグ作品にしてはこじんまりとした印象の映画だ。だが、映画の舞台となる空港ターミナルをそっくりセットとして建設したというから、やっぱりやることはデカい。本物の有名店舗の出店などでリアルな空間を作り上げた。この映画を見ると、空港というのは、現代社会の縮図だということがよくわかる。

いわゆるグランド・ホテル形式の映画だが、登場人物が多彩で見ていて飽きない。主人公ビクターは、空港の中で暮らすうち、言葉を学び、仕事をみつけ、友人を作り、恋までする。旺盛な生活力は、かつてアメリカにやってきた祖先たちの姿にダブるだろう。規則一点張りの職員たちも、いつしかそんな彼の姿に心が和み、影響されていく。上手く行き過ぎる場面もあるが、それが許せるのは、ビクターが大切に持っている缶の存在だ。アメリカに来た理由はその缶の中に詰まっている。

トム・ハンクスはのっぴきならない状況に陥った一般市民を演じるのが上手い。東欧からの旅行者ビクターは、持てる知恵と本来備わったヒューマンな心で難局を乗り切っていく。観客は、いつの間にかそんな彼の応援団になってしまうだろう。

前向きに努力する主人公ビクターは受身に見えるが、勇気溢れる本物のヒーローだ。スピルバーグ映画はいつも豪華で大仕掛け。みえみえのオスカー狙いの作品もある。誰もが認める巨匠にして世界一のヒットメーカーだが、時々彼が息抜きのように作って見せる、こんな小さくて温かい作品が、私はとても好きだ。

□2004年 アメリカ映画  原題「The Terminal」
□監督:スティーブン・スピルバーグ
□出演:トム・ハンクス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、スタンリー・トゥッチ、他

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ポーラー・エクスプレス

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◆プチレビュー◆
急行北極号はどうしてこんなに危険なコースばかりを走るのか?など、あれこれと突っ込みながら見るのもまた楽しい。声で登場するトム・ハンクスは、少々出すぎじゃないのか?8歳の少年を彼がやる意味はあまりないと思う。

サンタの存在が信じられなくなってしまっている主人公ヒーロー・ボーイ。彼はある晩、不思議な列車に導かれ、サンタが住むという北極へ冒険の旅に出る。列車の中には知ったかぶりの少年や、自分に自信が持てない少女、途中で列車に乗ってきたひとりぼっちの少年などの仲間がいた…。

一足早く届いたクリスマス・ムービーは、トム・ハンクスが声優で一人5役に挑戦したファミリー・ムービー。パフォ−マンス・キャプチャーという人間の動きをCG化する技術によってこんな芸当が可能になったわけだが、ハンクスの声は一発で彼だと判ってしまう。彼に「列車に乗るのを決めるのは君自身だ」と言われては、乗らないわけにはいかない。

メッセージは「信じることの大切さ」。サンタは信じる人の心の中にいつも住んでいるという定番通りのものだ。行きつく先が判っているので、道中に起こる数々のアドベンチャーが見所。随所に歌が盛り込まれ、いつのまにか、見ている私たちも北極へ向かっているような気分になる。映像は期待通り見事なものだ。

他愛ない季節ものの映画と言われればそれまでだが、冒頭、白い雪煙の中から急行北極号(ポーラー・エクスプレス)の巨大な姿が画面に登場するとき、興奮を覚えるのは間違いない。映像の持つ力強さを身体で感じさせてくれる一瞬である。絵柄は原作の絵本に忠実なようで、シュールすぎる感もあるが、すぐに慣れるので心配無用だ。

映画そのものは、大人向けのクオリティだと思うが、大人になっても子供の頃の信じる気持ちを大切にと訴えているわけではない。むしろ、子供は子供らしくあるのが幸せだと、大人に向かって諭しているように感じてしまうのだ。今のような時代だからこそ、響くメッセージかもしれない。

クリスマス・ムービーに限らず西欧の物語の根底に流れるのは、キリスト教精神だ。まぁ、キリスト教徒でなくてもサンタやエルフの存在は語られて知っているし、なによりプレゼントというのは大人も子供も嬉しいもの。例え、鈴の音色がとっくに聞こえなくなってしまっている私たちにも。

□2004年 アメリカ映画  原題「The Polar Express」
□監督:ロバート・ゼメキス
□出演:(声)トム・ハンクス、ノーナ・ゲイ、ピーター・スコラリ、他

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キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン

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30歳に近いディカプリオが28歳のふりをした高校生を演じるというから、ややこしい。でも、ちゃんと16歳に見えるから不思議。実在のアバグネイル本人もフランスでの場面に警官役でカメオ出演している。

1960年代のアメリカ。両親の離婚にショックを受け、家出したフランク・アバグネイルは、まだ高校生だが偽造小切手詐欺を思いつき、パイロットや医者、弁護士に巧みになりすまして大金を手に入れていた。彼を追うFBI捜査官カール・ハンラティはなかなかフランクの手がかりをつかめずにいたが、ふとしたことから、犯人はまだ子供なのではないかと思いつく…。

高校生がパイロットや医者になりすまして、世界中を渡り歩き、小切手詐欺で大金をせしめる。本当か?!と疑いたくなるが、実話だと言われては納得するしかない。60年代初頭というのどかな時代には、人を無条件に信じる空気が満ちていたのだろう。ここには、黒人差別やヒッピー、ベトナム戦争の影も見えない。

若き天才詐欺師と敏腕捜査官の追いかけっこの形をとっているが、実はこの映画、心に傷を負った息子と父の物語が裏テーマだ。フランクが詐欺を繰り返すのは、金の力で、両親の仲が元通りになり家庭の幸せが戻ると信じているから。一方、追う側のカールも離婚した身。フランクを追ううちに、二人は擬似親子的感情を持つようになり奇妙な友情が芽生える。家庭が崩壊し、親から捨てられる子供というのは、スピルバーグの実体験から生まれる毎度十八番の設定なのだ。

レオは19世紀のNYの荒々しさを描いた「ギャング・オブ・ニューヨーク」で、ハンクスは大恐慌時代の殺し屋役「ロード・トゥ・パーディション」で、スピルバーグは暗い近未来SF「マイノリティ・リポート」で、それぞれ深刻な映画をこなした後の本作。肩の力が抜けた、いい意味で軽い作風に仕上がっている。もちろん、M.シーンやN.バイといった脇役の上手さも忘れちゃいけない。特に、息子に詐欺心を植え付けた父親役のC.ウォーケンは、登場するたびに落ちぶれていくが、それでも子供を愛する気持ちと頑張るオヤジの姿を見せる所が泣けてくる。欲を言えば、フランクの詐欺の腕が研ぎ澄まされていく過程の描写が、もっと丁寧であってほしかった。

詐欺の映画の名作といえばすぐに思い浮かぶのは「スティング」。しかし、本作は詐欺の手口や逮捕の捕物帖的要素は二の次だ。その証拠に、本当のクライマックスはフランクが捕らえられた後に用意されていた。逮捕され一度は自由になったフランクの前には2つの選択肢が。自由きままな詐欺師稼業と、堅気の社会人への道。さぁ、どうする。実話だから結果は判っているのに、やっぱりドキドキさせられるのだから、スピルバーグの演出はやっぱりスミにおけない。

ファッションや音楽も明るくノーテンキ。全てのものが、幸せさえもお金で買えると錯覚してしまうような時代には、こんな痛快な犯罪も起こってしまうのか。しかし、憎めない悪党が主人公の映画は実に楽しい。冒頭のタイトルバックのアニメの完成度が、これまた極めて高いのでお見逃しなく。

□2002年 アメリカ映画  原題「Catch me if you can」
□監督:スティーブン・スピルバーグ
□出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、クリストファー・ウォーケン、他

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ロード・トゥ・パーディション

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冒頭の回想でオチが読めるのが惜しい。ハンクスは、演技も重いが、体重も重かった。

大恐慌時代のアメリカ。アイルランド系ギャングの殺し屋サリヴァンの息子マイケルが殺しの現場を目撃したために、組織のボスの息子コナーはサリヴァンの妻と次男を殺害。ボスのルーニーはサリヴァンにとっては恩人で父とも慕う人物だったが、組織への復讐を誓ったサリヴァンは、やむなくルーニーと敵対することになる…。

バイオレンス描写満載の傑作時代劇「子連れ狼」の主人公は拝一刀(おがみいっとう)。剣の達人である一刀がなぜ、復讐の旅に足手まといの幼子を連れているのかというと、父として、我が子と地獄の果てまで落ちる決心があるから。冥府魔道(めいふまどう)に生きる覚悟で闘うその姿は、まさに修羅。これもまた、ひとつの親の愛の形か。

父としての行動は全く異なる本作。しかも劇中には2組、更に擬似親子とも言える関係を含めると、3組の父と子が登場し、その感情も複雑で単なる復讐物語ではない。古風なギャング映画でロード・ムービーの形をとりつつ、親子愛を描いた本作のテーマは組織の掟と家族の絆、更に、父親としての愛と責任なのだ。物語は、大五郎よりかなり年上の息子マイケルの回想で始まり、その思い出は、過酷でありながら、同時に輝きのある出来事として綴られている。

ベテランのP.ニューマンがいぶし銀の貫禄で演じ、存在感が抜群。不肖の息子を持つ父として悩み苦しむ姿が何とも痛ましく、渋みもあって見事だ。一方、寡黙で威厳がある父親の、抑えることができない真摯な愛情を巧みに演じるハンクス。あぁ、やっぱりこの人は上手い。残虐な殺し屋を演じるのが、美しさと演技力を併せ持つジュード・ロウ。この殺し屋のキャラが際立って個性的でおもしろすぎるため、劇中でやや浮いているのが気になるところか。

パーディション(地獄)という名の町を目指すふたりの行く道に待つものとは?息子だけは生きてほしいと、親子の別れを覚悟した上の命がけの旅をする父サリヴァン。子連れ狼との決定的な違いがここにある。冥府魔道の道連れになど決してするものか!

父親としての愛情と責任とは何なのか。父は息子に何を伝えられるのか。愛を表すことが苦手な父と、息子を愛するが故に葛藤し、責任を果たせない父。彼らが対峙するシーンは、父親である両者が信頼しあっている分だけ悲劇性が増し、やるせなさと逃れられない宿命を表していて、見ごたえ満点だ。

舞台演出出身のメンデス監督の、風格ある演出と本格的で懐が深いドラマが堪能できる。更に、映画界でも5本の指に入る名カメラマン、コンラッド・ホールの撮影と聞けば、その映像の気品と様式美は約束されたようなものだ。悲劇を予感させる暗い色調の映像が緊張感を醸し出し、父子の“道行き”の物語を彩る。渋い色彩ながら、雪の街のたたずまいや、蝋燭の光などは、絵画のように重厚だ。特に白眉は、クライマックスの夜の雨の中の殺戮シーン。その美しさには、ただため息。

凍てつく冬から新緑の春への旅の中、父が命がけで託した希望を少年は確かに受け取る。澱みなく流れる物語、素晴らしい演出と美しい映像、役者も一流なら、脚本も見事。ご都合主義的な人物も登場せず、余韻の残るラストがまたすばらしい。こんなに完璧だと、逆に悪口を言われるかも…と心配になってしまうほどだ。正攻法で描くのでストーリーの先は読めるが、それが何だと言うのか?!古典の趣を感じる映画はどんな観客をも満足させる。いいものはやっぱりいいのだ!

復讐と救済の旅をする父と子の愛を、新旧3大スターの競演で描くアクション叙事詩。“良い悪人”を演じるハンクスとニューマン。久々に出会った奥行きのあるドラマだ。

□2002年 アメリカ映画 原題「Road To Perdition」
□監督:サム・メンデス
□出演:トム・ハンクス、ポール・ニューマン、ジュード・ロウ、他

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映画評やコラムの執筆、講演など、映画に関する仕事を承ります。連絡はメールでお気軽にどうぞ。

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プロフィール
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◆ペンネーム:渡まち子
◆映画ライター、映画評論家
◆こんなお仕事やってます:
新聞、雑誌、インターネットで、映画評、映画コラム、DVD紹介などを執筆。他にも、映画コメンテーターとしてラジオ出演、大学での公開講座や企業主催の映画セミナーなど、映画に関する幅広い仕事をこなしながら活動中です。
◆青山学院文学部史学科卒業。西洋史が専攻で、卒業論文はベネチア史。学んだことを生きている間に有効に活かせるのだろうか…と、かなり心配。
◆エトセトラ:
古今東西の映画をこよなく愛す、自他ともに認めるシネフィル(映画狂)です。時に苦言を呈すこともあるその映画批評の基本は、映画へのあふれる愛情と自負しています。どんなダメ映画でも必ずひとつはあるイイところを発見するのが得意技。大のサッカー好きで、欧州リーグからJリーグまでTPOに合わせて楽しんでます。
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